パリ・ファッションウィーク 2026年春夏メンズコレクションガイド — 「服とは何か」を再考する、新たな装いの物語 vol.1
AURALEE/オーラリー
<AURALEE>は「春の空気に吹かれて揺れる日常」をテーマに、季節の狭間にある空気感を纏うコレクションを発表。
淡い色彩と軽やかなレイヤードが織りなすスタイルは、静かな緊張感を保ちながら移ろう時間のなかに調和を見せた。
製品洗いのカシミアニットやハンドステッチのコート、シルクオーガンジーのドレス、手染めのアロハシャツなど、素材と色の陰影にこだわったアイテムが並んだ。
服が風とともに動き、感情をほぐすように作用するこのコレクションは、日常に馴染みながらも美意識を揺るがせる“私的な詩”として静かに響いていた。
KIDILL/キディル
<KIDILL>は「SPIRITUAL BLOOM」を掲げ、日本のオタクカルチャーを再解釈し、都市の記憶をファッションへと変換するコレクションを展開。
原宿や秋葉原の空気を纏ったビジュアルは、ラバーやボディアーマー、ネコミミ装甲などの造形で現実と幻想の境界を曖昧にした。
アクリルのアクセサリーやアニメとのコラボアイテム、フィギュア的立体構造の衣服がキャラクターのような存在感を放った。
ジャンルや常識に縛られず、“内面の視覚化”を着ることに転化した本コレクションは、感情と創造力を真っ向から肯定するデザインの力を提示していた。
KIDILL 2026SS COLLECTION RUNWAY
Louis Vuitton/ルイ ヴィトン
ファレル・ウィリアムスによる<Louis Vuitton>は、インドの装飾美を起点に“新たなダンディズム”を構築した旅路の物語を描いた。
動物のモチーフや刺繍、色彩豊かなセットアップが、旅という行為を通じて記憶と感性の交換を表現していた。
パーカやシェルジャケット、クリケット風のトップス、新作スニーカーや多彩なバッグなど、日常と冒険をつなぐアイテムが揃った。
異文化を飾りとして用いるのではなく、その文脈を深く理解し誠実に対話したことで、グローバルとローカルの関係性を問い直すような、知的な旅のコレクションとなった。
LEMAIRE/ルメール
<LEMAIRE>は「スタイルとは私的な対話」という信念のもと、身体と日常のリズムに寄り添うワードローブを提案した。
動作や感覚に合わせたレイヤリングと構築は、着る人の存在感を際立たせながら服が静かに語ることを可能にしていた。
ビスコースシルクのドレス、コンパクトなブルゾン、クロップドトップスなど、異素材やシルエットの調和が印象的なルックが登場。
ファッションの形式美を追い求めるのではなく、都市生活者の身体性に即した“私性の服”を通じて、時間と空気を纏う美しさを追求していた。
LEMAIRE 2026SS COLLECTION RUNWAY
Walter Van Beirendonck/ウォルター ヴァン ベイレンドンク
<Walter Van Beirendonck>は「ポストモダンの巡礼」をテーマに、ユーモアと幻想を軸にしたコレクションを発表した。
歴史的衣服と未来的なディテールを融合し、記憶と夢想が交錯するヴィジュアルを巧みに作り上げていた。
イカット織りのテキスタイル、スターリーアイのモチーフ、紙の花付きハットなど、視覚詩のようなユニークなアイテムが揃った。
子ども心と創造力を武器に、崩壊の中にある希望を表現した本コレクションは、ファッションにおける自由と想像力の価値を改めて喚起させた。
Walter Van Beirendonck 2026SS COLLECTION RUNWAY
AMI PARIS/アミ パリス
<AMI PARIS>は「Ami, c’est la vie(アミ、それが人生)」をテーマに、都市を生きる人々のリアルな姿をヴィクトワール広場に投影した。
日常のなかに潜むズレや緩さをデザインに昇華し、親しみやすさと品格のバランスが取れたルックが展開された。
リネンやオーガンザ、軽やかなニットのレイヤード、シャツの片イン、サンダルなど、実用性と個性が共存するアイテムが登場。
ファッションを特別なものとしてではなく、日々の営みの一部とする視点は、共感を呼び起こす美意識として力強く提示されていた。
IM MEN/アイム メン
<IM MEN>は「DANCING TEXTURE」を掲げ、陶芸家・加守田章二の作品から着想を得て、衣服の“生きた存在感”を問う試みを行った。
服が空間と身体に反応しながら変化する演出によって、衣服そのものがひとつの装置として立ち上がる様が描かれた。
水洗いで模様が浮かぶ「UROKOMON」や立体的に構築された「ENGRAVE」、平面化した「GINTO FLAT」など、テキスタイルから構造まで徹底的に設計された。
衣服に触れるという行為そのものを新たに定義し直すような本作は、“衣”を感覚の媒体としてとらえ直す、静かでラディカルな提案だった。






