パリ・ファッションウィーク 2025年秋冬コレクションガイド ー 境界を越えて生まれる新しいスタイル vol.1
CFCL/シーエフシーエル
<CFCL(シーエフシーエル)>は、VOL.10コレクション「Knit-ware: Plotline」において、ブランドの核であるコンピュータープログラミングニットの可能性を再定義し、一本の糸が描く“線”の軌跡をテーマに据えた。
ニットの構造や動きを線の表現として捉え直し、直線・曲線・拡張といった多様なラインを通して、テクノロジーと身体性が交差する衣服のあり方を提示した。
コレクションでは、ミラノリブのブルゾンやプリーツ構造をもつアコーディオンドレス、円錐形に広がるフレアドレス、メタリック糸で編まれたチューブ型のドレスなど、再生素材を用いたシリーズがラインナップされ、それぞれのフォルムがリズムとグラフィックを体現。
本コレクションは、糸が織りなす構造そのものを“言語”と見立てたような試みであり、ブランドが一貫して問い続けてきた「現代生活のための衣服とは何か」に対する、10シーズン目の明快な応答でもあった。
Mame Kurogouchi/マメ クロゴウチ
<Mame Kurogouchi(マメ クロゴウチ)>は、2025年秋冬コレクション「Katachi」で、日本の伝統美に着想を得た“かたち”の探求を、より身体的で有機的なアプローチへと深化させた。
漆器の柔らかな曲線や紙から生まれた立体構造をベースに、デザイナー自身の手で作られたフォルムが、凛とした気配とともに衣服の中で静かに息づいていた。
コレクションでは、小石や鏡餅を思わせるダウン、朱や墨色を纏うジャカードやベルベットのドレス、流れるようなドレープのニット、そして繊細な草花モチーフの刺繍が、視覚と触覚の両面で豊かな奥行きをもたらした。
本コレクションは、かたちの持つ内面的な記憶や、時間の移ろいに寄り添う美しさを丁寧にすくい上げ、衣服という器に宿る静けさと強さを形作っていた。
Mame Kurogouchi 2025AW COLLECTION RUNWAY
ANREALAGE/アンリアレイジ
<ANREALAGE(アンリアレイジ)>は2025年秋冬コレクション「SCREEN」において、黒い服を“液晶スクリーン”と見立て、視覚的情報と感情を映し出すインターフェースとしての衣服を描いた。
ショーはパリ・アメリカン・カテドラルで行われ、LEDテキスタイルやRGBカラーの光の変容を駆使し、スクリーン越しに見る現代と未来の境界をファッションに落とし込む構成で展開された。
フォレアス技術によるプリントやMPLUSPLUSと開発した光を通す織物、LED糸で構成されたニットなどのアイテム群が、常に変化し続ける柄や色彩で視覚に訴えかけ、服そのものがメディアへと進化していく姿を表現。
本コレクションで描き出したのは、テクノロジーと身体、情報と衣服が滑らかに融合する“拡張されたファッション”の在り方であり、衣服がもはや完成された造形ではなく、更新され続けるプラットフォームであるという未来像だった。
ANREALAGE 2025AW COLLECTION RUNWAY
UNDERCOVER/アンダーカバー
<UNDERCOVER(アンダーカバー)>は、ブランド創設35周年という節目に発表した2025年秋冬コレクションで、デザイナー高橋盾が自身のアーカイブから選んだ2004-05年秋冬「but beautiful・part parasitic part stuffed」を新たな視点で再構築した。
フランスのアーティスト、アン=ヴァレリー・デュポンによる布製オブジェと、パティ・スミスの反骨的な美学を融合させた当時の世界観が、20年の時を経て成熟した感性で再び蘇った。
コレクションには、手縫い風のディテールやテディベアの質感を取り入れたジャケット、崩したテーラリングのコート、フェミニンさと無骨さを兼ね備えたドレスなど、懐かしさと現代性を織り交ぜたアイテムが並んだ。
単なるノスタルジアではなく、過去と現在を行き来しながら、「個としての存在感」を静かに問い直した本コレクションは、<UNDERCOVER>というブランドが時間を超えて紡ぎ続ける物語の新たな章の幕開けとなっている。
UNDERCOVER 2025AW WOMEN’S COLLECTION
ALAÏA/アライア
<ALAÏA(アライア)>が発表した2025年秋冬コレクションは、「Liefde(愛)」と題され、時空や文化の境界を超えた美の探求を通じて、ブランドの根源的な哲学に立ち返る内容だった。
彫刻家マーク・マンダースの作品に囲まれたアトリエを舞台に、彫刻的フォルムと身体性をテーマにした衣服が、まるで動くアートのように展開された。
フードで顔を縁取り、プリーツやパッドで身体を包み込むドレスやコート、そして構築的なカッティングによって女性のシルエットを際立たせるレイヤーアイテムが目を惹いた。
身体を守る「鎧」としての衣服が、フェミニニティの解放を象徴する本コレクションは、個性と力強さを讃えるブランドならでは視点から、女性の存在そのものに深い敬意を捧げたコレクションとなっていた。
ALAÏA 2025AW COLLECTION RUNWAY
Courrèges/クレージュ
<Courrèges(クレージュ)>は、「One minute Courrèges」と題した2025年秋冬コレクションで、儚さと衝動が交錯する一瞬のジェスチャーから生まれるフォルムを通じて、現代に必要とされる楽観の美学を提案した。
ダン・コーレンのアートピース『Moments like This』に触発されたニコラス・デ・フェリーチェは、斜めに交差する構造や非対称のラインを取り入れ、ブランドの伝統的なシルエットを再構築した。
紙吹雪のような質感のオープニングドレスに始まり、羽根をあしらったアウター、アーカイブから着想を得たサングラスや手首に巻きつける新型バッグなど、祝祭的な要素が軽やかに展開。
視覚的インパクトと感情の起伏が交差する空間で、「着ること」がもたらす解放と連帯の感覚を、純粋な形と動きの中で美しく可視化した。
Courrèges 2025AW COLLECTION RUNWAY
Julie Kegels/ジュリー ケーゲル
<Julie Kegels(ジュリー ケーゲル)>は、2025年秋冬コレクション「Dress Code」を通じて、“装いが空間における存在感をどう形づくるか”というテーマにアプローチした。
コレクションでは、1980年代のパワースーツ文化を起点に、家具やインテリアから着想を得た造形美が、自己表現の新たな可能性として提示された。
ソファから再構築されたスカート、椅子のモチーフを配したプリント、ラッカー仕上げの木革で仕立てたドレスやアクセサリーなど、オブジェのようなアイテムが並んだ。
ファッションを単なる装飾ではなく、「場に溶け込むことで自身を語る」ための構造として再定義し、現代のドレスコードを再考させる知的で大胆な提案を打ち出した。
Julie Kegels 2025AW COLLECTION
RUOHAN/ルオ ハン
<RUOHAN(ルオ ハン)>は、2025年秋冬コレクション「FIRST SNOW,LATE NIGHT」で、季節の移ろいと記憶の輪郭を静謐に描き出した。
折り紙の構造美に着想を得たシルエットは、雪の結晶のように折り重なりながら再構築され、時間の連なりを纏うような衣服が展開された。
カシミアジャカードや起毛ウール、キルティングオーガンザなど、異なる質感が冬の空気を織り込み、柔らかくも緊張感のあるフォルムが印象的なシューズやバッグも登場。
本コレクションを通して、時間と季節が織りなす「関係性」を静かに可視化し、服というメディアに記憶や余韻を染み込ませるような詩的表現へと昇華させた。