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HODAKOVA 2026年秋冬コレクション──「私」を包む家、剥ぎ取られた背中が語る真実

Mar 12, 2026
2026年3月2日(月)、<HODAKOVA(ホダコヴァ)>はパリ・ファッションウィークにて「Conventional Collection 112603」と題した2026年秋冬コレクションをパリのルーブル美術館内、カルーゼル・デュ・ルーブルで発表した。

HODAKOVA 2026年秋冬コレクション──「私」を包む家、剥ぎ取られた背中が語る真実

Mar 12, 2026 - FASHION
2026年3月2日(月)、<HODAKOVA(ホダコヴァ)>はパリ・ファッションウィークにて「Conventional Collection 112603」と題した2026年秋冬コレクションをパリのルーブル美術館内、カルーゼル・デュ・ルーブルで発表した。

ルーブル美術館の地下、カルーゼル・デュ・ルーブルに足を踏み入れると、そこには日常の断片が奇妙な静謐さの中で再構築されていた。2024年LVMHプライズのグランプリを獲得し、再生素材に新たな命を吹き込む、エレン・ホダコヴァ・ラーソン。彼女が今シーズン提示したのは、私たちのアイデンティティを包み込む「家」と、その中に潜む「自己の層」への深い洞察だった。

薄暗い照明の中に浮かび上がったのは、4つの扉に縁取られた室内空間。カーペットやテーブルといった家具が配置されたセットは、私的な聖域(サンクチュアリ)であると同時に、社会的な自己を映し出す鏡の迷宮のようでもあった。<HODAKOVA>は、観客をアイデンティティの脆さと、その下にある真実を探求する瞑想の旅へと誘った。

コレクションの幕が開くと、黒、灰、骨色、そしてタバコブラウンといったストイックなカラーパレットを纏ったシルエットが、この「家」へと迷い込んでくる。序盤に目を引いたのは、極めて精密に構築されたテーラリングだ。フロントから見れば、それは体を美しく引き締める細長いコートであり、シャープなカットのノースリーブブレザーである。しかし、服の背中部分は大胆に「剥ぎ取られ」、着る人の肌が露わになっているのだ。この意図的な二元性は、公的なペルソナ(社会の中で演じる自分)と、私的な自己(無防備な素の自分)の間の緊張感を象徴している。凛とした強さを湛えたフロントと、無防備なバック。そのコントラストは、現代社会において私たちが無意識に使い分けている「顔」を、残酷なまでに美しく可視化していた。

今シーズンの重要なモチーフとなったのが「ガラス」と「鏡」である。「Icelandic Glacial」とのコラボレーションにより誕生したガラス製のアクセサリーは、モデルが手にするウォーターボトルと共に、透明な輝きを放っていた。アイスランド氷河が掲げる『何も取らず、何も加えない』という哲学は、既存の素材をありのまま再定義し、虚飾を剥ぎ取って真実の自己を映し出そうとするホダコヴァのストイックなクリエイションと共鳴している。透明なガラスの表面は、中身を露呈させながらも物理的な隔たりを作る「保護バリア」として機能し、感情の露出と内面の防衛という矛盾した精神状態を表現していた。

<HODAKOVA>の真骨頂である素材の再解釈は、今シーズンさらに情緒的な深みを増している。スウェーデンの家庭で愛用される「スロー(掛け布)」へのオマージュとして登場したシープスキンやファーのルックは、ストイックなテーラリングの中に温かな「安らぎ」を投げ込む。ファーコートは胴体を愛おしそうに包み込み、ニットセーターは袖を通さず、モデルが自身の腕で抱きしめるようにして纏う。それは、他者との関わりを断絶した、自分自身との親密なダンスのようにも見えた。

また、キッチンで使われる「ティータオル」を、重厚な重力感を纏うスカートやイブニングドレスへと変貌させたルックは、衣服をエレガントな防護服へと昇華させ、日常のありふれた道具に新たな解釈を与えた。アップサイクルされた銀のスプーンから作られたネックレスやリング、タグに至るまで、<HODAKOVA>の手にかかれば、使い古された家庭用品は「聖なる装飾品」へと昇華されるのだ。

中盤、スコットランドの伝統<Harris Tweed(ハリス ツイード)>とのコラボレーションが、コレクションに重厚な規律をもたらした。職人の手によって織り上げられたオーセンティックなツイードは、彫刻的な帽子や、ボタン留めのノースリーブベストへと再構築され、伝統が持つ「時間の層」を表現する。さらに、バイオリンに使用される馬の毛の弦を服に織り込むという実験的なアプローチは、コレクションにピンと張り詰めた「緊張感」と、音楽のような「繊細さ」を添えていた。

ショーの後半、多くのモデルが裸足で登場した演出は印象的だった。それは、自分の部屋で着替えるプライベートな瞬間。社会的な鎧を脱ぎ捨て、ありのままの自分に戻り、自分の内側で安心できる状態を提示している。一方で、フットウェアが登場するシーンでは、乗馬ブーツやウェッジヒールといったメンズウェアの記号を再解釈した力強い足元が、自立した個人の足取りを強調した。

<HODAKOVA>2026年秋冬コレクションは、ファッションが単なる装飾ではなく、個人の「精神空間」の構築であることを証明した。構築されたレイヤーを一枚ずつ剥ぎ取った先に残る、真実の核心。厳格なテーラリングと未完成のパネル、冷ややかなガラスと温かなシープスキン、それらが織りなす「家」の中で、<HODAKOVA>は「自分自身であることの勇気」を静かに、しかし力強く肯定してみせた。LVMHプライズ受賞を経て、彼女のビジョンはよりグローバルに、そしてより深く内面へと向かっている。再生素材を扱うという環境的責任を、ここまで詩的で、心理的な物語へと昇華できるデザイナーは他にいないだろう。

HODAKOVA 2026AW COLLECTION RUNWAY

HODAKOVA
https://hodakova.com/

  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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