QUI

FASHION

IM MEN 2026年春夏コレクション、布に命が宿る「DANCING TEXTURE」

Jul 10, 2025
2025年6月26日、<IM MEN>はパリ14区のカルティエ財団現代美術館にて、2026年春夏コレクション「DANCING TEXTURE」を発表した。会場には、今回のインスピレーション源である陶芸家・加守田章二の代表作を模した大きな布が宙に吊るされた。
同じ装いをまとったパフォーマーが登場し、布に命を吹き込まれたかのように舞う。布は呼吸するようにたわみ、ねじれ、広がり、身体の動きに呼応して表情を変える。服が単なるプロダクトではなく、空間・重力・身体と呼応して“生きる”存在であることを観客に提示した。

IM MEN 2026年春夏コレクション、布に命が宿る「DANCING TEXTURE」

Jul 10, 2025 - FASHION
2025年6月26日、<IM MEN>はパリ14区のカルティエ財団現代美術館にて、2026年春夏コレクション「DANCING TEXTURE」を発表した。会場には、今回のインスピレーション源である陶芸家・加守田章二の代表作を模した大きな布が宙に吊るされた。
同じ装いをまとったパフォーマーが登場し、布に命を吹き込まれたかのように舞う。布は呼吸するようにたわみ、ねじれ、広がり、身体の動きに呼応して表情を変える。服が単なるプロダクトではなく、空間・重力・身体と呼応して“生きる”存在であることを観客に提示した。

今季のコレクションは、<IM MEN>のデザインチームと陶芸家・加守田章二の作品との出会いから始まった。
チームは加守田の造形に触れたとき、「この形を布で再現したい」、「この質感を服としてまといたい」と強く感じたという。
衣服と陶芸は異なる分野に思えるが、そこには共通する哲学が存在する。

陶芸家・加守田章二の哲学・革新性とは?

まず、加守田章二の哲学を、今回のモチーフにもなった「曲線彫文」、「銀陶」、「灰釉」の作品群から紐解いていく。

鱗のような文様が印象的な皿や壺は、器のふくらみに沿って自然な波のような線を彫り込み、模様と形を同時に生み出した作品群。従来のように器の完成後に模様を“描く”のではなく、かたちの中から模様を“生じさせる”。模様とフォルムが不可分な構造となり、器そのものがアートのような存在に変わる。

「銀陶」では、純銀の顔料を用い、金属的な光沢を放つ表面を作り出す。土と銀という異素材を掛け合わせることで、視覚的な重みと反射の強さを引き出している。

さらに「灰釉」では、草木の灰を主成分とする灰釉と呼ばれる釉薬によって、淡い青磁色と素地のコントラストを生み出している。器の内側には轆轤(ろくろ)目があらわれ、それ自体が意匠として機能する。

これらの表現方法から、加守田章二は、「構造」、「素材」、「模様」の関係性を緻密に設計し、器の概念を変え、陶芸という枠にとどまらず、アートや彫刻に通じる表現領域を切り拓いた作家といえる。

イッセイ ミヤケの哲学とは?

イッセイ ミヤケもまた「服とは何か」を根本から問い直し、衣服という概念を覆したブランドだ。
複雑な型紙や縫製に頼るのではなく、一枚の布を“折る”“たたむ”“広げる”ことで身体に寄り添う形を生み出してきた。
また、三宅一生は「人々の生活を豊かに、軽やかにする服をつくりたい」と語り、誰もが自由に着られ、動きやすく、前向きな気持ちになれる服を目指してきた。

陶芸家・加守田章二と<IM MEN>に共通する哲学とは?

このように、加守田章二は、「陶芸とは何か」を問い直し、「器」という概念を壊して再構築し、イッセイ ミヤケは「服とは何か」と向き合い、「一枚の布」から身体や生き方との関係を見直した。

両者に共通するのは、「かたち」そのものをつくることが目的ではなく、「感覚」や「身体」との関係を根本から問い直す姿勢である。

土の記憶を布に写す、<IM MEN>の新たなテキスタイル表現

<IM MEN>は、加守田章二の「模様と構造を同時につくる」哲学を服づくりに応用した。

「曲線彫文」から着想を得た「UROKOMON」では、ボンディング・オパール加工を使い、水洗いによって模様が現れる布地を制作。器に彫文を刻むように、布にも“削ることで立ち上がる模様”を与えている。

「ENGRAVE」では、彫文の立体感を布で表現。収縮糸とジャカード織を組み合わせ、熱によって布に凹凸をつくり“彫られたような模様”を浮かび上がらせている。ファスナーを閉じることで、平面の布が立体へと変化する構造も、器づくりの動きと呼応する。

「GINTO FLAT」は、「銀陶」をヒントに、平面構造の衣服を展開すると角鉢のような正方形になる設計。畳んだ状態で施された銀箔が、展開後に濃淡となって浮かび上がり、器の金属的な質感や揺らぎを表現している。

「KAIYU」は、「灰釉」に着想を得て、光沢とマットのインクを使い分けることで、釉薬の艶感と素地の質感を布の中に共存させている。轆轤目を思わせる繊細な線も、平面プリントで再構成されている。

布に命を吹むことで生まれる美「DANCING TEXTURE」

「DANCING TEXTURE」は、陶芸という異分野の思想を服づくりに転用した試みであった。加守田章二が示した「模様と構造の不可分性」や「素材特性の活用」といった視点は、<IM MEN>において具体的な衣服設計として展開され、布が構造としてだけでなく身体や感覚と関係しながら“生きた存在”へと変化していく。
どのアイテムにも通底するのは、素材や構造から意味を引き出そうとする姿勢である。
見た目だけでなく、触れたとき、動いたとき、身体にまとうことで初めて現れる美しさがあることを教えてくれたコレクションだった。

-クレジット
© ISSEY MIYAKE INC.
Runway looks/Details: Frédérique Dumoulin-Bonnet
Show images: Olivier Baco

IM MEN 2026SS COLLECTION RUNWAYはこちら

All Photo
  • Text & Edit : Yusuke Seojima(QUI)

NEW ARRIVALS

Recommend