アンビエントの現在地〜サウンドスケープ2026 | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 26
連載第26回目となるテーマは、「アンビエントの現在地〜サウンドスケープ2026」
各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し”が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。
狂気と孤独を音で描く、クラウス・シュルツェ「ANGST」
recommend by ディスクユニオン 商品部 西 純一郎さん
初めてこちらでレビューを書かせていただきます。普段はヘヴィメタルの商品の仕入れを担当しており、音楽ジャンルを問わず幅広く聴いています。
アーティスト名:KLAUS SCHULZE
アルバム名:ANGST(2022年 / MIG MUSIC)
スタッフのおすすめコメント:
クラウス・シュルツェの『Angst』は、1980年にオーストリアで実際に起こった殺人事件を題材にした映画『アングスト/不安』のサウンドトラックでありながら、殺人犯の狂気や孤独を描いた心理描写を音で映し出した鮮烈なアンビエント作品です。
長尺のシンセドローンやパッドは、無機質でメタリックな音色を湛えつつ、静謐と不安のあわいを漂い、時間や内面の揺れを可視化していきます。鋭角的な音像が緊張感を生み、深く反響するシンセが空間を埋め尽くすことで、聴く者は自然と音の中に没入します。静寂と不安が交錯するこのサウンドスケープは、単なる音楽体験にとどまらず、犯人の心理空間を追体験させるような強い臨場感を与えます。クラウス・シュルツェの音は、音楽という枠を超えて、聴く者の内面に心理的な風景を立ち上げ、深く心に響き続けます。
夕暮れの空間に立ち上がるアンビエント・ジャズの現在地、サム・ウィルクス「Sam Wilkes, Craig Weinrib, and Dylan Day」
recommend by ディスクユニオン JazzTOKYO カイピリーニャさん
JazzTOKYOアルバイト勤務のシティポップ好き中年。渋谷毅のピアノと一十三十一の歌声の中毒患者。
アーティスト名:SAM WILKES
アルバム名:Sam Wilkes, Craig Weinrib, and Dylan Day(2024年 / ASTROLLAGE)

スタッフのおすすめコメント:
アンビエント・ジャズと呼ばれる音楽が流行っています。ひとくくりにできる明確な様式があるわけではなく、Ambient、Jazz、それぞれの言葉が醸す空気感を併せもつ音楽をそう呼ぶようです。それらのサウンド自体はピカピカに新しいものではなく、ウェザー・リポート、アジムスなどマイルス・デイヴィスの"In A Silent Way"あたりに端を発する20世紀のエレクトリック・ジャズは多分にアンビエント成分を含有していました。ジョン・ケージやブライアン・イーノを通過した耳で音楽を音色や質感でとらえるとアンビエント・ミュージックが立ち現れます。モダンジャズ名盤と名高いビル・エヴァンスの“Waltz For Debby”は、客席の話し声やグラスの触れる音までライブハウスの空気を丸ごととらえた元祖アンビエント・ジャズではないでしょうか。さて、最近録音されたアンビエント・ジャズから選ぶならこれ。夕暮れ時に屋外で即興的に演奏されたというまさにアンビエント+ジャズ、極めつけの1枚です。
波のように編まれる響き、ローレル・ヘイロー「Atlas」
recommend by ディスクユニオン 中野店 飯谷 真帆さん
オルタナ、NO WAVE、アヴァンギャルド、実験音楽などが好きです。
アーティスト名:Laurel Halo
アルバム名:Atlas(2023年 / Awe)

スタッフのおすすめコメント:
ローレルヘイローはロサンゼルスを拠点に活動する電子音楽家で、宅録女子/エクスペリメンタルテクノという印象が強かったのですが、2023年にリリースされたこの5thアルバムは完全にアンビエントでした。初めてこのアルバムの音の響きに触れたとき、そのサウンドスケープに私の中で新しい音楽の楽しみ方のようなものを感じました。
環境音やチル目的ではなく、洗練された「ただただ美しいサウンドスケープ」への挑戦。そのタイプのアンビエント作品の中でもとても完成度の高い名作だと思います。大きくゆっくりとした波の中で、繊細で細やかな要素が幾重にも行き来し作られた重厚な響きのサウンドスケープ。ローレルヘイローのピアノの他チェロやサックスなどの生楽器による演奏が、機械/電子的ではなく肉体的/演奏感のあるうねりを生み出しています。そしてローレルヘイローのピアノを主として一瞬だけ声が入ってくる曲「Belleville」では曲の美しさも十分に感じられます。
アンビエントといえば生活に馴染むBGMのような音楽、リラックスやチル的なイメージがあると思いますが、「Atlas」は私にとって何度聴いても新しい発見のある、ドキドキするような、そんなアンビエントミュージックです。
燻る灰の上に投影される救済、終末アンビエントの到達点「4k God Projected On The Smoldering Ashes」
recommend by ディスクユニオン 物流 稲垣 吉人さん
気になったものは何でも試しに聴いてみる者。メタルからパンク、フリージャズやアヴァン系、ニューウェーブ等。一番好きなミュージシャンは浅川マキ。
アーティスト名:Death's Dynamic Shroud.wmv
アルバム名:4k God Projected On The Smoldering Ashes(2025 / Ghost Diamond)

スタッフのおすすめコメント:
2013年結成、USオハイオ発のヴェイパーウェーブ・トリオが2025年に到達した、霊的な終末アンビエント作品です。足音が鳴るフィールドレコーディングを交えた終末的な不穏さの冒頭部を経て訪れるのはポストアポカリプス──あるいは自身の滅びの後、現世と隔絶した霊体を通して世界を覗き見ているような情景。短いモチーフがミニマルに、かつ長大に反復される一方で音色はじわじわと変遷し、聴き手は緩やかに走馬灯のように流れている窓を覗き見るようにしている内に、気がつくと"ここ"ではないどこか見知らぬ場所へ運ばれているような感覚になります。タイトルの訳は「燻る灰の上に投影された超高精細な神的存在」。その言葉どおりの冷たさと茫洋さ、そして救済の感覚が同居する音世界です。同グループが長年培ってきたヴェイパーウェーブ系音楽由来の諧謔/パロディ性を経た先に見せたのは、それらとは一線を画す、破滅の先にある救いを希求するテーマに真正面から取り組んだ一枚でした。
多重録音が紡ぐ異郷の気配、箱庭的アンビエントの到達点「Aspiration」
recommend by ディスクユニオン 渋谷ジャズ/レアグルーヴ館 叶 祐介さん
ワールド・ミュージック、レゲエを担当。実験的な要素のあるいろいろな音楽が好きです。
アーティスト名:武田吉晴
アルバム名:Aspiration(2026/4/22 LP再発リリース / Flowmango)

スタッフのおすすめコメント:
私がディレクションを担当するレーベルFlowmangoより4月22日にLP再発盤が発売予定の作品。2018年に作曲家/マルチ・インストゥルメンタリストの武田吉晴が発表した本作は、ピアノやクラリネット、ペダルスティール・ギター、パーカッション等の様々な楽器を武田氏自身で演奏・打ち込み、多重録音し制作されています。ジャズや中近東伝統音楽といった古典的なサウンドがベースにありながら、場所や年代から解き放たれたここではないどこかを描き出したような自由で美しい箱庭的アンビエントの傑作。天上で響く音かのような神秘性と素朴でインティメイトな風合いのどちらもが感じられる不思議な奥行き、アンビエンスがあり本当に最高です。
弊レーベルでは今夏~秋ごろにも武田氏とソングライター/ギタリスト/プロデューサーとして国内外で活躍する岡田拓郎氏の新録共作もリリース予定です。ジャズやフォークといったトラディショナル・ミュージックから環境音楽、アンビエントなどの実験音楽へ横断する前衛的なサウンドの気鋭2人、まさにアンビエントの「現在地」といえる作品が生まれる予感...!是非チェックしてみてください。
内面へ沈み込む静かな波、横田進未発表音源が照らす心の深度「unreleased works: 94’-97’」
recommend by ディスクユニオンお茶の水駅前店 櫻流 瑠美さん
テクノを中心とした神秘的・民族的な音楽が好き。
アーティスト名:Susumu Yokota
アルバム名:unreleased works: 94’-97’(2016年 / Music From Memory)

スタッフのおすすめコメント:
今回私がおすすめしたいアンビエントは「Susumu Yokota /unreleased works: 94’-97’」だ。1994〜97年に制作された音源を、2016年にレーベル:Music From Memoryが再編集・リリースした作品である。故・横田進の今まで一度も世に出ることがなかった未発表幻の音源集だ。このアルバムは安らぎよりも、内面に沈み込むようなほどよく静かな緊張感漂う冷たくミニマルな要素がみられる。
特にオススメの曲はA面2曲目「WAVE」だ。古いカセットテープから流れてくるような、霞のように切ない学校のチャイムの音からはじまり、徐々にドローンのようにじわじわと拡張する音の反響が頭を支配する。音数も主旋律も控えめでありながら、その余白と催眠のようなループ音が心地よい。このレコードを1人部屋で静かに流すと、澄んだシンセの音の周波が心を無にさせてくれる。
今の時代、日常の中でかなり膨大なインターネット・広告などの情報や、SNSで増幅された人の潜在意識のようなものが流れ込んでくる感覚が強いと感じる。私はその情報の波に過剰に振り回されたり、落ち着かなくなるときが多くある。それらを一度遮断し、このアルバムを時折流して自分の感覚に戻るのが静かな醍醐味でもある。散らばった感情が自分の内側へと収束させてくれる。
「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い

世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。
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「街では流れないクリスマスソング 2025」をテーマにおすすめアーティストをご紹介
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)
