レコード・ストア・デイに出会う貴重な1枚 | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 10
連載第10回目となる4月のテーマは「レコード・ストア・デイ」
レコード初心者でも所有欲を満たしてくれるおすすめの名盤をご紹介。
各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し“が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。
「レコード・ストア・デイ」とは?
音楽好きでレコード店に通う人なら聞いたことがあるだろう。いまから17年前にアメリカで始まったイベントで、毎年4月の第3土曜日と11月のブラックフライデーに「個人が所有するレコード店の文化を祝う」ために開催されている。この日はアメリカ、英国を中心とした世界中の音楽ファン、アーティスト、各国のレコード店が活動していて、この日を記念し、多くのレコードや音源が特別に発売されるのだ。そこで今回はこの「レコード・ストア・デイ」にちなんでプレスされた、ディスクユニオンスタッフおすすめのアルバムやシングルを紹介する。この他にもジャンルごとにリイシューされた貴重なブツが続々登場するので、実際に店頭に足を運んで、レアな出会いを祝ってほしい。
この日にふさわしい、女性ラッパーの先駆者、オリジナル・リリース以来の初リイシュー!「ILL NA NA」
recommend by 商品部 ヒップホップ担当 二木 信さん
ヒップホップ担当
アーティスト名:FOXY BROWN
アルバム名:ILL NA NA(1996/DEF JAM)
スタッフのおすすめコメント:
いま、フォクシー・ブラウンをはじめて知って聴いたときの衝撃をどう伝えればいいか、昔を思い出しながら書いています。NYのブルックリンが地元の彼女は、1995年にLL・クール・Jの“I Shot Ya”のリミックス・ヴァージョン(他にファット・ジョー、キース・マーレイ、プロディジーが参加したマイクリレー)で鮮烈にデビューし、その翌年、現在のような大スターになる前のジェイ・Zの“Ain’t No Ni**a”にフィーチャリングされます。
いまのように多くの女性のラッパーが活躍していた時代ではありません。そんな時代に、MTVで観た彼女のハードコアなラップとスタイリッシュかつ気合いの入ったファッションや風貌はあまりにもスペシャルで、一発で虜になりました。彼女は先駆者だったのです。そして、僕がこのデビュー・アルバムをCDで買ったのは15歳。フォクシー・ブラウンは17歳です。10代後半とは思えない貫禄。いまでいえば、15歳でカーディ・Bにハマるようなもの。そう書けば少しは伝わるでしょうか。
アルバムは、当時大人気だった2人組のプロデューサー・チーム、トラックマスターズが中心になって制作されました。R&Bグループのブラックストリートを客演に迎えたポップな“Get Me Home”やキッド・カプリが煽るファンキーなパーティ・チューン“Fox Boogie”の一方、モブ・ディープのアルバムに入っていてもおかしくないようなハヴォックとの“The Promise”もあります。また、定番のブレイクビーツも使われていて、そういうサウンドの幅の広さがこの作品の魅力です。
フォクシー・ブラウンはその後、順風満帆のキャリアを歩んだとは言えません。そのため、その功績に比して語られることが少なく残念に思います。本作が1996年のオリジナル・リリース以来はじめてLPで入手可能になるとのことです。この機会にぜひ聴いてみてください。
特別な日だから、Jacob Luskとコラボしたゴスペルディスコの傑作12インチが登場「HAVE MERCY EP」
recommend by 商品部 ハウステクノ担当 猪股 恭哉さん
ハウステクノ担当バイヤー。HOUSE definitive改訂版参加。
アーティスト名:BLESSED MADONNA
アルバム名:HAVE MERCY EP(2024/PARLOPHONE)
スタッフのおすすめコメント:
2023年フジロックでは3日目ラスト大トリであるフランソワKに繋ぐ時間帯を務めたBLESSED MADONNA。ハウス名曲を惜しげもなくプレイしまくり圧倒的な祝祭空間を演出した彼女がRECORD STORE DAY 2024に登場! 以前の名前である BLACK MADONNA時代には定期的にヴァイナルをリリースしていたものの、2016年の「He Is The Voice I Hear」を最後にストップしていたため、約8年ぶりの12インチリリース。既にヒット済の人気曲を収録した本作で注目なのはなんといってもJacob Luskとコラボした” Mercy”では? ゲームEA SPORTS FC 24のサントラにも収録された、愛と喪失について歌い上げたゴスペルディスコ傑作! (YOUTUBEにアップされている公式LIVE MVは必見)
マニア必携のピクチャーディスクの特別ライブ盤は、レコード・ストア・デイならでは「VIBE (2LP)」
recommend by 商品部 ソウル担当/DIW 荒井 克宏さん
渋谷FAMILY / METROCKRIDE 他、都内を中心に月4、5本、年間50本ほどDJ活動をしている。
アーティスト名:LETTUCE
アルバム名:VIBE (2LP)(2024/LETTUCE RECORDS)
スタッフのおすすめコメント:
「ライブ盤はレコードに限る」という音楽にのめり込んだ友人と、それに賛同する声を多く聞くのですが、この LETTUCE ライブアルバム『VIBE』を聴くと、その気持ちが深く理解できます。針を落とすと始まる、現場にいるような臨場感&緊張感。録音のホワイトノイズの中に感じる、特殊な空気感やメンバーのテンション。そして、その場所でしか存在しなかったであろう、特別な演奏やインプロビゼーション。現行FUNK最高峰とも呼び声高いLETTUCEの、その瞬間のエネルギーを閉じ込めたような作品が、この『VIBE』です。
2020年にグラミー賞最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム賞にノミネートされ、世界中から注目を集めるLETTUCE。この40分以上に及ぶライブアルバム『VIBE』は、音源よりも踏み込んだ場所、LETTUCEの音楽性の奥深くを知った感覚に陥ってしまう逸品。さらに、今回の RECORD STORE DAY での特別盤は、ジャケットデザインをピクチャーディスクとして再構築。ファンやライブ盤マニアにとって必携のアイテムとなっています。一度、この音源を聴けば、現行ファンク・ミュージックの虜になること間違いなしです。
いまから入手困難になること必須?!個人的に日本AORの最高峰が7インチで再発!「Town & Country」
recommend by 平成J-POPストア 平中 孝祐さん
平成J-POPストア店長
アーティスト名:檀雄司
アルバム名:Town & Country(2024/株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ/株式会社ローソンエンタテインメント)
スタッフのおすすめコメント:
檀雄司が残した2枚のシングル(7インチと12インチ)の12インチの方が今年のレコードストアデイに7インチになって再発!お店で初めてオリジナル盤を扱ったときは実在していたのか!と思うほどのレアアイテムでとても興奮したことを覚えています。
時が経ちシティポップが市民権を得た今ようやく再発されるとはとても感慨深いです。A面のTown & Countryはケン田村のLittle Bit Easier、郷ひろみの入江にてと並ぶ個人的日本のAOR最高峰です!デビュー7インチシングルWEEKEND(オリジナルはさらに入手困難)も最高なので再発何卒よろしくお願いいたします!
ちなみにTown & Countryといえば1990年生まれの私にとっては小学生のTシャツというイメージです。このA面の社名そのままの曲はまさにそのTown & CountryのCMソングだったそうです。そういえばTown & CountryもPIKOもBAD BOYも今着ている人はあまり見かけませんね。
所有する喜びを祝うなら、目と耳が驚く、ゾートロープ・レコードのGEORGEの異作を「WONDERWALL MUSIC [LP] (ZOETROPE PICTURE DISC, LIMITED, INDIE-EXCLUSIVE)」
recommend by 商品部 ロック担当 江角 尚紀さん
60~70年代ロック担当バイヤー。
アーティスト名:GEORGE HARRISON
アルバム名:WONDERWALL MUSIC [LP] (ZOETROPE PICTURE DISC, LIMITED, INDIE-EXCLUSIVE)(2024/DARK HORSE)
スタッフのおすすめコメント:
買う喜び、所持する喜び、そして「聴く」とはまた違った「回す」喜びを与えてくれるレコード
みなさんはゾートロープ(ゾエトロープともいう)という言葉をご存じでしょうか。古くは「回転のぞき絵」と呼ばれ、連続した動きが描かれた静止画を回転させることで、のぞき穴から見える画像が動いているように見える元祖アニメーションのようなもの。その原理を利用したアートワークを使用したピクチャー盤レコードのリリースがじわじわと増えてきています。レコードをターン・テーブルにのせて回すと盤面に描かれた絵がウネウネと動いているように見えるこのゾートロープ・ピクチャー・レコードは、聴くことだけではなく回して眺めるというちょっとした、でも新たな面白みを与えてくれます。
これまでも音楽そのものを聴くという行為以外のもので音楽をより楽しむということはジャケットをはじめ様々な方法で試みられてきたことですが、このゾートロープ・レコードに関しては回す、つまりしっかり聴くかどうかは別としても音を出すために盤を回す、という行為がまた違うアートワークになるというある意味不思議な逆転現象を生んでいるとも言えます。少なくともこの「回す」ということに付加価値のついたレコードを手にした人にとっては後で聴こうと置いておくいわゆるレコードの積ん読状態にはなりにくい商品ではあるでしょうね。
音源を聴く方法が多様化している現代において、レコード・ストアに行ってレコードを買って聴いて、そして所有するということに何とも言えない喜びや達成感みたいなものを感じる音楽フィジカル好きにとって、こういった「もの」でしか表現できないアートワークや付加価値のある商品というのはそれだけでなにかワクワクさせてくれるものがあります。友人が家に来た時に「これ見て!」と言いたくなりそうです。まさにレコード・ストア・デイにぴったりな商品だなあ、と感じます。
そして今回2024年4月20日のレコード・ストア・デイではジョージ・ハリスンのソロ作「ワンダーウォール・ミュージック」と「エレクトロニック・サウンド」がリリースされます。どちらも映画のサウンドトラックと実験音楽的な作品ということでジョージのいわゆる歌ものソロ作とは区別して見られる2作品ですが、ウネウネ動く盤を見ながらあらためてこれらの作品を聴いてみてはいかがでしょうか。そもそもビートルズ関連の限定品ということになりますので入手自体が難しい、なんてことになってしまうかもしれませんね。
「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い
世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。
diskunionHP:https://diskunion.net/
公式youtube:https://www.youtube.com/@diskunion_official
instagram:https://www.instagram.com/diskunion/
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