十代の自分が、影響を受けたエモい一枚 | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 2
連載第2回目となる8月のテーマは「十代の自分が、影響を受けたエモい一枚」
各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し“が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。
NAS「ILLMATIC」recommend by 高橋 央さん
recommend by ヒップホップ担当 高橋 央さん
ヒップホップ担当バイヤー
アーティスト名:NAS(ナズ)
アルバム名:ILLMATIC
リリース年 / レーベル名:1994 / COLUMBIA
スタッフのおすすめコメント:
エモくなる曲は多数ありますが、その中でも初期衝動というに相応しいアルバムはやはりこれです。
“捨曲なし”ではなく”全曲クラシック”なアルバムは中々お目に掛かれないのではないかと思います。
かのSource誌で5本マイクの評価を受けた事をキッカケに当時のEminemが聴いて衝撃を受けた(と同時に落ち込んだ)と最近本人も語っていますね。(同アルバムのTAPEも600ドルで購入したことがあるとか…)
収録曲に関してあまりにクラシックばかりでリリック含め多数語られていますので少し別の角度から。個人的にはアルバムイントロ→1曲目の鳥肌度では一位です。
イントロ「The Genesis」から「N.Y. State of Mind」の流れは格別。(正直WU-TANGの2ndアルバム『Wu-Tang Forever』の「Intro」から「Triumph」の流れと競りますが…)巷では時代は変わっても「何がHIP HOPで何がHIP HOPでないか」、様々な議論が繰り広げられていますが、このアルバムがHIP HOPである事だけは変え様のない事実であります。
THE SABRES OF PARADISE 「Versus」 recommend by 子安 菜穂子さん
recommend by ハウステクノ担当 子安 菜穂子さん
ハウステクノweb担当。90年代よりANiIIIIiiiKii名義でDJとしても各地で活動中。
おすすめアーティスト名:THE SABRES OF PARADISE
アルバム名:Versus
リリース年 / レーベル名:1995年 / Warp Records
スタッフのおすすめコメント:
2020年2月、56歳という若さで突然亡くなってしまうその直前までアンダーグラウンドのクラブ・シーンに身を置き現役DJとして世界中を飛び回っていた永遠の不良”ANDREW WEATHERALL。PRIMAL SCREAM「Screamadelica」のプロデュース等数々の伝説にかかわっている事でも音楽ファンには広く知られている彼が、私の10代最後の年だった1995年当時に率いていたグループSABRES OF PARADISE(同年解散)による94年発のアルバム「HAUNTED DANCEHALL」からのリミックスコンピ盤でUK名門WARPよりリリースされた1枚がこちら。THE CHEMICAL BROTHERS、DEPTH CHARGE、LFO、NIGHTMARES ON WAX、IN THE NURSERYと、現在見ても伝説級と言っていい錚々たる面子が居並ぶ内容で、AIDAN HUGHEによるコミック調のイラストレーション、赤×黒を基調とした当時のSABRESのイメージカラーを用いたパッケージデザイン込みで話題を集めた1枚です。
この「Versus」にリミックスを提供した同年、CHEMICAL BROTHERSはデビュー・アルバム「Exit Planet Dust(さらばダスト惑星)」をリリースし、ダンス・シーンに於いては充分に注目を集めている存在でしたが、いわば”Setting Sun”以前のメジャー・フィールドへ飛び出す直前の頃。そして「Exit Planet Dust」1曲目を飾る”Leave Home”のリミックス盤は当時クラブ・シーンで大きな話題を集めたのですが(何より本当に内容が格好良かった!)、そこにリミキサーとして起用されているのが前述の「Versus」のリミックス提供先であるSABRES OF PARADISE、そしてまだDARREN EMERSONが在籍していた”Born Slippy”前夜のUNDERWORLDでした。
1994年、現在は恵比寿に移転しているリキッドルームが新宿歌舞伎町にオープンしたこの年が私のクラブ解禁にして10代最後の日々の幕開けと被る訳なのですが、この新宿リキッドのこけら落としがUNDERWORLDの初来日公演であり、以降テクノ/ハウスの大物DJは勿論、のちにダンス・シーンのみならず世界的な成功を収めていくアーティスト/DJ達の来日プレイもキャパ700人の箱で毎月のように目にすることができたという事は、今思うととても貴重な時期になっていたと思います。UNDERWORLD、CHEMICAL BROTHERSのその後の活躍は言わずもがな。余談ですがDAFT PUNK衝撃のアルバム「Homework」は翌1996年にリリースされています。WEATHERALLはこういったメジャー・フィールドにはおもねらず、SABRES解散後も相棒KEITH TENNISWOODと共にTWO LONE SWORDSMEN等数々のエレクトリック・ユニットやソロ作品で悪いベースがつくづく恰好良いダンス・ミュージックを作り続けます。何より晩年までDJとしてダンス・シーンで現役であり続けた格別にかっこ良い存在でした。
後に世界的に成功を収めていくアーティスト達がまだ若く、こうしたリミックス提供をしあっていたこと等も勿論、マジカルがマジカルを呼び猛烈な勢いで世界中に伝搬し繋がっていく様を、次々と届けられる新譜という形でレコード屋で興奮しながら目のあたりにできていたという点で、あれは「エモ」い体験だったのかな、と今となってみれば思います(何しろ90年代末に「エモい」という表現はまだまだ一般的ではなかったものの筈なので…)。そういった意味でその時のシーンのうねりが凝縮されている当時の象徴的な1枚ではないかな、と思い選出させていただきました。
電気グルーヴ「DRAGON」 recommend by 猪股 恭哉さん
recommend by ハウステクノ担当 猪股 恭哉さん
ハウステクノ担当バイヤー。
おすすめアーティスト名:電気グルーヴ
アルバム名:DRAGON
リリース年 / レーベル名:1994 / ソニー・ミュージックレーベルズ
スタッフのおすすめコメント:
テクノのテの字も知らぬ、クラブにも行ったことがない当時から今でもマイヒーロー。音楽雑誌も読まず、友達から進められて買った1枚。2023年現在、90年代のテクノやトランスが再評価されていて、当然本作にも当時のトレンドが色濃く、なんというか、ディープで瞑想的な、ポップチャートを横目に独自のスタイルを築いていた所もすごいなと(1994年オリコンチャートを調べてみると異質さがすごい)。
随所に忍ばせたダブのエッセンスとアシッド感覚から卓球さんのクセが感じられて、そこも面白く聴けるポイント。後に彼らの代表曲となる”虹”がアルバムの最後を飾っていて、この曲が描く情景の鮮やかさとか純粋さとか切なさとか、聴く度に誇張抜きで泣いちゃう、つまり、エモい曲がエモくアルバムを〆ることで、名盤の条件を満たしていると思っております。
山口百恵 「GOLDEN FLIGHT」recommend by 新福 美桜さん
recommend by 日本のロック・インディーズ担当 新福 美桜さん
主に自主制作・委託商品の販売を担当。昭和から令和まで幅広くJPOPを愛する。
おすすめアーティスト名:山口百恵
アルバム名:GOLDEN FLIGHT
リリース年 / レーベル名:1977年 / CBSソニー
スタッフのおすすめコメント:
十代の自分が、影響を受けたエモい一枚は誰もが知る伝説の歌手・山口百恵の12枚目アルバム『GOLDEN FLIGHT』です。多くのヒットを生み出した、阿木宇崎コンビによるシングル等が有名ですが、こだわり抜いたアルバムの世界観は10代、そして今にも影響を与える作品だと考えます。初の海外レコーディングとしてイギリス・ロンドンで録音された本作は、浜田省吾、谷村新司といった錚々たる作曲・作詞陣に加え、現地のGordon Haskell、Ray Warleigh、Claire Hamillといった豪華クレジットが並びます。これまでの系統とは明らかに異なり、「ロンドンタクシー」や「PORTBELLOの銀時計」といったロック色の強い勢いのある曲たちが目立つ半面、「AIR MAIL」や「CHECK OUT LOVE」といった陽気でありながら切ない歌詞の曲たちは、色褪せることなく時を越えて感動と温もりを届けてくれます。当時を知る人はもちろん、現代を生きる皆さんに、特にレコードが奏でる生の音として一度は聴いて欲しい名盤です。
SON HOUSE 「FATHER OF FOLK BLUES」recommend by 藤原 啓さん
recommend by SOUL/BLUES担当 藤原 啓さん
SOUL/BLUESのWEB業務を担当。ここ数年はダブに夢中。
おすすめアーティスト名:SON HOUSE
アルバム名:FATHER OF FOLK BLUES
リリース年 / レーベル名:1965年 / COLUMBIA
スタッフのおすすめコメント:
伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンに多大な影響を与えたといわれているSON HOUSEが”再発見”されたのちの1965年にレコーディングした作品。
当時ロックしか聴いていなかった私はホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトが影響を受けたと語っていた気がしたという朧げな記憶と値段が安かったこともあり、中古レコード屋で再発盤を購入。
1曲目「Death Letter」での全身全霊で弾かれるギターは、リズムや音感、鳴り方まで今まで聴いてきたギターの音とは全く違うサウンドで、どうやったらこんな音がでるのかと度肝を抜かれた。
それ以外にも手拍子と歌だけで構成された「John the Revelator」や「Grinning in Your Face」など、そのシンプルさがよりブルースの奥深さを際立たせており、アルバム全てにエネルギーが溢れている。
自分にとってブルースをはじめとするブラック・ミュージックに夢中になるきっかけを作ってくれた1枚であり、これに出会わなかったらレコードを買い続けることもなかったと思う。
PAVEMENT 「Crooked Rain, Crooked Rain」 recommend by 松坂 貴亮さん
recommend by ロック担当 松坂 貴亮さん
洋楽のバイヤー、商品管理を担当。いついかなる時もUSインディ命。生粋のシティボーイ。お菓子と坂道系大好き。
おすすめアーティスト名:PAVEMENT
アルバム名:Crooked Rain, Crooked Rain
リリース年 / レーベル名:1994 / Matador
スタッフのおすすめコメント:
邦楽だけ聴いてたドンヨリ気味な高校2年の秋、「音質がヤバい!曲もヤバい!」的なキャッチをインターネットで見かけたのが最初。めっちゃ聴きたいとなったけど、まだYouTubeが未発達でサブスクも無く、しっかり音源を聴くにはフィジカルを手に入れなきゃな時代。
そんな訳で私と同い年のこのアルバム、PAVEMENT 『Crocked Rain,Crocked Rain』をGETする為に、初めてディスクユニオンに向かいました。場所は吉祥寺店(パルコに移転する前!)、輸入盤中古CDで税込550円。レコードで埋まった店内に圧倒されつつ、帰り道の井ノ頭通り、謎の達成感に満ちた17歳の私がいました。
帰宅後すぐに開封しコンポにCDをセットして再生ボタンをプッシュ。流れて来た1曲目「 “Silence Kit”のイントロは、私をUSインディと洋楽へ熱中させるのに充分でした。
初めてヒット曲”Cut Your Hair”を世に送り、勢いが豪速になっていた1994年のPAVEMENT。直前のNIRVANAのように世の中を変える、今まで誰も作った事が無いローファイサウンド&スーパーメロディを携えた勇姿に、刺激と興奮を求めていた私はどんどん自分の姿を彼らに重ねました。
2023年2月、再結成して13年振りに来日。前の再結成は勿論Vo.スティーヴン・マルクマス単独での来日も見逃していた私は、初めてメンバーと生で対峙しました。29歳になってた私はあっという間に17歳に戻り、至極のセットリストを余す事無く堪能して、10〜20代の自分にケリをつけたのでした。
「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い
世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。
diskunionHP:https://diskunion.net/
公式youtube:https://www.youtube.com/@diskunion_official
instagram:https://www.instagram.com/diskunion/
初回の記事はこちらから
「2023年 夏フェス注目のアーティスト」をテーマにおすすめアーティストをご紹介