Don’t consume Creativity – クリエイティブが“消費”される現代に“残るもの”をつくる -|現代アーティスト・にいみひろき
2024年10月、にいみの個展「Don't consume Creativity」が銀座のFOAM CONTEMPORARYで開催される。“創造性を消費しないで”というタイトルには、どのような意味が込められているのだろうか。制作に取り組む彼のアトリエを訪ね、その思いに迫った。
制作テーマは「クリエイティブの消費」
にいみひろきのアトリエでは、10月の個展に向けた制作が行われていた。そこには、キャンバスや、真っ白い工業品のような箱に単色のロゴやイラストがシルクスクリーンで刷られた、スタイリッシュな作品が並ぶ。
QUI編集部(以下 QUI):平面と立体、両方の作品を制作されているんですね。アートとデザインの間にあるような作品ですが、どのような作品なのでしょうか?
にいみひろきさん(以下 にいみ):僕はもともと「クリエイティブの消費」ということをテーマに作品を制作していて、広告とか漫画や、パッケージといった“使われて消費されたもの”を拾い集めてきて再構築しています。
今制作しているのは「什器」のシリーズです。什器って普段展示で光が当たらないものですよね。
QUI:什器って、例えば彫刻を置く台座とかですか?
にいみ:そうです。そういった、普段は光が当たらないものに逆に光を当てる、っていうテーマで制作を始めました。まだ制作途中ですけれど、今回は什器の彫刻みたいなものを作っていきたいなと思っています。
QUI:もともとは彫刻を引き立たせる役割だったものが、彫刻作品へと入れ替わるんですね。
以前は、例えばバーコードをモチーフにした平面作品などを制作されていましたが、そうした平面作品は、今回の作品とはまた違った意味合いを持つのでしょうか?
にいみ:コンセプトはずっと一緒です。
バーコードって消費の象徴ですよね。そのバーコードが作品である絵よりも手前に来ることで、絵も結局は消費の一部だといった、皮肉みたいな部分も含んだ作品なんです。表現の手法は変わっても、「クリエイティブの消費」という部分はずっとつながっています。
ちゃんと“残るもの”を作りたい
なぜ、にいみは、こうした「クリエイティブの消費」をテーマとした作品を制作し続けているのだろうか?
QUI:にいみさんは少し変わった経歴でアーティストになられたそうですね?
にいみ:もともとは建築の大学を出て、そこから1年だけ社会人をやって。その後さらに予備校に通ってから、美大に行って…っていうルートを辿っています。美大の卒業後にもう一度社会人をやってから作家になったんです。
大学は多摩美のグラフィック出身で、デザイン系でした。大学を出た後には広告代理店で働いていたんですけど、すごいハードワークで。でも、デジタルシフトが加速して行く中で、そんなハードワークで作った広告も、ものすごい早さでなくなってしまうんです。特にデジタル系の広告は早くて、例えば、Facebook用の広告とかは1週間で広告効果が消えちゃいます。
QUI:確かに、オンラインでは次々と新しい広告を目にしますが、そんなに早いスピードで入れ替わっているんですね…
にいみ:新しく制作した広告の効果が疲弊したら、またどんどん新しい広告を作って差し込んでいくような構造になっているんですよ。それで、デザイナーも疲弊していってしまうような状態で。
そういった部分に違和感をずっと感じていて、ちゃんと残るものを作りたいなって思うようになったので、アーティストになったんです。だから「クリエイティブの消費」をテーマに、ちゃんと“残るもの”を作っていきたいと考えています。
QUI:先ほど、作品のモチーフには、広告などの“使われて消費されたもの”を使用しているとうかがいいましたが、そういったところから繋がっているんですね。広告のような情報がものすごい速さで消費されていくというお話がありましたが、モノについても今は変化が速いという印象はありますか?
にいみ:デジタルもアナログもそうですよね。アナログのものも全部消費のサイクルが速くなってると思います。
それは、情報の民主化によって誰でもプロダクトが作れるようになったり、誰でも情報さえつかめればすぐに手に入れられるようになったというのもあって。テクノロジーの進化によって消費が速くなってる気がします。
アートとは、自分の人生を売るようなもの
QUI:デジタルとアナログという話をしたんですが、にいみさんの作品ではパッケージなどのモチーフをシルクスクリーンで精密に表現されている一方で、スプレーなどのアナログ的な手法も併用されていますね。
にいみ:そうですね、シルクスクリーンと、ペインティングやスプレーでの手作業を組み合わせて制作しています。
QUI:そういった手作業のアナログ的な部分も、にいみさんの作品の中で重要な要素なのでしょうか?
にいみ:やっぱりデジタルで表現できないものは大事だと思います。僕は、絵って別に綺麗じゃなくても、下手でもいいと思っていて。そもそも、あんまり綺麗なものだったらデザインでいいなって思っちゃうタイプなので。
だから、例えばここにある立体作品の上にスマホを置いたりしても良いと思っているんです。それで傷がつくことによって味が出ると僕は思っているんですよ。
QUI:えぇ!?
にいみ:だからあえて綺麗にしないんです。シルクスクリーンの技法って、どっちかっていうと綺麗につくるのが目的だったりするんですけれど、僕はシルクスクリーンを刷った後に表面を削ったりして、あえて汚くしたりしているというか。
QUI:その考え方は少し意外でした!個人的なイメージでは逆の感覚というか…「デザイン」って工業製品とか身近なものだから触ったりしても良いイメージで、一方で、アート作品は絶対触っちゃダメだったり、傷がついたらダメっていうイメージがあったので。
にいみ:それは多分、アートを神格化しているっていう問題ですね。なので、アートギャラリーに入りづらいとか、なんかアートって少し取っつきにくいとか言われると思うんです。もっとラフでいいんじゃないかなって僕は個人的には思っています。多分、作品に触られたりとか、雑に使われるのは嫌いな人の方が多いと思うんですけど、僕はもっと気軽に接していいと思います。
QUI:アートって、もっと身近で、気軽に感じても良いものなんですね。アートとデザインの両方を実践されてきたにいみさんにとっては、アートとデザインの違いってどんなところにあるのでしょうか?
にいみ:デザインとアートの違いでいうと、デザインは「機能」するものだと思っていて。まず誰かの要望があって、それに対して機能するものを作るようなイメージなんです。それに対して、アートは“自分の人生”を売るみたいな感じです。
だから僕は、アートの価値というのは、その人の人生を買うみたいなところじゃないかと思っていて。作品の表現というより“活動自体”に価値を感じるっていうイメージです。
QUI:なるほど、それはすごく分かります。アート作品を見るとき、もちろん見た目の表現にひかれたりもすしますが、やっぱり作家さんの思いや活動に共感したときに、その作品のことを好きになるように思います。
これまでの経歴がすべてつながった新作
QUI:そういった意味で、にいみさんのテーマとされている「クリエイティブの消費」の部分など、今、共感される方も多いんじゃないかと思います。制作中の新作の完成も楽しみですが、現在は立体作品を中心に制作されているんでしょうか?
にいみ:立体も平面も両方制作しています。次の個展では150号の平面作品も発表する予定です。
ただ、僕は建築を学んでいたこともあって、もともと立体は好きだったんです。そんなバックグラウンドも活かした方が僕自身をもっと反映できるんじゃないかと思って、今は立体作品を多く制作しています。ゆくゆくはもっと巨大な、建築のような作品も作りたいですね。
QUI:なるほど、最初は立体の作品は「彫刻」だと思い込んでいましたけれど、建築にもつながっていますね。そうすると新作は、建築をやって、デザインをやって、アートをやって…といった、にいみさんの経歴がすべて融合したような作品ですね。
にいみ:そうですね。このキューブが増えていったら、もっと建築のようになるんじゃないかなと思います。
QUI:ぜひ完成した作品も拝見したいのですが、今後の展示の予定を教えていただけますか?
にいみ:今年の10月に、GINZA SIXの6階にある「FOAM CONTEMPORARY」というギャラリーで個展を開催します。あと、池袋のPARCOでも展示を予定しています。今年は他にも、9月にはKIAFっていう韓国のソウルで開催されるアートフェアに参加したり、12月にもソウルのグループ展に参加したりと、海外での展示も予定しています。それから、大阪でのグループ展やバンコクでの個展、いくつかのアートフェアにも参加予定です。
QUI:この先、盛り沢山ですね!完成した新作を拝見するのが楽しみです。
にいみさん、ありがとうございました。
にいみひろき
多摩美術大学グラフィック学科を卒業後、アートディレクターとして広告や、音楽、ファッションのアートディレクションを行いつつ作家活動を開始。 今日の大量消費社会の中でも「クリエイティビティの消費」をテーマにした作品を制作している。
Instagram:@niimiii_hiroki
「Don’t consume Creativity」
会場:FOAM CONTEMPORARY
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座6丁目10−1 GINZA SIX 6F
日時:2024年10月8日(火)〜10月30日(水)
Instagram:@foamcontemporary
- Text : ぷらいまり。
- Photograph : Kei Matsuura(STUDIO UNI)
- Edit : Seiko Inomata(QUI)