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抽象画の母が描く壮大な作品の数々 – 東京国立近代美術館「ヒルマ・アフ・クリント展」

Mar 27, 2025
2025年3月4日(火)から6月15日(日)まで、東京国立近代美術館にて「ヒルマ・アフ・クリント展」が開催中だ。本展では、ヒルマ・アフ・クリントの代表的な作品群である「神殿のための絵画」を中心に、その芸術的探求と独自の表現世界を紹介する。

抽象画の母が描く壮大な作品の数々 – 東京国立近代美術館「ヒルマ・アフ・クリント展」

Mar 27, 2025 - ART/DESIGN
2025年3月4日(火)から6月15日(日)まで、東京国立近代美術館にて「ヒルマ・アフ・クリント展」が開催中だ。本展では、ヒルマ・アフ・クリントの代表的な作品群である「神殿のための絵画」を中心に、その芸術的探求と独自の表現世界を紹介する。

抽象絵画の先駆者としてのヒルマ・アフ・クリント

ヒルマ・アフ・クリント、ハムガータン(ストックホルム)のスタジオにて、1902年頃 ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation

ヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)は、スウェーデン出身の画家であり、19世紀末から20世紀初頭にかけて独自の芸術を確立した。当時の美術界では、具象的な絵画表現が主流であったが、彼女は科学や神秘主義に影響を受けながら、抽象的な形態や象徴的な色彩を用いた作品を制作した。

特に、本展の中心となる「神殿のための絵画」は、彼女が霊的な啓示を受けて制作したシリーズであり、精神的な進化や宇宙の構造を表現した、彼女の代表的作品群だ。これらの作品を含め、彼女の作品は長らく一般にはほとんど公開されず、彼女自身も死後20年は作品を公開しないように希望していたと言い伝えられていた。今日、ようやくその価値が再評価され世界中で注目を集めている。

撮影:三吉史高

ヒルマ・アフ・クリントの歩みをたどる作品群

本展では、ヒルマ・アフ・クリントの創作の軌跡を5つの章に分けて紹介している。それぞれの章では、彼女の画業の転換点を示す重要な作品群が展示されており、アフ・クリントの芸術的変遷をたどることができる。

1章では、アフ・クリントがスウェーデン王立芸術アカデミーで学んだ時期(1882年~1887年)から、職業画家として活動していた時期の作品を展示。
この時期の彼女は、肖像画や風景画を中心に制作しており、正統的な美術教育を受けたことがうかがえる作品が多い。人体デッサンにおける正確な形態把握や、科学的な観察眼を活かした植物図鑑のような緻密な描写などが見られる。

撮影:三吉史高

2章では、1890年代から1900年代初頭にかけての作品を展示。この時期のアフ・クリントは、スピリチュアリズムや神智学に傾倒し、交霊会を通じて精神世界と接触しながら、新たな表現の可能性を模索していた。1896年に結成した「5人(De Fem)」のグループで、自動書記や自動描画による作品を制作し、次第に従来の写実的な表現から離れていく様子がうかがえる。
この章に展示される作品は、彼女の抽象表現への移行を示す貴重なものばかりである。波線や螺旋、植物を思わせるパターンなど、後の「神殿のための絵画」にもつながる要素がすでに現れている。精神的な啓示に導かれながら、新たな視覚言語を生み出そうとするアフ・クリントの試みを感じ取ることができるだろう。

3章では、本展のハイライトとも言える「神殿のための絵画」(1906年~1915年)のいくつかのシリーズやグループが展示される。「神殿のための絵画」は、アフ・クリントが高次の霊的存在からの啓示を受け、約10年をかけて制作した作品群である。
本章では〈10の最大物〉〈原初の混沌〉〈白鳥〉などの代表的な作品を中心に展示。幾何学的な図形、円や螺旋といった象徴的なモチーフ、パステルカラーを多用した壮大な構成が特徴で、従来の西洋絵画の枠組みを超えた独自の視覚表現が展開されている。

この頃の作品を見ることで、彼女がどのような技術を習得し、どのような表現の基礎を築いていったのかを知ることができる。

〈10の最大物〉~人生の過程を象徴する抽象画~

本展の最大の見どころとなる〈10の最大物〉(1907年)は、ヒルマ・アフ・クリントが霊的な啓示を受け、描き上げた10点の大作だ。人間の成長の各段階(幼年期、青年期、成人期、老年期)を象徴し、スピリチュアルな視点から人生の循環を表現している。

撮影:三吉史高

このシリーズの圧倒的な魅力は、その巨大なスケールにある。高さ3メートルを超える画面に広がる壮麗なパステルカラーの色彩と、幾何学的な形象が、観る者の視界いっぱいに広がる。渦巻き、螺旋、円、波形などの形が画面上で躍動し、まるで生命のエネルギーそのものが画面の中で鼓動しているかのような感覚を覚える。

パステル調の柔らかな色合いが、温かみと神秘的な静けさを醸し出しつつも、そこに描かれる形状は力強く、まるで異世界への扉を開くような感覚に引き込まれる。作品の前に立った瞬間、その壮大なスケールと、画面全体を支配する神秘的な力に圧倒されることは間違いない。

スピリチュアルな感性が織りなす抽象表現

撮影:三吉史高

ヒルマ・アフ・クリントの作品には、独自の象徴体系が見られる。たとえば、円は霊的な世界、螺旋は進化、抽象的な形状が独自のメッセージを秘めている。彼女はスウェーデンの神智学協会に所属し、交霊会を通じて得た啓示をもとに制作を行っていた。トランス状態で得た霊的メッセージを作品に反映させたと言われている。

今回の展示では、単に彼女の作品を鑑賞するだけでなく、その奥に秘められた象徴や、彼女が目指した「精神的な進化」のテーマを体感できる場となっており、ヒルマ・アフ・クリントの代表作を間近で鑑賞できる貴重な機会となる。特に、〈10の最大物〉は、写真や画集では決して味わえない圧倒的なスケール感と没入感を体験できる作品群だ。

「ヒルマ・アフ・クリント展」
日時:2025年3月4日(火)~6月15日(日)
時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし3月31日、5月5日は開館)、5月7日
場所:東京国立近代美術館
住所:〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3−1
公式サイト

▼「目に見えない霊的な啓示で抽象絵画を切り開いた画家」ヒルマ・アフ・クリント|今月の画家紹介 vol.17

ART/DESIGN
「目に見えない霊的な啓示で抽象絵画を切り開いた画家」ヒルマ・アフ・クリント|今月の画家紹介 vol.17
Mar 11, 2025
  • Text : ジュウ・ショ
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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