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ART/DESIGN

奇跡とも評されるアート×ファッションの新境地|<ALMOSTBLACK>デザイナー 中嶋峻太

Jul 20, 2023
ブランドとしては初となるショーを草月会館イサムノグチ石庭“天国”で開催した<ALMOSTBLACK(オールモストブラック)>。
巨匠と呼ばれる日本人アーティストとのコラボレーションで毎回話題をさらっているが、2023年秋冬、2024年春夏のシーズンはいけばな草月流創始者の勅使河原蒼風との取り組みだった。圧倒的なパワーが宿る芸術作品を自身のクリエーションに落とし込むには相当な労力を必要とするはずで、そもそもコラボレーションのための交渉はタフであることは想像に難くない。
アート×ファッションという手法において他が追随できない道を切り拓いているデザイナー、それが中嶋峻太さんだ。

奇跡とも評されるアート×ファッションの新境地|<ALMOSTBLACK>デザイナー 中嶋峻太

Jul 20, 2023 - ART/DESIGN
ブランドとしては初となるショーを草月会館イサムノグチ石庭“天国”で開催した<ALMOSTBLACK(オールモストブラック)>。
巨匠と呼ばれる日本人アーティストとのコラボレーションで毎回話題をさらっているが、2023年秋冬、2024年春夏のシーズンはいけばな草月流創始者の勅使河原蒼風との取り組みだった。圧倒的なパワーが宿る芸術作品を自身のクリエーションに落とし込むには相当な労力を必要とするはずで、そもそもコラボレーションのための交渉はタフであることは想像に難くない。
アート×ファッションという手法において他が追随できない道を切り拓いているデザイナー、それが中嶋峻太さんだ。
Profile
中嶋峻太
<ALMOSTBLACK>デザイナー
1982年生まれ、愛知県出身。エスモードパリを卒業後、2005年から2007年まで<RAF SIMONS(ラフ・シモンズ)>でデザインアシスタントを務める。帰国後、ミスターハリウッドに就職。現<Product Twelve(プロダクト トゥエルブ)>のデザイナー川瀬正輝とともに<ALMOSTBLACK(オールモストブラック)>を立ち上げ、2015年秋冬よりコレクションデビュー。2020年春夏、 草月会館 イサムノグチ氏作 石庭 “天国”とのコラボレーションアイテムを発表し、2021年秋冬 – 2022年春夏には白髪一雄氏・富士子氏、2022年秋冬 – 2023年春夏には細江英公氏とのコラボレーションを発表。2023年秋冬 – 2024年春夏には、勅使河原蒼風とコラボレーションし、2023年5月に初のランウェイショーを草月会館  石庭 “天国”にて開催した。

日本のファッションブランドとしてオリジナリティを求めて

<ALMOSTBLACK(オールモストブラック)>のデザイナーの中嶋峻太さんが秋冬から春夏にかけて一組の、一人のアーティストとのコラボレーションをスタートさせたのが2021年。

芸術家である白髪一雄、富士子夫妻に始まり、2022年は写真家の細江英公、初のショーも開催した2023年はいけばな草月流創始者の勅使河原蒼風と取り組んだ。世界的に評価される芸術作品を商用に使用することは当然ながら高いハードルを超えなければならないが、日本人デザイナーとしての矜持を示すためにも中嶋さんにとっては必要なことだった。

「元々はアートが好きだというのもありましたし、日本のファッションブランドとしてオリジナリティを追求したいという考えもありました。そこで古今を問わず日本のさまざまなアーティストについて調べるようになったんです」。

アートは好きだが日本の芸術に造詣が深かったわけではない。だからこそ日本にはこんなにも素晴らしいアーティストがいるのかと、ひとつひとつの出逢いが驚きでもあり、新鮮だったという。

ファッションデザイナーがアートをクリエーションのリソースにすることは決して珍しいことではなく、「オマージュ」や「インスピレーション」という表現はよく耳にする。それよりもさらに踏み込んだ中嶋さんの「コラボレーション」という手法について問うと「単純に自分がそのアーティストの世界観を忠実に感じられる洋服が欲しいと思ったからです」と動機はとてもシンプルだった。ミュージアムなどを訪れると必ず関連グッズなどを購入していたそうだが、あくまでもそれはグッズの領域でしかないと感じていたという。

「自分がやりたい服作りとアーティストが作品に込めた考えがどの部分でマッチするか、クオリティにおいてもそれを高い次元で追求したかったんです」。

そのためにオマージュやインスピレーションではなく、著作権などシビアな条件もすべてクリアしたうえでの「コラボレーション」にこだわっている。2015年に<ALMOSTBLACK>を立ち上げた時から考えとして持っていた「洋服とアートの密接な関係性」。

現在のように春夏コレクション、秋冬コレクションと継続するようになった理由については「カプセルコレクションや1シーズンだけのコレクションではアーティストの方の人生を表現しきれないです」。

初期の作品は春夏コレクション、晩年の作品は秋冬コレクションといったように時系列にもこだわっている。前期と後期では作風にも変化が見られることもあり、アーティストの人生そのもののような作品をファッションへと落とし込んでいることから、コラボレーションするアーティストによって仕上がりの雰囲気は大きく異なる。

そのためにバイヤーによっては「今回のコレクションはうちのショップでの取り扱いはやめておきます」というようなこともあるという。それはアーティストの世界観を確実にすくい取り、<ALMOSTBLACK>という洋服と一体となっている証でもある。コラボレーションするアーティストや、作品が異なるわけだから、同じブランドであってもシーズンによって洋服の表情が一変するのは当然ともいえる。

アート業界も「奇跡」と驚いた白髪一雄、富士子夫妻との協業

「芸術に携わる人間で白髪さんを知らない人はいない」と中嶋さんも話すが、それほどの名のあるアーティストの関係者にどのように打診しているのか、そこも興味のひとつでもある。

「白髪さんの時は尼崎にある財団に自ら足を運びましたし、版権を管理されている息子さんには思いを綴った手紙を出しました」。

その熱意が伝わったことで関係者の方に会うことができ「僕自身が白髪さんの作品の洋服をどうしても着たい」と、2時間近くも思いを伝え続けたと当時のことを振り返ってくれた。中嶋さん自身が「奇跡だと思っている」という白髪一雄、富士子夫妻とのコラボレーションはアート業界からの信頼も大きく高めることになり、その後の細江英公、勅使河原蒼風との取り組みも門前払いになることもなかった。

もちろん著作権や契約といったデリケートな問題でもあるので熱意だけで押し切れるものではなく、現在はアーティスト側との取り決めには弁護士にも入ってもらっている。アートとファッションのコラボレーション実績を積んできたことで、近年は海外アーティストからもオファーがあるという。それでも日本にはまだまだ素晴らしいアーティストがいるのでしばらくは日本人とだけ続けていきたいというのが中嶋さんの考えだ。

白髪一雄、富士子夫妻にしても、細江英公も勅使河原蒼風も海外の方が知名度も評価は高いのだが、中嶋さんにはむしろ日本人にこそ目を向けてほしいという思いがあるだけに、<ALMOSTBLACK>とのコラボレーションが作品の素晴らしさを知るきっかけになってくれたらうれしいと話す。そもそもとして「どれだけ好条件であっても自分が好きだと思えるアーティストでなければ一緒にやることはないです」とも。

「コラボレーション」に代わる表現を模索し続けている

中嶋さんの日本人アーティストへのリスペクト。それは海外で生活していたからこそ芽生えたものだった。「2年間ほどベルギーのアントワープにある<RAF SIMONS(ラフ・シモンズ)>で働いた経験があるんですけど、アトリエのスタッフたちは全員が自分の国、自国の文化が大好きなんです」。それに対して「自分は日本の何が好きか明確に答えられなかった。だから、帰国して服を作るならまずは自分が日本の文化について知ろうと思いました」。

文献を読んだり、ミュージアムに足を運んだりすることで自然と辿り着いたのが、「日本のアートとのコラボレーションをテーマにした服作り」だった。「自分だけのオリジナリティに繋がると思いましたし、実際に友人のファッションデザイナーなどからは『同じことをやりたくてもできない』ってよく言われます(笑)」。

自分が作りたい洋服の軸をブラすことなく、巨匠たちの作品の世界観を損なうこともない。高い次元で両立させることの大変さは、同業だからこそわかるのだろう。これからの展望について聞くと、コラボレーションをしてみたいと思っているアーティスト候補が何人もいるという。来シーズンは、その次のシーズンは、そのまた次のシーズンはと順番も決まっており、そこには中嶋さんなりの明確な文脈、ストーリーがあるという。

ファッション業界において「コラボレーション」というと、インラインとは別のスピンオフだったり、店舗限定の別注モデルのような印象があるが、中嶋さんの取り組みはそれとは一線を画すようにも感じられる。そう伝えると「自分でもコラボレーションよりも、もっとフィットする表現があるような気はしている」と本人もその答えを探し続けているそうだ。

コラボレーションをわかりやすく訳せば「合作」だが、<ALMOSTBLACK>とアーティストはもっと深いところで混ざり合っている。それは「融合」のような気もするし、「共存」のようにも捉えることができる。または「邂逅」か「シンクロニシティ」か。

10年先まで構想を描いているというコラボレーションについても期待は増すが、自身の信じる創作活動を、今後中嶋さんがどのような言葉で表現していくのか、それもまた楽しみで仕方がない。

  • Photograph : Masamichi Hirose
  • Text : Akinori Mukaino
  • Edit : Miwa Sato (QUI)

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