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ART/DESIGN

アーティスト 江頭誠 – 人との関わりのなかで変化し続ける

Feb 25, 2025
江頭誠は、日本で独自に生産されてきた花柄の毛布を素材に用いて、大型の立体作品やインスタレーション作品を制作するアーティストだ。江頭のアトリエを訪れると、そこには、彼の作品や素材として用いる大量の花柄の毛布とともに、陶器製の犬や鳥の置物、マネキンなど一見作品とは無関係にも見えるさまざまなオブジェが置かれていた。
江頭はなぜ、今の時代に、懐かしさを感じる花柄の毛布をつかった作品を創りつづけるのか。また、10年以上にわたり、同じ素材での作品をつくりつづけてきたなかでの変化についてうかがった。

アーティスト 江頭誠 – 人との関わりのなかで変化し続ける

Feb 25, 2025 - ART/DESIGN
江頭誠は、日本で独自に生産されてきた花柄の毛布を素材に用いて、大型の立体作品やインスタレーション作品を制作するアーティストだ。江頭のアトリエを訪れると、そこには、彼の作品や素材として用いる大量の花柄の毛布とともに、陶器製の犬や鳥の置物、マネキンなど一見作品とは無関係にも見えるさまざまなオブジェが置かれていた。
江頭はなぜ、今の時代に、懐かしさを感じる花柄の毛布をつかった作品を創りつづけるのか。また、10年以上にわたり、同じ素材での作品をつくりつづけてきたなかでの変化についてうかがった。

きっかけは「毛布ダサい」、違和感からはじまった表現

QUI:江頭さんの作品と言えば、2014年度の岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)での霊柩車《神宮寺宮型八棟造》や、YUKIさんの「My lovely ghost」のMVに登場した花柄の毛布でつくられた空間などが印象的です。
2025年2月19日から天王洲のWHAT CAFEで開催される「WHAT CAFE EXHIBITION vol.40: NIPPON ART NOW」にも新作を展示されるそうですが、どのような作品を展示されるのでしょうか?

江頭:今回の展覧会は、浮世絵など日本文化のモチーフというテーマだったので「海外の人から見た日本」のようなものを意識しました。過去作と新作を交え、五月人形や盆栽などをモチーフにした作品を展示します。

《盆栽》

QUI:五月人形は男性的なイメージもあり、毛布との組み合わせは意外性がありますね。

江頭:五月人形はまさに男の子の日を祝うものなので、男性っぽいものを可愛いピンクの毛布で包むことでどういったギャップが生まれるかと考えました。あと自分は子どもの頃から、プラモデルよりもぬいぐるみが好きだったので、カチッとしたオブジェをふわっとした素材と組み合わせたらどう変化するかな、という所にも興味がありました。

《五月人形》

QUI:「西洋風の柄の毛布」と「日本的なモチーフ」の組み合わせという点でもギャップが生まれていますね。

江頭:実は「花柄毛布」というのは日本独自で発展したのものらしいです(諸説あります)。ロココ調で「日本から見たヨーロッパ」みたいな柄ですよね。でも、ロココ調なのになぜかアジアっぽい雰囲気も感じられます。そういった点で、毛布って面白いなと思っています。

QUI:「花柄毛布」という素材を選んだきっかけは何だったのでしょうか?

江頭:毛布を使い始めたのは、大学の卒業制作の2011年の時で、大阪城のオブジェを作ったのがスタートです。

花柄の毛布を素材に選んだきっかけは、大学に入って三重から上京した時、家に遊びに来た東京の友達に「毛布ダサい」って言われたことですね。あまり気に留めずに使っていたものに対して、これはダサいって感じるんだっていう発見と、母親からもらった毛布をいじられたモヤモヤ感みたいな気持ちがずっと自分の中に残っていて。その素材のアイデアを温め続けて、卒業制作で作品にしました。

「反省、反省、反省…」人との関わりのなかで変化していった作品

QUI:大阪城や霊柩車のモチーフからはじまり、徐々に空間をつかった没入型の作品も制作されるようになりましたね。

江頭:TARO賞で特別賞をいただいた後、表参道にあるスパイラルで開催されるSICF(スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)というコンペに応募しました。そこでは、小さなブースを毛布で包んで、中に発泡スチロール製の洋式トイレのオブジェを置いた《お花畑》という作品をつくったんです。

《お花畑》

その展示中、見に来た男の子が作品に座ったら壊れちゃったんです。そのとき、本物みたいに丈夫に作っていればよかったな…って後悔しました。それまでは「作品は観るもの」という先入観がありしたが、男の子が思わず入りたくなったように「人が入って楽しめる空間」ができたらいいなと思ったんですね。そこから本物の家具を使った空間的な作品をつくるようになりました。

展示をやって、反省して、それを次の作品に活かしていく感じです。反省反省反省…と繰り返して、ずっと作り続けていますね。

QUI:展示のたび、見る人の反応からアップデートされているんですね。
こちらには割烹着やオーバーオールなど、着られる作品もありますが、こちらはどういったきっかけでつくられたのですか?

江頭:これは、静岡県島田市にある抜里(ぬくり)での「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」っていう芸術祭のために制作したものです。2回参加させてもらって、1回目はお茶畑の中にある小屋で展示をしたんですね。僕は本当はすごく人見知りなんですけれど、町の人が「今日は何するの?」と手伝ってくれたり、一緒にご飯を食べたりお酒飲んだりするようになったのが本当に嬉しくて。2回目はその方々にも参加してもらいたいと思って、着用できる作品を初めて作りました。

手を動かして 作品という形にしてから見えてくる意味

QUI:先ほどの作品に入ってしまった少年の話もそうですが、江頭さんの作品にとって、周囲の人の影響は大きいんですね。

江頭:そうなんですよ。結局、人と関わって変化していくんだなって思います。
本当はもっと人と関わりたいけれど、人見知りなのでみんなとご飯行きたいのに行けなかったりとか、輪に入りたいけどなかなか入れないっていうもどかしさもありますが… でも、そんなジレンマがあるから、僕は作品を作ってるのかなと思うんですよね。

QUI:言葉にできない感覚や、うまくコミュニケーションできないジレンマを作品を通じて昇華していくっていう部分もあるんでしょうか?

江頭:そうですね。最近気づきましたが、僕は作品を作った後にその意味を考えているんです。作品という形になって、やっとそれを作った意味が見えてくる感じです。

卒業制作ではじめて毛布をつかったときの話もそうですが、これが大好きだから作りたい!というよりも、一度感じたモヤモヤとか違和感みたいなものを深掘りして、それをいったん作品の形にして。その後にその作品を自分で客観的に見たり、作品について友達と話すと、自分はこういうことを思っていたんだなと整理できる感覚があります。

作品を作ることを通じて、自分ってどういう人物なのかとか、過去にひっかかっていた出来事の意味が後から見えてきたりします。作品をつくるのは、作品を通じて友達と話すことで自分を探る行為でもありますし、コミュニケーションの手段でもあるのかなと思います。

10年以上同じ素材に向き合い続けることで起こった変化

QUI:毛布という素材と10年以上向き合い続けたことで、見方や考え方に変化はありましたか?

江頭:最初は毛布という素材そのものに向き合って、手法として毛布の扱い方を突き詰めていったように思います。コンセプト的な部分でも、初めは日本独自の花柄毛布の歴史的な部分などに注目していました。

でも、最近はコンセプトとして「自分の話」ができるようになってきたと思います。それまではどこかの誰かの代弁みたいな、中枢に自分自身がいない言葉でしたが、最近は自信を持って「自分はこう思ったからこうした」と言えるようになってきました。それは、やっぱり毛布の作品をずっと続けていたからだと思います。

QUI:「自分の話ができるようになった」というのは、作品の中に自分の思いや考え方が出てくるようになった感じでしょうか?

江頭:自由奔放に、自分がこうやりたいっていうものや、自分はこう思うっていうものが出てくるようになりましたね。以前はもっと格好つけていて、それによってカバーしている部分がいっぱいありました。そこを払って、自分の嫌だった記憶や、嫌悪感を抱いているものをもっと抽出して、それを作品の中にもうちょっと出してもいいんじゃないかなって思うようになりました。

遠回りすることで見えてくる 無駄のなかにある新しい発見

QUI:ご自身よりも若い世代の鑑賞者も増えてきたと思いますが、作品に対して反応の違いはありますか?

江頭:10〜20代の方からは「かわいい」とか「花柄毛布、むしろ使いたい」みたいな反応もあります。大学の時にダサいって言われてものが、イケてる感じになっているのは面白くも感じますね。

QUI:今は、こういった花柄の毛布って減ってきているんですかね?

江頭:今は無地のものを使っている方が多いですよね。装飾的なものがどんどん排除されつつもあるんです。例えば、ここにある置物とかも役には立たないじゃないですか。でも、僕はそういう無駄とされているものだったり、排除されてくようなものを拾っていきたいなってずっと思っています。

QUI:無駄なものというと、最近はコスパ・タイパとか重視されたりもしますよね。

江頭:そうですね。例えば仕事帰りに歩いていると、普通はいかに早く帰るかを考えますよね。でも逆に“いかに遠回りして帰るか”を試したことがあるんです。足を止めて写真を撮ったりしたら、面白い発見がありました。
あと、僕はリサイクルショップが大好きなんですが、そこで見つけた古いものや汚れているものも、手で触ってみたり家に飾ってみたりすると意外と愛せたりするんです。
そういった排除されているものや、みんなが見ていないことのなかに「新しい発見」や「今まで気づいていなかった愛せるもの」があったりすると思うので、そこを探っていくと楽しいと思います。

QUI:今後、新たに挑戦したいことはありますか?

江頭:これまで「かわいい」と言われる作品を多く作ってきましたが「かっこいいもの」にも挑戦したいと考えています。
かわいいものは幅広い人に共感されやすいですが、かっこいいものって意外と難しいんですよね。自分の中の“かっこよさ”って、よく考えると少しダサかったり、クセが強かったりするものなんです。
自分が本当に「かっこいい」と思うものを追求すると、もしかしたら他人からは共感されないかもしれない。でも、だからこそ、そんなところにある新しい表現に挑戦してみたいですね。

QUI:今後の展開も、2月19日からの「WHAT CAFE EXHIBITION vol.40: NIPPON ART NOW」での最新作も楽しみです。江頭さん、ありがとうございました。


江頭誠
1986年三重県生まれ。戦後の日本で独自に普及してきた花柄の毛布を主な作品素材として、立体作品やインスタレーションを手掛ける。2015年に発泡スチロール製の霊柩車を毛布で装飾した「神宮寺宮型八棟造」で「第18回岡本太郎現代芸術賞」特別賞を受賞。その翌年、毛布で洋式トイレをつくった「お花畑」で「SICF17」のグランプリを受賞する。 主な展覧会に「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2019」、「六本木アートナイト2023」など。展示以外にアーティストYUKIの「My lovely ghost」のMVやGUCCIのショートフィルム「Kaguya by Gucci」にアートワークで参加。
Instagram:@makotoegashira_artwork

WHAT CAFE EXHIBITION vol.40:NIPPON ART NOW
展示期間:2025年2月19日(水)~3月4日(火)
参加アーティスト(敬称略・順不同):阿南さざれ、新埜康平、井上時田大輔、イワミズアサコ、江頭誠、大河紀、大西高志、金森朱音、清川漠、鈴木ひょっとこ、TARTAROS、中西瑛理香、宮間夕子、山羊蔵、山羽春季、若佐慎一
公式サイト

会場:WHAT CAFE
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川2-1-11
営業時間:11:00~18:00(最終日は17:00閉館)
入場料:無料
※感染症拡大防止の観点により開催中止・一部内容や時間が変更になる場合があります
※会期中、展示の入れ替えや貸出イベントなどで休館することがあります。詳しい営業日は公式サイトをご覧ください

  • Text : ぷらいまり。
  • Photograph : Kei Matsuura(STUDIO UNI)
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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