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安藤政信 – 映画を作りつづける

Sep 13, 2021 - FILM
俳優、そして写真家として精力的に活動するアーティスト・安藤政信に、映画監督という新しい表現の軸が加わった。「動画は撮らない」と決めていたという安藤が、短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season1』で初監督作『さくら、』を手掛けた理由とこれからのクリエイション、そして日本映画に抱く想いとは。

嘘がないことが美しいと思う

— 映画『さくら、』には絵の力と想像の余白があり、アートの文脈を強く感じました。映画が持つさまざまな要素の中でもアーティスティックな側面にフォーカスしようという意識はありましたか?

やっぱり昔から映画や写真、音楽、絵画、芸術……仕事もしないで旅をして、そういった抽象的なものにたくさん触れてきてますから。20代から35ぐらいまでは本当に仕事をしなかった。1本映画に出てギャラが入るとそれがなくなるまで遊んで、なくなったら事務所に連絡して「仕事します」って。でもそれは飲み歩いてたわけじゃなくて、ふと円山応挙の襖絵が観たいなと思ったら金刀比羅宮に行ったり、(曾我)蕭白の絵画展を大阪まで観に行ったり。そういうことが血肉になって、自然と表現に出ているんだと思います。

— あるインタビューで「クリエイティブなことにしか興味がない」と話されていましたが、若いころから現在までクリエイティブであることに執着する理由はなんでしょうか?

自分は役者しかやってきてなくて、映画監督やフォトグラファーなど、“つくる”ということに携わっている人たちとしか関わりがないから、それ以外には興味が無くて。「役者で儲けたからバーでもやるか!」って感覚にはなかなかならないですよね(笑)。俺の親は自営で料理人だったから、その感覚的なところはあるかもしれないけれど、接客をやる自信はないです。

— 接客業は向いていない?

はい。高校のころにスーパーでバイトしたことがありましたが、青果コーナーに配属されたら嫌われて、酒屋でも嫌われて、レジもできないということで、最後に鮮魚のおじさんが引き取ってくれて(笑)。そうやって嫌われてたらい回しにされてたときに、「安藤さんがいいんです」ってはじめて必要とされたのが役者だったんだよね。

— それが『キッズ・リターン』。

たけしさんが認めてくれて、それがいまに続いています。

— 現在はフォトグラファーとしても活動されていますが、そのことは映画監督としての絵作りにも影響しているように感じますか?

たとえばいままで観てきた美しい絵や庭の景色、その奥ゆかしさ、カメラマンとして好きなディレクションや光のチョイス。そういうことは映画にも絶対活きてると思います。

— 安藤さんの“眼”に興味があるのですが、何を美しいと感じますか?

ちょっとしたことに俺はいつも感動していて、芝居しているときの相手の表情がいいなとか、その相手の顔に夕日が射してきて美しいなとか。あとはその人の生き方、不感症じゃなくて何か感じ続けていること、ちゃんと生きていることに対して美しいと思う。俺はちょっとした嘘でも徹底的に排除したいから。正直に言ってくれたら全部美しいと受け入れます。

— 濁りのないものに惹かれる。

そうですね。そういうことなんでしょうね。

 

映画監督ほど幸せな仕事はないんじゃないか

— 映画『さくら、』の着想源についてお聞かせください。

もともと動画は撮らないと言ってました。それは自分の目で見て美しいと思ったものをその場で閉じ込めて、何年経ってもフレッシュなまま見られる写真というものが好きで好きでしょうがなかったから。

でも、(山田)孝之が「監督をしてみないか」って声をかけてくれたときは断りたくなかったんです。孝之が初めてプロデュースする映画(『デイアンドナイト』)で役者として俺が必要だってオファーが来たときもそうだったけど、孝之から言われたことだったら絶対に応えてあげたくて。同じ役者として挑戦する人を失敗させたくない、絶対成功させたいんですよね。そしてやるからには最後まで付き合ってあげたいし、1回きりのイベントじゃなくて(監督として)次を撮るってことも考えようと思って。

— 覚悟を持って受けたんですね。

俺が映画を撮るって匂わせた瞬間、矢崎仁司監督とかいろんな人から「楽しみです」ってメールが来て。みんなが見てるからこそ失敗したくないし、失敗したとしても続けたい。

— 『さくら、』の内容は、映画を撮ることが決まってから考えたのでしょうか?

最初はいろんなシチュエーションで写真を撮って、それをオーバーラップさせて映画にしようと思ってたんだけど、せっかくだから動くものを撮ってみようと。それからプロデューサーの髙井美沙さんから脚本家の木舩理紗子さんを紹介してもらって、彼女と自分の想いをセッションして文脈を変化させながらかたちにしていきました。

— 2人の考えをしっかりすり合わせて。

木舩さんとはけっこう話したし、他のスタッフともキチッと話し合いました。豊富な予算があるわけじゃないし時間も限られている中でどうするべきか、みんなもプロだからすごく考えてくれて。

— 映画を撮るのってチーム戦ですよね。写真は比較的個人にゆだねられる部分が大きいですが。

そうそう。チームでやるって本当に大変だなって思った。自分が長としてひとつにまとめあげるって難しいことだし、個々のバランスを見ながら気も使うし、気を休めるときがないです。だけど、そのぶん監督は、みんなそれぞれが持ってる“スキルの愛”を一番たくさんもらえるから。やっぱこんだけ幸せな仕事はないんじゃないかと本気で思いました。

— 苦労に見合う何かがあるんですね。

絶対ありますね。また撮りたいってなったし、役者もスタッフも愛おしくて、本当にみんなありがとうって思う。

 

俺の中で最高の孝之と葵を撮りたかった

— 『さくら、』には、山田孝之さんと森川葵さんの2人が出演されました。

2人とも最高な役者だということは誰もが認知してるんだけど、俺が前から孝之に言ってるのが、孝之を一番素敵に撮れるのは俺とあとは雑誌『+act.(プラスアクト)』で撮っているフォトグラファーのSAIさんだってこと。そして俺は葵のことも絶対きれいに撮れる自信があって。2人のことを本当に愛しているし、尊敬しているから、今回は俺の中の最高を作りたかった。

— ではもう1人の出演者、安藤政信さんはいかがでしたか?

いい俳優でしたよ(笑)。

— 自分で自分に演出をつける難しさはなかったですか?

ラブシーンが難しかった。最初はどこまでも入り込んでいけるんだけど、2分半ぐらいやってるとだんだん素になってきて「どこでカットかけよう」って考えているときが一番恥ずかしい。だってあんな盛り上がってるのに、クルーの方を向いて「カットで」って。それは恥ずかしかったです。あとは難しさはないかな。

— 監督として他に一緒にやってみたい役者はいますか?

池松(壮亮)で映画を撮りたいなとは思ってるし、あとは染谷(将太)。孝之と池松と染谷は本当にすごい好きで、ずっと撮りたいって思ってたから。やりたい役者もやりたいこともいっぱいあります。

 

ビジネスも表現も含めて映画なんだ

— 『さくら、』を含めて短編映画9作品を一気に鑑賞することで、『ミラーライアーフィルムズ』に参加した皆さんが本当に映画を愛していることが伝わってきました。安藤さんも映画というものに特別な感情を抱いていると思うのですが、映画のどのようなところに惹かれますか?

映画が自分というものを作ってくれたから切っても切れない関係だし、25年間やってきて映画のいいところ悪いところも分かってる。それも含めて映画は自分にとって本当に大切なもので、本当に素晴らしいもの。

日本で公開することも大事だけど、海外の映画祭に持っていって全然知らない人から拍手をもらうっていう、役者とクルーと監督に対するごほうびもあったりするから、やっぱり映画は好きでやめられないです

— 『ミラーライアーフィルムズ』というプロジェクトは、現在の映画制作の在り方に対する問題提起の面もありますよね。

それはどれだけあがいたって変わらないと思います。映画はとんでもなく大きな組織同士が作っているから、9人の監督が集まったところで無理が生じますよね。しかも大きい会社というのはそれだけの雇用と生活をかかえていて、当然映画ってものはビジネスだったり不動産だったりもするから。それは変える必要もないと思う。だけど表現したいものが塗られちゃって何もないようになってしまうのも健全じゃない。ビジネスも表現も両方大事。すべての映画人は映画が大好きだし、本当にいろいろ含めて映画なんだよね。大切なのは、変えようってどれだけやりつづけるかってことじゃないかな。

— やりつづけることって本当に難しいけど、そこに尽きるのかもしれません。安藤さんはこれからの日本映画の可能性についてどう考えていますか?

日本映画は大手が予算を投じて莫大にリターンを得るみたいなシステム以外は、小規模な作品が限られた状況の中であぐねていると思うんです。映画が好きで、試行錯誤しながら海外の映画祭に呼ばれたりすると今までの苦労が全て解消されるような感動を受けて。そういうことをやりつづけるしかないよね。俺は監督としても自分のクルーと、ちゃんと映画を作りつづけたいと思っています。

 

 

Profile _ 安藤政信(あんどう・まさのぶ)
1975年生まれ、神奈川県出身。96年に映画『キッズ・リターン』で俳優デビューし、日本アカデミー賞新人賞など多数の映画賞を受賞。『バトル・ロワイヤル』(00)、『サトラレ』などに出演の後、09年『花の生涯 梅蘭芳』で海外進出を果たす。近年の主な出演作に、映画『るろうに剣心 最終章 The Begining』『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(共に21)、「デイアンドナイト」(19)。テレビ『ボイスⅡ 110緊急指令室」(21/日本テレビ)、『理想のオトコ』(21/テレビ東京)、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」(20)などがある。フォトグラファーとしても精力的に活躍の場を広げている。

cut and sew ¥17,600・pants ¥50,600・belt ¥22,000 / YOHJI YAMAMOTO (YOHJI YAMAMOTO PRESS ROOM 03-5463-1500)、shoes ¥35200 / ASICS RUNWALK (ASICS Japan Customer Service 0120-068-806)

 

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Have a strong will — starring Aoi Morikawa
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Information

安藤政信さん監督・出演
映画『MIRRORLIAR FILMS Season1

2021年9月17日(金)よりアップリンク吉祥寺、イオンシネマ他全国順次公開

境界線(ボーダー)を疑え。“変化”をテーマに、俳優、映画監督、漫画家、ミュージシャンなど総勢36名が監督した短編映画をオムニバス形式で4シーズンに分けて公開するプロジェクト第1弾。

監督:安藤政信、枝優花、武正晴、西遼太郎、花田陵、針生悠伺、藤原知之、三吉彩花、山下敦弘(五十音順)
出演:安藤政信、飯島望未、宇野祥平、奥村心結、春日潤也、河井青葉、木村多江、友近、永井理子、仁村紗和、本田響矢、水澤紳吾、森川葵、山口まゆ、山田孝之、山中蓮名、山本浩司、山本剛史、横田真悠、吉田美月喜、渡辺大知、渡辺哲(五十音順)

『MIRRORLIAR FILMS』公式サイト

©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

  • Photography : Yuki Yamaguchi
  • Styling : Taichi Kawatani
  • Hair&Make-up : Miyo Tanaka
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)
  • Special thanks : Fogg Inc.