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蒔田彩珠 – 正しさとは何か

Nov 19, 2025
自分の中の正常が、普通が、常識が揺らいでいく。
映画『消滅世界』で、主演の蒔田彩珠が向き合ったもの、得たものとは。

蒔田彩珠 – 正しさとは何か

Nov 19, 2025 - FILM
自分の中の正常が、普通が、常識が揺らいでいく。
映画『消滅世界』で、主演の蒔田彩珠が向き合ったもの、得たものとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の“普通”は、世間と違うかもしれない

― 今の時代の常識と非常識が逆転した近未来が描かれた作品でしたが、撮影に入る前にはどんな準備をしましたか?

自分自身の経験には全くない役柄だったので、事前に準備することよりも、現場で栁(俊太郎)さんや川村(誠)監督と話し合って、テンションを合わせることを大切にしながら作り上げていきました。

― いままでの作品とは取り組み方が違った?

そうですね。でも相手の役者さんの言葉をちゃんと聞いて、理解してからセリフを返すことはいつも心がけています。ただセリフを覚えて言うだけでなく、ちゃんと気持ちが動いてからセリフが出てくるようにと。

― 相手の言葉をしっかり受け止める。当たり前のようで難しそうです。

流れでお芝居をするのでなく、会話としてキャッチボールをするようにしています。

― 蒔田さんが演じた雨音は、どんな人物だと捉えましたか?

難しいですね……最初は強い子だなと思っていましたが、一概には言えないかな。ただ、雨音は母の持つ常識に抗うけれど、やっぱり彼女の根本には母の考えがあるんだなとは感じました。その葛藤を表現することがすごく難しかったです。

― 雨音を演じるうえで、母の存在が軸になった?

根本はそうだったかもしれません。母は自分の存在が一番雨音を惑わすということを知っていたのかな? 実際、親と考え方が違うってなると怖いですよね。

― 母の考えが正常だったのか、異常だったのかは分からないですけど、雨音にとって間違いなく象徴的な存在でした。雨音を演じたことで見えてきたものはありますか?

自分や家族の中の“普通”が実は世間と違う可能性はあるなと感じました。

雨音自身はみんなと同じであることを強く望んでいたので、親の常識が世間の常識でないことには気づきたくなかったと思います。

気づかなければ、悩むこともないですからね。蒔田さん自身も、世間とのギャップやズレを感じることもありますか?

同世代の子が多い現場に入ると感じますね。私は若さが足りなくて、「ちょっと落ち着きすぎているかも」って。もうちょっとはっちゃけた方がいいのかな(笑)。

― 他に今回のお芝居で意識したことはありますか?

高校生から30代までの時代を演じたので、そのグラデーションは意識しました。

― 特に実験都市の“エデン”に移住する前後で、雨音たちの見え方が大きく変わった印象を受けました。

エデンには最初、黒い服で行くんですけど、どんどんグレーになって最終的には真っ白い服になる。雨音の常識が揺らいでいく怖さが、視覚的にも自然に伝わってくるように感じました。

― 正しさが揺らぎ続ける世界の中で、それでも信じられるものはありましたか?

(二次元キャラクターの)ラピスへの愛情でしょうか。でも最後に、ラピスの人形を「忘れ物だよ」と渡されるところは切なかったですね。雨音がラピスを忘れることなんて、それまでなかったと思うので。

 

柔軟に人の意見を聞ける人でいたい

― 本作は近未来が舞台となっていますが、どれくらい先の時代だと思いましたか?

そう遠くはないんじゃないかな。私がお母さんの世代になった時には、今の非常識が常識になっていることもある気がします。この作品も、全くのフィクションではないなと受け止めました。

― 近い未来、蒔田さん自身のビジョンはありますか?

この作品を経て、気づかないうちに自分の“普通”を人に押し付けていることもあるなと思いました。年をとっても頑固にならず、柔軟に人の意見を聞ける人でいたいです。

― お仕事での目標は?

今はいろんな役に挑戦する段階だと思っているので、自分にできる役をもっと増やしていきたいです。

― 本作の雨音も挑戦的な役だったのでは?

普通の恋愛ものもそんなにやったことがない中で、挑戦的でしたね。

フィクションではありますがリアルさをちゃんと出したかったので、オーバーにお芝居をすることは控えました。完成した作品を観ると、ちゃんとその世界が存在しているように見えたので良かったです。

― 撮影が大変だったシーンはありますか?

最後のお母さんとのシーンは大変でした。普段はあまり緊張しないんですけど、あのシーンはすごく緊張して。雨音はあまり感情を表に出すことがなく、それまで母に押される側だったのが逆転して詰め寄る。狂気じみて怖いシーンでした。

― 最後に、完成した作品をご覧になった感想を教えてください。

演じていてもどんな風に仕上がるのか全く想像できなかったので、完成した作品を観てやっと納得できた感覚がありました。そして2回観たんですけど、2回目は一つひとつのセリフがより理解できるように感じました。

ぜひ皆さん2回観てほしいですね。一番の見所は?

やっぱりラストカットが一番印象的だと思います。

― 本作を通してどんなことを伝えたいですか?

私はこの作品を経験して、自分自身を見つめ直す機会になりました。観てくださった方も、正しさとは何かについて考えるきっかけになると嬉しいです。

 

Profile _ 蒔田彩珠(まきた・あじゅ)
2002年生まれ、神奈川県出身。主な出演作に、ドラマ「ゴーイングマイホーム」、「おかえりモネ」、「妻、小学生になる。」、「舞子さんちのまかないさん」、「忍びの家 House of Ninjas」、「わたしの一番最悪なともだち」、「誰かがこの町で」、「御上先生」、「DOCTOR PRICE」、映画『万引き家族』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、『#ハンド全力』、『星の子』、『朝が来る』、『Pure Japanese』、『ハピネス』、『さらば、サランへ、さらば』などがある。
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Information

映画『消滅世界』

2025年11月28日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開

原作:村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)
出演:蒔田彩珠、栁俊太郎、恒松祐里、結木滉星、富田健太郎、清水尚弥、松浦りょう、岩田奏、落井実結子/山中崇/眞島秀和/霧島れいか
音楽:D.A.N.
主題歌:D.A.N.「Perfect Blue」
劇中アニメキャラクターデザイン:Waboku
監督・脚本:川村誠

映画『消滅世界』公式サイト

©2025「消滅世界」製作委員会

  • Photography : Seita Marui
  • Styling : Masako Ogura
  • Hair&Make-up : Chika Ueno
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)