窪塚洋介 × 松田龍平 – 豊田映画は次元を超える
ふたりの目に映る“豊田利晃”とは
― 映画『次元を超える』、最高でした。豊田監督は、「最後の映画になる気がしている」とコメントされていましたが。
窪塚洋介(以下、窪塚):絶対に閉店セールの売り方だと思う(笑)。
― そうだとうれしいです(笑)。おふたりが共演した『破壊の日』をさらに進化させたというか、窪塚さん主演の『全員切腹』などでも顕著だった怒りや祈りにとどまらず、さらに高次元な解放のようなものを感じました。気づけばずいぶん遠くまで連れてこられたなと。
窪塚:試写会には演者も結構来ていたんだけど、終わった後にみんなでタバコを吸いながら、「いやー、次元を超えたね」っていう話をしていて。
松田龍平(以下、松田):ここ最近は、コロナ以降かな。豊田さん、短い作品をいくつか撮っていて。たぶん豊田さんの中ではひとつの作品に繋がっていたと思うんですけど、いくつかの視点から描いていたから、これまでの作品を観てきた方も、今回の作品でどこか一つの映画として完結するところがあるんじゃないかと思いました。
それは僕自身もそうで、断片的に新野というキャラクターをイメージしてきたから、今回新野を演じる上でも腑に落ちたところがあったし、豊田組を存分に楽しめました。

©次元超越体/DIMENSIONS
― 今回は豊田組常連のおふたりの目に、豊田監督がどのように映っているのかをお聞かせいただきたいです。豊田監督の自伝『半分、生きた』も読ませていただいたんですが、多くの人を惹きつける人間的な魅力を備えた方ですよね。
窪塚:会ったらすごく柔和なんだけど、冒頭で言っていたように、怒りと祈りは常に内包していて。それが作品のメッセージになってきたところもあるだろうし。
俺はセリフで、自分の言葉なのか監督の言葉なのか、もしくは脚本家の言葉なのかがわからなくなってくるようなことが多くて。仕事と趣味、ライフワークみたいなものの境界線も含めて、豊田監督の現場ではいろんなことが曖昧になっていく感覚があります。
― 作品外で会うときとは全く違う?
結構違いは感じるかな。現場では作品へ向かう気持ちが強いから、より研ぎ澄まされているというか。掛け声の覇気が強いんですよ。普段は大きい声で喋る人じゃないけど、現場での「よーい、はい」っていう声に圧があって、若い子だとビビっちゃうんじゃないっていうぐらい。ただそれによってすごい気合いが入るんです。
松田:大島渚監督も掛け声が凄かったな。
窪塚:なるほど。継承されているのかな。
松田:継承しているかは聞いたことないけど。
― 松田さんから見た豊田監督は?
松田:僕が17か18ぐらいの時に初めて映画に呼んでもらって、それから豊田さんとは何度も仕事させてもらっているんですけど、ずっと印象は変わらないですね。
豊田さんの現場での勝負の仕方というか、企みみたいなものが、毎回ワクワクさせてくれるから、安心して自分のことだけ考えていられる。それはたぶん僕だけじゃなく、スタッフも含めて撮影に関わっている皆がそうで。豊田さんに料理されていって、大きな鍋に入れられていたんだなって気付かされるような。

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― 豊田監督の信じられる部分はどこでしょう?
窪塚:今までで得体の知れない作品じゃなかったことがないから、ワクワクする感じは常にあります。今回はSFだけど、それでもやっぱり豊田監督が漏れ出てしまっている部分の生々しさも面白いし。豊田映画は危ういんだけど、やらないともったいないなっていう気持ちがあります。でも脚本で決めるから、二つ返事はしないって言ってあって。ただ断ったことはないですね。
『全員切腹』のときは家に巻物が届いて、シャーッと伸ばしたら出演依頼が果し状みたいに書いてあって。そんなところから楽しませてくれる人です。
― そのワクワク感を裏切られたことはない?
窪塚:そうですね。別の部分ではあるけど(笑)。1日で終わるって言っていたのに、2日かかったり。

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『破壊の日』以来となる5年ぶりの共演
― おふたりの共演は『破壊の日』以来とのことです。
窪塚:前回は神社の階段ですれ違っただけなので。ちゃんと共演したい役者だったから、それがまた豊田映画で叶うという喜びはありますね。
― お互いの印象についてお聞かせください。
窪塚:最初は優作さんの血脈っていうことも大きかったし、画面を通して出ている空気感もただものじゃねえなって。いろんな役をやっているけど、やっぱり常に龍平じゃないですか。
でもいろんな縁があって、夜も一緒に遊んだりするようになって、結果、意外にコミュ力が高いことがわかった(笑)。もっとコミュ障かなと思っていたけど。
― 松田さんは窪塚さんの印象は?
松田:10代の頃から窪塚くんの活躍を見ていたし、面白そうな人だなと思っていたけど。なかなか一緒になる機会がなくて、豊田さんに繋げてもらったなって。だいぶ時間は経ったけど。
窪塚:もっと手前にあってもよさそうな気がしたけどね。
― 今回、実際に共演してどんなことを感じましたか?
松田:現場で初めて会ったとき、髪はめちゃ長いし、日焼けして黒かったからめちゃめちゃ修行者みたいだなって、オーラがすごかったです。

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― 松田さん演じる暗殺者は「新野」ですが、『I'M FLASH!』や『破壊の日』での役名も新野でしたよね。演じる際にキャラクター的な繋がりを意識しましたか?
松田:そうですね。初めて新野を演じたのはだいぶ前だったので、あれから新野も色々あったんだろうなとか想像してました。
窪塚:豊田監督は、豊田版『火の鳥』っていう言い方をしていたけど、あの映画のこの役がこの映画ではこうなっているとか、実は同じ人の転生だとか。細かく聞いているわけじゃないけど、そういうのもすごく面白い。
― なるほど。手塚治虫さんのスターシステムのような、『火の鳥』の猿田彦のような。
窪塚:我王が宇宙服を着ているみたいな。
― 窪塚さんが演じた修行者の山中狼介は、『破壊の日』『全員切腹』とは異なる役名でした。
窪塚:でも、『全員切腹』で「生まれ変わって獣になるぜ」と言って切腹して、それが『破壊の日』の洞窟に入って得体の知れない生命体になり、『次元を超える』の狼介に繋がっている可能性もある。そうやって想像して遊んでもらえるといいね。
― 豊田監督の作品のファンは考察しがいがあるし、もちろん初めて観る方はシンプルに楽しめることも伝えておきたいです。
松田:もちろん、最高です。

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人はどこから来て、どこへ行くのか
― 本作を観ていると、次元を超える=映画そのものでもあるのかなと感じました。おふたりは映画人、映画俳優というイメージも強いですよね。
松田:畑みたいな。それは自分で選ぶ人もいるし、たまたま運命みたいなものだったりもするけど。僕は初めてお芝居をしたのが映画だったから、その時の現場の空気感みたいなものが血となり肉となってる感じはありますね。
― 映画という表現自体に、今も可能性を感じますか?
松田:映画をやりたいということに理由はなく、何か衝動的なもので。理由が何なのかって話になるなら、映画にこだわらなくても描きたい作品を作れるなら何でも良いと思うんですけど。
映画って、自由であるってことじゃないかな。何を撮ってもいいんだけど、真っ直ぐ返ってくるから面白いのかもしれないです。
窪塚:民放のドラマって出たことあるの?
松田:え、全然あるよ。
― 窪塚さんはテレビドラマにはあまり出ていないですよね。
窪塚:この間、『GTO』のスペシャル(『GTOリバイバル』)には出たけど。あとはNHKで柿本ケンサク監督が演出した星新一さんのショートショート(星新一の不思議な不思議な短編ドラマ『処刑』)もやったので、全くというわけではないんだけど、ほぼ出ていないです。
― やはり映画というものが特別なんでしょうか?
窪塚:舞台やサブスクのドラマはやっていこうと思っているので、そういう意味では以前より垣根がない気もするけど、やっぱり映画はそこにある情熱が大きかったり、龍平が言っているように何を表現したいのかがより明確だったり、共鳴できる部分が多いかなとは思います。

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― キャッチコピーにも採用されている、「人はどこから来て、どこへ行くのか」。哲学や創作の根源ともいえる問いですよね。
窪塚:豊田監督が『プラネティスト』を撮る直前にお父さんが亡くなられていて、そのころから今言ったテーマが自分の中でより強まっていったんじゃないかなと思います。
― 「生きる意味とは何か」「なぜ自分はここにいるのか」という問いかけでもあると思うのですが、おふたり自身の考えをお聞かせください。
窪塚:10代の後半ぐらいがマックスそこに集中しちゃってたっていうか、それで頭でっかちになって空回るっていう体験と体感があって。まっすぐに見ようとすると見えなくなっちゃうから、今は横目で見るぐらいの感覚になりました。
人はどこから来て、どこへ行くのかーーそれは明確に答えとして持っていない方が可能性は無限だし、自分も自由に楽しめる印象はあるかな。生きていること自体が答えだから、理由はいらない。
― 松田さんは?
松田:僕の親父もそうだし、人はどこから来て、どこへ行くのかは今まで人が体現してきたことで。自分もその大きいうねりの中にいるということしかわからないですけど。
― うねりの中にいて、自分も何かをなさねばという使命感はありますか?
松田:いやー、ないですね。なさすぎるのもどうかな。
窪塚:悩んでる(笑)。
松田:なさすぎることに焦りを感じてます。
窪塚:でも年々楽にはなっているよね。時代は窮屈になっていっているとか言うけど、自分自身の体感はどんどん楽に、どんどん自由になっている。
松田:体力は落ちてくるのに、精神的にも楽にならなかったらきついな(笑)。

Profile _ 窪塚洋介(くぼづか・ようすけ)
1979年5月7日生まれ、神奈川県出身。「金田一少年の事件簿」(95)で俳優デビュー、『GO』(01)で第25回日本アカデミー賞新人賞と史上最年少で最優秀主演男優賞を受賞し、『最初の晩餐』(19)で第34回高崎映画祭最優秀助演男優賞、第29回日本映画批評家大賞助演男優賞などを受賞。主な出演作は、「GTO」(98)、「池袋ウエストゲートパーク」(00)、『ピンポン』(02)、『凶気の桜』(02)、『ヘルタースケルター』(12)、『沈黙 -サイレンス-』(16)、『アリーキャット』(16)、「Giri/Haji」(19)、「TOKYO VICE Season2」(24)、「外道の歌」(24)、『フロントライン』(25)など。豊田監督作としては、『モンスターズクラブ』(11)、『プラネティスト』(20)、『破壊の日』(20)、『全員切腹』(21)などに出演している。
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Profile _ 松田龍平(まつだ・りゅうへい)
1983年5月9日生まれ、東京都出身。『御法度』(99)で俳優デビュー、数々の新人賞を総なめにし、『舟を編む』(13)で第37回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、第38回報知映画賞主演男優賞、第68回毎日映画コンクール男優主演賞、第23回日本映画批評家大賞主演男優賞などを受賞。主な出演作は、『まほろ駅前多田便利軒』シリーズ(11・13・14)、『探偵はBARにいる』シリーズ(11・13・17)、「あまちゃん」(13)、「カルテット」(17)、『散歩する侵略者』(17)、『影裏』(20)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、「鵜頭川村事件」(22)、「0.5の男」(23)、「ケンシロウによろしく」(23)、「東京サラダボウル」(25)、「阿修羅のごとく」(25)など。豊田監督作としては、『青い春』(01)、『ナイン・ソウルズ』(03)、『I'M FLASH!』(12)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18)、『狼煙が呼ぶ』(19)、『破壊の日』(20)などに出演している。
Information
映画『次元を超える』
2025年10月17日(金)よりユーロスペース他にて全国順次公開
出演:窪塚洋介、松田龍平 / 千原ジュニア、芋生悠 / 渋川清彦、東出昌大 / 板尾創路、祷キララ、窪塚愛流(声の出演)、飯田団紅、マメ山田
監督・脚本・エグゼクティブプロデューサー:豊田利晃
エンディングテーマ:「抱きしめたい」The Birthday (UNIVERSAL SIGMA)
音楽:Sons of Kemet、Mars89、中込健太(鼓童)、住吉佑太(鼓童)、ヤマジカズヒデ
製作:豊田組
配給:スターサンズ
©次元超越体/DIMENSIONS
- Photography : Tomoharu Kotsuji
- Hair&Make-up for Yosuke Kubozuka : Shuji Sato(botanica make hair)
- Styling for Ryuhei Matsuda : Shohei Kashima(W)
- Hair&Make-up for Ryuhei Matsuda : Motoko Suga
- Edit&Text : Yusuke Takayama(QUI)