見上愛 × 佐藤寛太 – ロジックとセンス
性格は対象的だけど、だからこそお互いをおもしろがれて息が合う。そんな2人の「好き」に迫るクロストーク。
観終わったらめっちゃ元気になった
― 見上さんは2021年に、映画『衝動』で取材させていただきました。
見上愛(以下、見上):そうですね。ありがとうございます。
― 『衝動』は倉悠貴さんとのW主演でしたが、本作『不死身ラヴァーズ』では初の単独映画主演となりました。心構えも変わったのでは?
見上:変わるつもりでいたんですけど、変わらなかったですね。背負うものが多くなるだろうなとかいろいろ思って臨んだんですけど、自分が現場に入ったときにはもう雰囲気ができあがっていました。めっちゃ人見知りの私に、松居(大悟)監督や佐藤さんが根気強くしゃべりかけてくれて。
佐藤寛太(以下、佐藤):根気強くって(笑)。
見上:そのおかげで全然気負うことなくできました。
― 佐藤さんは人見知りじゃないんですね。
佐藤:俺は違いますね。
見上:社交性のレベルが違うよね。最初からゼロ距離みたいな(笑)。
佐藤:でも昔は人見知りだったんだよ。
― なにか殻を破るきっかけが?
佐藤:この仕事ってはじめましての人と会いまくるじゃないですか。そのうちに、だんだん恥ずかしさがなくなっていっただけですね。
― お互いの素敵だなと思ったところはなんですか?
見上:さっきのゼロ距離の話ともつながるんですけど、佐藤さんはすべてにおいて動物的で。自分はこれが好きだから好き、これが気になるから気になると、本当に感覚派なんです。見た目はクールな印象でしたが、自分の本能を大事にしていて、今を生きすぎている感じがおもしろくて、それが魅力だと思います。
佐藤:それって魅力なの?
見上:他の人にはないんじゃないかなと思うよ。
佐藤:マジか。大事にしよう。
― 佐藤さんが感じた見上さんの魅力は?
佐藤:たとえばOKが出たシーンをもう1回、別の角度から撮りますとなったときって、なるべくOKの芝居と同じことをしようとする感覚が頭の片隅にあったりするんですけど、見上さんってあんまりトレースしないよね?
見上:トレースって?
佐藤:自分のやった芝居を。
見上:追いかけてないってことね。
佐藤:同じセリフなんだけど、その場でポンって新鮮な芝居が出てくる。俺はそれが素敵だなと思って。一緒にやっていて、さっきと同じことをしている、されている感覚がないんです。
― それは意識して?
見上:意識はしてないです。でも自分の性格的に、お芝居をする前はすごく準備してすごく考えちゃうんだけど、実際にやりますとなったらそれを全部忘れちゃうんですよ。それがお芝居にも出ているなって、最近自分でも思っていました。
佐藤:忘れちゃうとしても準備は大事なんでしょ?
見上:そう、それがないと手がかりがないから不安だし、それを元にはしているんだけど忘れちゃう。相手のお芝居もわからないし。
佐藤:結局、台本を読んでるときは1人だしね。役作りって、どうやってる?
見上:私は脚本を読み込んで、(演じる役の)目的や障害などを全シーン書き出すことが、自分の中の準備になってる。今回はほぼ全シーン出ていたから、とくに時間がかかって大変だったけど、それがないとやりづらいというか、それがあれば同じシーンを何回撮っても、これを伝えたいという目的が自分の中にあるから……
佐藤:そこに戻ってこれるんだ。
見上:戻って来やすいような気がしていて。そんなにうまくいかないこともあるけど。
― 佐藤さんはどうやって役作りを?
佐藤:俺も近いんですけど、今日この世の中で起こっている出来事やニュースを見て、「こいつだったらどう思うんだろうな」というところから入ることが多いです。日常で友達のことを思い出すような感覚になるというか。「あいつこれ好きそう」みたいな。
見上:めっちゃおもしろい。
佐藤:そこから、台本を何回も読みながらそのシーンの目的や役がどういう気持ちなのか、なんでそういう行動をするのかを考えています。でも俺は書くと縛られちゃうから、字をめっちゃ汚く書いて、あとで読んでなにを書いているかわからないぐらいがちょうどいいかな。
― アプローチも対局的ですよね。見上さんは役に正面から向き合っていくし、佐藤さんは周りからヒントを得て広げていく。
見上:ロジックとセンス、性格の差が出ている(笑)。
佐藤:でも最近、演技の本を読み始めて、めっちゃおもしろいなと。自分が言語化できなかったものを、どうにか言語化してるじゃんって。
― キャリアを重ねた今読むからよりおもしろいんでしょうね。
佐藤:だと思います。(キャリアの)最初に出会っていても、読めていなかったでしょうね。
― 現場に入ってからは、松居監督からどういう演出がありましたか?
見上:さっき話してて知ったんですけど、演出方法が2人ともまったく違いました。1回でOKが出ることはほぼないというのは共通なんですけど、私にはなんでOKじゃないのか、次どうしてほしいのかを説明してくれましたし、どう思ったのか、なんでこういう行動をしたのかを聞かれて、じゃあ次こうしてみようと話し合うことが多かったんですけど……。
佐藤:俺はなんでもう1回やるのか言われることはほとんどなくて。だからわからないままやっていました(笑)。
― 松居監督の考えがあって、あえてそうしたんでしょうね。
佐藤:わからないから考えるじゃないですか、なにが違ったんだろうなって。それを狙っていたのかもしれません。
― 印象に残っているシーンはありますか?
佐藤:外でバドミントンをするシーンの練習をしたんですけど、強風で2ラリーぐらいしか続かなかったんですよ。これやばいんじゃないか、みたいな。しかも台本を見ると、バドミントンをしながらセリフをしゃべるという。
― それは難しそう。
佐藤:でも本番当日は全く風も吹かず、本当にスムーズに進んで。思い返してみると、あれってたぶん奇跡だったなと。
見上:確かにね。
― 見上さんはいかがでしょう?
見上:ギターの演奏かな。急に言われてかなり練習したけど、ギターも歌も上手じゃなくて、でもそのほうがいいという結論に至りました(笑)。
佐藤:もともとなかったんだよね。演奏するシーンは。
見上:オーディションのときに「ギターできるの?」と聞かれて、「あ、まあ」みたいな返事をしたら「じゃあ練習して」と。
佐藤:出だしがまず大変だもんね。でもめちゃくちゃ伝わったよ。本当にすばらしかった。
― 完成した作品をご覧になった感想を教えてください。
佐藤:松居さんらしかったよね、やっぱり。
見上:うん。すごい松居さんっぽかったなあ。初号を観た日はちょっと元気がなかったんですけど、観終わったらめっちゃ元気になった(笑)。それが松居さんの持っている作品の強さだね。
自分にないものを持っている人がおもしろい
― 好きだという気持ちを肯定してくれるような作品でしたが、お2人が惹かれる人ってどんな人ですか?
佐藤:おもしろい人。
見上:さっきそのテーマで話していて、爆笑させてくれる人とか、ギャグを言う人って意味だけじゃなくて、自分にないものを持っている人がおもしろい人だってなったよね。
― それは2人の総意で。
見上:そうです。自分と違うからこそ、どう考えているか知りたくて、話を聞いてみたい。そんな気がします。
― 見上さんと佐藤さんの関係性もそのとおりですね。では人に限らず、「好きだ」と言えることはありますか?
佐藤:今は『推しの子』にハマっています。あとは『正反対な君と僕』っていう漫画。漫画が好きで、同じ作品を何回も読むんですよね。内容を忘れるわけじゃなくて、同じ箇所でまた同じレベルで感動する(笑)。
見上:すばらしいね。
佐藤:だから家に置いている漫画は全部、年に何回も読み返すんです。
― すごい。松居監督も『不死身ラヴァーズ』の映画化にあたって10年以上温め続けていたそうですし、思い続けることで何かにつながるのかもしれないですね。
佐藤:確かに。でも『推しの子』は実写化されたな。
見上:されちゃったね。
佐藤:されちゃった……。
― 見上さんが好きなことは?
見上:私はアニメが好きで、休みがあったらシーズン3くらいまで1日で全部観ちゃいます。休みなのに、アニメを観るために朝6時に起きてるんですよ。
佐藤:それは早起きが習慣づいてるんじゃなくて?
見上:じゃなくて、全部観たいから頑張って起きるんです。そのために前日にスーパーで買い物をしておくんです。家から出なくてすむように。
佐藤:戦いは前日から始まってるんだ。
見上:でも寝ることも大好きなんですよ。それも声を大にして言いたい。
佐藤:俺も大好き。昼寝大好き。
見上:1日中寝る日もあるのでバランスとっています(笑)。
― お芝居は、好きだと言えますか?
見上:だと思います。でも、ずっと好きかというとわからないですね。
― 好きじゃないかもとなっちゃうのはどういうとき?
見上:シンプルに、いろんな感情を演じることってしんどいというか。役を通してなんですけど、「なんでこんなずっとつらい思いしなきゃいけないの?」って思うときもあるし。でも結果、楽しいです。
― どこで報われるんですか?
見上:私はまわりにいるスタッフさんたちに声をかけてもらったときかな。松居さんにかけてもらった言葉もうれしかったし、カメラマンさんが「今のカットよかった」と声をかけてくれたときだったり。
― 佐藤さんはいかがですか?
佐藤:今ずっと芝居してなくて。2〜3か月ぐらいかな。そうすると日常的に、次はこういう芝居をしたいなってことばかり考えてるから、やりたいなという思いはあるんですよね。でも、決まった仕事に対してワクワクしないときは一番しんどいです。
見上:そういうときに会わなくてよかったです。
― 『不死身ラヴァーズ』はワクワクできた?
佐藤:もちろん。すごく楽しかったです。
見上:スレた感じじゃなくて爽やかでしたもん。
ー 仕事に向かう姿勢で大切にしていることはありますか?
佐藤:俺は最近怒らないようにしています。楽しむほうがいいじゃんって。
見上:それはすごくわかる。私も楽しいほうがいいからそっちを選択してきたけど、最近は主演をさせていただくようなことも増えて、自分だけが楽しんでちゃダメだなと。作品全体をみて行動していかないといけないときもあるなというのを考えるようになりました。
佐藤:いつか俺もその考えに到達できるかな。
見上:でも考え方は人それぞれだし、私もきっと変わっていくよ。
佐藤:すげえなあ。
― 最後に、本作を経験して得たものがあれば教えてください。
佐藤:たくさんの人との出会いがあって、作品が公開を迎えるというご縁ですね。
見上:いいこと言うね。
佐藤:松居さんに「一緒にやりたいです」とインスタでDMを送ってから始まって、共演したいと思っていた見上さんや青木柚くん、前田敦子さんや神野三鈴さんなどすばらしい方たちと共演できて。このチームはまた会いたいと思う人たちばかりです。
見上:それ100点の回答だなあ。私は(自身が演じた長谷部)りのに会えたのもうれしかったな。今まで演じたことのないタイプのキャラクターで、こんなパワフルな役、なかなかない。
― めちゃくちゃいい子ですよね。
見上:私はりのの、いい子だけじゃ終わらない感じも好きなんです。人間っぽいよね。
佐藤:うん、人間っぽい。良いも悪いもなくまっすぐ進んでいくもんね。
見上:そうそう。自分の物差しでまっすぐだから。そこが好きです。
Profile _
右:見上愛(みかみ・あい)
2000年10月26日生まれ、東京都出身。2019年にデビュー以降、映画、ドラマ、舞台、CMと幅広く活躍。21年、ドラマ「きれいのくに」(NHK)に出演し、注目を集め、同年に映画『衝動』(土井笑生監督)でダブル主演を務めた。近年の主な出演作に、映画『異動辞令は音楽隊!』(22/内田英二監督)、『レジェンド&バタフライ』(23/大友啓史監督)、MBS主演ドラマ「往生際の意味を知れ!」(23)、『658km、陽子の旅』(23/熊切和嘉監督)、「幽☆遊☆白書」(23/ Netflix)、『すべての夜を思いだす』(24/清原惟監督)、「春になったら」(24/KTV・CX)などがあり、大河ドラマ「光る君へ」(24/NHK)、「Re:リベンジ-欲望の果てに-」(24/CX)が放送中。
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camisole tops ¥30,800・skirt ¥59,400・tulle collar ¥36,300 / MURRAL (MURRAL ONLINE STORE), ear cuff ¥10,450 / JUSTINE CLENQUET (THE WALL SHOWROOM 03-5774-4001), Other stylist’s own
左:佐藤寛太(さとう・かんた)
1996年6月16日生まれ、福岡県出身。2014年に「劇団EXILEオーディション」に合格し、15年に「劇団EXILE」に正式加入。同劇団の公演「Tomorrow Never Dies 〜やってこない明日はない〜」(15/作・演出:上條恒)で初舞台を踏む。主な出演作に『HiGH&LOW』シリーズをはじめ、初主演を務めた『イタズラなKiss』シリーズ(溝口稔監督)、『いのちスケッチ』(19/瀬木直貴監督)、『花束みたいな恋をした』(21/土井裕泰監督)、『軍艦少年』(21/Yuki Saito監督)、ドラマ「あせとせっけん」(22/MBS)、舞台「怖い絵」(22/作・演出:鈴木おさむ)、「サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-」(23/演出:白井晃)、『正欲』(23/岸善幸監督)、舞台「鴨川ホルモー、ワンスモア」(24/演出:上田誠)など。
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Information
映画『不死身ラヴァーズ』
2024年5月10日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:見上愛、佐藤寛太、落合モトキ、大関れいか、平井珠生、米良まさひろ、本折最強さとし、岩本晟夢、アダム、青木柚、前田敦子、神野三鈴
監督:松居大悟
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』(講談社「別冊少年マガジン」所載)
脚本:大野敏哉、松居大悟
映画『不死身ラヴァーズ』公式サイト
©2024不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社
- Photography : Shunto Sato
- Styling for Ai Mikami : Satsuki Shimoyama
- Hair&Make-up for Ai Mikami : Kenji Toyota
- Styling for Kanta Sato : Masahiro Hiramatsu(Y’s C)
- Hair&Make-up for Kanta Sato : Kohey
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)