水原希子 – 自分の価値を、自分で認める
モデルとしてファッションやビューティーを主なフィールドとしながら、俳優としてもデビュー以来十数年にわたって確固たるキャリアを築き続ける水原の、芝居にかける思いに迫る。
お芝居は怖いものだったけど、今はもっと学んでいきたい
― 水原さんはモデルとして国際的に活躍しながら、ファッションブランド「OK」やコスメブランド「kiiks」も手掛けられています。一方で俳優業にも継続的に取り組まれていますが、ご自身の中でお芝居はどういう位置づけでしょうか?
私にとってファッションの方向に進むことは、すごくナチュラルなことだったんです。子供のころの一番の趣味が着せ替えごっこで、その遊びの延長のまま進んできたところがあって。もちろん大変なときもあるんですけど、ファッションを通すと何でも楽しめる。着るのも好きだし、買うのも好きだし、芸術や洋服の世界がすごく好きなんです。
でもお芝居は、全く想像していなかった世界でした。演技未経験でいきなり『ノルウェイの森』でデビューさせていただいて、そこからも自分にとっては大きすぎる作品ばかりで。20代のころは、私はまだこんな場所に立たせてもらえるほど技術がないんじゃないかと、葛藤や不安をずっと抱えていました。
ただ、最近は考え方が変わってきて。お芝居を十数年継続的にやらせていただいていて、それもオファーをいただけるからそこに立たせてもらえている。自分にはその価値があるんだということを、自分の中で認めてあげようと思えるようになりました。
― モデル業と並行して、俳優としても途切れることなくキャリアを築き続けているのは本当にすごいことですよ。
ありがたい限りです。今回の『徒花-ADABANA-』でも、自分が観たいと思う映画を撮っている(甲斐さやか)監督からお声がかかるのはすごく名誉なことで、ちょっとずつ自信がついて楽しめるようになってきました。
最近は結構、海外の映画のオーディションを受けているんです。まず英語のセリフで3〜4シーンを3〜4日で覚えて、そこにさらにお芝居を加えていく。落ちまくっているんですけど、それでも確実に成長していると感じられることがうれしくて。今まで自分にとってお芝居は怖いものだったんですけど、今はもっと学んでいきたいという前向きな気持です。
― お芝居をすること自体に楽しさを感じることはありますか?
お芝居は生ものなので、めちゃくちゃ練習しても、演じるときに毎回違うんです。セリフを言っているうちに、セリフが自分の気持ちに乗って、想像もしていなかった感情がぽろっと出て、いきなり泣けたりする。おもしろいですよね。
相手の役者さんがいらっしゃると、向こうもなにを出してくるかわからないからケミストリーでしかないんですよ。もちろん生ものだからうまくいかないかもしれない恐怖もあるけど、でもその恐怖心を消し去ることができればもう楽しいことしかないんじゃないかなと思っています。
― 自分だけど自分じゃないような感覚でしょうか?
そう。自分が一瞬乗っ取られるような不思議な体験です。
― 作品選びの基準はありますか? 本作も作家性の強い作品でしたが。
いい人たちと仕事がしたいです。もちろん自分が観たいと思う作品をやりたいというのは前提としてあって、いい人たちと一緒の現場じゃないと、長く一緒にいるのが苦痛なので。
― 水原さん自身が「作る」ということに重心があるんでしょうね。だからこそ、だれと作るかが大事になる。
みんなで作ろうという意識を持っていない人と仕事をすると、すごく苦しい思いをする方がたくさんでてくる。そういうのを見たくないし、自分もそういう体験をしたくないから、いい人たちと仕事がしたいです。
瞑想を通して、本当の自分とより近くなれる
― 本作で水原さんが演じた臨床心理士のまほろは、全編を通して物語の軸ともいえる存在だと感じました。どこか危うげにも感じたのですが、演じるうえで意識したことはありますか?
難しかったです。臨床心理士という役は初めてだったので、自分なりに勉強させてもらって。いろんな方のお話を聞かせていただくと、患者さんとすごく密接なんだけど、そのエモーションを受けすぎないようにドライでなければいけない部分もあって。私も最初は業務を淡々とこなすようにしようと思っていたんですね。
だけど、(井浦新さん演じる)新次さんは、(まほろが務める)病院にとってキングのようなポジションにいるじゃないですか。彼は私の任務を全て把握しているから、私の行動は全て見透かされてしまう。臨床心理士という仕事の関係性のうえに、さらにその関係性があったので、ずっと居心地が悪ったです。
― 観ている側もちょっと居心地が悪かったです。だからこそ、まほろがたまに笑ったり、取り乱したりするシーンがあるとすごく惹きつけられました。
ありがとうございます。
― 井浦新さんとは初共演だったんですか?
初めてです。本作に出演させていただきたいと思ったのは、甲斐監督はもちろん、新さんと絶対にご一緒したいというのも理由でした。実際にご一緒させていただくと、本当に天使のようにやさしくて繊細な方で。新さん自身も大変な役どころだったのにも関わらず、まわりのこと、作品のことをずっと考えていて、すごく気配りしてくださるんです。
たとえば、まほろの感情が爆発してしまうシーンの撮影前には、緊張している私の隣に来てくれて、「緊張するよね」と。「希子ちゃんは大丈夫。自分から出てきたものが正解だからその通りにやればいいんだよ」というような声をかけてくださって。そうしたら自分の抱えていたプレッシャーがすっと抜けて自由になれたんです。
しかも、それから帰るふりをしながら、たぶん私に気を遣わせないように、影に隠れて撮影を見てくださっていて。そのシーンを撮り終わったあとにバッと出てきて、「このシーンが撮れたからこの映画は大丈夫だ」と言ってくださったんです。
― 作品を通して観ると、ただ生きていること、呼吸していること、存在していること自体を肯定して、価値があると言ってくれているようにも感じました。
本当にそうですよね。生きているものすべてを肯定するというのは、絶対にこの映画のメッセージの中にもあると思います。
― 水原さん自身はよりよく生きていくためになにか意識してやっていることはりますか?
最近は瞑想を毎日やっています。潜在意識の深いところまで入っていけることもあるんですけど、普段はほとんどそういう境地にはいけません。でもそれでよくて、まず瞑想することによって自分が潜在的にどういうことを考えているのかを客観的に捉えることができるんです。「私はいつもこういうことに執着してるんだな」とか、「私はいつもこういうことを考えてるんだな」とか、それだけでも自分にとっては大きな発見ですよね。
瞑想中は、そういう発見を呼吸とともに遠くに送り出すようなイメージなんですけど、自分のマインドをコントロールできれば自分の感情もコントロールできるようになってくる。本当の自分とより近くなれるような感覚があって、それがすごくおもしろいです。
― 瞑想時はいろいろ考えてもいいものでしょうか? それとも頭をからっぽにするイメージで?
無になるためにみんなやるんですけど、無になるのってたぶん無理なんです。無になろうとする過程でいろんなものが出てきたときに、それをどういうふうにキャッチして自分の中で流していくかということだと思います。
― 普段は顕在化していない考えが思い浮かんでくるんですね。
そう。仕事のアイデアがいきなりバーッと出てくることもあるんですよ。そういうときは脳に感謝して落ち着かせる。マインドのトレーニングみたいなイメージです。本当におすすめなので、ぜひ男性にもやっていただきたいですね。
Profile _ 水原希子(みずはら・きこ)
1990年10月15日アメリカ生まれ、日本育ち。モデルとしてキャリアを積み、ニューヨーク、ミラノ、パリのファッションウィークでも活躍。『ノルウェイの森』(10/トラン・アン・ユン監督)で役者デビュー。『進撃の巨人』(15/樋口真嗣監督)、『奥田民生になりたいボーイ出会う男すべて狂わせるガール』(17/大根仁監督)ではヒロインを演じた。『あのこは貴族』(21/岨手由貴子監督)で、第35回高崎映画祭にて最優秀助演俳優賞を受賞。女優としても存在感を放っている。
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Information
映画『徒花-ADABANA-』
2024年10月18日(金)より、テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
出演:井浦 新、水原希子、三浦透子、甲田益也子、板谷由夏、原日出子、斉藤由貴、永瀬正敏
脚本・監督:甲斐さやか
©2024「徒花-ADABANA-」製作委員会 / DISSIDENZ
- Photography : Yuki Yamaguchi(W)
- Hair&Make-up : Naho Ikeda
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Edit&Text : Yusuke Takayama(QUI)