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錫木うり – まっすぐに生きる

Nov 15, 2023
俳優・錫木うりの初主演作となる映画『車軸』。
小佐野彈による同名小説を原作に、新宿・歌舞伎町で交錯する3人の若者の“愛の物語”を描いたセンセーショナルな作品となっている。
本作で圧巻の芝居をみせた錫木に、作品への思いから、俳優としてのルーツやビジョンまで語ってもらった。

錫木うり – まっすぐに生きる

Nov 15, 2023 - FILM
俳優・錫木うりの初主演作となる映画『車軸』。
小佐野彈による同名小説を原作に、新宿・歌舞伎町で交錯する3人の若者の“愛の物語”を描いたセンセーショナルな作品となっている。
本作で圧巻の芝居をみせた錫木に、作品への思いから、俳優としてのルーツやビジョンまで語ってもらった。

私は真奈美に憧れている

― 映画『車軸』を拝見して、錫木さんが2021年に出演された映画『衝動』と類似性が高いように感じました。どちらの作品もR指定ですし、『衝動』は渋谷、『車軸』は新宿という都市が重要な役割を果たしていて。

私も同じことを思っていました。

― ちょっとアングラな若者の世界を描いているところも似ているし、タイトルが漢字二文字なのも同じですしね。

『衝動』でも『車軸』でも、必死に生きている若者の不可逆性みたいなものをすごく感じるんです。そしてたぶん、私自身もそこに親しみを感じているから、同じ匂いのする作品が続くのかもしれません。

― 引き寄せるというか。

そうですね。

― 『車軸』で演じた真奈美は、錫木さん自身と重なる部分がありましたか?

育ってきた環境や、置かれている状況は違うんですけど、考え方はすごく似ているように感じました。もっと言うと、私自身が真奈美に憧れを感じているんですよ。だからこそ役が遠い存在ではないと感じました。

― 憧れというのは?

私はどっちかというと、もともとは(矢野聖人さん演じる)潤さん側の人間だと思うんです。潤さんはすごく臆病で、すごくセンチメンタルで、すごく小さな炎を燃やし続けているタイプの人間。一方で真奈美は、どんどん燃料を与え続けているような人間なんですよ。私はそんな真奈美に憧れているぶん、ちょっとおこがましいんですけど近い部分もあるのかなと思います。

― 確かに潤と真奈美って根本はすごく似ているけど、真奈美は一人でどんどん進んでいって、映画の最初と最後ではまったく違う人間になっていますもんね。

その変わり具合がおもしろいですよね。

― ゲリラ撮影が多かったそうですが、撮影は大変でしたか?

それが大変じゃなくて。クランクインするまでが大変でした。こんな大役を私はやったことがなかったので、プレッシャーと戦っていたんですけど、撮影が始まるとその時期がなかったかのように、スーッと溶け込むように入っていけました。いま振り返ると、大変だったわけでも楽しかったわけでもなくって感じですね。

― ただ真奈美として存在していたら終わっていた?

終わっていました。監督がカットを私に聞こえないように言うときがあるんですね。監督が存在を消す瞬間がいっぱいあって、シーンを撮っているというよりは自分たちが動いているところを監督が切り取ってくれてたような感覚だったので、そのおかげだった気がします。

― カメラが遠くから狙っているシーンも多かったですよね。

こちらからはカメラが見えないことも、よくありました。

― わりとドキュメンタリーに近いような。

感覚的にはそうでしたね。

 

『車軸』は新しい愛の形を表現している

― 劇中には「本物」という言葉がよく出てきます。本物になり得ないことに対する諦観を抱えた3人の物語だと捉えたんですけど、そもそも「本物」とは何を指すのかがよく理解できませんでした。

彼ら彼女らが固執している「本物」という概念は定義付けできないものだと思います。どんなに探しても答えはなくて、本物がなにかというより、本物とはなんだろうって探すこと自体にすごく意味がある。3人それぞれ考え方は違うけど、結局は「自分ってなに?」ということを追い求めているような気がしています。

― ある種のモラトリアムみたいな。

そうですね。

― 真奈美としては、潤と(水石亜飛夢さん演じる)聖也のどちらにより惹かれますか?

潤さんですね。私は『車軸』って、新しい愛の形を表現している気がしていて。自分自身を愛してあげることに近い存在が、真奈美にとっては潤さんであり、潤さんにとっては真奈美で。それは恋愛関係ということではなくて、新しい形の愛だと思うんです。

― 「神」という言葉も多く出てきますよね。メインの3人も三位一体でキリスト教を想起させたり、宗教的なバックグラウンドも感じました。宗教に限らず、錫木さん自身が信じるものやご自身を支えている軸はありますか?

常にまっすぐでいることかもしれません。そのまっすぐさゆえに怒られたり、うまくいかなかったりすることもあるんですけど、でも私は本当に、まっすぐしか取り柄がなくて。

― まっすぐというのは、人と対立したときにも自分を曲げないということ?

いえ、まっすぐ自分の意見を貫くというよりは、まっすぐ向き合いたい。たとえば自然とか食べ物とか音楽とかファッションとか、そういうひとつひとつにまっすぐ向き合って、自分自身を豊かにしていくことこそ、人生において大切な気がするんです。それによって仕事も豊かになるし、まわりの人も豊かになる。だから何事に対してもまっすぐでいたいという気持ちはありますね。真奈美がそうなんですよ。

― 確かに真奈美は、すごくまっすぐです。ちょっと危ういところもありますけどね、そのまっすぐさゆえに。

すごい子ですよ、真奈美は。

 

自分の可能性をどんどん感じていきたい

― 錫木さん自身のことについてもお聞かせください。錫木って珍しい漢字ですよね。本名ですか?

本名じゃないです。「すずき」というのは本名と同じ読みですけど、漫画家さんにつけてもらいました。漫画家さんが作ったキャラクターの名前リストがあって、そこに載っていた名前なんです。「これすごく良い運を持ってるよ」「へー」とか言いながら、「じゃあ」って。特に大きな意味はないんです(笑)。

― 学校はセツ・モードセミナー出身だそうですね。

ご存知ですか?

― もちろん。もう閉校しちゃいましたよね。

そうなんです。私、最後の入学生なんです。もっといたかったのに、2年しかいられなくて。

― 2年しかないのに入りたかった?

知らなかったんですよ。(創設者の)長沢節さんの生誕100年が入学して2年後で。それを期にもう閉校しましょうという。

― そもそもアートやファッションがお好きだったんですか?

好きでした。セツは基本的にファッションイラストの学校で、自分で自分のタッチを自由に模索していくスタイルだったので、すごく私の求めているものに合った学校でしたね。ひたすらデッサンをしていました。

― そこから俳優を志したのはなぜでしょう?

映画が好きすぎちゃって、知り合いに映画を撮ってみたいと相談したら、「俳優やってみたら?」と言われて。私も「おもしろそう、やってみよう」みたいなノリでワークショップを受けたのがきっかけですね。実際にやってみるとおもしろくて。

― それで一気にのめり込んだ?

はい。

― 理想の俳優像や、将来のビジョンを教えてください。

最近、海外の作品に関わらせてもらうことが少しずつ増えてきていて。日本と外国の合作映画だったり、海外のアーティストのミュージックビデオだったり、いままでの感覚とは違っていて、単純にすごく楽しかったんですね。だからいま、語学を死ぬ気で勉強しています。人生1回しかないから、とにかく視野を広くして自分の可能性をどんどん感じていきたいんです。

そして「こうでなきゃいけない」とか、「こうあるべき」というものにとらわれずにお仕事をしていきたいというのは常に感じています。理想の俳優像というより、人間像みたいな感じですが。

― 錫木さんのまっすぐで常識にとらわれないところは、やっぱり真奈美っぽいですよね。

本当に真奈美は、鏡を見ているみたいです。憧れも込めて、そう感じます。

 

 

Profile _ 錫木うり(すずき・うり)
1996年東京都生まれ。主な出演作に映画『めためた』(2023/鈴木宏侑監督)、『カオルの葬式』(2023/湯浅典子監督)『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(2023/内田英治監督・片山慎三監督)、『エッシャー通りの赤いポスト』(2021/園子温監督)、『衝動』(2021/土井笑生監督)、ドラマ『サワコ〜それは果てなき復讐』2022)、YouTubeドラマ「東京彼女」9月号など。 本作には大々的なオーディションを通して選ばれた。出演待機作も控えており、今後の活躍が期待される。
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t-shirt ¥9,790・blouse ¥19,580 / the VINTAGING (NEWoMan SHINJUKU), beaded bustier ¥12,100 / heki , boots ¥33,000 / Daniella & GEMMA

 


 

Information

映画『車軸』

2023年11月17日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー

出演:矢野聖人、錫木うり、水石亜飛夢、ほのかりん、木ノ本嶺浩、五頭岳夫、佐藤峻輔、吉沢明歩、石原理衣、TIDA、加藤亮佑リリー・フランキー、筒井真理子、奥田瑛二
監督・脚本:松本准平
原作:小佐野彈『車軸』(集英社文庫刊)

映画『車軸』公式サイト

©「車軸」製作委員会 ©小佐野彈

  • Photography : Rina Saito
  • Styling : Moyashi Nakamura
  • Hair&Make-up : Ayane Kutsumi
  • Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)

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