福地桃子 × 青木柚 – 人を信じるということ
映画『飛べない天使』でW主演を務めた福地桃子と青木柚に問う。
聡太郎と一緒に旅をすることで、救われている感覚が明確にあった(福地)
― 映画『飛べない天使』は2人の男女の不思議な逃避行を描いた作品でしたが、それぞれの役のどんな部分を大切に演じましたか?
福地桃子(以下、福地):普段私も東京で生活しているのですが、その場所での自分のペースというのがなんとなく馴染んでくる感覚もわかる気がしました。一歩外に出て誰かと触れ合った時、はじめて自分の状態に気づくことだってあるかもしれない。『飛べない天使』はそういう自分の日常の延長にある物語だと思ったので、(自身が演じた)優佳が出会う聡太郎との時間に集中したいなと思いました。
― 優佳と同じ年頃の女性はもちろん、年齢や性別に関わらず毎日頑張って働いている人たちが抱えている感情を広く受け止めてくれる役のように感じました。
福地:ありがとうございます。
― 青木さんが演じた聡太郎はどんな役でしたか?
青木柚(以下、青木):聡太郎はここじゃないどこかに行くパワーというか、何かを思い描くことに対するエネルギーがすごく強いなと感じました。最初は病院にいるので、どのくらい病院にいて、今はどれぐらい体が動くのか、そういったディテールについては堀井(綾香)監督とお話しして。そして映画ならではの、身体的に表現できる軽やかさは大切にしたいなと思っていました。
― 聡太郎は病人なのに活発というか。
青木:元気でしたね。長生きしそう(笑)。
福地:でも、とにかく薄着だったね。
― 撮影時は寒かったんですか?
青木:極寒でした。
福地:12月で、クリスマスもみんなで一緒に過ごしました。
― 2人の出会いもちょっと不思議で変ですよね。
福地:ずっと不思議ですよね。
― そもそも何が見知らぬ2人を引き寄せ合ったと思いますか?
青木:2人とも寂しさのようなものを抱えていて、そして信じることができる力を持っている。論理的じゃない出会いでも信じられる人同士であれば、結びつく瞬間があるんじゃないかなと個人的には思っています。
― 2人が会ったときに、優佳は聡太郎を拒絶しようと思えばできた。でも彼女にはその出会いを信じたい、そこから何かが変わるかもしれないという期待があったんでしょうね。
福地:それぞれが別の場所で違う生き方をしていて、みんな違った孤独の形がある。それでも聡太郎の言葉を信じてついていくのって、心のままに素直でいたいという気持ちなんだとだと思います。変化を求めていることに自分が気付き、聡太郎と一緒に旅をすることで、救われている感覚が明確にあったなと感じました。
― その素直さがないと、この物語も動き出さなかったですから。でも未知なるものを信じることって本当に難しいですよね。たとえば僕が、「青木さん今、良いマンションあるので見に行きましょう」みたいな話をしても当然信じられないじゃないですか。
青木:確かに。
― でもこの人の言葉は信じられる、こういう出会いなら信じられるってことがきっとあると思うんです。
青木:そうですね。たとえば何か議論が起きているときに、穏やかにその場を進めつつも、ちゃんと自分の意見はブレずに、ちょっとしたわがままさがあると、「この人は芯があるな」と信じられることはあります。
福地:私は相手のためにエネルギーを使える人はすごく素敵だなと思います。何かを感じ、伝えるというのは、リスクも体力もすごくいる事ですが、それでも伝えてくれたことなら受け取りたいと思う。それはお互いのことをすごく思い合っている時間だから、考える前に伝わってくるものなのかなと思います。
― そういう思いは伝播して巡っていくから、すごく良いですね。
なりたい自分になっていくための段階を踏んでいきたい(青木)
― お2人は本作で初対面、初共演ですか?
福地:そうです。
― それぞれお互いに素敵だなと思うところがあれば教えてください。
青木:相手のいろんなものをちゃんと見たり聞いたりしてくれること。人の持つ世界に興味を持って関わってくれる一方で、自分自身は結構おもしろい世界をお持ちで。あと、言葉がすごく素敵だなといつも思います。やって欲しい、公式LINEみたいなの。
― どういうことでしょう?
青木:メールの文章も、なんだか心洗われるんですよね。みんな購読したほうが良い(笑)。
福地:柚くんに、「ラジオやったら良いのに」って言われたよね。
青木:「青木柚プロデュース」って銘打ってね。
福地:そう、冗談で「じゃあ一緒にやろうよ」みたいなことをしゃべってて。
青木:ラジオは絶対に向いてると思う。実現したら良いな。
福地:柚くんは現場にいて、相手によって何かが変わるということがない。本当に自然体で、自然にみんなをつないでくれるような人。今回はそれがすごく大きくて、チームの空気をとても良くしてくれました。
― なかなかやろうと思ってできることじゃないですよね。
福地:でもきっと、この人と会ったらこういう会話をしようとか、相手がいないところでも自然と相手のことを思って、生活しているからだと思うんです。
― 無意識のサービス精神みたいな。
福地:無意識のサービス精神ってすごく良い言葉。そうやって気を張らずに、場と心を和ませてくれていました。
― お二人の話を聞いていると、お互い信じられる人でもあるんだなと感じました。劇中には、「明日死ぬかもしれないのに、行きたいところへ行けないのは嫌だ」みたいなセリフもありましたが、お二人が心からやりたいことってなんでしょう?
福地:重みがあるね。
青木:でもそれを聞かれて「お芝居」って第一に出てこないな。
福地:普段、仕事をする上ではやりたいことをやれてる?
青木:仕事は自分がなりたい自分になっていくための段階を踏んでいきたいというのは共有できているから、変わらず一つずつ向き合っているけど、何か他に心からやりたい事がある気もする。
福地:川遊びとか? 私は川、大好き。
青木:それなら僕は緑道を作りたい。自分が生まれた土地に、長い散歩道があったので。あとは居心地の良い公園を作ってみたいな。
福地:すごくロマンがある話だね。
― 福地さんが心からやりたいことは川遊び?
福地:私の友人が20歳ぐらいのとき、あるお茶屋さんの店主に「1人行動ができない」という相談をしたら、「今度1人で富士山に登っておいで」と言われたんです。それで友人は1人で富士山に登って、山小屋に泊まって、朝日を見たという話をしてくれたことがあって。友人にとってはすごく勇気のいる事だっただろうなと想像して、いまでも心に残っています。1人で登ってみるのは、いつかやってみたいです。
青木:結局、山とか川とか公園とか、そんな話しかしてない(笑)。
Profile _ 福地桃子(ふくち・ももこ)
東京都出身。1997年生まれ。2019年、NHK連続テレビ小説「なつぞら」に夕見子役で出演して話題に。近年の主な出演作にドラマ「鎌倉殿の13人」「消しゴムをくれた女子を好きになった。」(22)「舞妓さんちのまかないさん」「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(23)、映画『あの日のオルガン』(19/平松恵美子監督)『サバカン SABAKAN』(22/金沢知樹監督)『あの娘は知らない』(22/井樫彩監督)など。2024年にはシス・カンパニー公演舞台「夫婦パラダイス」に出演。2024年に主人公・千尋役を務めた舞台『千と千尋の神隠し』は、2025年上海公演が決定している。
Instagram X
dress ¥130,900 / Takemaru (https://www.instagram.com/takemaru_official/), tops ¥35,200 / beautiful people (beautiful people Isetan Shinjuku Store 03-3352-1111)
Profile _ 青木柚(あおき・ゆず)
神奈川県出身。2001 年生まれ。16 年に『14 の夜』で映画デビュー。21 年公開の『うみべの女の子』で W 主演を務め、毎日映画コンク ールスポニチグランプリ新人賞にノミネート。 同年米映『MINAMATA-ミナマタ-』でジョニー・デップと共演。 『カムカムエヴリバディ』(NHK)、『モアザンワーズ/More Than Words』(Amazon Original)、『最高の教師』(NTV)でもその確かな演技が話題に。 主な出演作に、映画『はだかのゆめ』『神回』『まなみ 100%』『EVOL~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』『不死身ラヴァーズ』など。今後も話題作への出演が控えている。
Instagram
wearing:Blanc YM (TEENY RANCH 03-6812-9341)
Information
映画『飛べない天使』
2025年2月21日(金)より、UPLINK吉祥ほか全国順次公開
出演:福地桃子、青木柚、前原瑞樹、さいとうなり
監督・原案・編集:堀井綾香
©︎2023 Nuiavan
- Photography : Seita Marui
- Styling for Momoko Fukuchi : Kazuhide Umeda
- Hair&Make-up for Momoko Fukuchi : Moe Hikida
- Styling for Yuzu Aoki : Moyashi Nakamura
- Hair&Make-up for Yuzu Aoki : Toshiko Hachiro
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)