髙石あかり – 今も俳優を夢見て
映画単独初主演となる最新の出演作『ゴーストキラー』への向き合い方や演じることへの思い、そしてクランクインを控えたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』への意気込みまで、躍進を続ける髙石の現在地に迫る。
「本当にやれるのかな」と不安も大きかった
― 『ゴーストキラー』は髙石さんにとって初となる単独主演映画ということで、これまでと意識の違いはありましたか?
撮影中は全く違いを感じることはなかったです。長く一緒にやってきた撮影スタッフの皆さんが近くにいてくださって、そのひとりひとりがすごい熱量を持ち寄っていて。だから私が何かをまとめる必要もなく、なんなら私が支えてもらったぐらい(笑)。でも試写の3日ぐらい前から急にそわそわしだして。
― 作品が完成してから。
はい。急に怖さが出てきて。これまでほとんどプレッシャーを感じたことがなかったので、本当に不思議な感覚でした。
だから試写を観る前に、監督から「自信があります」という言葉を聞けたことがすごくうれしくかったです。実際に観始めたら序盤から引き込まれて、自分が抱えていた不安なんてどうでもよくなって、いち観客としてただただ楽しめました。
単独主演として引っ張っていこうということではなく、今は一人でも多くの方に知っていただけるように自分にできることを精一杯やろうと思っています。
― 本作では、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズでアクション監督を務めた園村健介さんが監督を、監督を務めた阪元裕吾さんが脚本を担っていますが、その他のスタッフも同じ顔ぶれだったのでしょうか?
カメラマンさんなど一緒の方も多かったです。ただ、いつものスタッフという安心感がありながら、そこに新たな方が加わってくださったことで、私も別の作品として入ることができました。両方で良い面があったなと思います。
― どんなところに『ベイビーわるきゅーれ』との大きな違いを感じましたか?
主人公が「殺す」ということをどう捉えているのかが全く異なるので、観てくださる方の感情移入の仕方が違ってくると思います。『ベイビーわるきゅーれ』では殺し屋のちさととまひろの2人を視聴者の方は客観的に観ることになりますが、『ゴーストキラー』では(自身が演じる)ふみかが視聴者目線で存在できるなと。ふみかには恐怖という感情がしっかりあったうえで、そこから一歩踏み出そうとします。もちろん話の内容も全然違うので、また違う作品として好きになってもらえたらうれしいです。
― ふみかは普通の大学生でありながら、元殺し屋の男・工藤に取り憑かれ、身体の中に2つのキャラクターが共存することになります。ふみかと工藤の人格が頻繁に切り替わる特殊な芝居でしたが、難しさはなかったですか?
難しさしかなかったです(笑)。
― ですよね。
台本を見てめちゃくちゃ楽しそうで、ふみかを演じたいと強く思った一方、「本当にやれるのかな」と不安も大きかったです。どうにか違うように見せるのかなとも思っていたんですけど、本読み(台本の読み合わせ)に行って、やっぱり私が1人でやるのかと。
― たとえば眼球の色が変わるなど、見た目の変化があれば「あ、切り替わったな」とわかるんですけどね。目に見える変化はないのに、今どっちの人格なのかちゃんと伝わってくるのがすごいなと思いました。2つの人格を演じ分けるために意識したことはありますか?
2人の差を見せるために何が一番大事かを考えたら、心だなと。まずは工藤という人間を入れるしかないと思ったので、工藤になって動いてみたり、しゃべってみたり、自分の中の工藤を試行錯誤しながら作っていきました。
でもそれだけで、工藤とふみかを交互にやったときに違いを表現できるかといったら難しくて、「この言葉と次の言葉が違うように見せるためにはふみかの声をもうちょっと上げておかなきゃ」とか、「こっちの工藤は下げなきゃ」とか、一言一言を緻密に詰めていきました。それプラス、感情の流れやアクションも組み合わせていって。
― テクニカルなことをやっていますよね。
でも技術だけで、感情を失ったら全く見せられないものになっちゃう。だから本番はそれを全て忘れて、そのときに感じたままにやろうとしていました。
園村さんの期待を超えたいという感情が膨らんでいく
― 園村監督とは付き合いも長いですが、どんな方でしょうか?
めちゃくちゃやさしいです。それこそアクション部は常に危険と隣合わせだから、安全な場を整えるためにも厳しい方が多いんですけど。
― 俳優さんたちを守るためにも、強い言葉を口にすることもあるでしょうね。
そうです。でも園村さんのそんな姿は見たことがなくて。すごく不思議なんです。
そして園村さんは人をすごく信じることができるから、全員が園村さんを好きになっちゃう。園村さんが私を信頼して、ハードルが高いことでも「1回やってみてください」と提案してくださることが、めちゃくちゃうれしくて。信じるって言葉はあるけど、本当に信じられる人ってなかなかいないですよね。そういう信頼を感じられるからこそ、園村さんが想像するものに近づけたい、園村さんの期待を超えたいという感情が膨らんでいくんです。
― 信頼を元にした関係性が素敵ですね。『ベイビーわるきゅーれ』のアクションシーンでは「殺しに行け」とよく言われたとおっしゃっていましたが、本作で記憶に残っている演出はありますか?
今回は、『ベイビーわるきゅーれ』との差別化について、監督と常に考えていました。キャラクターも似ていることころがあるので、本読みでも「ちさとから離れましょう」「ちさとに寄りましょう」という調整をずっとやっていて。でも作品に入ったらもう全然、ふみかとして生きられていたと思います。
― アクションの見どころは? 身体を張ったシーンも多かったですね。
アクションの量も、今までとは比べ物にならなくて。とうとう自分も何かを持ってアクションさせてもらえるんだという喜びもありました。
バーでのシーンが、私の中で一番長いアクションになるんですけど、そこはふみかと工藤を交互に出しながらのアクションということもあって、めちゃくちゃ大変で、パンクしちゃって。パンクすると、脳が一切動かなくなっちゃうんですよ。
― 脳の回路がうまく繋げなくなるような。
そういう感覚も初めてだったので、すごく良い経験でした。濃いシーンだったな。
― ふみかと工藤ではアクションも異なりますか?
そうですね。手の握り方は、(工藤を演じる)三元(雅芸)さんに教えていただきました。あとは肩を掴む手なども、自分の中では違いを意識しました。
― 映画にちなんで、これをやらなきゃ死んでも死にきれないってことはありますか?
いったん親孝行して、宮崎に家を建ててから死にたいなと。
― すばらしい。
父と母に夢を聞いて、約束したので。ここまで育てていただきましたし、2人の夢は叶えたいなという気持ちはあります。
― もし志半ばで倒れたら、工藤みたいに化けて出てくださいね(笑)。
化けて取り憑きます(笑)。
ゴールがないから走っていける
― 昨年は『ベイビーわるきゅーれ』の映画とドラマで旋風を起こし、他にも多くの映画に出演されるなど飛躍の1年だったと思うんですけど、年明けからはドラマ『御上先生』『アポロの歌』、映画『遺書、公開』『ゴーストキラー』とさらに加速し、極めつけはNHK連続テレビ小説『ばけばけ』への出演も決まりました。なんかもう、すごくないですか?
すごいです。信じられないです。
― 忙しいですよね?
忙しすぎるってほどではないですよ。
― 忙しいのは平気ですか? 自分の時間は取りにくいと思いますが。
平気なタイプなのかもしれません。
― お芝居は変わらず楽しいですか?
めちゃくちゃ。何よりも好きです。
― どんなところが?
正解がないところでしょうか。自分が追い求める芝居というのも何かはわからないし、自分の中でこれが正解だと思えることもないんだろうな、きっと。お手本がないからこそ自分で作っていくしかなくて、自分が演じたものが勝手に正解になるというか、作品になるわけで、それが楽しいんだろうなと思います。
― 本当に果てのない仕事ですよね、そう考えると。
ずいぶん前なんですけど、初めて俳優・髙石あかりという文字を見たときに、自分の中ですごくモヤモヤしたんです。ずっと憧れていた二文字だったんですけど、それが達成しちゃったと思ってから、ずっとモヤモヤしていて。
たぶん私はゴールがないものが好きなのかもしれません。だからずっと夢って追いかけていれば良い。今でも夢は俳優だし、小さい頃から夢見ていた朝ドラヒロインですが、それも今でも夢だと思っています。そう思うことで、私はずっと走っていけるので。
― 朝ドラ、びっくりしました。手応えはあったんですか?
朝ドラのオーディションは『ばけばけ』で3回目だったんですが、これまでの2回は全部最終で落ちていて。ありがたいんですけど、私は小学校のときから朝ドラヒロインが一番の夢だったので、かなりワクワクふわふわした感覚でオーディションを受けていました。
でも今回、オーディションの3次審査でスタッフの皆さんとお会いしたときにあまりにも素敵な人たちで、この人たちとどうしてもお仕事を一緒にしたいと思って。最終審査のときも受かるとか受からないとか考えずに、ただこの人たちと今一瞬でもお芝居の場をともに過ごせていることだけに集中しようと思っていたので、手応えは分かりませんでした。
― スタッフの方と一緒に仕事がしたいと思えるのって、たぶん自分がそこに立つことがリアルに想像できているんですよね。遠い世界だと思っていたら、そんな考えに至らないので。もうすぐクランクインで、これから撮影が1年近く続きますが、今はどんな心境ですか?
楽しみです。まわりの方々から「大変だよ」という声をすごく聞くんですけど、聞けば聞くほど楽しみで。怖さがどんどんなくなっていっている気がします。『ばけばけ』のヒロインが決まったときから、ずっと早く早くと思っていたので、ワクワクが増幅しています。
― では最後にまた『ゴーストキラー』に戻って、これからご覧になる方へのメッセージで締めていただけますか?
日々生きていたら、鬱憤も溜まるじゃないですか。そんな方はきっと、主人公のふみかと共感できる部分もあると思いますし、たくさん発散できるものもあると思います。気軽に映画館に足を運んでいただいて、アクションに没頭していただけたらうれしいです。
Profile _ 髙石あかり(たかいし・あかり)
2002年12月19日生まれ、宮崎県出身。19年より俳優活動を本格的にスタート。20年に映画『ベイビーわるきゅーれ』で主演を務め話題となり、映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ、映画『わたしの幸せな結婚』などの演技が評価され、23年第15回TAMA映画賞の最優秀新進女優賞を受賞。 近年の主な出演作品には、アニメ映画『きみの色』(24/監督:山田尚子)、映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる』(24/監督:小林啓一)、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ(21~24/監督:阪元裕吾)、『スマホを落としただけなのに~最終章~ファイナルハッキングゲーム』(24/監督:中田秀夫)、『私にふさわしいホテル』(24/監督:堤幸彦)などがある。25年1月期日曜劇場「御上先生」(TBS)「アポロの歌」(MBS/TBS)にレギュラー出演したほか、アニメ映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』(5/1)、映画『夏の砂の上』(7/4)に公開が控えるほか、秋放送予定のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)でのヒロイン役が決定している。
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clothes and accessories:AKIKOAOKI / Vendome Aoyama / Kengo Kuma + MA,YU
Information
映画『ゴーストキラー』
2025年4月11日(金)より、新宿バルト9他全国順次公開
出演:髙石あかり、黒羽麻璃央、井上想良、東野絢香、川本直弘、アベラヒデノブ、倉冨なおと、木部 哲、一ノ瀬竜、本宮泰風、山口祥行、舘 昌美、北代高士、中澤達也、本田広登、川﨑健太、三元雅芸
監督・アクション監督:園村健介
脚本:阪元裕吾
音楽:森野宣彦
Ⓒ2024「ゴーストキラー」製作委員会
- Photography : Yoshitake Hamanaka
- Styling : Kenshi Kaneda
- Hair&Make-up : Aya Sumimoto
- Edit&Text : Yusuke Takayama(QUI)