山田杏奈 – 自分の“好き”を貫く
映画『山女』で主人公の凛を演じた山田杏奈へのインタビュー。
凛のような環境にいたら私は耐えられない
― 映画『山女』のお話を受けたとき、どのような気持ちでしたか?
日本の昔の話を描くという題材がすごく面白いと思いましたし、どういう世界観になるんだろうかととても興味が湧きました。自分がそこに生きている人としてちゃんと存在できるのかという不安もありつつ楽しみでした。
― 凛という一人の女性を演じるにあたって、どんなところを大切にされましたか?
凜は過酷な環境にいるんですけど、芯の部分では折れない人。そういう凜のなかにある、折れない部分とか達観しながらも諦めない部分が彼女の魅力になるといいなと思って演じていきました。
― 村を出て山で過ごしていくうちに、凜の心が少しずつ解放されていく表情や佇まいが印象に残りました。凛にとっての山のように、山田さんにも解放される場所はありますか?
自分らしくいられる場所でいうと、家族と過ごしているときです。自分を取り繕わずに自然体でいられるという意味では、実家にいるときだったり、家族と話しているときだったりしますね。
― ひとりでいるときよりも開放を感じられる?
そうだと思います。東京にひとりでいるときも自由ですけど、家族がいる家にいるときとはまたちょっと違うんです。家族といるとホッとするし、自分のことをわかってくれているという安心感があります。凛とは逆ですね。
― その落ち着く感覚って、家族と離れたからこそ気付けたんですか?
よくある話ですが、実家にいたときは、あまり家族のありがたみに気付けていませんでした。でも、家族と離れて新しい自分の居場所ができたことで、実家で自由に過ごしていたことに気付きました。
― 凛の家族のなかでの役割や立ち振る舞いを見て、苦しいと思うと同時に“そうしてしまう”ことが少しわかってしまう感覚もありました。山田さん自身は、女性であることで枷や役割を感じることはありますか?
気付かないうちにそう感じてしまうことはあるかもしれません。たとえばお酒の席で空いているグラスを見て「頼みます?」と聞くことが女性の仕事のように感じてしまったり。もちろん男性でもやる方はいるんですけど。
凛の場合は、家にいるときは女の人に求められる役割をこなすことが全てで、彼女個人としての存在、凛が凛自身でいられる時間はなかったんですよね。
― だからこそ、山で過ごす時間のなかに大きな気付きがあったんでしょうね。
そうですね。山に行ったことで初めて凜らしくいられるというか。自分のことに時間を使えるし、自分だけでいられるということが心地よかったんじゃないかなって思います。
― 改めて、自分らしくいられるってすごく大切なことですね。
男性だから女性だからとかではなく、「絶対にやらなくてはならない」「こうしなくちゃいけない」と、いつの間にか自分の役割になってしまうことで苦しくなることってあると思うんです。
― そういうことって、社会生活のさまざまな場面で起こりますよね。
日々を過ごすなかで当たり前になっている、無償の労働ってすごく大変だなって思います。仕事とは別のところで、そういう些細なことが重なってくるとストレスになってしまう。なので、凛のような環境にいたらきっと私は耐えられないと思います。
自分の幸せのために生きるって素敵だと思う
― 凜が山で出会う、山男を演じた森山未來さんの存在が素晴らしかったです。今回ご一緒してみていかがでしたか?
森山さんはずっと山男でいらっしゃって、すごく野性的で、大きな動物がいるような。森山さんが山男を演じているというよりも、山男そのものが森山さんという感じでした。山でのシーンでは、そんな森山さんの姿にすごく引っ張っていただきました。
― 一方で、村には父親役の永瀬正敏さんという強い存在もいました。
永瀬さんは厳しいお父さんの役だったんですけど、永瀬さん自身はとても優しい方で。ああいう役だったからこそ、撮影のときも「大丈夫?」「なんかごめんね」ってすごく気にしてくださって、本当にありがたかったです。小さなことにもすごく気にかけてくださって、役以外のところでも本当に助けられました。
― 映画『山女』で凛を演じたことで、山田さん自身に何か変化はありましたか?
自分の幸せのために生きるって素敵だなって思うようになりました。彼女は山に入って、自分の役割を捨てて、山で幸せを見つけて。一度また村に行くんですけど、また山へと戻っていく。その形が凛にとってのハッピーエンドだったと思うんです。村には弟もいるんですけど、最終的には周りのためではなく、自分のために生きることを選ぶ。その姿をすごくかっこいいなと思いましたし、誰でもそういう生き方を選べるようになればいいなと。
― 自分らしく、自分のために生きられるように、何か心がけていることはありますか?
私もわりと揺らぎがちではあるんです。でも最近は、自分の好きな部分はなるべく変えたくない、ということをちゃんと意識していたいと思うようになりました。無意識に気を使って、気付いたら自分が好きだったところまで、「あれ……?」みたいになってしまうこともあるので。もっと真っ直ぐな人間だったはずなのになって。誰といても、どういう環境でも、「私はこういう人間です」という部分をちゃんと持っていたいなと思っています。
― その感覚、とても大切ですよね。揺らぐことも必要ではありますが、揺らいでもちゃんと残っている部分というか。
あと、私は基本的にひとりでいることが好きなので、家にひとりでいる時間も大事にしていたいです。友達と会うのが続いたときは、すごく楽しいんですけど、無意識のうちに疲れてしまうこともある。2日か3日くらい家にひとりでいる時間を挟むことで、いいバランスが保てるような気がしています。最近は、自分が自分だけでやりたいことと、誰かと一緒にやりたいことが見えてきている感じがあります。
― では最後に。本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。
テレビなどのモニターで観ても映像の凄さは伝わると思うのですが、映画館で観たらどれだけ美しいだろうと思う作品なので、ぜひ映画館で観て欲しいです。
Profile _ 山田杏奈(やまだ・あんな)
2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。2011年『ちゃおガール☆2011 オーディション』でグランプリを受賞しデビュー。2018年『ミスミソウ』で映画初主演。2019年『小さな恋のうた』第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。その後数多くの映画・ドラマに出演する。2022年は、ドラマ「未来への10カウント」「17才の帝国」「新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~」「早朝始発の殺風景」等、話題作に多数出演、また初の舞台作品となる「夏の砂の上」へ出演を果たした。
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Information
映画『山女』
2023年6月30日(金)ユーロスペース、シネスイッチ銀座、7月1日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次公開
出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋、白川和子、品川徹、でんでん、永瀬正敏
監督:福永壮志
脚本:福永壮志、長田育恵
©YAMAONNA FILM COMMITTEE
- Photography : Madoka Shibazaki
- Styling : Ayano Nakai
- Hair&Make-up : Fumi Suganaga(Lila)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)