安藤サクラ – 感覚を濁らせない
最新の主演映画『BAD LANDS バッド・ランズ』で、特殊詐欺を生業とする女性・煉梨(ネリ)を演じる安藤サクラに話を聞いた。
ファンタジーの世界だと受け止めてほしくなかった
― 映画『BAD LANDS バッド・ランズ』は大阪が舞台ですが、大阪の街や人、言葉などの力が大きな役割を果たしているように感じました。安藤さんは「まんぷく」の撮影時にも1年ほど大阪に住まれていたそうですが、大阪に対してどういった印象を持っていますか?
大阪が持っている文化やそこから生まれる人柄は独特ですよね。大阪に行くといつも、すごく良いエネルギーをもらえます。今回も西成で実際に暮らされている方々に出演していただいたんですけど、撮影時に彼らの生き方に触れて、最高じゃんって。音楽が鳴れば飲んで歌って、嫌なことがあったら避けてゆく。彼らと一緒の時間を過ごしたときに、これが正しい生き方なのかなって思いました。
― 本能に蓋をしていないような。
怒っていることも多いですしね(笑)。それでも彼らの人柄にすごく魅力を感じます。
― 今回安藤さんが演じた煉梨(ネリ)はダークヒーローともいえるような存在でしたが、彼女をどういう人間だと捉えて、どのように演じましたか?
脚本のところどころに感じた、ネリの根本的なやさしさは核となるものだと思いました。あと、(原田眞人)監督に最初にお会いしたときに伝えたのは、私はネリをできる限り印象の薄い主人公として演じたいということ。映画を観終わった人に、ネリがキャラクターとして記憶に残るのではなく、彼女の存在が心に残るような主人公でいてほしかったんです。
― ネリのキャラクターを立たせすぎないように。それはなぜでしょう?
なぜなら他の登場人物のキャラクターもしっかり濃く描かれているし、実際に西成に行くとそこにいる方々が本当にもう、キャラが濃いなんてもんじゃないくらい濃いんですよ(笑)。それは私たちが日常生活を送っていたら触れることのない世界なんだけど、作品を観てくれた方にファンタジーの世界だと受け止めてほしくはなくて。彼らの温度や呼吸がきちんと伝わるように演じたいなと思いました。アクションシーンにまでそれぞれの人間性が出ていて、そこは演じていて非常に楽しい部分でした。
― スタイリッシュすぎないというか、ナマっぽいというか。
そうですね。私はこの映画を、彼らの日常生活の中での戦いにしたかったんですよね。
役と「出会えたな」って思えたときに武者震いする
― 「生き抜く」ということも、作品のテーマになっているように感じました。ネリたちほどじゃなくても、今の世の中を生き抜いていくことは誰にとってもハードですけど、どうすればより良く生きていけると思いますか?
私自身は、自分のすべての変化に乗りながら、「これだ」と思ったことに従うようにしているし、「これだ」って思える自分の感覚を濁らせないように日々気をつけています。
― 自分の勘や直感を信じている?
信じています。逆に、私自身の頭で考えることをまったく信用していないので。
― 頭で判断してるんじゃないんですね。
頭で判断したことをチョイスすると、本当に私はバカだなと思うことがたくさんあるので。私自身の感覚……それは自分自身というよりも、自分を取り巻くもののほうが信頼できるという感覚かもしれません。
たとえばなにか決めなきゃいけないというとき、そのタイミングの天気とか、みんなの意見とか、頼りにしています。
― では最後に、本作に出演して得たものについてお聞かせください。
オファーをいただいたのがすごく急なお話だったので、瞬時に決断しなきゃいけなかったんですよね。
― やるかやらないか?
うん。それこそさっきまでの話と同じで、決めなきゃいけなくて。私にとって原田組はすごくハードルの高いチームで、だけどこの作品は今挑戦すべき作品なんじゃないかと腹をくくって飛び込みました。
― ご自身の直感を信じて。
でも、実際やってみたらものすごく楽しくて。今回のネリっていう役は、「出会えたな」って思えたんですね。たまにあるんですよ、そういう役が。
― それは当たり役という意味とは違ってですよね。
人が観てすごい良かったねとかじゃなくて、自分の中でなにかが起きて、そういうときに武者震いするんですよね。不思議なもので。そういう役にまだ出会えるんだということがワクワクしました。得たものを一言では表せないですけど、本当にやって良かったなと感じています。
― ぜひみなさんも劇場でネリと出会ってほしいですね。
ネリたちは基本的に犯罪を犯しているんですけど、その善悪を問うというようなことではなく、彼らの生き様を観ていただけたら良いなというふうに思います。
Profile _ 安藤サクラ(あんどう・さくら)
1986年2月18日生まれ、東京都出身。2007年に奥田瑛二監督作『風の外側』で女優デビュー。映画『百円の恋』(14)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞ほか数々の賞を受賞し、『万引き家族』(18)で自身二度目となる日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。さらに、映画『ある男』(22)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞に輝くなど映画、ドラマなど映像作品を中心に第一線で活躍。主な出演作は、NHK連続テレビ小説「まんぷく」(18-19)、ドラマ「ブラッシュアップライフ」(23/NTV)、映画『0.5ミリ』(14)、『白河夜船』(15)、『追憶』(17)、『怪物』(23)などがある。公開待機作に映画映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23年10月13日)、映画『ゴジラ-1.0』(11月3日)、『屋根裏のラジャー』(12月15日)が控える。
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cardigan ¥173,800・tank-top ¥51,700・pants ¥149,600・pumps ¥122,100 / STELLA McCARTNEY (STELLA McCARTNEY Customer service 03-4579-6139), double ring ¥95,700・signature ring ¥105,600・ear cuff ¥67,100 / Charlotte Chesnais (EDSTRÖM OFFICE 03-6427-5901)
Information
映画『BAD LANDS バッド・ランズ』
大ヒット公開中
出演:安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、吉原光夫、大場泰正、淵上泰史、縄田かのん、前田航基、鴨鈴女、山村憲之介、田原靖子、山田蟲男、伊藤公一、福重友、齋賀正和、杉林健生、永島知洋、サリngROCK、天童よしみ、江口のりこ、宇崎竜童
監督・脚本・プロデュース:原田眞人
原作:黒川博行『勁草』(徳間文庫)
音楽:土屋玲子
©2023「BAD LANDS」製作委員会
- Photography : Kisshomaru Shimamura
- Styling : Megumi Yoshida
- Hair&Make-up : kanako hoshino(shinryokudan)
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)