『米国音楽』小林達夫×山口まゆ – 映画とはなにか?
『米国音楽』の監督・小林達夫と、俳優・山口まゆが向き合う映画の可能性、そして世代観について話を聞いた。
映画は、映画史の中にあるから映画だと思う(小林)
― 『Sleepless/米国音楽』を拝見させていただいて、そもそも映画とはなんだろうという根源的な疑問が頭に浮びました。漠然とした質問ですが、小林監督は映画をどのようなものだと捉えていますか?
小林達夫(以下、小林):僕は、映画史の中にあるから映画だと思っています。なぜ映像という現象を映画だと思うのか、それは観る人が映画の体験を重ねてきたからではないでしょうか。どんな作品にもこれまでの映画史が含まれていて、これからの映画につながっていくように感じています。
― 作品が映画の歴史の中に存在することで、映画としての性格を帯びてくるということでしょうか。山口さんは映画にどんなイメージが?
山口まゆ(以下、山口):最近、自分の人生にとって映画というものがとても大事なものだと気づいたんです。映画を観ることによって、いろんな感情を解放しているんだなって。お芝居の勉強のために映画を観るのでなく、自分の素直な感情に合わせて作品を選んで、娯楽として楽しむことが増えました。
― 演劇や小説、テレビドラマなどと異なる、映画の強みはなんでしょう?
山口:小説やドラマよりも短い時間であること、映像的、技術的なおもしろさがは、映画にはあるんじゃないかなと。
― たしかに映画は長くても2〜3時間で、表現の幅も広く、新しい刺激や気づきが得られますよね。『米国音楽』はさらに短くて28分の作品ですが、小林監督は短編映画の良さとはなんだと思いますか?
小林:なにを描くのか、作り手の個性が出やすくなることでしょうか。たとえば2時間だと持たないようなテーマだったり、実験的なことを試せたり。
山口:自由度が高くて、いろいろチャレンジしやすいんですね。
小林:そうなんです。
― 先ほど小林監督は映画史の中に映画があるとおっしゃられていましたが、日本映画として新しい世代の波を感じることはありますか?
小林:僕が映画を始めたときは、まだ雑誌媒体が主流で、映画の批評がアクセスしやすい場所にあったんです。でも今は、映画に関する世代やカテゴリがどういう状況になっているか見えにくくなってきているのかなと。10人集まったら半分ぐらいが同じものを見ているということが今はないので。
― それはよくないことでしょうか?
小林:そんなことはなくて、一つひとつの作品が伝えているものはあるので。ただ、たとえばヌーヴェル・ヴァーグだったりロマンポルノだったり、そういったカテゴライズが生まれにくい中で、どういうふうにお客さんが映画を捉えていくのか、そのひとつに“SHINPA”や“シネマ・スプリット”がなれると良いなと思っています。
― “SHINPA”は二宮健監督を中心とした映画上映企画ですね。今回新たに立ち上げた、短編映画を2本立てで上映する“シネマ・スプリット”という企画は小林監督が発案を?
小林:はい、二宮監督と相談して。レコードのA面とB面で別々のアーティストの曲が入っているスプリット盤というのがあったんですね。それで昔、ナンバリングと穴だけ開いているジャケットのスプリット盤を出しているレーベルがあって、誰が入っているかわからないけど絶対かっこいいから、そのレコードを見つけたらみんなが買っていて。
そういうふうに、シネマ・スプリットに行ったら、1時間ちょっとでおもしろい体験ができると思ってもらえるようになると良いなと。今回体験してもらって、継続して観に来てもらえる人が1人でもいたら嬉しいです。
― シネマ・スプリットとして鑑賞したときに、2本の作品に化学反応を感じましたか?
小林:劇場では『米国音楽』『Sleepless』の順で上映するんですけど、『米国音楽』でアメリカの音楽や文化への憧れを話していて、次に『Sleepless』では仲万美さんがダンサーとしてアメリカで活動した話が来る。日本から見たアメリカの夢と、日本からアメリカに行った実際の話、2つは全く別の話なんですけど、続けて観ると興味深く感じました。
直感で感じたものや、自分の経験を生かして表現したい(山口)
― 俳優の中でも「新しい世代」という意識はありますか?
山口:私は、大学で映画を専門とする学科に通っていて、卒業制作で15分の短編を作ったんです。私が参加した作品はこれまで読んだことがないようなおもしろい脚本で、きっとこういうものを生み出してくれる人たちが「新しい世代」になっていくんじゃないかなと思いました。
小林:観てみたいです。製作も楽しかった?
山口:みんなと意見交換をしながら、映画をつくるのって楽しいなと。製作から関わると、作品への思い入れが強くなるんです。卒業制作を一緒に作った同級生とは、またどこかの現場で一緒にやれたらいいなという思いはありますね。
小林:現場でご一緒する俳優さんと、世代間のギャップを感じることはないですか?
山口:ほとんど感じることはありません。私はメソッドがあんまり好きじゃなくて、直感で表現したい、自分の経験を生かして演技したいという気持ちがあって。もちろん基礎も必要ですけど、上の世代にはそこをより重視する方が多い印象はあります。
― 同世代だと、直感を重視したいという俳優が多い気がしますか?
山口:多いかもしれないです。自分たちが置かれている状況でどれだけ最大限に発揮できるか、それ以上はないというか。だから私は、演技について勉強するよりも人生を豊かにするほうが表現って広がるのかなと思います。
小林:話が逸れるかもしれませんが、僕の習っていた先生がカメラマンをされている方で、いろいろ考えてカメラを置くより、直感で置いたほうがお客さんの感情に近いということに気づいたとおっしゃっていて。お客さんも情報がない中で観るので、設計を考えるよりも、今たしかに感じたものが大切だと。その話はちょっと通じるなと思いました。
山口:そうですね。難しいことでもありますね。
― 小林監督は俳優への演出でどういったことを重視していますか?
小林:自分が想定していることや、やってほしいことに近づけるときもありますが、まずはその俳優がどのようにやりたいのかを1回見たいなと思っていて。具体的な指示よりも、本人の中で考える余白がある言葉を大切にしています。自覚はないんですけど、僕は相手によって言うことが違うみたいで、セッションに近いのかもしれません。
― 山口さんは監督から演出を受ける側として求めたいところは?
山口:自分が脚本を読んで、わからなかったところをちゃんと話したいです。不器用なので、納得してからじゃないと演技ができなくて。あとはこういうことを見せたいから、その役割を担ってほしいと言われたほうが私は飲み込みやすい気がします。
― 『米国音楽』の脚本を読んだときの感想はいかがでしたか?
山口:会話のシーンがすごく印象的でした。それこそ自分の経験でわかるなという感覚もあって、やってみたいなと思いました。小林監督がCDを題材にしたのはなぜですか?
小林:過去に2作、『After Hours』と『Tiny Mix Tapes』という作品で、それぞれレコードとカセットをモチーフにした短編を撮っていて、いつかCDをモチーフに撮りたかったんです。デジタルが主流になってからもレコードやカセットが好きな人は今でも買いますが、CDはちょっと片身が狭いというか、なかったことになっている気がしてて。CDでしか生まれなかった時代の空気を感じさせる物語がつくれたら良いなと思っていました。
― 作品の序盤はドキュメンタリーなのかなと思わされるほど、会話の内容にもリアリティがありました。脚本は小林監督が?
小林:そうですね。内容は大嘘です(笑)。ただ実際に、バンドのドキュメンタリーを音楽番組などで作っていたので、レコーディング風景やそこで話していたことを思い出しながら、ほとんど調べずに自分の中にあることで全部書きました。
― 山口さんはスタイリストの役でしたね。演じるうえで大切にしたことはありますか?
山口:みんなに合わせているようで、強い意思を持って自分から行動する、彼女のブレない部分を大事にしました。
小林:山口さんとは本当にずっとご一緒したかったんです。最初にお会いしたときは、たしか高校生でしたよね。
山口:そうでした。今22歳で、この3月で大学卒業です。
― では、よりいっそうお仕事に打ち込めますね。
山口:今年から仕事一本になってくるので、頑張らなきゃと思っています。
― お仕事で、やりがいを感じる瞬間はどういうときですか?
山口:最初に子役事務所にいたときは、お仕事というより、ずっと演技レッスンばかりしていました。でもそのレッスンの時間が一番好きだったんです。感情を発見していくことがすごく楽しくて。今はそれを生かせることができてきて、あの時のレッスンが無駄じゃなかったんだと思えますし、演じることがすごくおもしろいです。
― すごい。天職ですね。では最後にそれぞれ、10年後にどうなっていたいか、ビジョンがあれば教えていただきたいです。
山口:32歳ですよね。私は目標を決めることがすごく苦手で、現実と目標とのギャップを感じて頑張れなくなっちゃうんです。だから目の前にあるものに向き合って、もがいて、それが積み上がって10年後に形になっていたら嬉しいです。
小林:僕は今37歳なので47歳か。この2年ぐらい、他の監督の脚本を書いたり、その裏で自分の企画を進めたり、間に短編をつくったり、自分の中で新しいペースができてきたので、それを続けていければ良いなと思っています。
― 10年後、世界がどう変化しているのか想像もつきませんよね。これから映画はどうなっていくのでしょうか?
小林:今も配信の作品を映画監督が撮ったり、尺が伸びることで新しい側面が観れたり、そういう変化はありますよね。個人的には自分の時代で経験して、自分の興味があることをやっていくことが現代の映画のひとつになるのかなと思っています。自分が見てきたものの中でしかつくれないというのは、ある意味すごく古典的なところに立ち返っているのかもしれません。
Profile _ 小林達夫(こばやし・たつお)
1985年2月15日生まれ、京都府出身。映画監督・脚本家。2015年、時代劇映画『合葬』(15)で商業映画デビュー。第39回モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門に正式出品される。以降、テレビドラマ「昭和元禄落語心中」(18)や、ファッション・ブランド“el conductorH”のコレクションにて短編「Something in the Air」(21)を発表。 近作に脚本参加作品として、松永大司監督『Pure Japanese』(22)がある。
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Profile _ 山口まゆ(やまぐち・まゆ)
2000年11月20日生まれ、東京都出身。2014年『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』でドラマ初出演。2015年ドラマ『アイムホーム』で木村拓哉演じる主人公の義理の娘役に起用され、同年、ドラマ『コウノドリ』で中学2年生の妊婦役を演じて話題に。近作にドラマ『つまらない住宅地のすべての家』『女神の教室』、映画『樹海村』、『軍艦少年』、『真夜中乙女戦争』など。
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Information
映画『Sleepless/米国音楽』
2023年2月10日(金)より渋谷シネクイントにて1週間限定公開
各日20:50上映開始
【トークイベント詳細】
2月10日(金)田中宗一郎・二宮健監督・小林達夫監督
2月11日(土)篠原悠伸・山口まゆ・二宮健監督・小林達夫監督
2月12日(日)⻫藤陽一郎・伊島空・二宮健監督・小林達夫監督
2月13日(月)桜井ユキ・二宮健監督・小林達夫監督
2月14日(火)柳沢正史・二宮健監督・小林達夫監督
2月15日(水)大柴裕介・二宮健監督・小林達夫監督
2月16日(木)仲万美・二宮健監督・小林達夫監督
『Sleepless』
2021年/日本/40分/カラー/シネマスコープ
監督:二宮健
出演:桜井ユキ 松本穂香 仲万美 柳沢正史
『米国音楽』
2022年/日本/28分/カラー・B&W/ビスタ
監督・脚本:小林達夫
出演:篠原悠伸 山口まゆ 伊島空 嶺豪一 大社カリン 蒼葉える おかやまはじめ 斉藤陽一郎/大柴裕介
- Photography : Kenta Karima
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)