城田優 – 濁りのないエンターテインメントを
俳優・城田優が、20年にわたって途切れることなく取り組んできたミュージカルへの思いを中心に、クリエイションやファッションのことまでたっぷりと伺った。
ミュージカル界を変えたい
― 城田さんはドラマや映画だけでなく、ミュージカルの舞台でも活躍し続けていますよね。映像作品とは、演じる際の意識がだいぶ違うのでは?
圧倒的に違います。ミュージカルは、歌ったり踊ったり芝居したりと、必要とされる要素が多いです。比べられないとは思うのですが、僕は映像作品よりも難易度が高いと思います。
たとえば映像作品だったら、「うまくいかなかったから、もう1回」ってことができるんですけど、舞台で「もう1回お願いします」なんていうのは夢のまた夢。1〜2か月間、毎日どんな体調や精神状態であろうと、幕が上がったら降りるまでやり続けなければいけないというのは、精神的にも肉体的にもなかなかしんどいものです。
― しんどいのに、なぜやり続けているのでしょう?
なかなか自分にチャンスが回ってこなかった10代のころ、初めてミュージカルのオーディションで合格して。20歳過ぎからは映像作品にもちょこちょこ出られるようになったんですけど、ちょうど日本の芸能界が若手イケメン俳優ブームみたいなときだったんですよ。『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』や『ROOKIES』のような、多くの若手俳優が出演する作品が増えていく中で、僕にしかないものってなんだろうと。自分の容姿だけでなく、俳優として、エンターテイナーとしての武器というものを考えたときに、当時は映像とミュージカル両方のジャンルで活躍してる人ってあまりいなかったんです。
― 戦略的な面がかなり大きかったんですね。今もそうですか?
そうです。ミュージカルというジャンルにはとても魅力がありますし、演じていてもやりがいしかないんですけれども、歳を重ねていけばいくほど本当にしんどくなってくる。毎日、喉や体の筋肉を酷使して、歌い踊っているんですけど、30代後半ってアスリートだと引退の時期だと思うんです。若いころと比べると2回公演が本当にきついです。
インタビューで未来の展望をよく聞かれるんですけど、僕は毎回「わからない」と答えているんですね。俳優として絶対にやっていきたいというマインドは、実はもうなくて。ドラマに出るとか、歌番組に出演するとか、自分で作った曲をリリースするとか。ソロではないけれど横浜アリーナや東京ドームで歌う機会にも恵まれたので、どんな形であれ考えていた事はほぼやらせていただいたんです。その結果がどうだったかはさておき、自分が「絶対そこにたどり着いてやる」って思っていたことはだいたい叶っていて。それは皆様の応援とサポートのおかげなんですけど。
そういうこともあって、30歳前後からは裏方をやっているのも楽しいなと。今37歳で、もちろんやりたい役もまだたくさんあるけれど、もう二度と表の世界に出られなくなってもかまわないぐらいにはやりきりました。残された時間は自分が本当にやりたいものや、自分がゼロから作るものを具現化して、それをエンターテインメントとして提供していきたいという思いがあります。
― 歳を重ねることで心境の変化もあり、演出など制作側への気持ちが芽生えてきたんですね。
そうですね。たとえば今年の夏にやるミュージカル『ファントム』では、演出、主演ともう一役を演じるんです。
― めちゃくちゃしんどいじゃないですか(笑)。
めちゃくちゃしんどいです(笑)。僕の知っている限りでは、これをやっている人間はいない。
じゃあなんでやるのというと、ミュージカル界だったり、芸能界だったりが、変わっていったらいいなと。作品に出演することって狭き門なのに、狭き門に入ったらそれで終わりという感じが僕はしていて。売れたらそれを現状維持みたいな。みんな作品に臨むときに、ちょっとセーブしちゃってるところがあるんじゃないかなと。
だったら僕自身が絶対にセーブできない状況に自分を置くことで、他の俳優さんたちやクリエイターたちになにか刺激を与えたい。刺激がないと次の新しいことって生まれないですから。大きな風にはならないかもしれないけど、少しでも新しいエンタメが生まれるきっかけになれば良いなと思って。
― お芝居をすることでご自身が快感を得るよりも、自分の行動が次につながることに対して強い関心を持っているような。
そのほうが楽しいですね。何年か前に部屋を大掃除をしていたときに、『ROOKIES』のころの密着DVDが出てきたんですよ。懐かしいなと観てみたら、僕ら俳優なのに、代々木体育館が1万何千人で埋まってて、みんなペンライトを振ってくれていて、ひとりひとり登場するだけで「キャー」と会場が沸いて。
ありがたいことに、こうしてアイドルみたいに黄色い歓声を浴びるような快感も、ミュージカルやコンサートでいただく割れんばかりの拍手や歓声も、これまでたくさん経験させていただいたので、これからは自分が対象となる快感よりも、さまざまな経験を通して疑問を抱くようになったこの世界のルールや仕組みを少しずつでも変えていく取り組みをしたいんです。
だから自分が演出だったり主演だったりで関わる作品に関しては、ちょっとでも変えられればと奮闘しています。といってもなかなか変わらないですけど、こうやって発言していくことだけでも変わっていくきっかけにはなると信じてやっています。
― 城田さんのような思いを持っている人が、ミュージカルに限らず若い世代ではすごく増えているように感じます。
今の若い子たちってたくさんの情報に触れていて、みんなどんどん賢くなっていると思うんです。特にエンタメの世界においては志が高い人たちが増えているのかもしれません。
― 城田さんってエンタメが好きなんですか?
エンタメが好きですね。
― エンタメに対して絶望を感じている部分もあるのかなと思いつつ。
めちゃくちゃあります。
― 同時にエンタメを救いたいみたいな気持ちもある。
山崎育三郎と尾上松也と3人で「IMY」というプロジェクトを立ち上げて、3人でステージのプロデュースを行ったのですが、いろんなかたたちが携わっている以上100%濁りがないというわけにはいかないですよね。だけど、できるだけ高い純度で「これが俺が思うエンタメです、どうですか?」と挑戦していくことこそが大切だと思うんです。
― 俳優で、監督など制作側にも挑戦している人が増えているのもそういうことなんでしょうね。
僕が今やっているようなことを映像系でやっているのが山田孝之なんです。彼の呼びかけでいろんな若い子たちが映像を作って、映像を作ることで映画業界が盛り上がったり、それも同じような話ですよね。
― ちなみに舞台に立ったときは緊張しますか?
めちゃくちゃします。恥ずかしいという感情はないんですが、観に来たお客さんたちはこの1回1回が思い出になっちゃうので、失敗できないぞと。
― バッターボックスに立ち続けているような。
絶対ここで打たなきゃいけないという場面が毎回続くんですよ。プロ野球選手でさえ3割打てれば良いのに、我々はそれを限りなく10割にしなきゃいけないという地獄みたいな日々を過ごしていて。それに対してめちゃくちゃ緊張するんですよ、僕は。
― 幕が開く寸前まで?
幕が開いて、舞台上でもずっと心臓バクバクです。「いやー、楽しかった」と思えたことなんて、初舞台のときぐらいですよ。知恵熱も出るし、お腹も下るし、基本的にはボロボロです(笑)。
だからこそ、千秋楽のカーテンコールほど幸せな時間はありません。あの時間は本当に最高。すべての重圧から解き放たれるので。
― 舞台では失敗することもあると思いますが、気持ちはすぐに切り替えられますか?
いえ、ずっと引きずっちゃうんですよ。自分が演出するときには「もし舞台上で失敗してもすぐ切り替えて」みたいなことを言うんだけど、誰よりできていないのは自分。向いてないんですよ、本当に(笑)。
こんなショーは観たことがない
― 5月31日(木)、6月3日(土)、4日(日)には、ジャンポール・ゴルチエが手がけるミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』に日本公演スペシャルゲストとして出演されます。
実はまだ映像でしか観たことはないんですけど、カテゴライズできないジャンルなんですよ。僕の感覚的にはミュージカルではない。ファッションショーでもない。じゃあなんなのかというと『ファッション・フリーク・ショー』としか言いようがない。さっき話にあった、濁りが一切ないんです。計算され尽くした構成と台本っていうよりは、おもちゃ箱の中にゴルチエさんの好きなおもちゃがいっぱい入っていて、それを順番に取り出して見せているような。こんなショーは観たことがないですね。
ただ、「めちゃくちゃおもしろいからぜひ観てね」とおすすめするというよりは、「好きか嫌いか分かれるけど、俺はめちゃくちゃおもしろい」って言いかたになりますね。僕は見たことがないものに惹かれるので、ゴルチエさんの物語はぶっ飛んでて好きです。
― 城田さん自身がクリエイションをする際も、見たことがないということは指針になりますか?
もちろん見たことがないものを届けたいという思いはあるんですけど、それが目的でなく、自分の頭の中で生まれたものを作りたいんですよね。結果的に、それが誰もやってなかったら最高なんですけど。
役を作るときもそうなんですけど、誰かを参考にするってことはなるべくしたくなくて。基本的には頭の中から出てくるものを具現化したいという感覚です。
― 今回、『ファッション・フリーク・ショー』ではどんなシーンで登場するんでしょうか?
どこのタイミングでなにをするのか、なにも知らされてないんですよ。だけどそこもまたおもしろいなと思います。にしても、なにするんだろう(笑)。
― 舞台には立たれるんですよね。
もちろん(笑)。ゲストですから、立たないとね。
― Jean Paul Gaultierのオートクチュールを着て。
たぶんランウェイを歩くシーンで出るのかな?
― どこで登場するのかも見どころになるかもしれないですね。
先日、日本の関係者のかたたちに聞いても「我々もわかんないんです」って(笑)。
― Yohji Yamamotoのランウェイも歩かれていますが、これまでにウォーキングのレッスンを受けたことは?
自然に歩いてほしいとか、気だるく歩いてほしいとかリクエストにお応えはするんですけど、しっかりとしたレッスンを受けたことはないです。プロのモデルさんからしたらあまりよろしくない歩き方なのかもしれないですけど、俳優としてモデル役をやってるみたいな感じですよね。
― ゴルチエはファッションデザイナーとして、ジェンダーフリーなどのテーマをいち早く表現に取り入れていました。城田さんはクリエイターとして、そういったソーシャルイシューに関心を持っていますか?
もちろん。僕の場合は国籍とか、見た目とか、いわゆる血というものに対して、生まれた瞬間から逃げられない問題がありました。それで幼少期から何度も傷ついてきたり、芸能界でも仕事が決まらないのは見た目が理由だってことを直接言われたりもしました。だから多様性というものに対してはセンシティブに感じますし、一方で当事者だからこそそこまでやらなくても良いのではと思うこともあります。
今の時代は皆が平等だということが美しいとされて、それをポーズでやってる人間が多すぎると思うんです。自分が心からそう感じて動くのは良いけど、おしゃれだからとか、流行っているからとかって理由でやっているのは滑稽だなと。エンタメの話にもつながるんですけど、自分らの意志と誇りを持っていられるような生き方が良いですよね。
ファッションの楽しさを教えてくれたブランド
― ふだんのファッションについてもお聞かせください。
基本的にはあまり攻めていない、シンプルな服が多いかな。7〜8割はモノトーンですね。デザイン的には背が高いと丈が長い服が似合うと思うので、たくさん持っています。
― 身長は190cm ですよね。高身長で困ることもありますか?
めちゃくちゃ困りますよ。身長もさることながら、手足が異常に長いので、そもそも着られるサイズがなくて。
服を見てかわいいと思っても、9割ぐらいは小さいんです。だから今日の撮影のMVPは誰かというと、橘昌吾というスタイリスト。僕に合う洋服をこれだけ揃えるのってすごい大変なんですよ。
― サンプルでも小さいんですね。
そうなんです。ファッションに興味が出始めてからも、サイズがないからという理由で諦めざるをえないことが多くて。
― はたから見ていると、「城田さんは背が高くてなんでも似合うから、服を選ぶのが楽しそう」なんて皆さん思ってるんでしょうけど。
服を選ぶ楽しさは一番ないと思いますよ、僕が、日本で(笑)。
― ファッションを好きになった原体験はなんでしたか?
それがYohji Yamamotoなんです。10年ぐらい前に初めて袖を通したときに、「俺のサイズでこんなのがあるんだ」みたいな。ロング丈のシルエットもすごいかっこよくて、それからファッションが楽しめるようになりました。
今はオーバーサイズが主流になったおかげで、いろんなブランドの服が着れるようになりました。最近はスタイリストの昌吾の紹介でkujakuという素晴らしいブランドのデザイナー西坂拓馬さんと出会い、彼からBISHOOLという自分好みのブランドを教えていただき、この辺をヘビロテしています。他にはJULIUSとか、MIHARA YASUHIROとかちょっと大きめの服を作っているところに行くことが多いです。靴はサイズ展開がとても豊富で、サステナブルが売りのallbirsというブランドが気に入っています。
最近はそうやっていろんなブランドに足を運ぶようになって、いろいろ勉強しながら買っています。まだまだ190cmの人間には辛い世の中ですけど(笑)。
Profile _ 城田優(しろた・ゆう)
1985年12月26日生まれ。東京都出身。2003年に俳優デビュー。以降、テレビ、映画、舞台、音楽など幅広く活躍。主な出演作に、NHK連続朝のドラマ小説「カムカムエヴリバディ」(語り手)、Amazon Primeドラマ「エンジェルフライト~国際霊柩送還士~」、映画「コンフィデンスマンJP英雄編」等がある。7月開幕のミュージカル「ファントム」では、演出・主演に加えてもう一役を務めるという異例の三刀流に挑む。
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Information
ミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』
東京公演:2023年5⽉19⽇(⾦)〜6⽉4⽇(⽇)
東急シアターオーブ(渋⾕ヒカリエ11階)
⼤阪公演:2023年6⽉7⽇(⽔)〜6⽉11⽇(⽇)
フェスティバルホール
作・演出・⾐裳︓ジャンポール・ゴルチエ
キャスト:招聘来⽇カンパニーキャスト
⽇本公演スペシャルゲスト:江⼝拓也、城⽥優、中川勝就(OWV)、ナジャ・グランディーバ、七海ひろき、美弥るりか
※城田優スペシャル出演日程 5/31・6/3・6/4 その他の⽇本公演スペシャルゲストの日程はこちら
〈ジャンポール・ゴルチエが手がける、ミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』抽選で5名様を東京公演にご招待!〉
プレゼントキャンペーン:5月21日(日)締切
【応募方法】
1.インスタグラム「@qui_tokyo」をフォロー
2. ミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』抽選で5名様を東京公演にご招待!投稿にいいね
3.上記2つを満たした方は応募完了
当選連絡:ご当選者さまには、5月22日(月)にインスタグラムのDMにて当選連絡させていただきます。
QUIインスタグラムはこちら
- Photography : Kenta Karima
- Styling : Shogo Tachibana
- Hair : Akira Nagano
- Make-up : Kana Ohira
- Edit : Miwa Sato(QUI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)