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ART/DESIGN

写真展『One on One, Once and Only』から覗く、写真家・工藤 佑斗という人物

Nov 16, 2024
写真家の工藤佑斗による展示『One on One, Once and Only』が、2024年11月8日(土)から11月17日(日)まで開催。フィルムカメラでそのキャリアをスタートし、数々のブランドのヴィジュアルを手がける一方で、同じキャップを約5年間身につけるなど、独自のスタイルを持つ工藤佑斗とは一体どんな人物なのか。カメラに興味を持ったきっかけから、今回の展示に至るまで知られざる姿を取材した。

写真展『One on One, Once and Only』から覗く、写真家・工藤 佑斗という人物

Nov 16, 2024 - ART/DESIGN
写真家の工藤佑斗による展示『One on One, Once and Only』が、2024年11月8日(土)から11月17日(日)まで開催。フィルムカメラでそのキャリアをスタートし、数々のブランドのヴィジュアルを手がける一方で、同じキャップを約5年間身につけるなど、独自のスタイルを持つ工藤佑斗とは一体どんな人物なのか。カメラに興味を持ったきっかけから、今回の展示に至るまで知られざる姿を取材した。

今回の写真展では<NICENESS>の2024秋冬コレクションのルーツを辿るべく、チームとともに足を運んだアメリカでの約60名のポートレートやスライドプロジェクターによって映し出されるヴィジュアル写真が展示された。<NICENESS>の今シーズンのテーマは“Access to Crafts”と題され、60年代後半から70年代にかけて起こったムーブメントやカルチャーをいろんな角度から追うというもの。中でも1968年から1972年まで刊行された伝説的カタログ『Whole Earth Catalog』は2024秋冬コレクションと密接な関係を持つ。ほとんど同時期に開催された愛と平和、反戦を訴えた伝説的なフェス『ウッドストック・フェスティバル』やアンディ・ウォーホルが撮影したポートレート写真などもインスピレーション源とされ、現代的な解釈を加えながらもそのエッセンスが作品に如実に感じられた。

前シーズンのインドでのビジュアル撮影を契機に同ブランドとの親交を深めて行った工藤は、<NICENESS>との仕事を始めた当初から運命的な導きを感じていたという。
「インドというと好みがはっきり分かれる国として知られていると思いますが、実は元々インドにはすごく興味がありました。大学もインド哲学か写真を学ぶかで悩んだほどで、結局その時は写真の学校を選んでしまって。それから、大学入学後の海外旅行では「絶対インドでしょ」と思ってたんですけど、アメリカ同時多発テロが起こった翌年だったこともあり、インド便と同じ金額でニューヨークに行けたので、ここでもインドを選ぶことができませんでした。それから20年程経ち、もうこの人生ではインドに行くことはないだろう、と本気で諦めかけていた時にお声がけいただいたんです。」
と長年のインドへの深い愛情を語ってくれた。

※アメリカにて撮影された工藤さんの作品の一部。

続く、異国の地を巡る旅の行き先として選ばれたアメリカは「前回、一緒に撮影をしたこともあったのでお互いにやりたいことやできることが明確で、企画段階から<NICENESS>チームとともにプロジェクトを作り上げていくことができました。」と話し、アナログな素朴さと暖かさを感じるポートレート撮影が実現された。今回は新たな試みとして<NICENESS>の2024秋冬のアイテムを1着身につけてもらうことで洋服にリアリティと奥行きを与え、更には白い壁を背景に統一することで被写体一人ひとりの人間味が立体的に浮き彫りにされた。工藤のフィルターを通して写真に浮かび上がる、パーソナリティのようなものは常に意識されたものなのだろうか。作品に浮かぶ独自性に対して伺うと、「続けていたら勝手にそれが滲み出るものだと思っています。暗室で仕上げるという手法もそうですが、続けていったらスタイルが確立されるものだと思います。今日、被っているこの帽子も5年くらい毎日同じものを被っています(笑)。パンツも同じ形だけをずっと穿いているし、靴下も同じものを買い続けている。そういうこともオリジナリティに繋がっているんじゃないかなと。あとは自分で決めないこと。続けてたら周りの人が評価してくれるものだと思ってます。」

続けることが自らの作風につながると話してくれた、工藤の写真に対する好奇心は高校時代から変わらない。「中学生の頃に近所にスケートパークができて、よくみんなでスケボーをしていたんです。小さい大会とかにも出始めるようになって審査基準に疑問を持ち、高い技術を追求するのではなく、僕のスタイルを追求するようになっていきました。自分のスタイルを確認するために飛んでる瞬間をよく友人と撮りあっていて、その時に使っていたのが『ヒッパレー』と呼ばれるフィルムカメラでした。『ヒッパレー』はシャッターを押してから約1秒のラグがあって、そのタイミングを合わせるのが仲間内の中で一番得意で、ちょうど飛んでる瞬間を収めることができていたんです。学生時代は何か人よりも優れていることがあると、それに集中するように自然とカメラに夢中になっていきました。」

純粋にスケボーと写真を愛する少年心は今現在も持ち合わせていて、大きく影響を受けたモノを問われると「やっぱりスケボーがルーツにあるのでそれぞれのスタイルをみんなで撮り合うという行為には自然と惹かれるものがあって、スケボービデオをみて好きなライダーとかかっこいいスタイルの人をよくみてました。それと同時に、高校生の頃にラリー・クラークの映画『KIDS』を見てこんなのを映していいんだと衝撃を受けたことをきっかけに映画もよく見ますね。他にも写真集は月一冊以上は買うようにしていて、今日持ってきたエリック・グスタフソンの『A House of Clay』は暗室での作業の参考にしてます。」と話した。

デジタルが世の中に広く普及しているこの時代にアナログな手法とも取れる、フィルムカメラや暗室での作業を続ける理由には、もちろん彼のポリシーともとれる“続けること”だけに執着しているわけではない。「写真を仕事と思っていないので、好きなことが仕事になっている不思議な感覚です。毎回、撮った写真をプリントするんですけどフィルムで撮影すると現像、セレクト、プリント、デジタル化して納品するという過程があって、暗室の時に時間をかけて撮影した写真を見たときに“あれ、こんな風に撮ってたんだ”と自分で撮ったはずの写真が新鮮なものに映る瞬間があってそれがすごく面白いんです。」とピュアな心を躍らせていた。

こうしたフィルムカメラならではの運命に委ねる行為は<NICENESS>チームの心も揺さぶる。「デジタルがこれだけ浸透し、溢れている時代にアナログでそれらを凌駕するような作品を作れることに対して、まだ知らない表現があったんだとすごく衝撃的でした。今はビジュアル撮影していただいたものを、HPだったり自身のSNSを通じて発信していくことが大きな流れになってしまっていますが、“一つの作品を作家さんと一緒に作る”ということはブランドの魅力にも繋がっていると思っていて、そういった意味で工藤さんの暗室に入って現像したものをプリントするという過程を少しでも感じてもらえるように作品を実際に見たり触ってもらえるこうした機会へと繋がっていきました。」

自らのスタイルを貫く姿勢が作品の魅力に繋がっている中、本人はあくまで冷静な態度で自らを客観視している。「変えちゃいけないところもあるし、変わらなきゃいけないところもあると思っていてそこはしっかり見極めていきたい。」としながら新たな挑戦にも、思いを馳せているようで今後もこのようなイベント等で活動を発信していきたいと語ってくれた。

『One on One, Once and Only』 by Yuto Kudo and NICENESS
日程:11月8日(金)-11月17日(日)
時間:11:00–19:00(最終入場18:30)
会場:ELIGHT Inc. Showroom
東京都港区赤坂8-5-40 PEGASUS AOYAMA 260
入場:無料/予約制
※本写真展は完全アポイント制のため、こちらのURLから予約の上来場できる。
予約URL:https://www.niceness.jp/event/24aw_photoexhibition/

NEWS
写真家の工藤 佑斗による写真展『One on One, Once and Only』を開催
Nov 07, 2024
  • Photograph : Kaito Chiba

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