国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき」レポート – “瞬間”の風景にこだわり続けたモネが魅せられた睡蓮の魅力
今回は「モネ 睡蓮のとき」の様子をレポート。刻々と変わる風景を切り取ったモネの魅力が詰まった展覧会だ。気になる方は、ぜひ足を運んでみてほしい。
マルモッタン・モネ美術館より約50点が来日! 全4章で睡蓮の魅力を深掘り
「モネ 睡蓮のとき」には、さまざまな見どころがある。まずは「晩年の制作に焦点を当てている」という点だ。
モネはキャリアを通して、象徴的な作品がいくつもある画家である。印象派の由来となった《印象・日の出》や、ジャポニズムに影響を受けた作品など、さまざまな代表作が存在する。
そんななか、晩年は「睡蓮」に集中していた。モネを取り扱った展覧会はいくつもあるが、この展覧会では睡蓮にフォーカスすることで、その魅力を深く解説している。
また、世界最大級のモネ作品を持つ「マルモッタン・モネ美術館」から、日本初公開作品7点を含む約50点の作品が来日している。なかなか見られない貴重な作品も多くあり、モネが描いた絶妙な色合いや構図の作品をリアルで体験できることも魅力だ。
1~2章:「睡蓮」のはじまりから、植物の装飾画
第1章「セーヌ河から睡蓮の池へ」は、1890年代のクロード・モネの創作の移り変わりに焦点を当てている。もともと池に浮かぶ睡蓮を描く前から、モネは水面を描くことに興味を持ち、セーヌ川などをよく描いていた。
クロード・モネ 《ポール=ヴィレのセーヌ河、ばら色の効果》
1894年 油彩/カンヴァス 52.5×92.4 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet
1897年 油彩/カンヴァス 91×93 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
(エフリュシ・ド・ロチルド邸、サン=ジャン=キャップ=フェラより寄託)
© musée Marmottan Monet /
Studio Christian Baraja SLB
モネはジヴェルニーの庭の睡蓮を描くようになり、1897年からその制作を始めたとされている。この章では、モネの視点が水面に引き寄せられ、彼が庭の景色を描くようになるまでの様子が描かれている。
その後、第2章「水と花々の装飾」は、クロード・モネが晩年に取り組んだ「装飾画」の構想について取り上げる。モネはジヴェルニーの庭で育てた多種多様な植物をモティーフにし、池を中心に花々や太鼓橋を描いた装飾作品の制作を計画した。
クロード・モネ 《キスゲ》
1914-1917年頃 油彩/カンヴァス 150×140.5 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet
クロード・モネ 《藤》
1919-1920年頃 油彩/カンヴァス 各100×300 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
(上) © musée Marmottan Monet
(下) © musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB
当初は池の周囲に咲く花々を取り入れた装飾画を構想していたが、最終的には花のモティーフを取り除き、池の水面とその反映だけを描くことに集中した。
これにより装飾画の構想は視覚的な装飾から、より抽象的で大規模な「水の風景」へと変化した。この章では、モネの睡蓮に対する情熱、美意識、そして装飾画への熱意が明らかになる。
3~4章:大装飾画の制作と、白内障と闘いながら描いた作品群
第3章「大装飾画への道」では、クロード・モネが晩年に追い求めた大装飾画の制作過程の作品が展示されている。モネはオランジュリー美術館の楕円形の部屋を、睡蓮の大装飾画で覆うという計画を立てていた。
クロード・モネ 《睡蓮》
1914-1917年頃
油彩/カンヴァス 130×150 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
クロード・モネ 《睡蓮》
1916-1919年頃 油彩/カンヴァス 150×197 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
モネは「睡蓮の池」を描いた巨大なパネルを楕円形の部屋の壁面に配置するという壮大な計画を立て、1914年以降、この大装飾画の制作に取り組んだ。このために巨大なアトリエを新たに建設したほど、彼が熱量を持って挑んだ仕事である。
この時期の作品は巨大で、長辺は2mに及び、それまでの作品に比べて4倍以上の面積を持つ作品群が生み出された。これらの作品は圧倒的な迫力を持ち、現地では楕円形の部屋が再現されており、実際にモネが願っていた場所に立っているような感覚を味わうことができる。
クロード・モネ《睡》1916年 油彩/カンヴァス 200.5×201cm 国立西洋美術館(松方コレクション)
その後の第4章「交響する色彩」は、クロード・モネの晩年における色彩の変化と創作意欲について描いている。
モネは視力の悪化や白内障の影響を受けながらも、衰えることのない制作への情熱を持ち続けた。視力が悪化した際には色を判別することが難しく、パレットの場所に頼って制作していたほどである。そのため、この時期の作品はモネの作品にしては珍しく、激しい色使いが表れている。
クロード・モネ 《睡蓮の池》
1918-1919年頃 油彩/カンヴァス 73×105 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet
クロード・モネ 《日本の橋》
1918年 油彩/カンヴァス 100×200 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet
特に1918年以降には「水の庭」の池に架かる日本風の太鼓橋や枝垂れ柳を描いた独立した小型連作を制作した。この激しい筆遣いは、後の抽象表現主義にも影響を与えた。
クロード・モネ 《枝垂れ柳》
1918-1919年頃
油彩/カンヴァス 100×120 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet
100年以上経っても人の心を癒すモネの睡蓮
この作品ではモネが晩年に考えていた大装飾画に的を絞って展示されている。モネはオランジュリー美術館での大装飾画を通して「安らかに瞑想できる空間」をつくることを考えていた。
今回、現地で作品を見て真っ先に感じたのは、まさに「癒し」である。画面に広がる水の反射や空気のモヤを見て、当時のジヴェルニーの季節や天候を想像しながらゆったりと過ごす空間は、落ち着いていて安らかな気持ちにさせてくれる。
一方で巨大な作品や激しい筆致を見ると、迫力を感じられる。なかでも、エピローグ「さかさまの世界」として展示されている作品は、静かでありながら迫ってくるものがある。
クロード・モネ 《睡蓮》
1916-1919年頃
油彩/カンヴァス 200×180 cm
マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB
水面に映る景色と実際の植物の境界が曖昧になっている様子は、まさに混沌としていて哲学的である。水面の風景を極めた画家が至った境地を感じ取ることができる。
気持ちが落ち着いたり、当時のジヴェルニーを想像したり、モネの気持ちを感じたり……さまざまな楽しみ方ができる展覧会だ。2025年2月11日まで国立西洋美術館で開催され、その後は京都市京セラ美術館、豊田市美術館を巡回する予定なので、ぜひ足を運んでほしい。
モネ 睡蓮のとき
会場:国立西洋美術館[東京・上野公園]
住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
会期:2024年10月5日[土]-2025年2月11日[火・祝]
時間:9:30 〜 17:30(金・土曜日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、 12月28日[土]-2025年1月1日[水・祝]、1月14日[火](ただし、2025年1月13日[月・祝]、 2月10日[月]、2月11日[火・祝]は開館)
公式サイト
以下の記事ではモネの生涯を追いつつ、その魅力を解説している。こちらもあわせて、ぜひご覧いただきたい。
▼クロード・モネ|今月の画家紹介
- Text : ジュウ・ショ
- Edit : Seiko Inomata(QUI)