アーティストユニット magma – “ズレ”から生まれた新たな「おとぎ話」
誰もが知る「おとぎ話」からのギャップで生まれる面白さ
QUI:とてもカラフルで楽しい空間ですが、今回は「おとぎ話」をテーマにした展覧会なんですね。
宮澤:はい。例えばこちらのライオンと少女、銀色の顔のロボットと、かかしの4体は、「オズの魔法使い」をイメージした作品です。おとぎ話の代表的な作品で、それぞれのキャラクターの見た目の色や個性の違いも面白いと思い、本展のキービジュアルにも選びました。
QUI:素材はどんなものを使っているんですか?
宮澤:金のライオンはFRP(強化プラスチック)、ブリキのロボは銀色を表現していますが、台座は木製、顔はプラスチックです。ぬいぐるみやソフビを使った作品もあります。すべて廃材を組み合わせて制作しています。
QUI:意外な素材が組み合わされ、まったく違ったイメージになっていて面白いです。今回、「おとぎ話」をテーマにしたのはなぜでしょうか?
杉山:白雪姫のような誰もが知っている話も、時代を経て人から人へと受け継がれて行く中でジェスチャーゲームみたいに崩れていっているんですよね。そんな感覚を作品に取り入れてみました。
白雪姫の魔女の毒リンゴ自身が命を持ったりとか、白雪姫自身の頭がリンゴになっちゃったりとか。別の話を思い浮かばせてしまうような、ズレを表現してみたいと思いました。誰もが知っているものが、それとは少し違ったものになる…そのギャップに面白さを感じています。
QUI:ステートメントの中では、おとぎ話は「現代社会の価値観を写す鏡」とも書かれていましたね。
杉山:おとぎ話は昔から語り継がれているものですが、ひとつの話を調べていくと「残酷すぎるからやめよう」とか、その時代ごとの価値観で編集されて今に至っているんです。時代とともに「こう伝えるべきではない」と改変されたり、また元に戻されたり。現代的な思想が根っこになって物語が作られてきました。
QUI:先ほど「ジェスチャーゲーム」に例えられていましたが、まさに時代の価値観にあわせるかたちで作り変えられてしまうんですね。今回の展示作品も、そういった「現代の思想」を反映しているのでしょうか?
杉山:そういった点では、作品の中に表れる「現代感」というのは、自分たちが今作りたいものを作るっていう感じですね。今の社会情勢を盛り込むというよりは、今、自分たちの中にある感覚を表現したいという思いが強いかもしれないです。
廃材や既製品の価値をずらして「素材を超える」
QUI:「magma」というユニット名の由来は?
宮澤:大学時代、5人で「ボンバーズ」というグループを組んで展示をしていて、その後2人で活動するようになった際、同様に沸騰系の言葉で、海外の人にも分かりやすい名前にしました。
QUI:2人で活動されるようになったきっかけは?
宮澤:2人とも「好きな感覚」が近いんだと思います。物が好きだったり、服や靴が好きだったり、おもちゃが好きだったり…
QUI:物やおもちゃが好きだというのは、作品からも伝わってくるようです。作品の素材とする「廃材」は、普段から集められているのでしょうか?
宮澤:普段から色々なものをコレクションしています。大切にしていた物を数年経ってから作品に使うこともあります。それらは、リサイクルショップやネットオークションで買うこともあれば、人から譲り受けることもありますね。
QUI:さまざまな素材がありますが、宮澤さんが特に好きなものはどのようなものでしょうか?
宮澤:人の家にあった物とか、ネットにも出ていないような、今買えない何だかわからないような不思議な物が好きですね。今は画像検索ってあるじゃないですか。とても便利なんですけれど、あれで探してもどんな物と物で組み合わせているかわからないようにしたく、「通」な素材でつくりたい、という気持ちはありますね。
QUI:確かに、展示されている作品も、元は何かわからないものばかりです。あのライオンも、元は廃材なんですか?
宮澤:あれは遊具だったんですよ。元々は下半身もあって、とあるお店の看板役として置かれていたんです。お店の方に売ってください!と何度も頼み込みに行って。5回目ぐらいにやっと買わせていただきました。表面を補修したり、色などは塗り直しています。
QUI:遊具だなんて、全然気づかないですね…!杉山さんは、どういったものを集めて制作に使われていますか?
杉山:僕は逆に「誰もが知っているもの」を使ってしまおうと割り切っている時もあります。一方で、けっこう高価なものや、レアなものも簡単に作品に使ってしまったりします。例えば、先ほど紹介した白雪姫のリンゴも、実はヴィンテージのおもちゃなんです。
QUI:こうして聞いてみると、どの素材も元々の価値というのは見ただけでは分かりませんね。
宮澤:僕らは大学では同じゼミだったんですけども、ゼミの教授に「100均で材料を買ってもいいけれど、それが100均のものだって分からないようにしてくれ」と言われたことがあるんです。とても単純なことですが、そこからつながっているのかもしれません。よく見ればその素材が分かるんですけれど、そう見えないように作るというか…「素材を超える」ものをつくりたいという気持ちはありますね。
QUI:廃材を使うようになったきっかけはなんでしょうか?
杉山:リサイクルショップでは、本来なら3万円くらいするものが500円くらいで売られていたりします。もし、それをゼロから自分たちで作ったら、もっと時間やコストがかかってしまいますよね。それならば、ゼロから作ることにこだわるよりも、活用できるものは活用して自分たちがつくりたいものをより早く形にできたらいいんじゃないかと思ったんです。
QUI:先ほど宮澤さんからも「素材を超える」というお話がありましたが、そのようにもともとモノが持っていた機能や形を活かしながら、手を加えることで別の価値・意味へと変換しているんですね。
「廃材」を活用し「ユニット」で制作するからこそ生まれた発想
QUI:制作では分担などあるのでしょうか?
杉山:特に分担はなく、2人で相談しながら、それぞれで作品を仕上げています。
QUI:話しているうちに構想が変わることもあるのでしょうか?
宮澤:ありますね。「こっちの方がいいかな」と話し合いながら作っています。素材として使う廃材の選択によっても変化していきます。
杉山:例えば、こちらのトイレをモチーフにした作品は、最初は「Boo」というお化けのキャラクターを活かして、怪談のイメージを表現しようとしていました。でも、途中で「トイレ」という素材が見つかって、「Boo」と「トイレ」を一緒に使ったら面白いんじゃないかと組み合わせてみたり、マリア像の布がお化けの布をかぶったイメージに重なって見えたので組み合わせたり…と、作りながら変化していきました。
QUI:連想ゲームみたいですね。素材との偶然の出会いが、作品の変化や発想につながるんですね。
宮澤:あちらに展示している「美女と野獣」の作品もそうですね。あれは「美女と野獣」の野獣をモチーフに、美女がいなくなって、アクセサリーと野獣だけが残された様子を表現しています。あの野獣の模型は、もとから片方の角がなかったんですよ。そういったことも、やはり、自分ではなかなか発想しない。角を別のパーツで補完しようかとも思ったんですけれど、アシンメトリーの方が造形的に面白い感じがしたので、それをそのまま活かして作品にしました。手に入れたものをもとに発想したものですね。
QUI:そんな「偶然性」も、廃材の魅力なんですね。
場所とともに生きるアートへ
QUI:以前の個展のでQUIがお話をうかがった際、「パブリックアートに挑戦したい」と仰っていました。今年、エキュート秋葉原に、magmaさんによる什器や案内サインとなる作品が設置されましたね。パブリックアートに近い作品かと思ったのですが、実際に制作されていかがでしたか?
エキュート秋葉原 設置作品(一部) / Photo by Kenya Chiba
宮澤:今回は小さい作品ではありますが、パブリックアートについて考えました。
以前、ラジオを聞いていたときに「場所は生きている」というような言葉を耳にしたんです。確かに、人が使っている場所と使ってない場所は違いがあるなと思って。例えば、家も、人が住んでいる家と、住んでない家では何か違いますよね。特に野外の作品なんかでは、新品の状態も良いですけれど、 太陽の塔みたいに年月が経って経年変化していきながら、場所に馴染んでいく感じが、空間も含めて存在感が増していくと思ったりしました。
QUI:だんだんその風景の一部になっていく感じですかね?
宮澤:例えばハチ公みたいに、その場所にその作品がある意味があるようになったらいいなと思います。
でも、パブリックアートで待ち合わせ場所になるような作品っていうのは、相当インパクトがあるものだと思うんですよね。どこから見ても分かるもので、それにはやっぱりサイズも必要だったりすると思います。今後、国内でパブリックアートを制作する予定なので、そんなものをつくっていきたいと思っています。
QUI:どんな作品ができるのか、楽しみです。ありがとうございました。
magma
杉山純と宮澤謙一によるアーティストユニット。
廃材や樹脂、電動器具などを組み合わせ創りだす独自の世界観で、作品制作にとどまらず家具やプロダクト、空間演出ディレクション・制作まで幅広く手がける。どこか懐かしさを覚えるアナログ感とクレイジーな色彩が融合した作品群は、国内外から注目を集めている。
Instagram:@magma.jp
magma 個展「OTOGIBANASHI BEYOND」
会期:2025年4月26日(土)~5月14日(水)
時間:11:00~19:00 ※最終日のみ18:00閉場
定休日:月曜日
会場:銀座 蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARY
協力:CEKAI Management Corp
入場:無料
特集ページ
- Text : ぷらいまり。
- Photograph : Junto Tamai
- Edit : Seiko Inomata(QUI)