SOMARTAがThe Met収蔵の快挙、廣川玉枝が追求する“第二の皮膚”の価値
The Metのコスチューム・インスティテュートは、ファッションを文化表現として保存・研究してきた場所である。世界のファッション史を保存するアーカイブとしても知られている。今回、そのコレクションに加わるのが、日本で20年近く“第二の皮膚”を追求し続けてきた<SOMARTA>だ。
展示・収蔵されるのは、ブランドを象徴する無縫製ニット「Skin Series」。2006年から開発が続けられてきたシリーズであり、“第二の皮膚”とも呼ばれてきた。
なぜ今、<SOMARTA>のSkin SeriesはThe Metに選ばれたのだろうか。その背景には、衣服と身体の関係性を問い続けてきた、廣川玉枝の一貫した姿勢がある。
SOMARTAのThe Met収蔵はどうして快挙なのか
©︎SOMA DESIGN
SOMARTA Skin Series Tribal-SOMA Bijou(手前左)/ Tribal-RABI Bijou(手前右), 2014 photo: Nobuyuki Hayashi
The Metのコスチューム・インスティテュートは、ファッションを文化表現として保存・研究してきた場所である。世界のファッション史を保存するアーカイブとしても知られている。アレキサンダー・マックイーン、マルタン・マルジェラなど、ファッション史に大きな影響を与えてきたデザイナーたちの作品がここに収蔵されてきた。日本人では、三宅一生、川久保玲、山本耀司、森英恵らの作品もコレクションに加えられている。
今回<SOMARTA>がそのアーカイブに加わる意味は大きい。廣川玉枝は、身体と衣服の関係性をテーマに、無縫製ニット「Skin Series」を生み出してきた。The Metが評価したのは、廣川が20年近く続けてきた身体への探究だった。今回の収蔵によって、その取り組みはファッション史における重要な表現として位置づけられたと言える。
廣川玉枝が20年追求してきた、“第二の皮膚”の凄み
「Costume Art」展にて作品(上5点)のそばに立つデザイナー廣川玉枝
©︎SOMA DESIGN
SOMARTA Skin Series ATLAS Ⅲ, 2026 photo: SOMA DESIGN
<SOMARTA(ソマルタ)>は、デザイナー廣川玉枝が2006年に立ち上げた日本のブランドだ。廣川は文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、イッセイ ミヤケに入社。その後、自身のデザインスタジオ「SOMA DESIGN」を設立し、<SOMARTA>をスタートさせた。
廣川の活動はファッションの領域にとどまらない。SOMA DESIGNとして、グラフィック、空間、プロダクト、舞台衣装なども手がけてきた。Canon、TOYOTA、YAMAHA MOTOR DESIGN、SHISEIDO THE GINZAなどとのプロジェクトにも携わり、身体を取り巻く体験そのものをデザインしてきたクリエイターでもある。
<SOMARTA>で廣川玉枝が一貫して向き合ってきたのは、「衣服は人の身体とどう関係できるのか」という問いだった。その探究を象徴するのが、ブランドを代表する「Skin Series」である。2006年から開発が続く「Skin Series」は、“第二の皮膚”とも呼ばれてきた。最大の特徴は、縫い目のない無縫製ニットにある。人体に合わせて360度シームレスに編み立てられたニットは、身体に沿うようにフィットし、動きに合わせて伸縮する。実際に作品を見ると、衣服と身体の境界が曖昧になる。筋肉や骨格の流れを思わせる模様が身体に沿って配置され、皮膚の上にもうひとつの皮膚が重なるような印象を生み出している。
今回The Metに収蔵される《Skin series Atlas III》も、人間の筋肉の流れをテーマにした作品だ。通常は皮膚の内側にある筋肉を編み模様として可視化し、人体に宿る有機的な美しさを浮かび上がらせている。
©︎SOMA DESIGN
SOMARTA Skin Series Tribal-SOMA Bijou(L)/ Tribal-RABI Bijou(R), 2014 photo: SINYA KEITA (ROLLUPstudio.)
廣川の特徴は、先端技術と手仕事をひとつの作品の中で融合させている点にもある。
たとえば《Tribal-SOMA Bijou》《Tribal-RABI Bijou》では、タトゥーを思わせる編み模様の上に、ビーズやスパンコールが手刺繍で施されている。精密なデジタルニットと、職人によるクラフトワークがひとつの作品の中で共存している。
<SOMARTA>は、「衣服は身体をどう拡張できるのか」という問いを軸に、身体、工芸、テクノロジー、装飾文化を探究してきた。そこに、ブランドの独自性が光る。
人の身体や感覚をより豊かに表現する研究こそが価値
©︎SOMA DESIGN
SOMARTA Skin Series ATLAS Ⅲ, 2026 photo: SOMA DESIGN
今回The Metが評価したのは、廣川玉枝が20年近く続けてきた「身体についての研究」だった。《Skin series Atlas III》には、5色の“皮膚”が存在する。廣川は以前から、多様な身体や肌の色を作品に取り入れてきた。近年のファッション業界では、「どのような身体を美しいと捉えるのか」という価値観が大きく変化している。肌の色、年齢、性別、体型。それぞれ異なる身体を尊重する視点が広がる中で、<SOMARTA>が長年向き合ってきたテーマは、今の時代が求める感覚とも重なっている。
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SOMARTA Skin Series ATLAS, 2018 photo: SINYA KEITA (ROLLUPstudio.)
AIやデジタル技術によって、身体を介さずに表現が生まれる時代になった今、「身体を通して人間をどう表現するのか」という問いが、改めて重要になっている。美術館やアート機関で近年、「身体性」や「手仕事」の価値が再び注目されている背景にも、そうした時代の空気がある。
このような背景も後押しとなり、廣川が続けてきた表現は、いま国際的にも大きな注目を集めている。
The Metコスチューム・インスティテュートのキュレーター、アンドリュー・ボルトンは、廣川について次のようにコメントしている。
「彼女の作品は、“身体”というテーマを象徴的に表現するだけでなく、最先端技術を駆使することで、ファッションという工芸表現の可能性そのものを拡張しています。さらに特筆すべきは、アクセシビリティや多様性といった現代的な視点を、作品の中に自然に取り込んでいる点です。緻密に構築されたコンセプトと卓越した技術的独創性を高次元で融合できる、極めて稀有なデザイナーだと感じています。」
テクノロジーを使いながら、人の身体や感覚をより豊かに表現するという姿勢が、The Metの評価につながった。
廣川は今回の展示・収蔵に際し、次のようにコメントしている。
「この度、世界を代表する美術館である、ニューヨークのメトロポリタン美術館において、作品が展示・収蔵されることとなりましたこと、心より光栄に、そして深い喜びを感じております。衣服は身体とともに存在し、人の記憶や時間に寄り添いながら生き続けるものだと考えております。今回の収蔵を通して、私どもの作品が時代を越えて受け継がれ、未来の多くの方々の目に触れる機会を得られることを、大きな意義として受け止めております。この機会に深く感謝申し上げるとともに、今後も衣服の可能性を探究し続けていきたいと思います」
この言葉の通り、<SOMARTA>の衣服には、「身体に寄り添う」という思想が一貫して流れている。The Metが収蔵したのは、一着のニット作品にとどまらない。廣川玉枝が20年近く積み重ねてきた、「人間の身体をどう見つめるか」という探究そのものだ。
そして今、その“第二の皮膚”は、世界有数の美術館で未来へと受け継がれていく。
メトロポリタン美術館 コスチューム・インスティテュート特別展「Costume Art」
展示内容:The Metに新設される「Condé M. Nast Galleries」の開設を記念して開催される特別展。
一般公開:2026年5月10日から2027年1月10日までを予定
ウェブサイト:https://www.metmuseum.org/ja/exhibitions/costume-art
SOMARTA
ウェブサイト:http://www.somarta.jp/
インスタグラム:https://www.instagram.com/tamaehirokawa/