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ART/DESIGN

杉本浩介/Kosuke Sugimotoがシューツリーで表現する「劣化の正当化」

Aug 30, 2022
スニーカーと苔の出会いから生まれた2つの反比例による「劣化の正当化」とは?
履けなくなったスニーカーを鉢代わりにして植物を飾るアートピース「シューツリー/SHOETREE」で、国内外から注目を集めるクリエイター、杉本浩介/Kosuke Sugimotoへのインタビュー。

杉本浩介/Kosuke Sugimotoがシューツリーで表現する「劣化の正当化」

Aug 30, 2022 - ART/DESIGN
スニーカーと苔の出会いから生まれた2つの反比例による「劣化の正当化」とは?
履けなくなったスニーカーを鉢代わりにして植物を飾るアートピース「シューツリー/SHOETREE」で、国内外から注目を集めるクリエイター、杉本浩介/Kosuke Sugimotoへのインタビュー。

シューツリーは、アートより編集に近い

― 杉本さんはいまおいくつですか?

1985年生まれの37歳です。

― 出身は?

渋谷区の恵比寿です。

― 都会ですね。場所柄さまざまなカルチャーに触れてきていると思うんですが、どういったことに大きな影響を受けましたか?

特別これっていうのはないんですけど、あえて言えば「出会い」ですかね。たとえばレゲエをやっている人が周りにいて。レゲエってすごくリリースのサイクルが早くて、毎週新曲みたいな感じなんです。そのスピード感がいいなと思って自分の作品制作に取り入れたり。直接的な表現じゃない部分で影響を受けることは多いと思います。

― カルチャーの情報自体を得ようとするというよりは、実際にだれかと会ってそこから得たものに反応する。

世代的なところもあるかもしれませんが、僕は基本的になんにも興味がなくて無気力というか。向上心もそんなにないし。だからこそ、人でもモノでもサービスでも、実際に会ったり使ったりすることで、ふとした瞬間に「ここいいな」って学ぶことが多いです。

― アーティスト活動を始めたのはいつですか?

2016年末です。シューツリーを作り出して間もないぐらいで『HYPEBEAST』が取り上げてくれて。それで認知されて、そのまま今に至るって感じです。ハネもせず、下がりもせず(笑)。

― シューツリーという表現が生まれたきっかけは?

『人志松本のゾッとする話』ってわかります?『すべらない話』のスピンオフみたいなTV番組で、みんなが怖い話をするんです。そこに、ほっしゃんっていう芸人さんが出ていて。

― うどんの。

そうそう。彼が「ハムスターのチッチ」っていう話をして。飼っていたハムスターが死んで庭に埋めたら、ハムスターがほっぺに貯めていたひまわりの種から芽が出てきて、日当たりのいい場所に植え替えてあげようと掘り起こしたら、がっつりハムスターからひまわりが生えていたって話なんですけど、それを聞いてこれは形になるなと思って。

― 意外なところからインスピレーションを。それ以前からアーティストとして食べていきたいなと思っていたんですか?

いや、そもそも自分がアーティストとだというのは意識したことがないんです。アーティストだと言ったほうが都合のいいときだけ、そういうことにしています(笑)。個人的にはアートというよりは、大きいジャンルの編集だと捉えています。

 

これまでの経験が作品に結実している

― シューツリーの一番の魅力ってどういうところだと思いますか?

一般的に建造物などで苔が生えている状態って劣化した状態だと思うんですが、その苔でスニーカーの劣化した部分の保護を担うという反比例。もうひとつが、水分が原因でだめになるスニーカーに、水分を最も必要とする植物を掛け合わせるという反比例。2つの反比例が合わさっていることがポイントだと思っています。

― 確かにそう考えるとおもしろみがありますね。

とはいえ基本的に解釈は観る方におまかせしていますが。

― 作品のファンにはどういった方が多いですか?

スニーカー好きの男性ですね。中でも同世代の方が一番多いかもしれません。

― スニーカーファンから、このスニーカーで作って欲しいというリクエストもありそうですね。

ありますけど、オーダーはお受けしてないんです。

― 作品はすべてナイキで揃えていますが、こだわりが?

オーダーを受けないので自分の在庫を展示することがほとんどなんですが、そうするとナイキだけで事足りるし、その方が潔くてかっこいいなと。それにこれから先はわからないですけど、現時点だと履けなくなったスニーカーを箱に入れてとっておくのってナイキ以外だとほとんどないんですよね。あとは単純に自分で履くのも7割ぐらいナイキなので。

― どういったスニーカーと出会えると興奮しますか?

やっぱり知らないモデルが来るとテンション上がります。なにこれ、どうやって売ってたの?みたいな。今じゃ考えられないデザインがあるんですよね。

― スニーカーの加工だけでなく、そこにグリーンを入れることで作品として完成していると思うんですが、グリーンのセレクトはどのように?

僕は昔、花屋さんで仕入れとかやってたんで、わりと得意な方なんです。

― 植物のプロとして働いてたんですね。

花屋とアパレルが半々ぐらいです。

― キャリアがそのまま作品に結実している感じですね。

職歴の集合体というか、経験によるアウトプットだと思います。

― 最近ではシューツリーだけでなく、苔し(こけし)やジュエリーなど表現の幅も広がっています。

表現の幅を広げているというより、グッズ展開ですね。バンドTみたいな。シューツリーのグッズが苔しで、苔しのグッズがジュエリーなんです。

― その展開の考え方もアパレルっぽい。

そうですね。それも出会いっていうか、縁があってやっています。無理やり何かを作り出すことはありません。

CAPITULUM RING

 

工夫が見られると、テンションが上がる

― アーティストとしては初期のころから安定的に活動されているとのですが、ご自身の転機となった作品はありますか?

作品自体はずっと変わっていないんですが、当初の目的がナイキに仕事をもらうことだったので、それが叶ったときはもうこれで一回終わりだなと(笑)。

― どういった仕事だったんですか?

上海で行われたナイキのイベントに出演して、作品も買っていただいて。そのときは僕とリクチュール(RECOUTURE)っていうスニーカーカスタムショップが日本から出演してパフォーマンスをしました。

腔调汇: 鞋圈共振 ( NIKE SNEAKERBALL ) @ Raffles City Shanghai

― 日本ではアートを暮らしに取り入れることがまだまだ浸透しているとはいい難いですが、杉本さんはアートを所有する意義についてどのように考えていますか?

僕は友だちの作品しか買わないですからね。関係性っていうか、がんばりましょうみたいな。インテリアにあまり興味がないので、買って終わりっていうか、それだけで十分満たされる。

― とはいえ友人の作品でも「欲しい」と思ったから買うわけですよね。その欲しいと思わせるものってどういったものでしょうか?

なんだろう……アーティストの工夫が見られると欲しいと思わせられます。たとえば値段もそう。すごく良くて、すごく高いって当たり前じゃないですか。高い焼き肉はもちろん旨いですけど、それよりは普通のホルモンを上手に洗っておいしく提供できるっていうほうが興奮します。100円ショップも大好きで、あれも工夫で成り立っている。価格を抑えて提供するというのは、それなりの工夫がないとムリなので。だれかの工夫が見られると、こっちもテンションが上がりますね。

― たしかにそういう工夫に気づけると、そのアーティスト自体のファンになってしまいそうです。

― ファッションについてもお聞きしたいのですが、もともとスニーカーが好きなんですか?

もちろん好きですけどオタクのレベルではないです。ECで買えないなら諦めるぐらいです。

― 洋服の買い物は店舗に行きますか?

いや、ECで購入することが多いですね。あとは友人のショップや展示会で。

― 好きなブランドは?

ぱっと思いついたのはディガウェル。体型的に着られるアイテムがほとんどないんですが、見て楽しんでいます。古着もデザイン次第で着ますが、新品であるなら新品に越したことはないです。

― シューツリーはエイジングを感じるスニーカーが素材ですが、とくに古いものに嗜好があるわけではないんですね。

はい。スニーカーに関しては、むしろ未来のデザインだと思っているんです。90年代に出ていた靴が、まだ未来のものに感じます。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とかわかりやすいと思うんですけど。

― なるほど。あれもまさにナイキです。では最後に、今後の展望や目標があれば教えてください。

海外の仕事がだいぶコロナで流れちゃったんで、渡航がめんどくさくなくなったら再開したいです。

 

Profile _ 杉本浩介(すぎもと・こうすけ)
スニーカーを鉢代わりに植物を飾ることは過去に例を見ない表現方法や手段ではないにしろ、“劣化の正当化”をコンセプトに掲げ、劣化自体と作品の辻褄が合うように、そしてよりスニーカーに焦点を当ててSHOETREEを生み出していくクリエイター。
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  • Text : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

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