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ART/DESIGN

のん×末永幸歩|世界をひろげるアートのミカタ#1

May 2, 2023
アートに正しい鑑賞方法はない。でも、アートをもっと楽しむためのヒントならある。感じたことを自由に表現しながら新しい視点を探る「アウトプット鑑賞」を提唱する、『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者で美術教師の末永幸歩さんが、ゲストとともに注目の美術展をめぐる連載企画です。第一回目は、俳優・創作あーちすとののんさんと、東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」へ足を運びました。

のん×末永幸歩|世界をひろげるアートのミカタ#1

May 2, 2023 - ART/DESIGN
アートに正しい鑑賞方法はない。でも、アートをもっと楽しむためのヒントならある。感じたことを自由に表現しながら新しい視点を探る「アウトプット鑑賞」を提唱する、『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者で美術教師の末永幸歩さんが、ゲストとともに注目の美術展をめぐる連載企画です。第一回目は、俳優・創作あーちすとののんさんと、東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」へ足を運びました。

寝転がっている?踊っている!?萬鉄五郎《裸体美人》

【はじめに鑑賞するのは…】

萬鉄五郎《裸体美人》重要文化財
1912(明治45)年 東京国立近代美術館蔵 通期展示

のん:この作品を見るのははじめてです。なんだか服のはだけ方が不思議ですね。どんな服を着ているんだろう?あと、植物の生え方も不思議。背景と人と、レイヤーが分かれているみたい。コラージュしているように見えます。

末永:ほんとですね。草のラインから頭が飛び出しているし、実際にはありえないですよね。わたしは作品を見るとき、何か「おかしいな」と思うことを口にしたり、書き出したりするようにしているんです。のんさんは普段どんな見方をされていますか?

のん:自分がこの絵を好きかどうか、この絵をどう捉えるかということを大事にしながら見ています。そうすることで自分の存在がくっきりしてくる感じ。背景のストーリーを読解するような感じで見ているかもしれません。

末永:なるほど、のんさんらしくてユニークですね。今日はいっしょに、私がふだん実践している「アウトプット鑑賞」をやってみませんか?気づいたことを話し合いながら鑑賞していきましょう。

ん:面白そうですね

末永:のんさん、ほかにも不思議だなと思うところはありますか?

のん:雲を見ると真ん中が窪んでいて、なんだか時空が歪んでいるような感じがします。

末永:言われてみるとたしかに。このピンク色の部分ですよね?おもしろい。足の裏を見てみると、すごく力が入っているように見えませんか?ゆったりくつろいだポーズのように見えて、腕も力んでいる感じがします。

のん:ほんとだ、緊張していますね。片眉もちょっと上がって、引き攣っている感じがします。白目が見えないし、緊張ゆえに焦点があっていないのかな。裸で寝そべっている、開放的な女性のように見えたんですけどね。

末永:開放的であるようでいて、緊張しているような気もしますね。家の中でテレビを見ているようなリラックス感があるなと思ったんだけど、実は違うのかもしれない。わたしはいつも「おかしいな」と思ったことや気づいたことを出しあったあと、「そうではないかもしれない」と考えるようにしているんです。例えば、草原のように見えたけど、そうでないかもしれないと考えると、違うものの見え方ができる気がして。のんさん、いかがでしょう?

のん:奥のピンクの部分を雲だと思ったけど、もしかしたらすべてのものを吸い込んでいくブラックホールみたいなものなのかもしれない。草も木もそこに向かって伸びているように見えるから。この人はもう亡くなっている人で、お盆で地上に戻ってきているのかも。久しぶりに帰って来られて嬉しいんだけど、ちょっと緊張している部分もあって、無理して笑ってる。

末永:なるほど、すごくストーリー性が出てきましたね。たしかに、ちょっと離れて見ると、雲がすごく目立って見えてきます。もしかしたら、あれが作品の主題なのかもしれませんね。

のん:すごい、目立ってますよね、あの窪み。

末永:もう、雲じゃなくて窪みって呼んでますもんね(笑)。「そうじゃないかもしれない」と考えるだけで作品の見方が変わると思うんですが、もうちょっと見方を変える方法をぜひのんさんにも体験していただきたくて。例えば、鑑賞者としてでなく、この作品の立場で考えてみるとどうでしょう?この女性の視点になってみると?どんな変化が起こりますか?

のん:絵の女性の視点になってみるんですか?目を見てみると、限りなくまぶたが閉じていますね。眠たいからジャマしないでねって感じ?(笑)

末永おもしろいですね!わたしは寝っ転がっていないように見えてきました。立って、ダンスしている感じ。

のん:舞踏か!たしかにおもしろい動きしますもんね。裸になるし。

末永:このポーズ、ちょっとやってみましょうか。肩がすごく上がっていますね、脇はもっとグッと締める感じ。

のん:こんなポーズしたことないです。でもやってみると、もしかしたら横になりながら肘を立てて、上半身を浮かせているのかもしれない。

末永:そうなると、背景とのズレもなるほどなと思えてきますよね。そろそろウォーミングアップができてきたので、次の作品に移ってみましょうか。

生まれて、そして消えていく…?横山大観《生々流転》

【つぎに鑑賞するのは…】

(部分図)
横山大観《生々流転》(部分)重要文化財
1923(大正12)年 東京国立近代美術館蔵 通期展示

末永この作品40mもあるんですって。

のん:すごーい。

末永:まずはこの長さを体感しながら作品を鑑賞してみませんか? お互い感じたことを話していきましょう。この部分は、白黒なのに紅葉しているような“色”を感じませんか?

のん:ほんとだ。あ、お猿さんがいますね。どうやって降りてきたんだろう。

のん:人のつくった橋が出てきました。お家もちらほら見えます。

のん:この木には小さな実がたくさんなっていますね。松ぼっくりかな?

のん:ちょっと状況が変わりましたね。すごい霧に包まれてきた。

末永:急に幻想的になってきましたね。さっきは視点を変えるために作品の立場になって考えてみましたが、視覚で鑑賞するという前提を取り払って、五感……例えば、手触りとか温度を感じてみるのもおもしろいですよね。のんさんは、演技や音楽、アート創作の際に、普段から「五感で考える」を大切にされていると仰っていましたね。さいごの10分間は自由鑑賞の時間にして、その間にこの作品のタイトルを考えてみませんか?作者がつくったタイトルを当てるのではなく、のんさんが勝手に考えたタイトル。わたしも考えるので、あとで発表しあいましょう。

のん:はい、考えてみますね!

末永:では、のんさんから教えてもらっていいですか?

のん:「何もなかったという風景」というタイトルです。何もないところから滲み出すように山が出てきて、動物が出てきて、人が出てきて。だんだん人里が生まれたり、船で海を渡るようになったり。さいごには龍が登場して、すべてを波に飲み込んで消えていく。もともと何もなかった世界からいろんなものが生まれていって、その生まれたものに龍が苦しめられ、逃げているように感じたんです。さいごは龍がけむに巻くように消えていく。結局何もなかったという、幻想の世界を描いているのかなって。

末永:すごい!壮大な物語が生まれましたね!わたしものんさんと近いのかもしれないけれど、「現実と想像の世界」にしようと思いました。猿や人がいたり、現実の世界を描いているんだけど、この2羽の鳥が何もないところを眺めていて、ここから空想の世界が広がっていくイメージ。家にも霧がかっているような感じになって。現実の世界でも、ないものを補って見ることってあると思うんですが、そういう現実と想像が混ざって描かれているように感じました。

のん:幻想という部分では末永さんと交差する部分があるけど、視点が全然違っておもしろいですね。

末永:本当ですよね。さいごに実際の作品タイトルを見てみましょうか。

のん:「生々流転」水の輪廻の話だったんだ。はじめから水には見えていたけど、水がメインだとは思っていませんでした。自然全体の話だと思ってた。水って地球上ですごく大きな面積を占めているのに、普段気をつけて見ていないから、そんなにメインに感じていないというか。本当に自然の一部。でも、この作品は水を主として、まわりに生き物がいたり木があったり、そういう捉え方をしているのが意外でした。

末永:なにを主にして見るかによって、世界の見え方って違いますよね。最初に作品タイトルを見てしまうと、それが固定観念になってしまうので、逆に水にしか注目できない。わたしたちは今日、どこかで生き物を主にして見ているところがあったのかもしれません。人や猿がいるね、とか、民家があるね、とか。でも水の物語だと思って読んだら、鑑賞するときの歩くスピードも変わってくるかもしれませんね。水の流れがおだやかなときはゆっくり歩いたり、流れが激しくなったら足早になったり。ものの見方を何層にも持っておくというのは日常生活のなかでも大事なこと。ふだん目をつけないようなことを主にして考えたらどうかな?と、違った視点で考える力を、アートを見ることで養うことが出来るのではないかという考えが私の提唱するアウトプット鑑賞です。

のんのひとこと
私は普段自由に絵を観るのが好きです。間違った捉え方でも、知識先行の観方でも自分が楽しくなる鑑賞方法を大事にしてます。
今回、絵の中の人の視点でみるとか、今までやったことのない観方をしたのが新鮮でした。これは、こんな鑑賞の仕方もあるよという一つの提案です。美術に対して固く考えず好きに楽しんで良いものなんだってそう思ってもらいたい。絵の鑑賞は自由に、そして自分のお気に入りの絵を沢山作ってください。どんな理由でだって、好きな絵を好きだと思うのが大切です。

 

Profile_のん
女優/創作あーちすと
1993年生まれ、兵庫県出身。2016年公開の劇場アニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じる。2022年には自身が脚本、監督、主演の映画作品「Ribbon」公開。同年9月公開の映画「さかなのこ」では、第46回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞を受賞。
創作あーちすととしても活動を行い、2018年『‘のん’ひとり展‐女の子は牙をむく‐』2021年『やんばるアートフェスティバル』、2022年『のんRibbon展 -不気味で、可愛いもの。』、2023年『ikuno art stay 2023』にて作品発表。大量のリボンを使い、可愛くて、凶暴な要素がぶつかる作風が特徴。
音楽活動では、2017年に自ら代表を務める音楽レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足。2023年4月発表の新曲「この日々よ歌になれ」が映画「雄獅少年/ライオン少年」の日本語吹き替え版主題歌に決定。


TOPS ¥93,500/DRESS ¥107,800/EARRINGS ¥26,400/SHOES ¥107,800 (ISSEY MIYAKE|ISSEY MIYAKE INC. 03-5454-1705)

 

Profile_末永幸歩
美術教育者
東京学芸大学 個人研究員、九州大学 大学院 芸術工学府 非常勤講師。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、自分なりのものの見方で「自分だけの答え」をつくることに力点を置いた独自のアートの授業を展開。中学校・高等学校の美術教師を経て、現在は様々な教育事業にアドバイザーとして携わるほか、全国各地でのワークショップ、執筆などを通してアートと社会をつなぐ活動を行っている。著書に19万部のベストセラーとなった『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)など

 


【今回訪れたのは…】
東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」
会期:2023年3月17日(金)~5月14日(日)
※会期中展示替えがあります。
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
公式ウェブサイト:https://jubun2023.jp/
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
休館日:月曜日 ※ただし3月27日、5月1日、8日は開館
開館時間:9時30分~17時、金曜・土曜は20時まで(入館は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1800円 大学生1200円 高校生700円

 


『13歳からのアート思考』&「重要文化財の秘密」展チケットを3名さまにプレゼント!

プレゼントキャンペーン:5月5日(金)締切
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  • Photograph : Ryohei Hashimoto
  • Styling : Izumi Machino
  • Hair&Make-up : Shie Kanno (クララシステム)
  • Text : Midori Sekikawa(BUNTOAN)
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI)
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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