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ART/DESIGN

ジョナサン・アンダーソンにみる手仕事の本質|ロエベ クラフテッド・ワールド展 – クラフトが紡ぐ世界 –

Apr 13, 2025
「クラフトが紡ぐ世界」という副題が付けられている通り、「ロエベ クラフテッド・ワールド展」は<LOEWE(ロエベ)>の歴史をなぞる回顧展ではなかった。“手でつくる”という行為がどうやって感性に届き、文化や時間を超えて響いてくるのかを問いかけてくるかのようだった。
原宿に突如として現れた特設空間には、手仕事への敬意と、そこから生まれる無数のストーリーが詰まっていた。素材のひとつひとつに宿る表情、そしてそれにふれることからはじまる順路。「作る → 感じる → 想像する」という会場構成に導かれながら巡っていくことで、クラフトに対する想いを<LOEWE>から語りかけられているように感じた。
圧巻のスケールと空間演出、そして実際にレザーに触れることができる体験も含め、すべてを見終える頃には<LOEWE>の世界から逃れられなくなり、<LOEWE>を欲してしまったが、それも自然なことだろう。この展覧会を、ジョナサン・アンダーソンが退任が決まったタイミングで体験できたことにも、深い意味を感じずにはいられなかった。

ジョナサン・アンダーソンにみる手仕事の本質|ロエベ クラフテッド・ワールド展 – クラフトが紡ぐ世界 –

Apr 13, 2025 - ART/DESIGN
「クラフトが紡ぐ世界」という副題が付けられている通り、「ロエベ クラフテッド・ワールド展」は<LOEWE(ロエベ)>の歴史をなぞる回顧展ではなかった。“手でつくる”という行為がどうやって感性に届き、文化や時間を超えて響いてくるのかを問いかけてくるかのようだった。
原宿に突如として現れた特設空間には、手仕事への敬意と、そこから生まれる無数のストーリーが詰まっていた。素材のひとつひとつに宿る表情、そしてそれにふれることからはじまる順路。「作る → 感じる → 想像する」という会場構成に導かれながら巡っていくことで、クラフトに対する想いを<LOEWE>から語りかけられているように感じた。
圧巻のスケールと空間演出、そして実際にレザーに触れることができる体験も含め、すべてを見終える頃には<LOEWE>の世界から逃れられなくなり、<LOEWE>を欲してしまったが、それも自然なことだろう。この展覧会を、ジョナサン・アンダーソンが退任が決まったタイミングで体験できたことにも、深い意味を感じずにはいられなかった。

キービジュアルに込められた“作る人”の存在

今回の展示のキービジュアルとして用いられたレザーのツールケース。職人が自分のために作ったものであるという通り、アレンジの仕方や色の選び方には作り手自身の感性が強くにじみ出ており、<LOEWE>が最もストレートに伝えたかった“クラフトへの想い”が真っ直ぐに表現されていた。
このツールケースは単なるクラフトの“道具”ではなく、それは「人が作る」という根源的な行為そのものを映し出す装置のようにも思えた。
「クラフト=時間が染み込んだ思想の痕跡」という<LOEWE>の哲学を象徴する存在であり、さらには、“個としての職人”の存在が、確かな実在感をもって立ち上がってくる。
クラフトへの想いをシンボリックに映し出すこのツールケースが、今回の展示のキービジュアルに選ばれたのは極めて自然な選択だったと言えるだろう。

手から生まれたブランドの物語

「手から生まれたもの」の部屋では、<LOEWE>が1846年にマドリードでレザー工房としてスタートしたことを起点に、その進化の軌跡が丁寧に描かれていた。初期のレザーアイテムから、アマソナやフラメンコ、パズルなど現在のアイコンバッグの原型がずらりと並ぶ様子は圧巻だった。


展示の序盤からクラフトという技術の蓄積だけでなく、スペインの芸術家や社会との関係性の中で育ってきた“対話の積み重ね”こそが<LOEWE>の歩みであることを見せつけられた気がした。

職人の現場を巡る、<LOEWE>のアトリエ空間

続く展示は「<LOEWE>のアトリエ」。実際のバッグがどんな素材から、どんな工程を経て生まれてくるのか──裁断、トリミング、塗装、縫製…という流れを順に追体験していく構成になっており、その名の通りアトリエ空間にそのまま入り込んだような感覚だった。

職人が実際に使っている道具を見ることもでき、バッグづくりの背景にある膨大な時間と労力、そして工芸への深い敬意をあらためて感じさせられた。

キャビア刺繍やレザーマルケトリー、さらには3Dプリントなど、新旧の技術が共存していたのも印象的だった。伝統と革新が混ざり合いながらも、芯にあるのは“手でつくる”ということ。その揺るぎない軸こそが、<LOEWE>のクラフトマンシップを支えていることを実感できるエリアだった。

バッグで築かれた幻想の建築 ──「城の部屋」

“手でつくる”という工程に触れた直後に登場する「城の部屋」は、アトリエでの体験を大きく飛躍させるような構成になっていた。ここでは、スタジオジブリの名作『ハウルの動く城』をテーマにした巨大な“動く城”が展示の主役となっていた。

実はこの“城”は、すべて<LOEWE>のアイコニックなバッグを構成要素として組み上げたもの。ハンモックのパネル、フラメンコクラッチの波打つディテール、ゴヤの内ポケット、ミニチュアサイズのアマソナやブレスレットポーチ ── 複数のバッグが立体的に再構成され、まるでひとつの建築のようにそびえ立っていた。

これは、クラフトによってファンタジーが物理的な形を得たインスタレーションであり、機能性の象徴である“バッグ”が、物語や空想の器へと変貌する瞬間と言えるだろう。アトリエで職人の手仕事を見届けた後にこの“城”を目にすることで、クラフトのスケールが一気に広がり、「手仕事は想像力をかたちにできる」という<LOEWE>の信念が視覚的に迫ってくる。

Craft Prizeが映し出す<LOEWE>の価値観

<LOEWE>が主催する「LOEWE FOUNDATION Craft Prize(クラフトプライズ)」は、クラフトを文化・思想・社会の中核に据えるというジョナサン・アンダーソンの姿勢を象徴する取り組みである。単に“手仕事の巧みさ”を評価するのではなく、素材への探求、かたちへの思索、そして現代社会との関係性まで含めて、クラフトを“表現”として捉えている点に、この賞の本質がある。

展示には、渡部萌、田辺竹雲斎、石塚源太といった日本の作家を含む、クラフトプライズの受賞者やファイナリストたちの作品が登場していた。それぞれの作品には高度な技術力に加えて、素材の選び方や制作プロセスそのものに込められた思想、そして現代に生きる私たちへの問いかけが宿っていた。

日本の作家たちが多いのは偶然ではないだろう。日本には古くから、道具や衣服、建築など暮らしの中にクラフトが根づいており、“手でつくること”が哲学や精神性と結びついている文化的土壌がある。そうした背景を持つ日本の作家たちの作品は、<LOEWE>が重視する“クラフト=思想”という軸と深く共鳴していたのだと感じた。

クラフトを大切にするということは、その土地で育まれた文化や知恵、自然とのつながりを尊重することでもある。<LOEWE>がこうした作り手たちを支援し、展示というかたちで紹介しているのは、クラフトを“生きた文化”として未来へつないでいこうとする想いからなのだろう。

54体のルックが語る、ジョナサン期の<LOEWE>

クラフトプライズの展示のすぐ後に、まるでその思想がそのまま身体を得たかのように、ジョナサン・アンダーソンのルックたちが現れる。クラフトを“技術”でも“文化”でもなく、“今をまとう表現”として示す<LOEWE>の姿勢がより伝わる流れになっていて、その動線設計は見事だった。

「限界なきファッション」の部屋では、アンダーソンが<LOEWE>で手がけてきた10年以上のコレクションから選ばれた54体のルックが一堂に並んでいた。その圧倒的なスケールは、単なるファッションの展示を超えて、思想のアーカイブとして空間を占めていた。

圧巻だったのは、ただその“数”ではない。ルックのひとつひとつが存在感を放ち、見応えもたっぷりだった。まるで物語の断片のように佇み、それぞれが<LOEWE>のクラフトと思想を体現していた。折り紙の構造、キャビア刺繍、錯視効果のプリント、3Dプリント。素材と構造、遊びと構築、静けさと挑発──そのすべてが交錯していた。

素材の選び方、身体のシルエットの捉え方、組み合わせの意外さ──ひとつひとつが、クラフトを“衣服”としてどう昇華させるかという問いの答えになっていた。ショーで流れるように通り過ぎていくルックを、真正面から、じっと見つめられるこの体験は、自分がクラフトそのものと対話しているような感覚でもあった。

ジョナサン期の<LOEWE>は、クラフトを単なる伝統や技術の言い換えではなく、「未来へと続く実験」として捉えてきた。ジェンダーの再構成、素材の再編集、フォルムの再定義──毎シーズン提示されてきた数々の問いが、この空間では“身体を借りて語られている”ように感じられた。
それは単なる「見た目の変遷」ではなく、「クラフトとは何か」「美しさとは何か」「着るとはどういうことか」という問いを、10年以上かけて視覚化したアーカイブであり、ジョナサンの思想の軌跡と言えるだろう。

手仕事がつなぐ幻想──スタジオジブリとの「意外な対話」

展示の終盤、「意外な対話」のエリアへと足を踏み入れると、どこか幻想的でもあり、懐かしくもある世界が広がっていた。のぞき穴から覗く小さな陶芸の世界、揺れる花々のインスタレーション、そして何よりも強く印象に残ったのは、スタジオジブリとのコラボレーションが織りなす空間だった。

スタジオジブリといえば、アニメーションにおいて手仕事を多用することで知られる。時間と労力を惜しまず描かれた世界は、ただの映像ではなく人々の“記憶”として残り続けている。その“手でつくる”精神は、<LOEWE>が大切にしてきたクラフトの哲学と深く共鳴していた。まさに手仕事が思想と幻想をつなぐ場であり、現実と想像が交差するインスタレーションと言えるだろう。

展示全体を通じて「クラフトとは何か?」という問いは形を変えながら投げかけられてきたが、このエリアでのコラボレーションは“手でつくる”ことは、記憶や感情を宿すことでもあり、誰かの想像力とまっすぐに結びつく行為であることを物語っていた。
「作る → 感じる → 想像する」という流れの中で、この空間は、クラフトという行為が感情を呼び起こし、さらにその先の想像力へとつながっていくことを示していた。

「ロエベ クラフテッド・ワールド展」は、想像することの楽しさを改めて思い出させてくれると同時に、<LOEWE>というブランドの魅力を、圧倒的なスケールで体感させてくれる実に素晴らしい展示だった。<LOEWE>やジョナサン・アンダーソンのファンはもちろんのこと、クラフトやものづくり、そして想像力の世界に触れたいすべての人に、ぜひ足を運んでほしい。

-Loewe Crafted World クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界
会期:2025年3月29日(土)〜 2025年5月11日(日)
会場:zero base jingumae(ゼロベース神宮前)
東京都渋谷区神宮前6-35-6
入場:無料(事前予約制)
来場予約・詳細ページ:
https://craftedworld.loewe.com/ja/

公式HPはこちら

  • Text & Edit : Yusuke Soejima(QUI)

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