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ART/DESIGN

画家・現代美術家 井田幸昌 – 時を越えて受け継がれる表現

Apr 11, 2025
2018年にForbes JAPAN主催「30 UNDER 30 JAPAN」に選出され、2021年には作品「画家のアトリエ」がISSに設置されたことでも話題を集めるなど、国内外で大注目の画家・現代美術家 井田幸昌。そんな井田が今回新たに挑んだのは、ディズニーキャラクターの作品制作だ。コロナ禍を経て、現代アートの限界に想いを巡らせた彼が、初めての挑戦の中で見つけた希望とは?
3年間に及ぶ制作の中で得た気づきと、制作のモチベーションについてうかがった。

画家・現代美術家 井田幸昌 – 時を越えて受け継がれる表現

Apr 11, 2025 - ART/DESIGN
2018年にForbes JAPAN主催「30 UNDER 30 JAPAN」に選出され、2021年には作品「画家のアトリエ」がISSに設置されたことでも話題を集めるなど、国内外で大注目の画家・現代美術家 井田幸昌。そんな井田が今回新たに挑んだのは、ディズニーキャラクターの作品制作だ。コロナ禍を経て、現代アートの限界に想いを巡らせた彼が、初めての挑戦の中で見つけた希望とは?
3年間に及ぶ制作の中で得た気づきと、制作のモチベーションについてうかがった。

メキシコで目にした、イメージの力

QUI:今回の展示「DISNEY|YUKIMASA IDA“ONLY TIME WILL TELL”POP UP SHOP POWERED BY ZOZOVILLA」は、観た人がワクワクして元気をもらえるような作品ですね。こちらは何年も温められたプロジェクトだとうかがいました。

井田:そうなんです。このプロジェクトが立ち上がる直前にメキシコの展覧会に参加したのですが、初めてのメキシコだったので現地の文化に触れようと色々な場所を訪問しました。その中でいわゆるスラム街のような場所に立ち寄った時、ディズニーキャラクターが彼らの生活のなかにあるのを目にしたんです。ディズニーキャラクターというのは、いろんな方々を「イメージの力」で支えているんだと衝撃を受けました。

当時はコロナが明けたばかりの頃で、私は“現代アートや私がいる業界”に対して、色々な意味で限界を感じていた時でした。何とかブレイクスルーしたいという気持ちと、でもどうしていいか分からないといった気持ちが強かったんです。

そんな時に目にしたのがメキシコでの光景です。もちろん、今まで自分がやってきたキャリアが間違っているとは全く思わないですし、一生懸命やってきましたが「これまでの自分は、とても視野の狭いところでやってきたんじゃないか?」という疑問がふつふつと湧いてきました。

そんなことを考えながら帰国した直後に、このプロジェクトのお話をいただきました。キャラクターを描くことは、私のキャリアの中では初めての経験で、これまでとは全く違う表現に取り組むようなものでしたが、メキシコで感じた気持ちをモチベーションに挑戦することにしました。

プロジェクトをはじめた当初は、世の中には生活に困窮している人たちがたくさんいる中、アートはそういった方々に対してどこまで影響を持てるんだろうか…と迷うこともありました。でも、このプロジェクトにひと区切りがついた今、まだまだ現代アートという分野にもいろんな可能性があるんじゃないかっていう勇気をもらえて、自信を持つことができました。

展示風景

QUI:展覧会を拝見して、観た人が希望や前向きになる力をもらえるような作品だと感じましたが、井田さんにとっても新しい希望を感じられるようなプロジェクトになったんですね。

井田:そうですね。もともと、イメージをつくる側である私は“発信する側”だと思っていたんです。でも、作品を鑑賞してくださる方々からも、自分たち表現者に対してのフィードバックがあるんだって感じるようになりました。そこからとても勇気をもらったし、そういった感覚の“相互の行き来”ができるんだということを勉強させていただいたというか、パワーになったというか。すごくいい時間だったと思います。

…もちろん、制作は本当に過酷を極めるもので大変でしたが、それも含めてとても貴重な3年間だったなと思いますね。

時を越えて受け継がれる表現

QUI:キャラクターを描くというのは、普段の作品制作とは大きく異なりましたか?

井田:もちろん、ディズニーが作ってきたデザインがもともとあるので、私が取材をして人の肖像画を描くといった制作とは意味合いが違います。ただ、制作の流れや、描く上での自分の身体的行為というものは特に変わることはありませんでした。

QUI:今回の作品では、キャラクターたちの表情がとても豊かに描かれているのを印象的に感じました。

井田:それは、ディズニーが100年という歴史の中で作り上げてこられた表現ですからね。多くの人の心を掴むためのデザインというのは、表情などに表れると思うんですよ。そういうことは描きながらも感じましたし、そういった意味でも勉強になりました。

実際、3年間ほど、他の作品制作と並行してこのプロジェクトも制作をしていましたが、そうして気づいた感覚は他の作品にも影響を与えていって、私自身の作品にもかなりの変化がありました。そういった意味で、その違いも観ていただけたらなと思っています。

Only Time Will Tell – Donald Duck – Oil on canvas 1620×1620 mm ©Disney

QUI:井田さんにとって、ディズニーはどのような存在でしょうか?

井田:表現している人たちの究極の目標っていうのは、自分たちが死んだ後にも、ずっと先の世代にまで作品が残っていくことなんですよね。
ディズニーは約100年続いていて、今でも新たなクリエイティブを続けている会社です。つまり、私たち表現者が理想とするところを達成している会社だと思うんです。そういう意味で、とても大きな目標でもあり、いつか私もそういった仕事を残すアーティストになりたいと思っています。

QUI:まさに、今回の展覧会のタイトル「Only Time Will Tell」(時間だけが全て知っている、教えてくれる)に込められた“時を越えて受け継がれる表現”ですね。
ちなみに、今回の制作期間中、ディズニーの映画を観たり音楽を聴いたりされたのでしょうか?

井田:はい、キャラクターを自分の作品として制作するのが初めての経験だったので、まず始めにその世界観を自分の中に入れる作業が必要で、取材をしたり映画や昔の作品を観たりしました。

QUI:印象に残っている作品はありますか?

井田:特に昔の映画が良かったですね。ミッキーマウスやドナルドダックが登場する短編のアニメーションが印象に残りました。まさに、ディズニーの作品の“始まり”から今までの時間を感じられたように思います。

その作品をつくった当時のクリエイターの方は、多分もういないと思うんですよね。でも、それを見た私がそこからインスパイアされてまた新しい作品をつくっているわけで。まさに私もそういうことがしたいなと思いました。

全く異なる表現から生み出した化学反応

QUI:制作をしている間には、どんなことを考えていらっしゃいましたか?

井田:描いている最中は、やっぱりキャラクターのデザインが秀逸なのでどうしても引っ張られてしまうんです。ずっと引き継がれてきたデザイン性っていうのはすごく強いんですよね。だから、どんなに私の作風に寄せようと思ってもイメージに引っ張られてしまう… そういったものとも戦わなきゃいけなかったし、せっかくイメージを使わせていただくからには、新しい息吹というか、今までやったことがなかったようなことをやるべきだなと思っていたので、そこに挑戦してきましたね。

私のような純粋な油絵画家として全く異なる作風で描いてきた人間だからこそ、こういったポップなものを描いたときに起こる化学反応があると思うんです。その部分に関しては、今回の展覧会に来てくださる方々にも注目して観てほしいと思っています。

つくり続ける理由は「愛情」があるから

QUI:井田さんはずっと精力的に制作活動を続けていらっしゃいますが、制作の中で最も大きなモチベーションはどういったところにあるのでしょうか?

井田:一番はやっぱり自分は絵が好きだというところですが…
大きなことを言ってしまうと、全部が「愛情」かなと思っています。それは、芸術に対しての愛情と、自分の人生に対しての愛情、自分のまわりにいてくれる方々に対しての愛情。それから、モチベーションを与えてくれる人や、例えば今回のプロジェクトでいえばメキシコの子どもたちの笑顔だったりだとか。うん、「愛情」っていう言葉が今のところしっくりくるかなと思っています。私は決して作品を一人の世界で完結させようとは思ってないので、自分のためと、他の人のためと、両方に向けて描いていますね。

QUI:最後に、今回の展示を見に来られる方に向けて、ひとことメッセージをお願いします。

井田:私は、何のために生きているのかとよく考えるんです。そして、私の場合は、やっぱり自分自身のためだけではなく、誰かに喜んでほしいと考えています。今回は特に、子供たちの笑顔からパワーをもらったりしながら、3年という長い時間かけてつくった作品になります。

だから、まずは純粋な油絵画家がキャラクターを描いたということに対しての化学反応を楽しんでいただきたいなと思っています。それから、今の子供たちの子供たち… 次世代のために何ができるか?と考えて、描いてきた画家がここにいますよ、ということを思いながら見てもらえたら嬉しいですね。

井田幸昌
画家・現代美術家。1990年鳥取県生まれ。2019年東京藝術大学大学院油画修了。2016年現代芸術振興財団主催の「CAF賞」にて審査員特別賞受賞。2017年レオナルド・ディカプリオ財団主催のチャリティオークションに史上最年少参加するなど、在学中より活動を開始。2018年Forbes JAPAN主催「30 UNDER 30 JAPAN」に選出。 2021年Diorとのコラボレーションなど多角的に活動し、2022年には鳥取県文化奨励賞を受賞。日本の民間人として初めてISSに滞在する宇宙旅行を行った前澤友作氏によって、作品「画家のアトリエ」がISSに設置されたことでも話題を集めた。制作は絵画のみにとどまらず、彫刻や版画にも取り組み、国内外で発表を続けている。
オフィシャルサイト
Instagram:@yukimasaida

DISNEY|YUKIMASA IDA“ONLY TIME WILL TELL”POP UP SHOP POWERED BY ZOZOVILLA
会期:2025 年 4⽉3⽇(木)〜20⽇(⽇)
時間:11:00-19:00(最終日のみ17:00迄)
会場:代官山ヒルサイドテラス / ヒルサイドフォーラム
住所:東京都渋⾕区猿楽町18-8
*本企画は、ウォルト・ディズニー・ジャパン(株)との契約により、株式会社ZOZOが企画、販売するものです
販売先URL:https://zozo.jp/event/disney-yukimasaida/

All Photo
  • Text : ぷらいまり。
  • Photograph : Junto Tamai
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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