かっこいいトラックに、しょうもないエッセンスを|xiangyuインタビュー 〜後編〜
2018年の9月から活動をスタートした日本のアーティスト。xiangyu(シャンユー)という名前は、本名の「あゆみ」に由来して中国語の「鮎」から名付けられた。ラップ、テクノ、ベースミュージックを基礎に、幅広い音楽を展開する。
餃子のかぶり物とか、思いつきで作りたくなっちゃう
—xiangyuさんはアパレルの仕事をされていたという話がありましたが、MVで着ている衣裳なども自分で作られているんですよね?「菌根菌」の衣裳は保冷シートで作られているとか
xiangyu:そうそう、そうなんです。保冷シートで作りました。今日持ってきています。撮影で結構激しく動いて、ちょっと破損はしてしまってるんですけど。
—これ、けっこうちゃんと作ってますよね?
xiangyu:実はそうなんです。もともとレインコートみたいのをパターンで取って、そこから展開して…。ちょっと柄っぽくしようと思って、パッチワーク的な感じで、全部縫ってるんです。菌のイメージで。
—MVだとここまで細かく見えなかったので、感動です。中わたまで入ってる…
xiangyu:ちょっともこもこにしたほうが、立体感がかわいいなと思って。全部、これ、綿とか挟んでるんですよね。撮影のとき、私一人暑くて。保温シート着ると暑いんだなって、やっぱり(笑)。
—この衣裳はどれくらいの時間で作ったんですか
xiangyu:これは半日くらいですね。朝からはじめて、パターン引いて、縫って、昼ぐらいに終わってました。こういうのだったら、全然簡単にできます。
なんか、思いついて急に作りたくなっちゃうんです。餃子のかぶり物とかも、ライブの直前に、急にやりはじめた(笑)。
xiangyu:これ、着ぐるみですね。着ます?
xiangyu:ここに足入れるんです。すごい久しぶりに着る…。最近ちょっとやってないんですよ。あ、間違えた。手を入れるとこに足入れてました!
—すごい、これ、自分が具になれるんですね!
xiangyu:そうです。これ、大丈夫ですか?一発芸披露するみたいになってますけど(笑)。
—(笑いがとまらない)
xiangyu:よかったです、笑っていただいて。私も作った甲斐がありました。これ着ると場が結構騒然とするんですよね。みんなそれから曲聴けなくなっちゃったり。これ着てたまに、ライブのとき餃子配ったりもしました。焼き餃子。
—これはまた、すごい肉厚な素材なんですね。
xiangyu:この生地がおすすめなんですよ。ボンディングっていうか、スポンジの生地で、この生地で服作ったりすると大体かわいく仕上がるのが好きで。この生地で餃子のポーチとか作って、販売したりもしてました。
服を作るための布地で服を作ることに、あまり興味がなくて…
—餃子を着て歌うって、舞台映えがすごいですよね。「菌根菌」の衣裳が保冷シートなのも、ホームセンターの資材が好きなところから来てるんですか?
xiangyu:それもあるんですが、服を作りますというときに、布地屋さんに行って生地探してきて作る、みたいなのにあんまり興味がないんです。布地は基本的に服を作るための素材じゃないですか。「これのための素材をそのまま使う」っていうのが多分あんまり好きじゃないっていうか、興味がないっていうのがあるのかもしれないですね。衣裳だけじゃなく、音楽とか、料理とかもそういう感じ。
—料理するんですか?
xiangyu:たまにします。これにこれかけたらおいしいかなとか、これ混ぜたらおいしいかなみたいな、割と創作っぽいこと。
—チャレンジして作るみたいなのが好き?
xiangyu:チャレンジっぽいのが好きです。いま作ってる音楽もそうですけど、このかっこいいトラックに、ちょっとしょうもないエッセンス加えて、でも結果かっこいいみたいのがいいかなと思っていて。結局、何においてもそういうマインドなんでしょうね、自分自身が。
—かっこいいトラックに、かっこいい歌詞を乗せて、かっこいいものを作るより、ちょっと別の要素を入れてるのに“かっこいい”ほうが、自分としても好きな世界ということですよね。
xiangyu:そうなんですよ。ファッションでいうと甘辛MIXみたいな。もし自分がかっこいいことを言いたくなったり、そういう歌詞を書きたくなったら、逆にケンモチさんに、トラックかっこよ過ぎないほうがいい、って言うかもしれないです(笑)。
面白い言葉、言いたくなるワードをずっと探している
—いま歌詞や曲を作るときは、どういうやりとりで作ってるんですか?
xiangyu:普段の曲作りは、私がこういう言葉が面白いから使いたいとか、いまこういうテンションなんですっていうのをケンモチさんに送ったり、ケンモチさんが、こういうトラック作ってみたんだけど、って送ってくださって、そこからブラッシュアップしてくみたいな。結構2人で、「うわ、この言葉やばいね」「やばい、これ、めっちゃいいじゃん」みたいなこと言いながら…。はたから見たら、結構大丈夫かな?いう感じかもしれないです(笑)。
—普段から気になったことを書きためているネタ帳みたいなものがある?
xiangyu:そうですね。音楽をはじめてからは、ずっとそういうアンテナが立ってるというか、面白い言葉、言いたくなるワードをずっと探しています。あの看板に書いてある言葉、めっちゃ面白いな、みたいにいちいちメモしたりとか。あとは本が好きなので、本の中に出てきた言葉とか、自分が日々気になっていることをメモして、そこから連想ゲームみたいに広げていったり。
—調べものをするのは好きな方?
xiangyu:すごい好きですね。いまちょうど生き物のことを勉強するのにはまってるんですけど、わからない言葉が多いので、辞書片手に読んだりとかしてます。
—いまはxiangyuさんの中で生き物ブームなんですか?
xiangyu:人間にすごく興味があるので、そこからの派生でもっと生き物の成り立ちとかが知りたくなって。系統樹とか、生き物ってこういうふうにつながっていってるんだみたいなことに、ここ1年くらいすごい興味が出てきました。
—アルバムも図鑑仕立てになっていて面白かったです。あのテーマもご自身で考えたんですか。
xiangyu:そうですね。私が図鑑好きだし、生き物好きだしということでxiangyuチームの中で決めました。中に出てくる解説文とかイラストも、結構自分で描いてるんです。
「歌詞 書き方」ググったくらい、歌詞の書き方がわからなかった
—「風呂に入らず寝ちまった」も「Go Mistake」も、xiangyuさんの書く歌詞には共感ポイントがたくさんありますよね。
xiangyu:本当ですか。うれしいです。
—髪乾かすのって本当にうっとうしいですし、乾かすこと考えたら洗いたくなくなってきますよね。切ればいいのに切らないんですけど。
xiangyu:切らないですよね。絶対切らないけど、そうなんですよ。よかった、自分の私生活をさらけ出して。
—こんなに共感するんだけど、あえて友達と話すようなことでもないじゃないですか。あまりにもしょうもないから。ただ、誰にも言わないけど、ずっとみんな毎日思ってることが、こんなかっこいい音楽に乗って聞こえたときの衝撃。これが歌詞になるのか!という、感動に近いものがありました。
xiangyu:結構泣きそうなぐらいうれしいです。すごいうれしい。ありがとうございます。
いまは本当に歌詞を書くのに一番力を入れていて、そもそも分かんなかったんですよ、歌詞の書き方が。一番最初「歌詞 書き方」ググったぐらい。本当にわかんなくって、ケンモチさんや福永さんとかいろんな人に相談して。
人前で歌ってパフォーマンスすることも、まだ全然未知ですし、わかった!って瞬間が来るのかどうかもわからないんですけど、歌詞が最もわからない分野なんですよ。この方法がすごい自分にマッチしてるっていうのが、全然見つかってないんですよね。こんなこと言うのもちょっと恥ずかしいんですけど。
だから自分に合う歌詞の表現方法とか、書き方をいまずっと探ってる状態で。いま、一番頑張りたいことというか、力を入れていることは、それなんです。
イチオシの人を集めて作る、実験みたいなイベント
—8月には自主イベントがありますよね「香魚荘827」。すごい不思議な顔ぶれというか、テニスコートさんはコントをするんだろうと思うんですが、PERMINUTE(パーミニット)の半澤慶樹さんは一体何をするのかとか、謎が謎を呼びますよね。
xiangyu:半澤さん、当日何するかよくわかんないですよね(笑)。彼は文化時代のクラスメイトで、よく遊ぶ友達なんです。PERMINUTEっていうブランドもすごくかっこいいんですが、それをはるかに超える半澤慶樹っていう人の面白さがあるので、一緒に何か実験的なことをイベントでやれたら、もっと面白いだろうと思ってお誘いして。服だけにとどまらないぐらい、すごく面白い人なんですよ、彼が。
半澤さんの他にも、コントユニットのテニスコートさんや、音楽家のトリプルファイヤーの皆さん、ぎゅうにゅうとたましいさん、クラウドファウンディング会社社長の酒向萌実さんや、本屋の店主のコメカさんが出演されます。
普段はそれぞれ別の場所で活躍している皆さんですが、そのメンバーが集まって起きる、予測のできない化学反応を、自分がすごく見たいって思って。それこそ私の物作りの根底にあるものと、このイベントもすべて一緒で、こことここを合わせてみたら、どんな面白いことが起きるんだろうっていうのに、すごく興味があって。ちょっと実験みたいなイベントではあるんですけど。
私がいますごくイチオシの人たちを集めているので、きっと大丈夫って信じてます。ちなみにこのフライヤー、間取りとかも全部自分で描いてるんです(笑)。
—なんでも作れちゃいますね
xiangyu:この方位マークのところ、小さく「F」って書いてあるんですけど、これ、ファミリーマートの方向なんですよ。ここ一番のポイントで。言わなかったら絶対誰も気付かないんですけど(笑)。そういう地味なことやるのが好き。楽しくてやってるので、何にも苦じゃないです。
—よく見るとコンロが五つ口ぐらいありますね
xiangyu:そうなんです。O-nestって本当に五つ口あるんですよ!忠実に再現してます、これ。
—じゃあ、万一空き物件になったら、この間取り図使ってもらったらいいですね。
xiangyu:確かに、これ、使ってほしいですね、本当に、ぜひ。
服から音楽へ、表現の方法が変わっても、xiangyu(シャンユー)の根っこに流れるものは変わらない。誰かにお膳立てされた素材を使うのではなく、自分が面白いと思ったこと、これとこれを組み合わせたらいいんじゃない?というアイデアから新しいものを生み出していく。それこそが、福永泰朋が見出した彼女の才能なのだろうと感じた。
一度聴いたら忘れられない楽曲、観客を虜にするライブパフォーマンス、そして彼女自身からあふれるチャーミングなオーラ。今後もxiangyuから目が離せない。
香魚荘827
2019.08.27(火)
OPEN 18:30/START 19:00
渋谷O-nest
前売り券 ¥2,500/当日券 ¥3,000(1ドリンク別)
出演者: xiangyu、テニスコート、半澤慶樹(PERMINUTE)、トリプルファイヤー、ぎゅうにゅうとたましい、コメカ(TVOD)、酒向萌実
チケットぴあ(Pコード:154-180)、ローチケ(Lコード:72623)、イープラスお問合せ:03-5712-5227(エイティーフィールド)
取材協力
Trente-Cinq35(トラントサンク)
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-10-10 要会館5階
Tel:03-6380-0729
月~土18:00~24:00(L.O.23:30)
定休日:日曜