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ART/DESIGN

ポートレートは、その人をどこまで映すのか — シャネル・ネクサス・ホール「Icons and Image Makers ナショナル ポートレート ギャラリー展」レポート

Oct 24, 2026
シャネル・ネクサス・ホールで、「Icons and Image Makers ナショナル ポートレート ギャラリー展」が開催されている。

ロンドンのナショナル ポートレート ギャラリー(以下、NPG)が所蔵する写真コレクションから、1950年代から現代まで、英国の映画、音楽、ファッション界を彩ってきた人物たちのポートレート約60点を紹介する本展。デヴィッド・ボウイ、ジミ・ヘンドリックス、ケイト・モス、ティルダ・スウィントン、ハリー・スタイルズなど、時代を象徴する人物たちの肖像が並ぶ。

本展の軸となるのが、レンズの前に立つ被写体と、その後ろでシャッターを切る写真家という、ふたつの創造性だ。開幕にあわせて行われたキュレーターツアーでは、NPG写真部門アシスタントキュレーターのルビー・リース=シェリダンが、作品の背景やコレクションについて解説した。

同じ人物を写していても、写真家や場所、時代が変われば、そこに現れる姿も変わっていく。展示をたどりながら、一枚の肖像が写すものと、その外側にある時間について考えた。

ポートレートは、その人をどこまで映すのか — シャネル・ネクサス・ホール「Icons and Image Makers ナショナル ポートレート ギャラリー展」レポート

Oct 24, 2026 - ART/DESIGN
シャネル・ネクサス・ホールで、「Icons and Image Makers ナショナル ポートレート ギャラリー展」が開催されている。

ロンドンのナショナル ポートレート ギャラリー(以下、NPG)が所蔵する写真コレクションから、1950年代から現代まで、英国の映画、音楽、ファッション界を彩ってきた人物たちのポートレート約60点を紹介する本展。デヴィッド・ボウイ、ジミ・ヘンドリックス、ケイト・モス、ティルダ・スウィントン、ハリー・スタイルズなど、時代を象徴する人物たちの肖像が並ぶ。

本展の軸となるのが、レンズの前に立つ被写体と、その後ろでシャッターを切る写真家という、ふたつの創造性だ。開幕にあわせて行われたキュレーターツアーでは、NPG写真部門アシスタントキュレーターのルビー・リース=シェリダンが、作品の背景やコレクションについて解説した。

同じ人物を写していても、写真家や場所、時代が変われば、そこに現れる姿も変わっていく。展示をたどりながら、一枚の肖像が写すものと、その外側にある時間について考えた。

人を通して、英国の物語を残す

© CHANEL

1856年に創設されたNPGは、肖像を通して英国の歴史と現在を伝えてきた。6世紀にわたるコレクションを有し、写真だけでも25万点を超える。

キュレーターツアーでは、NPGの収集において、被写体が社会や文化に与えた影響も重視されることが紹介された。その人物や時代を伝える重要な一枚であれば、撮影者がまだ広く知られていなくても、コレクションに加わる可能性があるという。

さらに、一枚の写真から、被写体が生きた時代や写真家の表現、撮影された出来事など、複数の文脈を読み取れることも重要になる。

左から フレディ マーキュリー by ニール プレストン、1986年 Photo by Neal Preston © Queen Productions Ltd / エルトン ジョン by テリー オニール、1975年 © Terry O’Neill / Iconic Images © CHANEL

その考え方を象徴する作品のひとつが、ニール・プレストンによるフレディ・マーキュリーのポートレートだ。ロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われたクイーンの公演で、バンドがオープニング曲を演奏し始めた瞬間を捉えている。

満員の観客を前にステージに立つマーキュリー。スタジアムを満たす照明と、被写体に迫る構図によって、その存在感が際立つ。プレストンは、マーキュリーが撮影を止めるよう求めることはなく、自分がそばですべてを記録していることをむしろ楽しんでいるようだったと振り返っている。

被写体と写真家、ふたつの創造性

一枚のポートレートが生まれるまでには、いくつもの選択がある。どこで撮るのか。何を着るのか。どんな表情を見せるのか。写真家がどこに立ち、どの瞬間にシャッターを切るのか。カメラや光、撮影する環境も、その人物の見え方を左右する。

1950年代、セシル・ビートンはオードリー・ヘプバーンを優雅なハリウッド アイコンとして捉えた。続くスウィンギング・シックスティーズには、シャーロット・ランプリングやマイケル・ケインら新世代の英国人俳優が登場し、ルイス・モーリーやデヴィッド・ベイリーによって、瑞々しく躍動感あふれるリアリズムで撮影された。 © CHANEL

1960年代から70年代にかけてUKスターによりミュージックシーンが変貌する中、ロバート・ウィテカー、ゲレッド・マンコヴィッツ、アニー・リーボヴィッツをはじめとする写真家たちは、その躍進を記録した。
左からザ・ビートルズ by ロバート・ウィテカー 、ヨーコ・オノ、ジョン・レノン by アニー・リーボヴィッツ、ミック・ジャガー by アニー・リーボヴィッツ、ジミ・ヘンドリックス by ゲレッド・マンコヴィッツ、デヴィッド・ボウイ by テリー・オニール など © CHANEL

若き日のケイト・モスをコリーヌ・デイが捉えた一枚(右から2点目)、照明や構図を通してファッション写真を再定義した、ジーン・シュリンプトンを写したデヴィッド・ベイリーの作品(左から2点目) © CHANEL

ツイッギーやケイト・モスといったモデルのポートレートでは、カメラの前で自らをどう見せるかという被写体側の表現力も際立つ。ジミ・ヘンドリックスやデヴィッド・ボウイの写真では、衣装やポーズを含め、それぞれが築いてきたイメージに写真家の視点が重なっている。

同じ人物に、もう一度出会う

会場を巡っていると、別の展示テーマのなかで同じ人物に出会う。

ケイト・モス、デヴィッド・ボウイ、オードリー・ヘプバーン、スパイス・ガールズ。一度目にした人物が、別の時間や状況、ときには別の写真家による肖像として再び現れる。

(右)コリーヌ・デイが1990年に撮影したケイト・モス

16年後の、2006年にコリーヌ・デイが撮影したケイト・モス © Estate of Corinne Day / Commissioned by the National Portrait Gallery, London

なかでも、その違いがよく表れていたのがケイト・モスだ。モデルに焦点を当てた展示では、コリーヌ・デイが1990年に撮影したポートレートが並ぶ。展示の後半では、同じデイが2006年に撮影した作品が登場する。

2006年の作品はNPGの委託によって制作されたもの。デイとモスは長年にわたり友人関係を築いてきた。この作品では、会話を交わすモスの表情を捉えた9枚のモノクロ写真を、ひとつの肖像として構成している。撮影では、ふたりがそのとき関心を持っていたテーマについて話し、そのやり取りのなかで表情の変化が捉えられたという。

同じ被写体を、同じ写真家が撮影している。それでも16年という時間を経て、ひとつの表情を捉えた写真と、移り変わる表情を重ねた作品とでは、浮かび上がる人物像も異なってくる。

「その人らしさ」として記憶していた像が、別のポートレートを見ることで少しずつ揺らいでいく。

スナップショットに残る、ふたりの距離

展示の後半には、綿密に構成されたポートレートとは異なる、日常の一瞬を捉えた写真も並ぶ。

1980年、鋤田正義が京都で撮影したデヴィッド・ボウイ
鋤田は「周囲のほとんどの人は、彼に気が付かなかったので、普段より自由でいられたのかもしれません」と語る。© Masayoshi Sukita

鋤田正義が京都で撮影したデヴィッド・ボウイの写真では、阪急電車の中で鞄を持ち、静かに佇む姿が捉えられている。

鋤田とボウイは約40年にわたり撮影を重ね、『Heroes』のジャケットをはじめ数多くのポートレートをともにつくってきた。この写真が生まれたのは、ボウイが来日した際、ふたりが友人として京都で時間を過ごしていたときだった。

華やかな衣装やステージ上の姿で知られるボウイが見せる、落ち着いた表情。ふたりが友人として過ごしていた時間を知ると、カメラの前で気負わず佇む姿も、また違って見えてくる。

2024年、活動を休止していた夏、イタリアで過ごしたスタイルズを、ドキュメンタリー写真家マーティン・パーが独自のスナップショットスタイルで撮影した一枚。Harry Styles by Martin Parr, 2024 © Martin Parr / DMB / The Martin Parr Foundation

マーティン・パーによるハリー・スタイルズの写真も、ふたりの関係から生まれた一枚だ。

スタイルズはもともとパーの写真のファンで、自ら彼を招いて撮影を依頼したという。この写真は当初、発表を前提として撮影されたものではなく、休暇中の私的な時間の延長で生まれたものだった。

その後、本作品は、ハリー・スタイルズとマーティン・パー財団によって共同でNPGへ寄贈された。寄贈されたのは本展の開幕からわずか数週間前で、本展が世界初展示となった。

ここでは、写真家が被写体を選ぶだけでなく、被写体もまた、自分を撮影する写真家を選んでいる。長年の撮影を通して関係を築いてきた鋤田とボウイとは異なる、写真家と被写体の関係が見えてくる。

一瞬から、その外側を読む

ポートレートが残すのは、ある一瞬だ。その人がその場にいたことや、カメラの前で見せた表情が記録されている。

同じ人物の異なる肖像を見比べたり、撮影の背景を知ったりすることで、その一瞬の見え方は変わっていく。写真に写る表情を手がかりに、その人が過ごしてきた時間や、写真家との関係にも思いが向かう。

一枚の肖像を前に、私たちは写っているものを見ながら、その外側にあるものを想像している。そこに、ポートレートを見る面白さがあるのかもしれない。

All original artworks © the photographer/their estate

 


 

ナショナル ポートレート ギャラリー
1856年に創設されたナショナル ポートレート ギャラリーは、肖像を通して英国の歴史と現代社会を伝えてきた文化機関。6世紀にわたるコレクションには、世界的に知られる人物から歴史のなかで十分に光が当てられてこなかった人々まで、英国を形づくってきたさまざまな人物の肖像が収められている。
絵画をはじめ幅広いメディアによる肖像作品を収集・保存・公開しており、そのなかでも写真コレクションは25万点以上を数える。過去200年にわたる写真表現の主要な動向や技法を網羅し、英国のみならず世界的に重要とされる作品を数多く所蔵するなど、その規模と内容の両面で高い評価を受けている。
ウェブサイト:https://www.npg.org.uk/
Instagram:@nationalportraitgallery

開催情報
「Icons and Image Makers ナショナル ポートレート ギャラリー展」
会期:2026年10月2日(金)–11月29日(日)
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング 4F
開館時間:11:00–19:00(最終入場18:30)
※11月6日~11月8日は10:00–19:00(最終入場18:30)/イベント開催時は開館時間が変更になる場合あり
観覧料:入場無料
主催:シャネル・ネクサス・ホール
お問い合わせ:シャネル・ネクサス・ホール事務局 nexus.ginza@chanel.com
ウェブサイト:https://nexushall.chanel.com/program/2026/npg/

  • Text&Edit : Y.O(QUI)

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