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ART/DESIGN

ファッションから陶芸へ、信楽での出会いが生んだもの|陶芸家 エリス・ゲトリフ

Oct 15, 2026
アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んだ、フランス出身の陶芸家 エリス・ゲトリフ(Elise Gettliffe)。ファッションの分野で経験を積んだ後、陶芸へと活動の軸を移し、現在は器やオブジェの制作に加え、空間演出も手がけている。

2025年には、滋賀県・信楽のNOTA SHOPで約3カ月間のレジデンス制作を実施。その経験から生まれた新作を中心とする個展「One Way In, Other Ways Out」が、東京・神宮前のR.ALAGAN store & galleryで10月16日(金)から18日(日)まで開催される。

信楽で出会った土や植物、古い道具。焼成によって生まれる予測できない変化。そして、陶器を「言葉」に例え、組み合わせによって新たな意味を生み出すという考え方。ファッションから陶芸へと表現の対象を変えながら、素材や形、もの同士の関係を探求してきたエリスに、信楽での制作経験と今回の個展に込めた思いを聞いた。

ファッションから陶芸へ、信楽での出会いが生んだもの|陶芸家 エリス・ゲトリフ

Oct 15, 2026 - ART/DESIGN
アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んだ、フランス出身の陶芸家 エリス・ゲトリフ(Elise Gettliffe)。ファッションの分野で経験を積んだ後、陶芸へと活動の軸を移し、現在は器やオブジェの制作に加え、空間演出も手がけている。

2025年には、滋賀県・信楽のNOTA SHOPで約3カ月間のレジデンス制作を実施。その経験から生まれた新作を中心とする個展「One Way In, Other Ways Out」が、東京・神宮前のR.ALAGAN store & galleryで10月16日(金)から18日(日)まで開催される。

信楽で出会った土や植物、古い道具。焼成によって生まれる予測できない変化。そして、陶器を「言葉」に例え、組み合わせによって新たな意味を生み出すという考え方。ファッションから陶芸へと表現の対象を変えながら、素材や形、もの同士の関係を探求してきたエリスに、信楽での制作経験と今回の個展に込めた思いを聞いた。

エリス・ゲトリフ(Elise Gettliffe)について

photo by mariell lindhansen

エリス・ゲトリフ(Elise Gettliffe)
フランスを拠点に活動する陶芸家。アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学び、日本滞在中に陶芸と出会う。ファッションで培った造形感覚と、東京で学んだ陶芸技法をもとに制作を続けている。2022年にはARTS&SCIENCEでの展示販売、2023年にはデンマークのデザインブランド<FRAMA(フラマ)>とコラボレーション。近年では、<Meryll Rogge(メリル ロッゲ)>の2025-26年秋冬コレクションで空間デコールも手がけるなど、活動の幅を広げている。
Instagram:@elise_gettliffe

ファッションから陶芸へ、変わらない素材への関心

—— アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んだ後、現在は陶芸を中心に活動されています。ファッションで培った、素材の扱い方や形をつくる感覚は、現在の陶芸制作にどのように生かされていますか。また、陶芸のどのようなところに惹かれたのでしょうか。

ファッションを学んだ経験は、今の陶芸制作にもつながっています。私は以前から、素材が持つ性質や、手を加えたり組み合わせたりすることで生まれる変化に興味がありました。思いがけない形が生まれるところに面白さを感じています。

ファッションでは、身体を基準に、その周囲に衣服の形をつくります。陶芸でも、土に触れ、手を動かしながら立体を形づくっていく。素材と手の動き、そこから生まれる形の関係には、共通するものを感じます。また、粘土は手の動きをそのまま形に残せる一方で、一度焼成すれば何百年も残り続ける。その性質にも惹かれました。私にとって陶芸は、ファッションで続けてきたことを、別の素材を通して探っているような感覚です。

—— 近年では、<Meryll Rogge>のファッションショーのデコールなど、空間演出にも携わっています。こうしたファッションや空間に関わる仕事と、陶芸家としての制作には、どのようなつながりを感じていますか。

ショーでは、メリル・ロッゲと協力しながら、空間の構想から会場での設営まで携わりました。自ら壁紙を貼ったり、追加の構造物の施工を指揮したりと、制作の現場にも深く関わっています。

空間演出でも陶芸でも、ものや素材と周囲の環境との関係を考えながら制作しています。ファッションショーやインテリア、陶芸のインスタレーションでも、ひとつひとつの要素を別々に考えるのではなく、組み合わせることで生まれる変化を大切にしています。

例えば、使う素材によって空間の印象は変わりますし、同じものでも置く場所によって見え方が違います。空間のつくり方によって、そこにいる人が何を感じるかも変わってくる。陶芸では、ひとつの作品や複数の作品の組み合わせを通して考えていることを、空間演出では、その場全体や、そこを行き交う人々にまで広げているんです。

<Meryll Rogge>2025-26年秋冬コレクションのショー会場とランウェイ

エリス・ゲトリフがセットデザインを手がけたショー会場

信楽での滞在制作がもたらした発見

—— 2025年に滋賀県・信楽のNOTA SHOPによるレジデンスプログラムに参加されています。日本の中でも信楽という土地に、どのような魅力を感じていたのでしょうか。また、実際に滞在してみて、どのような発見がありましたか。

日本のものづくりや素材の扱い方、日常の何気ない所作は、これまでの制作に多くの影響を与えてきました。信楽に興味を持ったのは、長い陶芸の歴史があり、今も陶芸が地域の文化や暮らしと深く結びついているからです。また、決められたプログラムに沿うのではなく、現地での経験を取り入れながら自由に制作できることも、NOTA SHOPのレジデンスに参加した理由のひとつです。

実際に信楽で暮らしてみると、工房や工場、登り窯、陶器店など、街のさまざまな場所に陶芸の歴史が息づいていることを実感しました。また、普段とは異なる環境に身を置くことで、天候や植物、その土地の土など、身の回りにあるものにも自然と目が向くようになりました。

NOTA SHOPのレジデンス

制作には、以前の滞在者が残した粘土や周囲の畑で集めた藁、廃棄された陶器などを取り入れました。なかでも、約60年前に閉鎖された工場で見つけた古い石膏型を使った制作では、既存の形をそのまま再現するのではなく、異なる型の一部を組み合わせながら新しい形を探っていきました。まるで土でコラージュをつくるような感覚でした。

信楽での暮らしや、そこで出会った素材やものは、今回の作品に大きな影響を与えました。その土地で過ごすうちに、自分の考え方や制作の進め方まで変わっていく。それも、レジデンスで得られる大切な経験のひとつだと思います。

信楽での制作風景

古い石膏型を用いた作品

素材が残す痕跡と、模様に込められた意味

—— 今回の作品には、格子状の模様や市松模様など、反復する幾何学的なパターンが見られます。エリスさんにとって「模様」や「反復」は、作品の中でどのような意味を持つものなのでしょうか。また、信楽での滞在を通して、模様への向き合い方に変化はありましたか。

同じ形を繰り返していても、ほんの少しの違いで模様全体の見え方が変わることがあります。

信楽では、近くの畑で集めた藁を格子状に組み、ステンシルとして陶器の表面に模様を施しました。格子というと、きれいに揃った直線を思い浮かべますが、藁は一本一本の形が違います。幾何学的な模様の中に、自然素材ならではの不揃いな線が残るところに惹かれました。

藁を格子状に組み、ステンシルとして陶器の表面に模様を施した「A1_Plate」

エリスがゲームを連想する、市松模様を施した「H4_Lid」

格子のように規則的な線によって区切られた構造は、社会の仕組みを連想させることもあります。例えば、国境や監視、規制といったもの。社会には秩序を保つためのルールがありますが、それが人々の自由を制限することもあります。これに対して、市松模様から思い浮かぶのはゲームです。決められたルールがあっても、次の一手で展開は変わる。戦略を立てても、偶然によって結果が左右されることがあります。

格子が思わせる秩序や制約と、市松模様から連想する偶然や変化。これは、今の社会にも通じることだと思います。私たちはさまざまな制度やルールの中で暮らしていますが、次に何が起こるかは誰にもわからない。個人の人生も社会の未来も、思いがけない出来事によって変わっていきます。

私は、格子と市松模様から連想する二つの考え方が、ひとつの作品の中で共存することに関心があります。

格子模様と市松模様を組み合わせた「A3_Lid」

—— 今回の作品には、植物を使って施した模様や、焼成による色の変化が見られます。「残るもの」と「消えていくもの」をひとつの作品の中で扱うことに、どのような魅力を感じていますか。また、炭化焼成などによって生まれる、予測できない変化をどのように捉えていますか。

陶器は一度焼くと、何百年、時には何千年も残ります。でも、その制作には壊れやすい素材や、思いどおりにならない工程も関わっています。長く残るものが、消えていくものや予測できない変化を経て生まれるところに、面白さを感じています。

先ほどの藁を使った格子模様も、植物が残す痕跡のひとつです。藁は模様を施した後に取り外しますが、その形は陶器の表面に残ります。植物の姿を描くのではなく、実物を使うことで、その土地の風景の一部を作品に取り込むことができる。今はもうそこにないものの記憶を、こうして残せるところが好きなんです。

信楽では、籾殻などを使い、炭素の作用によって陶器の表面に独特の色合いを生み出す炭化焼成も取り入れました。ある程度の条件を整えても、最終的な仕上がりを完全にはコントロールできません。私は、その過程で生まれる偶然も、作品を形づくる大切な要素だと考えています。

今回の制作では、2012年に東京で陶芸を学び始めた頃のことを思い出しました。当時の先生から教わったのは、思いどおりにならないことを受け入れ、未知のものも創作に欠かせない要素として大切にする姿勢でした。土や火、時間など、自分の力だけではどうにもならないものと向き合い、時には素材に委ねること。信楽での炭化焼成を通して、当時教わったことを改めて実感しました。

炭化焼成による作品 下:「E2_Tall Cup」 上:「D9_Cup」

作品を「言葉」として捉える、組み合わせの可能性

—— 信楽での制作では、日本の茶の湯への関心もひとつの起点になっていると伺いました。茶の湯のどのような部分に惹かれたのでしょうか。また、その考え方は今回の作品や展示構成にどのように反映されていますか。

私が茶の湯に魅力を感じるのは、作法そのものよりも、そこから生まれる人と人、人と道具とのつながりです。お茶を用意して誰かと分かち合う。その行為を通して人々が集まり、つながっていくところに美しさを感じます。

また、茶の湯では、道具を一つひとつ丁寧に選び、その取り合わせにも細やかな気が配られています。掛物や花、茶道具、空間のしつらえなどが一体となって、その場の雰囲気をつくる。同じ器でも、何と一緒に置くか、誰が使うか、そのときの状況によって印象は変わります。

東京で陶芸を学んでいた頃、同じ工房に茶道の先生が通っていました。ご自身で使う茶碗や茶道具を制作されていて、その姿が今も印象に残っています。今回、信楽で改めて茶の湯に向き合った背景には、陶芸を学び始めた頃の経験や、当時出会った人々への敬意もありました。

信楽での制作風景

信楽での制作風景

—— 今回の作品はA〜Uのグループに分けられていますが、どのような基準で分類されているのでしょうか。また、作品同士の組み合わせには、どのような意図があるのでしょうか。

A〜Uのグループは、使う土や釉薬、加工の仕方、色や形などを手がかりに、作品同士の共通点や対比を見ながら直感的に構成しました。それぞれに特定のテーマや意味を持たせているわけではありません。

私が目指したのは、ひとつの統一されたシリーズではなく、異なる個性を持つ作品同士が対話するような展示。茶の湯で、季節や客人、その場に合わせて道具を選び、取り合わせる考え方にも影響を受けています。

私にとって、陶器の作品はひとつの「言葉」のようなものです。いくつかを組み合わせることで「文章」が生まれますが、その意味がひとつに決まるわけではありません。別の作品と取り合わせれば、また新しい解釈が生まれます。

「One Way In, Other Ways Out」と白いウサギ

—— 今回の展覧会タイトル「One Way In, Other Ways Out」には、どのような考えが込められているのでしょうか。信楽での滞在制作や、今回発表する作品との関係についても教えてください。

「One Way In, Other Ways Out」は、ひとつの入口から入り、その先にはさまざまな道が開かれているという可能性を示しています。ひとつの出会い、ひとつのもの、あるいは何気ない所作が、思いがけない何かの始まりになる。そんな考えが好きです。

今回の作品に繰り返し登場するのが、白いウサギです。仏教の説話に登場する「月のウサギ」は、慈悲や思いやりの象徴とされています。私がこのモチーフに惹かれたのは、英雄的な強さではなく、他者への共感に根ざした静かな強さ。信楽でのレジデンスを通して、ウサギは忍耐や優しさ、変化に柔軟に適応する力を象徴するようになり、作品の中では穏やかな伴走者となりました。

ウサギには、見る人に喜びや遊び心を感じてもらいたいという思いもあります。その意味をひとつに限定せず、見る人それぞれの文化や記憶、想像力を通して自由に受け取ってほしいと考えています。

ウサギのモチーフ作品「F8_Plate」

白いウサギは親しみやすいモチーフですが、どこか神秘的にも映ります。今回の展覧会タイトルに重ねれば、日常にふいに現れ、どこへ続くかわからない別の世界へと誘う存在としても捉えられます。

信楽でのレジデンスも、私にとっては同じような経験でした。信楽という土地と、その陶芸の歴史を入口に制作を始めましたが、滞在中に出会った素材やもの、人々、制作の過程で起こった出来事によって、作品は思いがけない方向へと広がっていきました。最初から進む方向が決まっていたわけではありません。

ウサギのモチーフ作品「G7_Tall Cup」photo by Hiroko Matsubara

 


 

別の記事で紹介する作品を選ぶため、事前にショールームを訪れた。「C5_Plate」もそこで目にした作品のひとつだったが、最初は特に気に留めていなかった。

「C5_Plate」の表面に見られるひび割れのような質感は、焼成の過程で偶然生まれたもの。当初は思いどおりの仕上がりではなかったが、エリスはそれを失敗として捨てず、作品の一部として生かすことにした。信楽の陶芸材料店で見つけた花やウサギの転写模様を重ね、白を基調とした器に、淡い青みを帯びた白いウサギが何匹もあしらわれた一枚へと仕上げた。

「C5_Plate」

普段、器を選ぶときに動物のモチーフへ目が向くことはあまりない。けれど、今回エリスのインタビューをまとめるなかで、白いウサギについて語った言葉が気になった。日常にふいに現れ、行き先のわからない世界へと誘う存在。まるでルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』で、アリスが追いかけた白ウサギのようだ。そんなイメージをこの作品に重ねてみると、それまで気に留めなかったウサギが少し違って見えてくる。そうして、この一枚が気になり始めた。

経験を重ねると、新しいことに興味を持っても、その先にある手間や不安まで想像がついてしまう。でも、たまには目の前に現れた白いウサギを、好奇心のままに追いかけてみるのもいい。知らない世界をのぞいてみようと思う気持ちは、持ち続けていたい。

 

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※本記事は、GALLERY ESCAPERSによる事前インタビュー、およびQUIが実施したメールインタビューをもとに再構成しています。

  • Text&Edit : Y.O(QUI)

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