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「自分だけの答え」の“前”にあるもの|『感性の教室』で広げるアートのミカタ

Oct 18, 2026
アートに正しい鑑賞方法はない。でも、アートをもっと楽しむためのヒントならある。感じたことを自由に表現しながら新しい視点を探る「アウトプット鑑賞」を提唱する、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者・末永幸歩さんとともに、さまざまな作品をじっくりと見つめる連載企画「アートのミカタ」。

今回は番外編として、今年の7月に発売された末永さんの最新刊『「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室』(ダイヤモンド社)についてインタビュー。「自分だけの答え」を見つける“以前”にある「感性」とは何か、その扉をひらくために大切なことを末永さんに伺いました。さらに、末永さんとQUI編集部が街なかで「感性をひらく」アートワークを実践。“見方を変える”ためのヒントを探りました。

「自分だけの答え」の“前”にあるもの|『感性の教室』で広げるアートのミカタ

Oct 18, 2026 - ART/DESIGN
アートに正しい鑑賞方法はない。でも、アートをもっと楽しむためのヒントならある。感じたことを自由に表現しながら新しい視点を探る「アウトプット鑑賞」を提唱する、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者・末永幸歩さんとともに、さまざまな作品をじっくりと見つめる連載企画「アートのミカタ」。

今回は番外編として、今年の7月に発売された末永さんの最新刊『「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室』(ダイヤモンド社)についてインタビュー。「自分だけの答え」を見つける“以前”にある「感性」とは何か、その扉をひらくために大切なことを末永さんに伺いました。さらに、末永さんとQUI編集部が街なかで「感性をひらく」アートワークを実践。“見方を変える”ためのヒントを探りました。

なぜ今「感性」が大切なのか?

QUI:前著『13歳からのアート思考』では、「自分だけの答え」を見つける方法について書かれていました。今回は、それ“以前”にある「感性」に目を向けたのは、なぜでしょうか?

末永幸歩(以下、末永):『13歳からのアート思考』では、アーティストがしていることを3つ挙げました。「自分なりのものの見方で世界を捉える」「自分だけの答えをつくる」、そして「それによって新たな問いを生み出す」ということです。

刊行後、「どうしたら自分だけの答えをつくれますか」「どうすれば問いを立てられますか」と、具体的な方法を尋ねられることが多くありました。その度に考えてきたのですが、結論としては、究極的には、自分だけの答えを生み出すための決まった道筋や方法はないと思うんです。

ただ、一番初めにあるのは、「自分だけのものの見方で世界を見ること」だと思います。それができれば、答えや問いは手順に沿ってつくるのではなく、おのずと生まれてくるのではないでしょうか。コップに注いだ水が縁までたまって流れ出すように、自然と答えや思いがあふれ出てくる……そんなイメージです。その出発点である「見ること」が、今回のテーマ「感性」と密接に結びついています。

QUI:変化が激しく、AIも進化する今、「自分の答えを持たなければ」「問いを立てなければ」と感じている人は多いのでしょうか?

末永:そう感じます。ビジネスでも教育でも、共通認識になっていますね。

QUI:仕事では、企画のアイデアを考えるときにAIを使うことも増えています。そのなかで、自分の感性とAIには、どう向き合えばよいでしょう?

末永:両立は必要だと思います。ただ何をするのにも、最初の部分には、人間自身の感覚や直感や熱量が必要な気がします。まず「やってみたい」「こうしたらどうだろう」という引っかかりがあって、そこからAIやさまざまな思考法を使って形にしていく。そんな両立の仕方が、私にはしっくりきます。

「感性の扉」は大人になると閉じてしまうもの?

QUI:新刊『感性の教室』では、感性を「世界からの働きかけを全身で受け止める能力」と表現されています。なぜ、大人になるにつれて、こうした「感性の扉」は閉じてしまうのでしょうか?

末永:本書で、心理学者であり教育家のローリス・マラグッツィによる「でも、100はある」という詩を紹介しているのですが、そこに一つの答えがあるように思います。子どもは、いろいろな見方、表現の仕方、感じ方、考え方という「100の言葉」を持っていますが、大人になると、そのうちの99を忘れてしまうというものです。

学校や社会では、ものを考えるときには頭を使い、考えを発表するときには言葉や文字を使うことが中心になります。歌や絵、身体で表現する機会は多くありません。学校や社会が悪いということではなく、さまざまな方法があるなかの一つだけが求められるうちに、子どもの頃に持っていた多様な見方や感じ方を忘れ、ものの捉え方を狭めてしまうのだと思います。

アウトプットの質を上げるための「問い」

QUI:連載「アートのミカタ」では、毎回、ゲストの方が末永さんやアーティストとの対話を重ねながら「自分だけの答え」を見つけていきますが、私たちが一人で作品を見るときには、どうすれば考えを深められますか?

末永:一人でも十分に対話はできると思っています。その一つの方法が、感じたことを紙に書き出す「アウトプット鑑賞」です。さらに、書いた内容に対して「どこからそう思う?」「そこからどう思う?」と問いかけ、最初の二言、三言で終わらせず、どんどん書き出していくんです。

『感性の教室』では、そこから考えを深めていくための「見方を変えるきっかけ」をいくつかご紹介しました。例えば、自分が書き出したことに「本当にそうかな?」と前提を疑ってみたり、見えない部分を想像してみたりすることなどです。こうした小さなきっかけを持つだけで、アウトプットの質や充実感は変わると思いますよ。

QUI:これまで「アートのミカタ」の中で、末永さんがゲストの方に「見方を変える」ために投げかけてくれた問いかけも、本書に登場していましたね。ちなみに、友人や家族と「対話」をしながら鑑賞するのも良い効果はありますか?

末永:他者と対話をすると、自分が思ってもいなかったような意見にも出会え、ものの見方を大きく転換するきっかけになると思います。

QUI:一方で、誰かと話すとそれに引っ張られてしまって「自分だけの答え」から遠ざかってしまわないか、不安も感じます。

末永:確かにそれもあります。ワークショップを行う中で、最初から人と話すことを始めると、他者の意見に引っ張られがちになるということも感じてきました。だから、最初に自分自身がたった一人で作品と向き合う時間をつくることが大切なんです。一人で考える時間をたっぷり取って、自分の考えを作ったうえで他者と話すことが効果的だと思います。

これはアートに限りません。本や映画についても、すぐに情報へアクセスする前に、まず自分で向き合ってみるんです。その後に他者の意見を知れば、「私はこう思った。他の人はこう思っている。」と、複数の軸を持つことができ、その上で「では、私はどう考える?」と考えやすくなるのではないでしょうか。

「感性の扉」は 日常でも開ける

QUI:「感性の扉」を開くための練習を日常で実践するとしたら、どんなことから始められますか?

末永:いくつか方法がありますが、私自身が実践していることのひとつは、「白紙のノートとペンを用意して、ふと思ったことや気づいたことを何でも一冊に書いていくこと」です。後から活用するためというより、一度書くことで心のなかに種として残す感覚です。忘れずに何か月、何年と残っていれば、それは自分にとって大切なことなのだと思います。

QUI:私もスマートフォンでメモを取ることがありますが、紙に書くのが良いのでしょうか?

末永:私もスマートフォンにもメモしますが、その後、走り書きでもノートに書いていますね。スマートフォンに入力したときとノートに書いたときでは、記憶の残り方がずいぶん違うように感じます。自分の字で書くと、視覚的な情報とともに記憶にも残りやすいのではないでしょうか。

QUI:手で書く機会が少なくなったからこそ、意識的に手で書くことでより記憶に残るのかもしれませんね。他にも日常で実践できることはありますか?

末永:学校では「学校や通学路で目に留まった風景を写真に撮る」というワークショップを行うことがあります。そこで撮影した、例えば「校庭にあった足跡」や「下駄箱に貼られたシール」といった写真を見ながら「アウトプット鑑賞」を行うんです。「ここではどんな音が聞こえる?」「この前後に何が起きた?」と想像したり、短い物語をつくったり。
すると生徒たちは、毎日通る道でも、見過ごしていた風景に目を留めるようになったと話してくれました。

QUI:美術館のような場所でなくても、日常で「アウトプット鑑賞」は実践できるんですね。

パブリックアートで「アウトプット鑑賞」を実践

日常の風景でも実践できる「アウトプット鑑賞」。今回は、アークヒルズ仙石山ガーデンに展示されたパブリックアート作品で「アウトプット鑑賞」を実践してみました。

ブラジルを代表する日系人アーティスト、トミエ・オオタケによる彫刻《無限》

末永さん流の「アウトプット鑑賞」
アウトプット鑑賞は、作品の題名や解説などの「答え」にとらわれず、鑑賞者自身が「感じたこと」に意識を向ける自由な鑑賞。
・気づいたこと(=作品に描かれている事実)を書き出し、そこからどう感じたか(=主観的な意見)を考える
・感じたこと(=主観的な意見)を書き出し、どこからそう思ったか(=作品に描かれている事実)を考える
といった点を意識して、気づいたことや感じたことを書き出していきます。

―まずは一人で10分間じっくりと作品に向き合い、作品から気づいたことや感じたことを紙に書き出しました。

QUI:書き出したのは「温かそう」「硬そうだけれど柔らかそう」、キャンディーのようで「甘そう」だとも感じました。それから「大きくて、存在感がある」のに、「圧迫感はない」のが不思議でした。上へ伸びていく形だからそう感じたのかもしれません。

末永:オフィス街では、ふだん空を見上げることがあまりないけれど、上へ伸びていく形だから、この作品は顔を上げさせてくれますね。

―それぞれの言葉を共有した後、もう一度作品と向き合います。今回の末永さんによる“見るためのヒント”は、「『目には見えないもの』を心で思い描いてみる」こと。視覚的に隠れた部分だけでなく、作品の外側、前後の時間などを想像していきます。

QUI:今は、作品のオレンジ色が青空に映え、温かく平和に見えました。でも、夜には色が消えて、黒く怖いものに見えるかもしれないと思いました。

末永:オレンジの色は、光によってそう見えているだけなんですよね。真っ暗になれば、このオレンジ色も見えなくなるんだと思うと、不思議な感じがしますね。

QUI:あと、柔らかい形状なので、長い時間をかけて変形していくような姿も想像してしまいました。

末永:本当は硬くて静止した作品なのに動いて見えるのは、自分が歩くことで形が変化して見えるからなんですね。自分の作用によって、周りのものが少しずつ動いている……と考えると、私が歩けば地面や石に影響し、吐いた息は木々に作用します。こうした会話も、誰かにわずかな作用を与えているかもしれませんね。

―普段なら通り過ぎてしまう街角の作品も、足を止めれば次々と発見が生まれます。周囲を歩きまわったり、他の人と言葉を交わしたりしやすいパブリックアートは、「アウトプット鑑賞」を日常で試す格好の場所なのかもしれません。

アークヒルズに設置されているパブリックアート

日本スペイン交流400周年を記念に制作された作品。アルトゥロ・ベルネード《交流年》

真上から見ると、サントリーホールのシンボルマークである「響」が浮かび上がる作品。五十嵐威暢《響(ひびき)》

自分なりの答えを生み出していきたいと感じている方へ

QUI:5年をかけて本書の執筆を終えた今、どんなことを感じていますか?

末永:大変な5年間でしたが、書きながら発見があったり、学んだりして、自分自身の研究のような時間でもありました。

私たちはつい、将来に役立ちそうなことや、いま数字で測れるものを得るために行動してしまいがちです。でもそうではなく、今この瞬間を味わい、出会うものを一期一会と感じ、そうして過ごした足跡として、作品や成果が残るようにできたら最高だなというのは、本を書きながらずっと考えてきたことですね。

QUI:最後に、『感性の教室』の読者のみなさんへ、メッセージをお願いします。

末永:今はAIによって、一律の答えや、見栄えのよいものがすぐにできあがる時代です。そうした中、人間の感性に立ち返り、自分なりの答えを生み出していきたいと感じている人にとって、本書と『13歳からのアート思考』をセットで読んでいただけると、理解してもらえることや、実践してもらえることが多くあるのではないかと思います。いろいろな人生のフェーズにいる人が、自分なりのものの見方で本を楽しんでくださったらいいなと思います。

Profile_末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

アート教育者
武蔵野美術大学 造形学部 卒業。東京学芸大学 大学院 教育学研究科(美術教育)修了。現在、東京学芸大学 個人研究員。東京都の中学校の美術教諭を経て、2020年にアート教育者として独立。「制作の技術指導」「美術史の知識伝達」などに偏重した美術教育の実態に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方の可能性を広げ、自分だけの答えを探究する」ことに力点を置いた授業を行ってきた。現在は、各地の教育機関や企業で講演やワークショップを実施する他、メディアでの提言、執筆活動などを通して、生きることや学ぶことの基盤となるアートの考え方を伝えている。著書に、最新刊『「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室』、23万部超のベストセラー『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(どちらもダイヤモンド社)がある。プライベートでは一児の母。「こどもはみんなアーティスト」というピカソの言葉を座右の銘に、日々子どもから新しい世界の見方を教わっている。
末永幸歩 公式ウェブサイト

販売情報

「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室
出版社 ダイヤモンド社
定価 2,420円(税込)
発行年月:2026年07月
判型/造本:46並
頁数 344頁
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  • Text : ぷらいまり。
  • Photograph : Kaho Furui
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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