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「浮遊する器官」を通じて問う、テクノロジーと社会の関係 – アーティスト・やんツー

Mar 16, 2026
東京駅八重洲南口直結のアートセンター「BUG」で、やんツー個展「浮遊する器官」が開催されている。やんツーは、テクノロジーを用いた作品を発表しながら、進歩主義や資本主義に対して批判的なまなざしを投げかけてきたアーティストだ。彼がテクノロジーを用いながらも、あえてそこに疑問を投げかけるのは何故なのだろうか。

「浮遊する器官」を通じて問う、テクノロジーと社会の関係 – アーティスト・やんツー

Mar 16, 2026 - ART/DESIGN
東京駅八重洲南口直結のアートセンター「BUG」で、やんツー個展「浮遊する器官」が開催されている。やんツーは、テクノロジーを用いた作品を発表しながら、進歩主義や資本主義に対して批判的なまなざしを投げかけてきたアーティストだ。彼がテクノロジーを用いながらも、あえてそこに疑問を投げかけるのは何故なのだろうか。

遠くの戦争、ドローンが引き寄せる現実

QUI編集部(以下、QUI):今回の個展「浮遊する器官」で発表された新作は、どのような作品ですか。

やんツー:ドローンとカタパルト(投石器)による、約20分の演劇形式の作品です。解説には「対話する」と書いてありますが、実際には対話を重ねるうちに分断が生じ、やがて喧嘩になり、最後はカタパルトが投擲(とうてき)してしまう…そのプロセスを見てもらう構成です。会話劇のセリフは毎回AIで生成されます。

「浮遊する器官」会場風景

「浮遊する器官」会場風景

QUI:毎回セリフが変わるのですか。

やんツー:照明や音響も複数のパターンを用意していて、演出も毎回変わります。ハイカロリーでしょう。笑
ただ、まったく異なる話になるわけではなく、骨格はプロンプトで定めています。ペルソナも設定していて、ドローンはリベラル思想で理想主義、カタパルトは保守的で現実主義といった位置づけです。

QUI:対話のすれ違いが加速しヒートアップしていく様子は、SNSでよく見る光景のようで人間味も感じます。

やんツー:昨今の世の中を映し出すようなものにしようと考えました。こうした流れもプロンプトの脚本で構成しています。今回は、BUGキュレーターの野瀬綾さんと、京都のBnA Alter Museumで展示ディレクションをされている筒井一隆さんと、3人でリサーチを重ねながらプロンプトを作成しました。直筆のプロンプトも展示していますが、根幹の部分は人間が作っていることを示すためでもあります。

QUI:タイトルの「浮遊する器官」とは、どのような意味なのでしょうか。

やんツー:「器官」という単語は、技術の哲学の文脈でしばしば用いられます。ベルナール・スティグレールという哲学者は「一般器官学」という考え方を提唱しています。それは、テクノロジーを人体の器官を拡張する道具として捉えるものです。さらにその枠組みは、社会のシステムにも当てはまるとされます。そうした議論を踏まえ、今回は「器官」に着目しました。

例えば、ドローンは文字通り「浮遊する器官」として、人間の身体から離れ外部化された「目」にもなり得ますし、AIは外部化された「脳」のような存在にもなります。人間の身体から自立して浮遊しているようなイメージです。スピーカーであれば発声の器官、カタパルトであれば腕や手に見立てることもできる。今回の作品は、そうした人間の身体から離れた「浮遊する器官」によって構成されています。

QUI:今回、その「浮遊する器官」のひとつとして、特にドローンに着目されたきっかけはありますか。

やんツー:BUGでの個展の話をいただいた際「AIを使った、あるいはテーマにした作品を制作してほしい」という要望がありました。しかし、それまで僕は意図的にAIを避けてきました。理由は明確で、ひとつは環境負荷の問題で、それに加担したくなかったから。もうひとつは、AIは人間の思考を停止させる道具になるという警戒心からです。

ただ、批判するのであれば、まずAIについて十分に理解する必要があると考え、一度きちんと向き合ってみようと思ったんです。調べていくうちに、AIが軍事にも利用されている現実が見えてきました。特に衝撃的だったのは、僕たちでも入手可能な本作でも使用しているDJIのMavicのような民生用ドローンが、ロシアのウクライナ侵攻でも使われ始めたという事実です。

「浮遊する器官」会場風景

QUI:撮影でよく使われるようなドローンですよね。

やんツー:まったく同じものです。一般に販売され、インターネットでも購入できる。それが戦場では偵察機として「目」となり、攻撃にも転用される。戦場での“イノベーション”が、身近に入手できるドローンによって生じているのです。

QUI:同じ技術が、人間にとっての「薬」にも「毒」にもなるのですね…

やんツー:ウクライナやパレスチナで起きている戦争や軍事侵攻はどうしても遠い出来事に感じられます。物理的な距離もありますし、時間が経つにつれてニュースからも遠ざかってしまう。一方で、憲法改正に勇んでいたり、軍事に巨額の予算を投じる昨今の日本政府の動きを見ていると、この国にもそういった脅威は着実に近づいてきていると感じます。しかし大多数の国民は、日本はまだまだ平和だと錯覚しているのが現状ではないかと思います。そうしたなかで、この身近に入手できるドローンは、実感しづらいリアリティを引き寄せる存在になり得るのではないかと思いました。

変化のきっかけ、進歩主義や加速主義の考え方への疑問

QUI:話は変わりますが、「やんツー」という名前の由来はどこからですか。

やんツー:よく聞かれるのですが、小学2年生の頃から「やんツー」というあだ名でした。兄が「ヤンマー」と呼ばれていて、僕が野球チームに入ったとき、監督に「ヤンマー2で“やんツー”だ」と言われたのがきっかけです。それ以来、そのあだ名で呼ばれています。

QUI:なぜ本名ではなく、その名前で活動されているのでしょうか。

やんツー:大学院修了後、最初は本名で活動していました。でも、山口崇洋という平凡な名前で、なかなか覚えてもらえなかった。2012年頃から「やんツー」をアーティスト名として使うようになり、徐々に覚えてもらえるようになりました。

QUI:意外な理由ですね。
活動初期から一貫してテクノロジーを用いた作品を制作されていますが、取り入れるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

やんツー:きっかけはシンプルに、そういう環境で学んだからです。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コースでメディアアートを学び、そこからテクノロジーを用いるようになりました。ただ当初は、単に“使っていた”だけでした。テクノロジーを使えば「効率よく新しい表現ができる」といった、極めて進歩主義的な発想が前面にありました。

大学卒業後も、グラフィティを描くマシンなどを制作していましたが、テクノロジーを用いれば、それまでにない表現が比較的容易に生まれると感じていました。「最新のテクノロジーが可能性を拡張する」という考え方が強かったんです。

「浮遊する器官」会場風景

QUI:今回の作品とは違った考え方のように見えます。考え方が変わるきっかけがあったのでしょうか。

やんツー:大きな転機はコロナ禍でした。それまで抱いていた進歩主義や加速主義的な考え方に危うさを感じるようになりました。生活様式が変わる経験が大きかったと思います。コロナ以前は「この道しかない」と思っていたけれど、別の可能性もあり得るのだと気づきました。

また、メディアアートはアートの中でも比較的ノンポリティカルで、政治的な議論があまり表に出ません。実際、東日本大震災のとき、正直に言えば十分に反応できず、どこかで見て見ぬふりをしていた部分がありました。
しかし次第に、テクノロジーそのものが政治であり、権威とも深く結びついているのだと気づくようになったのです。日常生活のなかでは見えにくい——あるいは見えないようにされているのかもしれない——だからこそ、それを直視しなければならないと考えるようになりました。

効率の外側へ、テクノロジーの再解釈

QUI:近年のやんツーさんの作品では、例えば《遅いミニ四駆》など、テクノロジーを一般的な「役に立つ」という考え方とは違う方向に振っている印象もあります。

やんツー:最近はその傾向が強くなっていますね。哲学者ユク・ホイの影響が大きいです。彼が提唱する「コスモテクニクス」、つまり「技術の多様性」という考え方からの影響です。現在の技術は「速い・軽い・効率が良い」といった、単一の価値観やイデオロギーに集約されてしまう傾向があるように感じますが、やはりそうではないと感じます。

アートには多様な価値があり、それ自体が重要な価値です。技術も同様に、ひとつの価値観に収斂するのではなく、より多様な使い方やアプローチがあってもよいはずです。異なる使い方をすることで、異なる価値を提示し、価値観そのものを拡張していく。そうした思考が、いま自分の中で大きな流れになっているのだと思います。

《遅いミニ四駆》Photo by Keizo Kioku

QUI:最後に、今後取り組んでみたいことや関心のあるテーマはありますか。

やんツー:原子力ですね。原子力というテクノロジーは非常に巨大で、あらゆるものがそこへ収束していくような力を持っています。核兵器を保有するという事実だけで均衡が揺らぎ、不安定になるほどの圧倒的なパワーがある。けれども、誰もその実態を十分には知らない。私は物理的に動く作品を制作し、それを提示してきました。原子力をどのように扱えるのかはまだ分かりませんが、引き続きリサーチを重ねていきたいと考えています。

QUI:原子力といえば「原子力発電」も想起されますが、過去には「重力発電(※)」に着目した作品も制作されていましたね。(※ 重量物を高い場所へ持ち上げて「位置エネルギー」として貯蔵し、必要な時に落下させることで発電機を回す蓄電技術)

やんツー:そうですね。当時も原子力発電には関心がありましたが、電気について自分の理解がまだ十分ではなかった。そこでまずは「重力発電」という、古くて新しい発電方法に着目した作品を制作しました。

QUI:今回の作品もそうですが、リサーチと制作を積み重ねた実践が、次の作品へと接続していくのですね。本日はありがとうございました。

やんツー / yang02
1984年、神奈川県生まれ。絵を描く、鑑賞する、作品を設置・撤去するといった美術制度にまつわる行為を機械に代替させるインスタレーション作品で知られる。近年は、テクノロジーの利便性や合理性の背後に潜む政治性や暴力性をテーマに制作。
文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞(2012)、同優秀賞(2018)を受賞。近年の主な展覧会に「MOTアニュアル2023」(東京都現代美術館)、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館)など。
Instagram:@yang02

【開催情報】
展覧会名:やんツー個展「浮遊する器官」
会期:2026年2月25日(水)〜4月5日(日)
会場:BUG
住所:東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1F
開館時間:11:00–19:00
休館日:火曜
入場料:無料
主催:BUG
公式サイト
Instagram:@bugart_tokyo

  • Text : ぷらいまり。
  • Photograph : Kei Matsuura(STUDIO UNI)
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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