渋谷PARCOでアートを通じて多様な価値観と出会う|「P.O.N.D. 2025 Swing Beyond / 揺らぎごと、超えていく。」
本イベントを訪問し、ディレクターや今注目のアーティスト、コントリビューターに話を聞いた。
ART&CULTUREの祭典「P.O.N.D.」
〈P.O.N.D.〉は、渋谷PARCOを舞台に開催するアート&カルチャーイベント。前身は2011年から続いた「シブカル祭。」で、そのフィロソフィーである「新しい才能の発見と応援」を引き継ぎ、2020年から〈P.O.N.D.〉として新たにスタートした。名称には「Parco Opens New Dimension(常に新しい次元を切り開いていく)」という想いが込められており、アート・ファッション・音楽・映像など幅広いジャンルのクリエイターの才能とエネルギーがあふれ出す場となっている。
今回は1Fエントランスや4Fの吹き抜けで展開する2名のエキシビジョン、そして「PARCO MUSEUM TOKYO」では6名のコントリビューターの協力のもと、国内外から集まった12名のアーティストによるグループ展を開催している。
今年のテーマ「Swing Beyond/揺らぎごと、超えていく。」と空間デザイン
6回目となる今年のテーマは「Swing Beyond/揺らぎごと、超えていく。」
変化の激しい時代にあっても、状況に流されず、自分らしいリズムでしなやかに進む。そんな感性に寄り添いながら、新しい表現を届け、アーティストと来場者それぞれのスイングが響き合う時間を生み出す場となることを期待している。
本展の開催にあたり、キービジュアルを制作したアートディレクターのおおつきしゅうとと、会場のデザインを担当した空間デザイナーの髙橋義明に「こだわりポイントや来場者へ届けたい体験」について聞いた。
おおつきしゅうと(アートディレクター)

『〈P.O.N.D.〉は渋谷PARCOがアーティストと協業して仕掛ける本気の文化祭です。アーティストからすると、ギャラリーや美術館という枠から外れた場所での発表となります。両者ともに実験的な姿勢でこの地で祭典を作る、それ自体がデザインのコンセプトになると考えました。そこでアルミパネルとして出力したイベント名やキャッチコピーを、渋谷PARCOの入り口で、実際にアーティストや空間デザイナー、渋谷PARCO〈P.O.N.D.〉の運営チームが手に取って支え合い、声を掛け合うことでレイアウトが調整され完成するデザインを考案しました。館内の様々な場所で展開されているこのビジュアルが、渋谷PARCOの届ける“new dimension”に出会う体験の導入となります。』
Instagram:@postcityboy
髙橋 義明(空間ディレクター)

『今回のテーマが“Swing Beyond”ということで、揺らぐことを肯定し、常に仮の状態で留まるように努めました。そのためにはアートディレクターのおおつきさんやアーティストはもちろん、企画・施工チームとの対話を重ね続けることが大切でした。対話の数が増えるたびに、あらゆることが定まりにくくなっていきます。それを豊かな状態として受け入れることが、個人的な課題でした。会場はリースパネルを裏返した壁や、過去の展示で使われた壁紙や什器を転用して構成されています。そこには過去の展示の痕跡や、大工さんとアーティストの即興的なアイデアなど、計画や設計というものから外れた物事がたくさん詰まっています。これらは作品を成立させるのに不可欠なものですが、普段の鑑賞体験の中では可視化されません。“Swing Beyond”では、来場者に対してそういったものへのアクセス可能な場を開き、不確かさや、揺らぎの中に潜む「豊かさ」を感じとっていただけたら嬉しいなと思います。』
Instagram:@efag.css
“Swing Beyond”を体現する、アーティストたちの作品を紹介
本展は渋谷PARCO 1Fのエントランス、4Fの吹き抜け、同じく4Fの「PARCO MUSEUM TOKYO」で展示が行われ、入場は無料だ。展示を行う14名のアーティストのコメントとともに展示を紹介する。
宇留野 圭(アーティスト)
1Fのエントランスでは、静かに浮かび上がるような存在感を放つ宇留野圭の作品《22の部屋》が来場者を迎える。

宇留野圭《22の部屋》 2025年 アクリル、ファン、タイマー
『この作品は半透明のアクリルで作られた箱状の部屋とファン付きパイプオルガンが複雑に接続され、一つの回路を形成しています。タイマーで制御されたファンが間欠運転することにより部屋の空気が循環し、パイプオルガンの構造を通ることによって、音が発生しています。密室どうしが空気の通り道を介してわずかに影響し合いながら、一定の距離を保って並列している構造と、音階の微妙な変化は、現代における「個」と「個」がどのように影響を与え合い、共存しているのかを映し出すと同時に、他者や社会との複雑な関係性を問いかける装置として機能します。』
Instagram:@kei_uruno
今枝 祐人(アーティスト、歌人)
4Fの吹き抜けでは、電光掲示板に次々と映し出される言葉や映像が目を惹く、今枝祐人の作品《Inword facing Outward》が展示されている。
『この作品は都市の電光掲示板を用いて、私の言葉や映像を街へ持ち出します。街から拾い集めた言葉を詩や物語へ再構築し、再び社会に還元する循環的な行為です。これは内面を露わにするのではなく、内なる言葉を外部に向けて解放し、社会との新たな接点を生み出す試みです。詩や物語は、社会を咀嚼し内省したうえで対話を促す、解釈に開かれた媒体です。人々が無意識に目を留める「必然」の場にそれらを滑り込ませ、読むことを避けられない状況をつくります。』
Instagram:@work.imaeda
渋谷PARCOの4F「PARCO MUSEUM TOKYO」では、12名のアーティストの展示が行われている。入り口から順に紹介。
井澤 茉梨絵(画家)

井澤茉梨絵《巨人の身じろぎ》キャンバス、 アクリル絵の具、 マット系メデイウム
『キャンバスを水族館の水槽のような制限のある「環境」とみなし、その中でモチーフとなる生き物たちが育っていくイメージで描いています。絵画の外という「環境」から絵を見たとき、大きな形と小さな形は、一方に注目するともう一方が見えなくなるような関係にありますが、全てが同じ枠組みの中に同居しながら、適応し、反発し合っています。また、適応と反発による変化の痕跡が同じ平面上に残ることで、過去の形との関係もあらわになります。』
Instagram:@marieizawa
みずかみしゅうと(アーティスト)

みずかみしゅうと《チキン or ビーフ》2025 アルミホイル 《チワベロス》2025 写真、陶器 《誰かの落としたメモ》2022~2025 拾ったメモ 《スズメのタマゴのための巣》2025 卵、樹脂、石膏、ステンレス、塗料
『3匹のチワワのリードが絡んで絡んでケルベロスになりそうだと思ったので、チワワのケルベロスを作ってみました。他の作品も些細な事をきっかけにして制作しているなと思います。それは、人を紹介されたときに学歴などを言われるよりも、「こいつキッチンで豆苗育てんねん」と紹介された方が興味もてる気がする事と近い気がしています。そのように見てくれた方の興味の隙間に入り込めるような作品を目指して制作しました。』
Instagram:@namahamustar
Dương Gia Hiếu(写真家、マルチディシプリナリー・アーティスト)

Dương Gia Hiếu《Dress like Việt》布に印刷した写真、 ステンレスパイプ、照明
『ベトナムで暮らす⼈々の⽇常的なストリートスタイルを捉え、市⺠の装いを通してその都市の精神を表現する試みです。また、都市そのものや地球温暖化、都市内での移動⼿段が⼈々の装いにどのような影響を与えているかにも焦点を当てています。』
Instagram:@duonggiahieu
何 梓羽(立体作家)

何梓羽《リアリストの占い》再利用工業製品、アルミ型材、アルミ合金、鉄、プラスチック、電子回路(センサー、発声ユニット、配線など)
『この作品は「易経の占い手順」をもとにしたインタラクティブな可動装置です。観客がハンドルを6回まわすことで、偶然による色の組み合わせが現れます。その結果に対応する卦象の位置にスマートフォンをかざすと、NFCタグを通じてAIが“不確かな選択”を解釈し、“今”という時代に響くメッセージが届きます。』
Instagram:@kashiu_hzy
髙橋 穣(彫刻家)

高橋穣《DROP#3》ガラス、アルミニウム、ステンレス、ポンプ、渋谷暗渠の水
『渋谷エリアの暗渠をリサーチし、「宇田川」の水脈をたどって取った水を作品に使用しました。かつての水の流れを都市に呼び戻す試みとして、水を通して空間を「彫刻」する装置を制作しました。重力と表面張力が生む水滴をレンズとし、レーザー光が拡散して光と影が交錯する詩的な空間を生み出します。』
Instagram:@joesculpture
masao(アーティスト)

masao《( ) face》 FRP、アクリル、UVプリント/印刷紙、ストロボ照射照明
『主に立体やインスタレーションを中心に、「見ること」や「知覚のズレ」をテーマに制作しています。FRPやアクリル、印刷紙を組み合わせたり、最近は光の扱いに関心があります。《( ) face》では渋谷PARCOという情報過多な空間で、あえて“伝わらない”状態をつくり、ストロボ光で一瞬の「顔」を出現させます。見えない部分を脳が補うことで像が生まれる現象を通して、「見る」とは何かを問います』
Instagram:@ooooooooomad
黒沢 鑑人(写真家)

黒沢鑑人《Self》写真、 木製パネル
『今回展示する「self」シリーズは、自分自身の写真を意図的に傷つける衝動から生まれました。破壊的な行為の中には、浄化や自己防衛の意味も潜んでいます。写真という平面に痕跡を刻むことで、内面の揺らぎが浮かび上がり、自己を再構築していく。言葉では捉えきれない感情や衝動を、視覚的に記録するための試みです。』
Instagram:@kanto_kurosawa
Koka Nikoladze(作曲家、楽器発明家、音楽機械の制作者)

Koka Nikoladze《People, 9:48, 2024》マルチメデイア
『1台のカメラとマイクのみを用いて、1週間にわたり撮影された映像をもとに構成された作品です。音楽は基本的に単旋律でありながら、映像の細やかなカット編集によって多声的な響きを生み出しています。映像には常に一人の顔だけが映り、声も一人分のみです。音響処理は行われず、編集のリズムだけで構築されています。撮影では、床に固定された椅子と、被写体の前に置かれたグリッド入りモニターを用いました。被写体が動かずに座ることを意図した装置でしたが、結果として「人は静止できない」という事実が浮かび上がりました。制作者は歌い手の背後でその背を支えながら録音を行い、膨大な映像素材をフレーム単位で手作業により編集しました。辞書によれば、アートとはクラフト(手仕事)です。本作には道徳的メッセージはありません。ただ人々が“The quick brown fox jumps over the lazy dog.”を歌い、その行為の中に自然にドラマが生まれていきます。観る者は作品の入口から入り、出口へと抜けていきます――それがすべてです。』
Instagram:@kokanikoladze
Tonii(友人)

Tonii 《8/3-8/16 8/25 鏡の反対側》レジン、取っておいたゴミ、家の壁
『シンさんや友人たちと関西で遊んだりしました。その日記的なハンガー
重要なモノの外側を使って、僕が忘れてしまうであろう事を僕の代わりに憶えていてくれます。』
Instagram:@tonii.no.tanii
張 聴(ニューメディアアーティスト)

張聴《Monkey Gymnastics》油彩絵具、キャンバス、UVプリント《KEEP YOUR MIND》アフリカチーク、ワックスオイル、TFT円形ディスプレイ、アクリル、木板
『私はかつて一枚の写真を見たことがあります。そこには、サルの被り物をした人物が、競技場の鉄棒に両手でぶら下がっている姿が写っていました。まるで観衆の視線を浴びながら試合の準備をしているかのようでした。その人物は、どこか無表情でありながら怯えたような目をしていました。しかしその写真は後にどうしても見つけ出せなかったため、私はAIを使って、それに似たイメージを生成しました。その画像には、「規律によって抑圧された人間」の姿が強く投影されているように感じました。体操という動作自体がすでに規律の象徴であり、誰かが教えた通りに動くことが求められ、自分の意思で選択する自由がありません。教育もまた同じです。幼少期の記憶の中で、私はこの鉄棒にぶら下がるサルのように、規律によって形作られ、無表情に動いていました。』
Instagram:@jantun_18
Yang Hongjo(陶芸家)

Yang Hongjo 《Bananas and rabbits》セラミック、 ミクストメデイア
『前回の「ロストシューズの発見展示」に続き、今回のPARCO MUSEUMでは「ロストシューズの克服の旅路」を盛り込んだ展示をします。今回の作品で登場するウサギは私が6才頃に飼っていたペットで、私が大好きなあまりその当時私の過度な愛で煩わしくさせ、家を出てその後帰ってこなくなってしまったウサギです。どこかでウサギとシューズが出会い、お互いに寂しくないように助けてほしいという願いで登場させました。』
Instagram:@yangh0ngj0
菅野 歩美(現代美術作家)

菅野歩美《たいくつな掘削かてい》ミクストメデイア 什器制作:小泉 立(週末スタジオ)、加藤 健吾(Dottete Design)
『本作は作者が祖父の廃業した事務所の整理をする過程から生まれました。「むかしむかし」から始まる語りと共に事務所内を巡る映像が繰り返されますが、モノの配置や間取り、語り手は、繰り返される度に変化します。同じ話を何度も聞かされるというありふれた経験においても、繰り返される度に新たなディティールが出てくることがあります。これは人の記憶のあり方と、整理の過程を重ねたインスタレーション作品です。』
Instagram:@ayumikanno
コントリビューターからのメッセージ
多彩なカルチャーシーンで活躍するコントリビューターの協力を得て開催された本展。彼らから〈P.O.N.D.〉の企画意義についてのメッセージをもらった。
SOLO Contemporary(Art project)

『私たちにとって〈P.O.N.D.〉は、実験的なアート実践をめぐって、インディペンデントな視点と制度的な立場をつなぐプラットフォームを意味しています。異なる文化的背景をもつアーティスト同士の対話を促し、挑戦する姿勢と創造の自由を育む場でもあります。こうした姿勢は、既存の枠組みを超えて表現・テクノロジー・感情の新たなかたちを探求するアーティストを支援する――という、SOLO Contemporaryの理念とも完全に響き合うものです。』
Instagram:@solo_contemporary
Guno Lee(Treelikeswater)

『今回〈P.O.N.D.〉のコントリービューターとして参加することになり、とても意味深く思います。PARCOで15人の作家と共に行った今回の展示は、それぞれの個性が互いの流れの中で自然にスイングするようにつながる場でした。 作家のヤン·ホンジョと一緒に参加し、「境界を越えて揺れに進む芸術」というテーマを深く感じることができました。 異なる視線と感覚が一つの空間で調和して共鳴し、芸術が持つ拡張の可能性を改めて実感しました。』
Instagram:@treelikeswater
石神 俊大(編集者)

『毎年〈P.O.N.D.〉にはフレッシュなクリエイターたちが参加していますが、実のところ、私はその多くの存在を知りません。なかには活動を始めて間もない人もいるかもしれませんし、一般的な知名度が低い人もいるかもしれません。そして何より、単に私の知識が足りないだけでもあります。しかし、その知らなさ、わからなさこそがこの世界の豊かさです。自分のまったく知らないどこかで新たな才能やコミュニティが生まれ、つながりあっているのだと気づかされること──〈P.O.N.D.〉には、そんな未知に触れるスリルと発見の喜びが満ちています。』
Instagram:@moteslim
濱田 晋(写真家)

『「意義」を辞書で引けば、- 物事の存在・実行などにおける価値や重要性 - と記載されていました。PONDの意義を僕はうまく説明できませんが、toniiと遊べて楽しかったです。』
Instagram:@shinhamadastudio
林 里佐子(キュレーター、ライター、編集者)

『菅野歩美さんは、固有の土地が持つ伝説や幽霊的な存在などのリサーチを元にした作品を制作してきました。今回発表した《たいくつな掘削かてい》は、特に思い入れのある場所へと踏み込んだ作品であり、現在の自分を形成した場所であるという確信と、子供の頃の不安定な記憶を行き来する、作者の葛藤が感じられます。〈P.O.N.D.〉のテーマを、ゆらぎをも受け入れながら現状を超えていくという現代性として捉え、ナラティブを抱えながら作品を着地させていく力強さを持つ菅野さんを推薦しました。』
Instagram:@risako_hayashi
李 静文(インディペンデント・キュレーター)

『〈P.O.N.D.〉は、今この瞬間の沸点を観察する装置です。渋谷というカルチャーの中枢に位置する都市環境の中で、多様な主体が交差する瞬間に立ち上がる“場の温度”を基に、アーティストはその活性剤として機能し、社会が抱える緊張や欲望がどのように個人の創造行為として表出するのかを可視化します。そこから、現代における文化的エネルギーがいかに生成され、循環しているのかが明らかになります。』
Instagram:@celiamo_
本展でアートを通じたさまざまなカルチャーと価値観との出会いをぜひ楽しんでいただきたい。
P.O.N.D. 2025 Swing Beyond / 揺らぎごと、超えていく。
会期:2025年10月24日(金)〜11月10日(月)
開館時間:11:00~21:00(最終日は18:00閉場/入場は閉場の30分前まで)
会場:渋谷PARCO
・4F PARCO MUSEUM TOKYO
・1F エントランス
・4F 吹き抜けエリア
・B1F GALLERY X BY PARCO
・9F SUPER DOMMUNE(クロージングイベント)
※日時:2025年11月10日(月) 20:00-24:00(予定)
住所:〒150-8377 東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷パルコ
入場料:無料
主催:P.O.N.D. 2025 実行委員会
企画制作:PARCO、RCKT/Rocket Company*
空間デザイン:髙橋義明
アートディレクション:おおつきしゅうと
公式サイト
詳細・最新情報は以下にて順次公開予定
Instagram:@p.o.n.d.official、@parco_art
Website:PARCO ART
※ 営業日時は変更となる場合がございます。詳しくは渋谷PARCOのHPをご確認ください。
※ 企画内容は予告なく変更になる可能性がございます。
- Photograph : Yohei Ohno
- Edit / Text : Seiko Inomata(QUI)


