原菜乃華 – 心の声に耳を澄ます

立ち止まって考えることも大事だと思う
― まずは本作の魅力と見どころからお聞かせいただけますか?
篠原(俊哉)監督の描くワンダーランドがとにかく美しくてかわいいので、この映像はぜひ劇場で観ていただきたいです。
そして(原さん演じる主人公の安曇野)りせが、多くの方にとって共感できるキャラクターになっていると思います。ワンダーランドの住人たちがりせに問いかけるセリフは、きっといろんな気づきを与えてくれるんじゃないかなと。小さいお子さんから大人の方までそれぞれ違った視点で楽しめる、なかなか他にはない魅力が詰まった作品です。
― 原さん自身は本作からどんなメッセージを受け取りましたか?
りせはSNSなどに囲まれていることで、自分の本当に好きなものが分からなくなってしまっている状態で。力の抜き方を忘れて、嫌なことを嫌だと言うことすら気づけなくなるのが一番怖いですよね。心の健康のためにも、何が好きで何が嫌いなのか自分自身の声にちゃんと耳を傾けられるような状態でありたいなと思いました。

― 外部からの影響で本当の自分が分からなくなってしまうという感覚は、きっと共感できる人も多いですよね。りせの場合はワンダーランドが自分を見つめ直す旅路になりましたが、現実世界で自分らしく、自分の好きな物に真っ直ぐで居続けるためにはどうすればいいと思いますか?
難しいですよね。自分の気持ちを尊重することももちろん大事だし、周りに合わせることだってすごく大事なことだと思うので。
人と会っているといろんな思考や情報が入ってくるので、それに対して自分はどう考えるのか、処理する時間が必要だと思うんです。私は自分の気持ちを整理するために言葉にするようにしています。そうすることで、自分の中で私は意外とここに引っかかっていたんだなとか、こういうのが嬉しかったんだなとか、気づくことができるので。
― 情報を得ることに夢中になって、それを自分の中で咀嚼する時間を疎かにしている人は多いかもしれません。
そのまま進み続けるとわからなくなってくるので、立ち止まって考えることはすごく大事だと思います。
― その立ち止まる時間が、一人ひとりにとってのワンダーランドだといえるのかもしれませんね。

アニメの現場に携われることが楽しくてしょうがない
― りせは原さんと同世代の女性でしたが、演じる際に大切にしたことはなんでしょう?
私のもとの声が高く、早口で話してしまう癖があるので、声の表現がすごく若いと言われて。前回『すずめの戸締まり』をやらせていただいたときは学生の役だったんですが、今回は大人の女性を意識してほしいという演出をいただきました。自分が思っている以上にゆったり、落ち着いた声で話すように意識はしていたのですが、気を抜くと戻っちゃうんですよね。
― りせはかなり翻弄される役なのでついつい声も上ずってしまいそう。
ワンダーランド内では体を動かすシーンがたくさん出てくるので、そうなるとやっぱり難しいですね。でもまた今回の作品で、いろいろ自分の新しい声を聞けたなと思います。
― 『すずめの戸締まり』と比べて、ご自身の成長を感じるところはありましたか?
技術的にはまだまだですけど、余裕を持ってマイクの前に立てるようになったかなとは思います。大好きなアニメの現場に携われていることが嬉しくて、とにかく楽しくてしょうがなかったです。

― 声のお仕事が好きなんですね。
小さいころからカメラの前でお芝居をするのが当たり前だったので、映っていないことがすごく快感で。全身に意識を巡らさなきゃいけないっていうのが映像の面白いところでもあり、好きなところでもあるんですけど、アニメーションだと意識を分散させず声だけに集中できる。
自分一人しかいない空間で台本と映像にだけ向き合って、自分の中でああでもないこうでもないと積み重ねてミリ単位で調整していくのが本当に楽しいです。
― 普段のお芝居でも声を意識することはありますか?
台本をいただいて、役作りをしようとなったときは、一番最初にどんな声で喋る人なんだろうと想像します。昔からそうで、アニメーションを見るのが好きだった影響もあるかもしれません。
― 声に人柄が出るなと感じることも?
はい。お芝居が素敵だなと思うときも、声の表現が豊かなんだなと感じることが多いです。
― 原さんの声ってすごく素敵ですけど、きっと耳もいいんでしょうね。
嬉しいです。たまに方言のお芝居をやっていると、耳がいいんだねと言ってもらうことがあります。

― 本作は共演者も錚々たる面々ですが、特にアリスを演じたマイカ・ピュさんとは同じシーンが多かったですね。現場でも一緒に?
ずっと隣同士でやっていました。りせはアリスの自由奔放さに振り回されることが多いので、やっぱり一緒だとやりやすかったですし、マイカちゃんにすごく引っ張ってもらいました。
― マイカさんはまだ11歳なんですよね。どんな方なんですか?
アリスそのままです。とにかく自由奔放で天真爛漫。すごくかわいいです。
私がお腹空いたって言うと、バッグの中からお菓子をいっぱい出してくれたり、急に好きな色はなんですかと聞かれて、赤と黒が好きだって答えたら、次の日に赤と黒の輪ゴムで作った指輪をプレゼントしてくれたり、すごく優しくて。
― 声の収録はバラバラの場合も多いですけど、コミュニケーションを取りながら録ることで、その空気感も作品に現れそうです。
やっぱりひとりで録っているときとは、声に乗ってくるものが全然違います。本当に一緒にやれてよかったです。
― 他に印象的な共演者は?
私は13歳ぐらいの時に「おはスタ」という番組で、花江夏樹さんと小野友樹さんとずっとご一緒させていただいていたんです。今回の作品ですごく久しぶりにお会いできました。アニメの現場で再会できたことがすごく感慨深くて、とっても嬉しかったですね。

お芝居への向き合い方は変わってもずっと好き
― りせは劇中で「好きなもの」について問われていましたが、最後に原さんの好きなものも時間が許す限り聞いてみたいです。まず、好きな花は?
名前の由来なので、菜の花。母方のひいおばあちゃんが小豆島に住んでいて、そこで菜の花畑を見て、母が菜乃華という名前をつけたと聞きました。
― 素敵。
なので一回行ってみたいなと思っています。
― 好きな生き物は?
サメ。凶暴なのに黒目がちで、かわいいところが好きです。フォルムも美しいし、水族館や海中のドキュメンタリーを観ていてサメがいるとテンションが上がるんですよね。
― 最近ハマっていることは?
クラゲの置物を集めています。
― 置物というのはぬいぐるみとかですか?
ガラスの中にクラゲが入っているような置物です。水族館にクラゲを見に行くこともあります。

― 好きな服装は?
私服は真っ黒です。着心地が良くて楽なものしか着たくなくて。黒を着ていると汚れないっていうのもあるけど、安心するんです。あと、お仕事に行くってなると結局移動だけになるので、楽な服をよく選びます。
― 好きな食べ物は?
餃子。トマトも好きです。
― 料理も好きですか?
全然しません。
― 食べることは好きですか?
大好きです。
― お仕事は好きですか?
好きです。楽しいから続けられているんだろうなって思います。
― お芝居に向かう気持ちに変化はないですか?
変わってはいますね。物心ついたころからやってきたので。物語の中に入れることが純粋に楽しいっていうところから始まって、学業か仕事かで迷うタイミングがあって、お芝居でご飯を食べていきたいと考えるようになって。お芝居への向き合い方は変わっていっていますけど、ずっと好きなんだろうなと思います。

Profile _ 原菜乃華(はら・なのか)
2003年8月26日、東京都生まれ。『はらはらなのか。』(17)で映画初主演を果たし、以降、『罪の声』(20)、NHK大河ドラマ「どうする家康」(23)など話題作に次々と出演。ヒロイン「岩戸鈴芽」役に抜擢された興行収入100億円を突破したアニメーション映画『すずめの戸締まり』(22)で第18回声優アワード・新人声優賞、映画『ミステリと言う勿れ』(23)では第47回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。2024年はW主演を務めた映画『恋わずらいのエリー』、ドラマ&映画『【推しの子】』、2025年にはNHK連続テレビ小説「あんぱん」へ出演するなど、いま大注目の実力派若手俳優。
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Information
劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』
2025年8月29日(金)全国公開
声の出演:原 菜乃華、マイカ ピュ、山本耕史、八嶋智人、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、山口勝平、森川智之、山本高広、木村 昴、村瀬 歩、小野 友樹、花江 夏樹/松岡茉優、間宮祥太朗、戸田恵子
原作:『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル)
主題歌:SEKAI NO OWARI 「図鑑」(ユニバーサル ミュージック)
監督:篠原俊哉
脚本:柿原優子
劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』公式サイト
ⓒ「不思議の国でアリスと」製作委員会
- Photography : Yu Teramoto
- Styling : Arisa Yamada
- Hair&Make-up : Asako Baba
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)