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水川あさみ – 人間の多面性

Sep 1, 2022
短編映画のオムニバス作品『MIRRORLIAR FILMS Season4』の一篇『おとこのことを』で初監督を務めた水川あさみ。夫の窪田正孝を主演に迎え、ある男の日常をワンシチュエーションで描いた挑戦的ともいえる一作だ。女優として第一線で活動する水川が、映画監督として表現したもの、そしてその経験から得た気づきとは。

水川あさみ – 人間の多面性

Sep 1, 2022 - FILM
短編映画のオムニバス作品『MIRRORLIAR FILMS Season4』の一篇『おとこのことを』で初監督を務めた水川あさみ。夫の窪田正孝を主演に迎え、ある男の日常をワンシチュエーションで描いた挑戦的ともいえる一作だ。女優として第一線で活動する水川が、映画監督として表現したもの、そしてその経験から得た気づきとは。

世の中が情報に溢れすぎているからクリアにしたかった

― 唐突なんですけど、良い映画の条件ってなんだと思いますか?

難しいこと言いますね(笑)。

― すみません。

いえいえ、おもしろいです。……私が思う良い映画は、観る人がちゃんと考えられる余白があること。今はちょっと説明しすぎな気もするんですよね。

― 確かに映画は余白があるからこそ、より深く自分の中で咀嚼できるというか。テレビ番組だとテロップまでついて、目も耳もめちゃくちゃ忙しいですからね。

そうですよね。世の中が情報に溢れすぎているから1回クリアにしたくて、今回の作品では思い切ってセリフをできる限り削ぎ落としてみました。

― 本作『おとこのことを』は初めての監督作品ですが、贅肉がないというか、すごく研ぎ澄まされているように感じました。

ありがとうございます。

― 作品を作るうえでさまざまな制約もあったと思うんですが、その中でこれだけは絶対にやると決めたことはありますか?

やると決めたことは「引き算」していくこと。肉付けしすぎて大切なものを忘れないように、引いていくお芝居が良いと窪田(正孝)にも伝えました。彼のことを信頼しているからこそ、セリフを取っ払っても大丈夫だなと思って。やっぱり、どうしても説明したくなる部分があったりするんですけど、そこを引いていく作業を大事にしました。

― では、やらないと決めたことはありますか?

それはないです。いろんな方々にサポートしていただきましたが、わからないことはわからない、できないことはできない、やりたいことはやりたいと、わがままにならない程度に自分の意思表示をするようにしました。私が監督した作品だけど、みんなで作っているという意識でしたね。

― 俳優として関わるより、より一層みんなの作品だという意識が強くなりそうですね。

お芝居でも、今後は作品との距離感が変わってくるかもと思いました。

 

役者と制作の線引きを取っ払いたい

― これも引き算のひとつかもしれませんが、窪田さんがお弁当を押しつぶしてしまったシーンのリアクションのなさというか虚無感がすごく記憶に残っています。

実はあのシーンは食べ残しのカップ麺がひっくり返って、男が盛大に浴びてしまう脚本だったんです。でも部屋を汚すことはできなくて。役者として作品に関わっていると、なんでこれができないんだろうって疑問に思う時があったんですけど、監督をしてみて「なるほどな」と思うことがたくさんありました。

― いろんな制約があるんだなと。

でも、本当は作り手側も伝えなきゃいけないなと思いました。表現の制約ができてしまう理由を伝えないことで、演じる側の疑問が増えてしまうこともあると思うんです。だから正直に「ごめんなさい、これは汚せないんです」とか、「ここは触れないんです」とか言ってもらったうえで作っていくほうがいいなって。

― 伝えてもらうことで、よりチームとして一体になれるような気はしますね。今回は結果としていいシーンになったわけですし。

そうですね。やっぱり役者と制作スタッフの線引きは、なるべく取っ払って作品づくりに関わっていく姿勢を示すことの大切さは感じました。

― でも今回の『MIRRORLIAR FILMS』の取り組み自体、その壁をちょっと壊していくような試みでもありますよね。

はい。プロデューサーの山田孝之は同い年で10代の頃からの友人なんですけど、その彼がこういうおもしろいことを発案してやっているって刺激的ですよね。彼も映画作りに新しい風を吹かせたいという思いもあるし、私もそこに参加できてすごく良かったです。

― 本作は山田さんから直接声をかけられて?

そうです。2019年くらいだったと思います。

― 二つ返事でしたか?

いえ。「映画撮らない?」みたいな感じで急に電話がかかってきたんですけど、「なんの話ですか?」みたいな(笑)。そのあとすぐ会って、ご飯食べながら彼のやりたいことを聞いて。誰でも映画が作れる時代というのがコンセプトになっていて、俳優、監督、クリエーター、一般公募もあるところがすごくおもしろいなと思って、ぜひ参加させてくださいと。

― 撮ることが決まって、さあ、なにから手をつけるんですか?

ゼロ地点からのスタートだから難しかったです。でも幸い…幸いというのも変だけど、私の親友が脚本の勉強をしていたんです。彼女は私の会社のスタッフでもあり、日常も仕事も共有する部分が多いので彼女とやろうと思って、そこから2人で作り上げていきました。

 

一面だけじゃない自分というものを知ってほしい

― 水川さんはあるインタビューで、本作に関して「日常に転がっている喜びや悲しみは、自分の受け取り方次第で見える世界が一変するみたいなテーマ」だとお答えされていました。じゃあ、受け取り方を変えるために必要なことってなんだろうなって。

よく思うのが、人間って一面だけじゃないじゃないですか。たとえば今こうやって話している一面だけじゃなくて本当はもっと多面的というか、想像以上の奥行きがあると思ってるんです。だけど自分の勝手な思い込みで、どうしようもないぐらい落ち込んでしまう時もある。でも思い込むのも落ち込むのも、そしてそこからどう救うのかもすべて自分次第だと思うんです。

だから、一面だけじゃない自分というものを知ってほしい。自分の見える世界が変わったら、相手に伝えることも変わる。それが連鎖していって、もっと良い世界になってほしい。『おとこのことを』では、ドラマティックな変化ではないけれど、男1人のなんてことない日常にその気持ちを込めました。

― セリフが少ない分、男の心情の変化を音楽が感じさせてくれました。

男の感情と環境の変化に合わせて、最初から最後までずっと音が鳴っている一曲を作っていただきました。

― 音楽は、サカナクション山口一郎さん

はい。一郎さんに直接お願いしました。

― 撮影が関和亮さんで、『アルクアラウンドコンビ』ですね。

そうそうそう。私、『アルクアラウンド』のPVを見てサカナクションを知って。

― 話題になりましたよね。

それからずっと好きです。関さんとは何度もお仕事をさせてもらっていて、彼は監督もするし、写真も撮る、両方の目線を持つ方なんですよね。

一郎さんは、もともと私がファンだからっていうのもありますけど、良い意味で人間的にちょっと擦れてる部分があったり、そういうおもしろさが作品に奥行きを出してくれるのではないかと思って(笑)。

― お二人には、こうしてほしいというリクエストは入れましたか?

ううん。逆にたくさん提案をしていただきました。一郎さんからは音楽を最初から最後までずっとつなげて乗せるのか、もしくは何曲か作って乗せるのか、どっちが良いですかと提案をしていただいて。関さんは、すごくおもしろがってくれて、いろんなアングルを提案してくれたり、映像の演出のアドバイスをしてもらったり。

他のスタッフさんたちも、信頼できる方々に集まってもらって、なるほどこうするとこう見えるんだとか、ここに音を入れるとこうなるんだとか、照明でこれだけ変わるんだとか、役者として関わっている時とは違う目線で楽しんでやらせてもらいました。

ちなみに男が使うカメラは、関さんがお父様からいただいたカメラだったんです。関さん自身の思い入れの深さを男に投影させたいということでお借りしました。

― 劇中で使われているスチール写真は誰が撮影されたものなんですか?

私が撮っているものだったり、実際に窪田が撮っているものだったり。あとはうちのマネージャーが普段から現場写真をフィルムで撮っていて、そういうのを寄せ集めました。

― 今回、監督として作品に取り組んだことで気づいたこと、得たものについて教えていただけますか。

作品を作るのって本当に大変だし、時間もないし、労力も使う。自分が思い描いたように進むことってほとんどない。妥協せざるを得ないこともある。同じ世界にいても知らなかったことが、知れて良かったなと思います。

そしてさっきも話したように、今後役者を続けていく中で作品との距離感は完全に変わるだろうし、役者と制作の境界線を取っ払って作品づくりに関わっていこうという気持ちが改めて強くなりました。

― 水川さんの俳優としての変化も楽しみです。

頑張ります(笑)。

― 上映前に気が早いですが、また撮りたいですか?

どうだろう。機会があったら撮ってみたいなとは思うけど、そんな頻繁にはできないかも。でもやりたいですね。プロデューサーもやってみたいし。

― 山田さんみたいな?

はい。作品を作ることに、役者だけじゃなくていろんな形で携わっていきたいなと思っています。

 

 

Profile _ 水川あさみ(みずかわ・あさみ)
1983年7月24日生まれ、大阪府出身。2020年公開の「喜劇 愛妻物語」「滑走路」でキネマ旬報ベスト・テン主演女優賞ほか多くの映画賞を受賞。近年に「グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇」「ミッドナイトスワン」(20)「太陽-TAIYO-」、ドラマ『ナイルパーチの女子会』(21)『ミステリと言う勿れ』(22)など。AmazonOriginal『モダンラブ・東京〜さまざまな愛の形〜』が10月21日(金)より世界同時配信。映画「霧の淵」が公開を控えている。

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Jacket ¥52,800・tops ¥17,600・pants ¥49,500 / IIROT (THE WALL SHOWROOM 03-5774-4001) 、shoes ¥19,800 / SENSO (THE WALL SHOWROOM 03-5774-4001)

 


 

Information

映画『MIRRORLIAR FILMS Season4』

2022年9月2日(金)より全国公開

『Good night PHOENIX』
監督:池田エライザ
出演:フリッツ リオ、アイビー愛美

『BEFORE/AFTER』
監督:GAZEBO
出演:川久保晴

『女優iの憂鬱/COMPLY+-ANCE』
監督:齊藤工
出演:伊藤沙莉、戸塚純貴、斎藤工、平子祐希(アルコ&ピース)、大水洋介(ラバーガール)

『シルマシ』
監督:福永壮志
出演:伊東蒼、黒田大輔、山田真歩

『名もなき一篇・東京モラトリアム』
監督:藤井道人
出演:若林拓也、三浦健人、前田旺志郎、園田あいか、中島侑香、廣岡聖

『星ニ願イヲ』
監督:真壁勇樹
出演:西田薫子、宮川智司、紫藤楽歩、真壁勇樹

『おとこのことを』
監督:水川あさみ
出演:窪田正孝、池谷のぶえ、キムラ緑子

『THE NOTES』
監督:村上リ子
出演:Dirk Rebel、佐原杏奈、Sophie Mathieu、Wim.Sakura

『バイバイ』
監督:ムロツヨシ
出演:ムロツヨシ、大西礼芳

『MIRRORLIAR FILMS Season4』公式サイト

©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

  • Photography : Takako COCO Kanai
  • Styling : Miho Okabe
  • Hair&Make-up : Tamae Okano
  • Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

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