三浦翔平 – 自分自身を信じる
最新の出演映画『親のお金は誰のもの 法廷相続人』では比嘉愛未とダブル主演を務める三浦に、自身が演じた役柄や撮影時のエピソード、お芝居に向かう姿勢、家族との絆など、幅広く話を訊いた。
いろんな受け取り方ができる映画になった
― 映画『親のお金は誰のもの 法廷相続人』で三浦さんが演じられた城島龍之介はどんな役でしたか?
龍之介は母親の愛情をあまり知らずに育ったという幼少期のトラウマがずっと心に引っ掛かっていて。その反動で弁護士資格を最年少で取得し、お金しか信じられないという嫌な弁護士になるんです。でも最後には比嘉(愛未)さん演じる大亀遥海の言葉で心を動かされ、龍之介自身も気づいていないうちに蓋をしていた母親という存在に目を向け、愛とはなんなのかを改めて感じることになります。
― 龍之介を演じるうえで大切にしたことは?
田中光敏監督には、龍之介をもうちょっとヒールとして役づくりしても良いんじゃないかと提案したんですけど、監督の中には龍之介という人間が嫌われてほしくないという気持ちがあって。彼は結局、愛情に飢えていたんだなという人間味を出してほしいと。そこを軸に役をつくっていきました。
― 田中監督とは、映画『天外者』に続いて2作目になりますね。
今回も脚本の小松(江里子)さんと田中監督のタッグで、あの2人の作るものだったらなんでも僕は出ますよと。台本があがる前から「やりましょう」みたいな。
― 二つ返事で。
はい。
― 田中監督からはどんな演出が?
田中監督は「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉に対して、「そうじゃないだろ本当は」という強い思いがあって。今じゃなくて未来のために、お金だけじゃなくて愛のために、自分だけじゃなくて自分にとって大切な人たちのために。監督が伝えたいそんな思いが、今回の映画にも込められています。
演出としては役づくりの段階でもうほぼ大丈夫だねという感じだったのですが、舞台終わりでちょっと痩せすぎてしまったので、すぐ戻してくれと。華奢だと龍之介に説得力がなくなるので。
― ちなみに体重はどれぐらい戻されたんですか?
6キロぐらい。ありがたいことに伊勢志摩のご飯がものすごくおいしくて、普通に食べていたら戻りました(笑)。
― 共演者も豪華ですが、特に記憶に残っている方はおられますか?
小手(伸也)さんは本当に安定感があり、ちゃんと球を投げ返してくれる俳優さんなので安心しきっていました。三浦友和さんはカメラが回ってないときはすごくやさしいんですけど、カメラの前に立った瞬間に(役の)仙太郎になる。セリフはほぼなくて、僕の位置からは表情も全然見えないんですけど、背中から発されるエネルギーがすごすぎて。ぐっと2、3段階ギアを上げないと、こっちが食われちゃいそうになるんです。
― 背中だけで圧倒されるとはすごい。
これが大ベテランなんだなと。
― でも、同じ三浦ですもんね。
光栄です(笑)。
― ダブル主演の比嘉愛未さんとのシーンはいかがでしたか?
同じシーンは少なかったのですが、終盤のシーンでは比嘉さんのお芝居に救われたというか、僕が考えていたプラン以上のものを引き出していただきました。僕はとっかかりのセリフだけで、あとは比嘉さんの独白で龍之介の仮面がどんどん剥がれていく。すごく印象深くて良いシーンになりましたね。
― 完成した作品をご覧になった感想は?
撮っているときは全体の流れを龍之介として見ていたんですけど、いま観るといろんな受け取り方ができる映画になったなという印象です。ひとつの題材を通して全員が少しずつ成長していく物語で、監督が「愛と許し」をテーマに掲げていた理由が感じられました。
父親としての記憶を遺したい
― 本作に限らず、三浦さんは普段からどのような姿勢でお芝居に向かっていますか?
まずは脚本の意図を解くところから始まります。自分が感じたストーリー、監督が描きたいストーリーの方向性を話して、だったらこう演じるべきだなということを理解してから役をどんどんつくっていきます。できあがったものを持って現場に入り、相手とお芝居をして、そうするとまた感じるものがある。
― その過程で、おもしろみややりがいを感じるのはどういうところですか?
毎回違う人間なので、今回はどう作ろうかと考えることは結構おもしろいですよ。
― やりやすい役や、やりにくい役もあったり?
やりにくいのは普通の人です。
― 普通の人とは?
なんのクセもない人だと、自分自身になってしまいそうで。
― そういう意味では今回の龍之介はわりとキャラが立っていますよね。
キーワードがあるので作りやすかったです。なんのキーワードもない役だとすごい大変で。
― 本当に嫌なやつなんですけど、どこか愛せる部分を持った役でした。
本人も無意識に嫌なやつを演じているんでしょうね。本心じゃないことを言っているのに、それを本心だと自分でも思い込みたい人間なんだろうなって。
― 本心じゃないことも言葉にしていくと、真実になっていくことって実際ありますよね。自分自身もその嘘に振り回されて、騙されていく。
そうですね。
― 龍之介がお金しか信じられないというのも、自分自身を騙し続けた結果なわけで。三浦さんはお金より信じられるものってなにかありますか?
家族とか、信頼とか、直感とか。自分自身を信じているのかも。
― 自分を信じるってなかなか難しいことですけど、そこに対して躊躇することってないですか?
難しいですよね。でも他人を信じて失敗したら、その人のせいにしちゃいそうだけど、自分で選択して自分で失敗したなら、自分が悪かったとなるだけだから。
― 自分を信じることは、最後は自分で責任を持つという覚悟なのかもしれませんね。
もちろん人の意見も取り入れますけど、基本的には自分の直感を第一に行動しています。
― 本作では家族の絆もひとつのテーマになっていますが、三浦さんは家族や大切な人との絆を深めるために、どんなことが大切だと思いますか?
同じ時間を過ごすこと。腹を割って話すこと。自分の恥ずかしいところも見せられるかどうかでしょうか。赤の他人からいきなり「信じてください」って言われても怖いですから(笑)。
― でも長く一緒に過ごしている夫婦でさえわかり合えない部分があって、すれ違ったりぶつかり合ったり、やっぱり他人だなと悲しい気持ちになることがあります。
育ってきた環境が違うから、そうですね。
― 人とわかり合えないという葛藤は、誰もが抱えているものだとは思うんですけど。
そういう考えもあるんだなって、受け入れることしかできない。
― どうすれば受け入れられるんでしょう? 人が自分と違うということを認めるのって、実はすごく難しいことですよね。
絶対に相手が違うって主張すると喧嘩になるから、「僕はこういう考えです、あなたはそういう考えです」とお互いの意見を整理して歩み寄ることかなと。それでも絶対譲れない部分があるのであれば、また話せばいい。
― 譲れない部分を持つことも大事だと思いますか?
でも僕は基本的に、死んでも譲れないみたいなことってないです。
― それぐらい、凝り固まらずに考えたほうがいいかもしれません。
柔軟にね。
― 相続問題も本作の大きなテーマでしたが、三浦さんがご家族に遺したいものはありますか?
家族というか、やっぱり子供に遺したいものになるかな。こんな父親だったよなと思い出せるように。
― 映画では、真珠が父の記憶を伝えていく象徴となっていました。
モノだったら、身につけているもの。自分が死ぬまでつけていたものだったら、そのまま継いでほしいな。「いつもつけてたな」って記憶を遺したいですね。
― たしかにモノより思い出じゃないですけど、忘れられない記憶をいっぱい作っていけるといいですよね。僕も子供がいるんで、頑張って作っていきます。
お互い頑張りましょう(笑)。
Profile _ 三浦翔平(みうら・しょうへい)
1988年6月3日生まれ、東京都出身。2008年、TVドラマ「ごくせん 第3シリーズ」(NTV)で俳優デピュー。以降、多くの人気作品に出演。主な出演作に、『THE LAST MESSAGE海猿』(10)で第34回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。その他の出演作に『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)、『ひるなかの流星』(17)、『魔女見習いを探して』 (20)、『天外者』(20)、『嘘食い』(22)、「ホスト相続しちゃいました」(23/カンテレ・EX)、「やわ男とカ夕子」(23年8月より放送開始/TX)、大河ドラマ「光る君へ」(24年放送予定/NHK)などがある。
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Information
映画『親のお金は誰のもの 法廷相続人』
2023年10月6日(金)より全国ロードショー
出演:比嘉愛未、三浦翔平、浅利陽介、小手伸也、山﨑静代(南海キャンディーズ)、松岡依都美、田中要次、内海崇(ミルクボーイ)、デヴィ夫人、石野真子、三浦友和
監督:田中光敏
脚本:小松江里子
音楽:富貴晴美
主題歌:ビッケブランカ「Bitter」(avex trax)
©2022「法定相続人」製作委員会
- Photography : Yuki Yamaguchi(W)
- Styling : Go Negishi
- Hair&Make-up : Yuki Ishikawa
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)