Affirm me — starring Nao
どう立ち向かうか。
奈緒。
26歳、女優のリアル。
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Interview with Nao
奈緒インタビュー
— まず、映画『君は永遠にそいつらより若い』で奈緒さんが演じたイノギという役についてお聞きしたいです。痛ましい経験を背負った彼女は、人物像を捉えることが難しい役柄に感じました。
イノギさんってどういう人なのかを自分のなかに溶け込ませていけたのは、脚本より先に原作を読んでいたことがすごく大きかったです。原作で受けた印象のままのイノギさんが、映画の脚本のなかでも生きていて。そして脚本で書かれていないところは、監督と一つひとつ話し合いながら埋めていきました。たとえば(佐久間由衣さん演じる主人公の)ホリガイさんから見たイノギさんの印象も、原作だとより細かく描写されていたので。
— 原作から受けたイメージを落とし込んでいったんですね。
最初に監督と「イノギさんの血液型って何型だろう?」とか「どういうお酒が好きなんだろう?」という話をしました。わかりやすいところでいうとイノギさんはサボテンが好きだったので、お部屋の中にサボテンを置いたり、リュックサックにつけているマスコットをサボテンにしたり。どういう風にイノギさんが生活をして、生きているのかというところを監督と一緒に考えて、共有した状態で現場に入ることができました。
— 役との出会いで、自分のなかの考えが広がることはありますか?
すごくあります。今回もそうですけど、役と出会うたびになんて自分は無知なんだろうということを痛感させられます。そして、何かに気づかせてもらったり、世の中で起きていることを教えてもらったり。役や作品を通して毎回感じています。
ー 佐久間由衣さんとの共演はいかがでしたか? 佐久間さんも奈緒さんも1995年生まれの26歳なんですよね。
由衣ちゃんは凜とした雰囲気をまとっているんですけど、お話しすると大きな口を開けて笑ったり、冗談を言ったり、ひょうきんな部分もある人だなと。静と動の両面を持っていてるところが魅力的ですし、同年代として由衣ちゃんのまっすぐさとか、真面目さが美しくて刺激になりました。撮影が終わったあとも、お互いの舞台を観たり、連絡を取り合ったりと関係が続いていて、いまも励まし合って刺激し合いながらお仕事ができているので、すごくいい出会いでした。
— お二人が演じたイノギやホリガイは大学生で、自身を取り巻く環境の変化も大きく、考えることや悩むことも多くなる年頃だと思います。奈緒さんは21~22歳の頃、どう過ごしていましたか?
何者かになろうとしていたと思います。自分には何も無いこととか、自分は何者でも無いことを自覚しながら、そこに寂しさを覚えていたし、個として自分を確立させなきゃということを考えていました。21~22歳の頃に特有の焦りと、反発心みたいなものがすごくありましたね。
— それは、どちらかというと前向きな気持ちで?
行く方向を探しているというか……。どちらに進めばいいのかわからないし、とにかくまっすぐ行かなきゃってがむしゃらだったと思います。でもちょうど23歳のときに朝ドラ『半分、青い』の出演が決まって。そこからは、何者かになろうみたいなことからは解き放たれて楽になりました。
— 進む先が見えたのでしょうか?
そうですね。それまでは自分がお芝居する場所を求めていたけれど、そういう場所から求めてもらえることに安心感や嬉しさが生まれました。でも何よりも大きかったのは、素敵な先輩たちにたくさん出会って、すごい人たちを目の当たりにするなかで、自分の未熟さを改めて実感して、何者でも無い自分でいいじゃんって思えるようになったこと。そこに気づいてからは、目の前にあるお仕事を一生懸命やるだけだという気持ちになりました。いま自分にとって何が一番大事なのかを考えて、身近にあることを大切にしようと思っています。
— そのままの自分でいいやと思えたときの方が、いろんなものを吸収できたりしますよね。
本当にそう思えると、あとはやるだけというか。ひたすら自分に足りないものを受け入れて、あまり荷物を背負いすぎないようになってからは、毎回緊張しすぎずにお芝居や現場自体を楽しめるようになりました。
— 現在26歳ですが、26歳って女優としてはどういう年齢だと思いますか?
うーん、まだ朝食を食べているくらいの時間帯ですかね。これから演じる役の幅もどんどん変化して、年齢を重ねたからこその幸せや悩みに寄り添った役を任せてもらえることもあるんだろうなと。私は30歳になってようやく家の外に出て自由になれるような気がしているんです。いまはまだ出かける準備をしているところで、「外に出たら何があるんだろう?」「私は何をしたいんだろう?」ということを考えながら、とにかくいっぱい食べて体力をつけて、夢を膨らませています。
あと先輩たちから、30代になると自分のコンプレックスなどが、ふとどうでもよくなるよという話を聞いていて。それで私は心が軽くなりました。自分の悩みに対して「まあいっか」と思えるようになるなら、別にいまは悩んでいてもいいかなと。この先にはきっと、楽しみながら挑戦している30代の自分が待っているんじゃないかなと思っています。
— 女優という仕事を大変だと感じるときはありますか?
みんなそうだと思うんですけど、やっているときに夢中になりすぎて、次の日にしんどいときはあります(笑)。お芝居をしているときは何も感じないんですけど、家に帰って、寝て、次の日起きると身体がバキバキだし、よくわからない痣がたくさんできていることも……。現場に行くとそのしんどさが無くなるので、いつも現場に行って、現場に助けられているという感じです。
— お仕事をはじめたときのことや、初心を思い出すことは?
お芝居は難しくて、いまだにわからないことだらけで。自分が全然成長できていないなと感じて、まだ福岡にいた18、19歳くらいの自分に相談したくなるときもあるんです。
— それはなぜでしょう?
東京でお仕事をして改めて思うんですけど、お芝居を自由にできる椅子には本当に限られた人数しか座れませんよね。そんなことは福岡にいたときにも想像がついていたはずなのに、なんで18歳で東京に出てくる自信があったのか、18歳の自分に聞いてみたくなるときがあるんです。そして初心を思い返して、「私、お芝居好きだったんだなあ」というところに毎回たどり着くんですよね。好きで好きでしょうがないからとにかくやりたいという気持ちがあって、それが18歳の自信になっていたんだろうなと。
あとは福岡で「東京に行っておいで」って背中を押してくれた先輩とか、一緒にお仕事をしていたスタッフさんたちの言葉をよく思い出すんです。自分がお仕事を始めたときに傍にいてくれた人たちの存在が、いまも自分を支えてくれていると感じています。
— 映画『君は永遠にそいつらより若い』ではさまざまな社会問題も描かれていますが、奈緒さんは普段からニュースなどで世の中の出来事をチェックしていますか?
ニュースは見ています。今作でホリガイさんがニュースを見て胸を痛めているように、あるニュースについて母と話をすることもあります。暗く悲しいニュースのなかには自分の周囲や家族とはまったく違う関係性があふれていて、なんでこんなことになってしまうんだろうと……。
— 理解できないニュースって、もやもやしますよね。逆にご自身の演技が世の中に与える影響について考えることはありますか?
お芝居をしているときは、影響を与えようとか感動してほしいとかいうことは正直あまり考えていません。私自身が作品を観て気持ちが動くのは、その作品のなかで演じる人の気持ちが動いているのを見たときなので、現場ではいかに自分の心を動かせるかということを大切にしています。お芝居をしている間だけは、相手と役に集中して、感性を全部捧げようという気持ちでやっています。
ただ、私自身これまで映画に救われてきた瞬間がたくさんあるので、自分が携わった作品が少しでもそういう瞬間に繋がっていたら嬉しいですね。自分が映画からもらってきた“恩送り”ができているのかなって。
— 自分の演技に対する世間の評価が気になることは?
そんなに気にならなくなったんですけど、気になっていた時期はありました。いまでも毎回作品の足を引っ張っていないかな、大丈夫かなっていうことにはハラハラしています。自分が入ることで作品にとって少しでもプラスになったらいいなと思っているので。
— ニュースやSNSを通して発信される悪意に対して、どのように対峙していますか? 奈緒さんなりの防御策があれば教えてください。
英会話アプリで知り合った外国人の女性に、「20代のうちにしておいた方がいいことってある?」と聞いてみたんです。すると、「あなたは自分自身をどれくらい受け入れて愛しているの?」と聞き返されて。そんなこと考えもしなかったですし、自己肯定が低くなっている自分に気がついたんです。
そして、20代のうちにまず自分のことを受け入れて愛していくことをしなさい、毎日あなた自身に「I’m beautiful. I’m talented.(私は美しい、私は才能がある)」と言葉をかけ続けてあげなさいと教えてもらいました。それから、朝起きたら鏡を見て「I’m beautiful. I’m talented.」って言っているんです。それで何かが劇的に変わるわけではないけれど、そうやって自分で自分を肯定しようとするだけで、人から何かを言われても「まあいいか」って思えるようになっている気がします。
— それはとても素敵な習慣ですね。では最後に、映画『君は永遠にそいつらより若い』はどんな人に観てほしいですか?
イノギさんみたいに「大丈夫だよ」と言っているけれど本当は大丈夫じゃない人や、ホリガイさんのように自分が何もできなかったことで傷を抱えている人。自分のことを100%受け入れられない人たちにも届いてほしいです。
Profile _ 奈緒(なお)
1995年2月10日生まれ。福岡県出身。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(18)でヒロインの親友役に抜擢され、19年「あなたの番です」(NTV)ではサイコパス役を怪演し話題を集める。舞台出演作に「終わりのない」(19/世田谷パブリックシアター)、玉田企画「今が、オールタイムベスト」(20)。21年5/16~6/20 M&Oplaysプロデュース「DOORS」では舞台初主演を飾る。主演映画に『ハルカの陶』(19/末次成人監督)、近作に『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20/中田秀夫監督)、『事故物件 恐い間取り』(20/中田秀夫監督)、『僕の好きな女の子』(20/玉田真也監督)、『みをつくし料理帖』(20/角川春樹監督) 、『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』(21/橋本 一監督)など。今年の公開待機作に『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(堀江貴大監督)など6作品が控えている。
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Information
奈緒さん出演
映画『君は永遠にそいつらより若い』
2021年9月17日(金)より、テアトル新宿ほか全国順次公開
芥川賞作家・津村記久子作品、初にして待望の映画化に、佐久間由衣、奈緒をはじめ気鋭の若手俳優たちが挑む。
監督・脚本:吉野竜平
原作:津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』(ちくま文庫)
出演:佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将、葵揚、森田想、宇野祥平、馬渕英里何、坂田聡 他
© 「君は永遠にそいつらより若い」 製作委員会
- Model : Nao(irving)
- Photography : Kenta Karima
- Styling : Junko Okamoto
- Hair&Make-up : tsubakichi
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)