パリ・ファッションウィーク 2026年春夏メンズコレクションガイド — 「服とは何か」を再考する、新たな装いの物語 vol.3
Dior Homme/ディオール オム
ジョナサン・アンダーソンによる初の<Dior Homme>のコレクションは、アンヴァリッドを舞台にメゾンの伝統と格式を現代的に再構築したものだった。
クチュールのフォルムにミリタリーやワークの要素を重ね、硬質な中にしなやかさが宿る新たなフォーマルを提示。
バージャケットにタキシードの構造を加えたルックや、刺繍入りスニーカーなど、歴史と若々しさが交差するピースが登場。
重厚な美学を保ちながら、今を生きる若者たちの感性と交差することで、「装う歓び」と「時代の変化」を両立させていた。
COMME des GARCONS HOMME PLUS/コムデギャルソン オムプリュス
<COMME des GARÇONS HOMME PLUS>は「Not Suits, But Suits」を掲げ、スーツという形式への根本的な問いを立てた。
バルーン状のシルエットやパネルの重ね、分断された構造によって、スーツに潜む意味や規範性が大胆に崩された。
帽子デザイナー日爪ノブキとのコラボによる多層キャスケットや幾何学プリントのケープなど、視覚と精神に響く装飾が印象的。
川久保玲の視座からは、スーツを「祈りの衣」として再構築することで、装いが持つ儀式性と内面性を鋭く照射する姿勢が感じられた。
KENZO/ケンゾー
NIGOによる<KENZO>は、「CLUB KENZO」をテーマに、多文化が交差する創造的な場としてのコレクションを展開した。
ボウリング場でのデートにインスパイアされたグラフィックや、カートゥーン、パンク的要素を織り交ぜたルックは、直線的でない文化の混ざり合いを肯定するものとなった。
ホットピンクのディナージャケットやアシンメトリーなシェフシャツ、サテン地のイブニングウェアなどが登場し、異なるコードを軽やかにミックス。
性別やジャンルの境界を曖昧にしながら、服を着ることの自由とその祝祭性を、現代的なポップカルチャーへのオマージュとして提示していた。
KENZO BY NIGO 2026SS COLLECTION RUNWAY
KIKO KOSTADINOV/キコ コスタディノフ
<KIKO KOSTADINOV>は、架空の島の一日を描く物語形式で、衣服と時間の関係性に着目したコレクションを発表。
朝の静けさから夜の高揚感へと変化するスタイルには、軍のパジャマや労働着、日本の伝統要素が静かに流れ込んでいた。
読谷焼やジビエ素材、スチールビーズを取り入れた実験的なアイテムや、ASICSとのタビ型ランナーなどが、素材と構造の新たな融合を見せた。
空想と現実がにじみ合うような世界観は、衣服が人間の感情や知覚にどう作用するかという問いを、詩的に立ち上げていた。
White Mountaineering®︎/ホワイトマウンテニアリング
<White Mountaineering®︎>は「Evolution Theory(進化論)」を掲げ、1970年代のアウトドアウェアを原点に、未来の衣服像を描いた。
重厚な当時のギア的要素を現代素材で再構成し、耐久性と快適性を両立させた構築が全体に行き渡っていた。
チェック柄やオンブレ、フランネルといったクラシカルなテキスタイルを、撥水ナイロンやシームレスニットに置き換えたアイテムが揃った。
アウトドアの歴史に敬意を払いつつ、テクノロジーを通してウェアの進化を語る姿勢は、服と環境の関係を再定義する提案となっていた。
White Mountaineering 2026SS COLLECTION RUNWAY
kolor/カラー
新クリエイティブディレクター堀内太郎による<kolor>の新章は、「time travel」「chic humor」などの言葉を軸に構成された。
非対称の襟や傾いた裾、ずらしたラペルなど、バランスの崩し方に繊細な意図を込め、完成と未完成の狭間を表現。
ブラトップ付きコートやメタリックなフラットシューズ、テクニカル素材のパンツなど、再構築の中に実用性と遊び心が同居していた。
<kolor>の精密な構築性に詩的なひねりを加えることで、「揺れる構造」に新たな美を見出す、静かなブランド刷新が感じられた。
kolor 2026SS COLLECTION RUNWAY
doublet/ダブレット
<doublet>は「いただきます」という言葉に込められた感謝と祈りをテーマに、自然や一次産業と服の関係を再考した。
廃漁網や卵殻膜、ジビエなど、廃棄される資源を再利用することで、命の循環を衣服という形で語るストーリーが貫かれていた。
フィッシュレザーのジャケットや<Sky High Farm(スカイ ハイ ファーム)>とのコラボピースは、素材と人間の関係を再接続するアイテムとして登場。
自然と人間、消費と再生の関係に向き合うことで、「ラグジュアリーとは何か」を根源から問い直すコレクションとなっていた。
doublet 2026SS COLLECTION RUNWAY
TAAKK/ターク
<TAAKK>は、「創造の本質の探求」をテーマに、アートと日常を縫い合わせるような実験的なコレクションを展開した。
素材と構造を行き来するファブリックや、シャツとスーツをグラデーションで溶かす設計が、衣服の境界を拡張していた。
刺繍は平面的な装飾ではなく、立体的かつ触感的な“彫刻”として進化し、ジャケットやシャツの表現力を飛躍的に高めた。
「違和感」を出発点に知覚を揺さぶるそのアプローチは、衣服を通じて創造の本質に踏み込もうとする哲学的姿勢の表れだった。







