132 5. ISSEY MIYAKEのイノベーションの起こしかたを探る
そのイッセイ ミヤケから生まれたブランドのひとつが<132 5. ISSEY MIYAKE>。革新と持続可能性を重視し、社会と密接に関わりながら、日本のものづくりの新たな可能性を探求。中核となるのが、研究開発チームReality Lab.(リアリティ・ラボ)だ。独自のアプローチによる、概念を超えた発想で新たな価値を生み出す活動とは。リアリティ・ラボのメンバーにインタビューをおこなった。
チームワークでリサーチを重ね、新素材と活用方法を導き出す
プロジェクトは、環境や資源などに配慮した新しいものづくりの研究からはじまった。
「立ち上げ当時は三宅と、パターンエンジニアとテキスタイルエンジニアの3人でしたが、徐々に若手メンバーなども加わり、リアリティ・ラボは形作られていきました。そこにはプロジェクトを通して人を育てるという三宅の考えも含まれていました。日本全国の工場、服づくりの産地を訪ねるなどのリサーチから始まったのですが、こうした活動の中でたどり着いたのが、帝人ファイバーが開発した再生ポリエステル繊維だったんです。ポリエステル素材を純度の高い状態で再生する技術を実現させていて、その純度は石油由来とほとんど変わらない。それにすごく感銘を受けて。これからの時代はそういう再生素材を当たり前に使っていかなきゃいけない時代が来る。そのようなメッセージ性を込めたものづくりをしていこうとなりました」
素材は決まった。次はこれでどういうカタチをつくるか? 折り工学の第一人者である筑波大学教授の作品との出会いがさらなる一歩に繋がった。一枚の紙から折ることのできる立体折り紙の研究が、まさに自分たちのめざすものづくりとリンクした。
「三宅が掲げていた“一枚の布”の概念とも、すごく共通性を感じたんです。立体である身体に、服がフィットするように作る感覚ではなく、一枚の布で身体を包み込むことで生まれる、布と身体との「間」をデザインするという衣服のあり方です」
“一枚の布”を発展させた折りたたみの美学、誕生
教授の協力のもと、プロトタイプの製作が始まる。まずは教授の代表的な立体造形でもある球体の形を生地で再現することから始めた。生地に「山」「谷」の折り目をアイロンでつけていく。たしかに服の造形としてはおもしろいものができたが、立体造形をそのまま布に置き換えただけでは、きれいな平面にたたむことはできないし、収納もできなかった。
「ディスカッションを重ね、『立体造形のもつ美しさはそのままに、平らにすることができれば世界が広がりそうだね』ということで、ひとまず平らにしてみようと。立体に仕上げた服を、熱と圧力でプレスする機械に入れて、半ば強引に平らにしてみたんです」
するとどうだろう、立体的に作られていた造形は、折りの特徴はそのままに平らな造形へと変貌を遂げた。
チームはこれをきっかけに、さまざまな構造パターンを模索し、平面に折りたためる基本の折り構造10型をつくりあげる。
いずれも一枚の展開図から成り、それをベースに、からだを通す向きや切り込み線の位置の違いによってドレスやスカート、シャツなど、多彩な服のバリエーションを生み出す。それらの基本の折り構造を“No.1”から“No.10”と名付け、のちにテーマやアイテムによって新しい衣服へと展開していけるようにした。
「基本となる10型の折りたたみ形状は、美しさやバランスを考えて作り上げたものなので、その折りたたみの姿はそのままに、全体的に拡大したり縮小したり、またそれと連動して着る向きや身体の通し方を変えていくことで、様々なアイテムのバリエーションを作っていこうと考えました。一見、折りたたまれた姿は一緒なんだけれども、広げたときの姿はまったく違う。そういった驚きのある表現をしようと決めたんです」
こうして、日本の再生ポリエステル生地と折り紙の研究者、生地の織り・染め、製作プロセスの中の縫製・箔加工など、製品が完成するまでに携わる日本各地のものづくりの技術が集結した衣服が、ついに完成した。平らに折りたたまれた服の一部を持ち上げると、ドレスやジャケットなどが立ち上がるように現れる。その瞬間の驚き、不思議。下ろすとまた平らに戻る。
この、日本文化の“たたむ美”にも根ざした構造はファッション界に大きな影響を与え、国内外で賞賛を浴びた。
日本のものづくりを産業として盛りあげ、守るために
<132 5. ISSEY MIYAKE>では、織る・編む・染める・縫う・加工までの工程すべてを日本でおこなっている。日本のものづくりは、服でも工業製品でもその高い技術力に支えられてきた。
「日本のものづくりの背景を伝えることで日本の技術力に関心を持ってもらうことが重要だと思います。昔は服を繕いながら長く使い、親から子へと受け継がれてきました。製品のストーリーから日本の工場の技術力やその緻密な作りを伝えていくために、長く愛される素材の開発やものづくりを継続していくことが大事だと思います」
「一緒にものづくりをしている工場との繋がりはとてもありがたいなと感じています。まず、日本の丁寧なものづくりの価値を理解してもらうことが、私たちの役目。一つひとつ丁寧にプロダクトと向き合い試行錯誤を繰り返していくことができる職人や繊維産地との関係をこれからも大切にしていきたいです」
また、再生ポリエステル素材や折り紙工学の技術を取り巻く状況が変化しており、従来のコンセプトを守りながらも、新たな課題に対応する必要性があると感じている、とも付け加えた。
伝統的な手しごとの価値を尊重し、日本の強みである技術力をどのように活かすか考え、既存の工場と協力関係を保ちながら継続できるものづくりと、革新していくことのバランスを見極めていきたいと言う。
環境にやさしい素材といわれているものの商業価値が高くなっている今日、何が本当の意味で環境にやさしい取り組みなのかがわかりにくい時代。
「その取り組みがどのように環境をよくしていくのかは、日々考えていかなくてはいけないことだと思います。これからの未来はどうなるのか、その中で自分たちには何ができるのかを考えていく。私たちの財産である、これまで培ってきた知識、技術、発想、工場や産地の職人の方たちを大切にしながら、手に取った人たちの心を豊かにできるようなものづくりを続けていきたいです」
イノベーションとは、考え方の再構築と社会的価値
©︎ ISSEY MIYAKE INC.
<132 5. ISSEY MIYAKE>のイノベーション成功要因は、大きく2つあったと思う。
1つめは、ものづくり自体を再構築すること。
一般的な服作りの考え方である「人の身体に合わせたパターン構築」をゼロから再定義し、10個の新たな構造パターンによって革新を図った。この新しい提案により、必然的に通常の服作りの過程とは違う思考過程をたどることとなり、これまででは考えられなかったようなインスピレーション源から、プロダクトを生み出すことができた。
2つめは、その活動が社会的価値を持つこと。
日本のものづくり産業との関わり、環境との関わり、未来の業界への貢献性を常に考え続けるという覚悟。ただ面白く、美しいプロダクトをつくるだけでは、イノベーションとはいえないのではないかと感じた。このブランド活動が、本当の意味で、業界のイノベーションであるかを常に考え続けるということ。
そして、なによりこの共通理解を持ちつつ、探求心と好奇心を持ったチーム、風土があってこそ実現できること。
<132 5. ISSEY MIYAKE>、リアリティ・ラボチームの新たな挑戦を見届けたい。
【お問合せ先】
132 5. ISSEY MIYAKE
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- Text : Kaori Sakai(QUI/STUDIO UNI)
- Edit : Shun Okabe(QUI)