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築き上げたテリトリーで自由な服作りへと突き進む|AVALONE 三浦進

May 23, 2025
ショップへの卸はせず、さらには国内での展示会もショーも開催しない。新作コレクションの発信地はファクトリーを併設させた旗艦店のみというブランドがある。それが<AVALONE(アヴァロン)>。アパレルの常識では考えられないようなスタイルをどうして選んだのか。露出は控えめながら新たなファンを獲得し続けているとも聞く。
QUI編集部はいくつもの疑問を抱え、デザイナーの三浦進のもとを訪れた。

築き上げたテリトリーで自由な服作りへと突き進む|AVALONE 三浦進

May 23, 2025 - FASHION
ショップへの卸はせず、さらには国内での展示会もショーも開催しない。新作コレクションの発信地はファクトリーを併設させた旗艦店のみというブランドがある。それが<AVALONE(アヴァロン)>。アパレルの常識では考えられないようなスタイルをどうして選んだのか。露出は控えめながら新たなファンを獲得し続けているとも聞く。
QUI編集部はいくつもの疑問を抱え、デザイナーの三浦進のもとを訪れた。


バンド活動に打ち込んだことで服作りに目覚めた

さまざまなカルチャーに精通している三浦さんだけにブランド名にもこだわりがありそうですが、<AVALONE>にはどのような意味が込められているのでしょうか。

三浦:自分のブランドそのものは2002年に立ち上げていて、<AVALONE>と名前を変えたのは2013年からです。「アヴァロン」というのはギリシャ神話に登場する英雄が祀られた島の名前が由来になっています。さらに実家がアワビの仲卸に携わる仕事をしていて、アワビは英語で「アバロニ」と言うんです。両親は僕自身のルーツでもあるので「Avalon(アヴァロン島)」と「Abalone(アバロニ)」を合わせて、自分としては集大成のような気持ちでブランド名にしました。

ブランド名とともに服作りの方向性も変えたのでしょうか。

三浦:アヴァンギャルドな素材選びは以前のブランドの頃から変わっていないのですが、デザインのテイストは異なると思います。<AVALONE>として再スタートしたのは「品のある服」というのが好きで、テーラードの勉強もしていたこともあり、もっとクラシックな服を作りたくなったからなんです。

プロフィールを拝見するとキャリアとしてバンドのヴォーカルや彫師もありますが、最終的にファッションの道を選んだのはどのような理由からでしょうか。

三浦:僕が服作りに目覚めたのはバンド活動と大きく関係しています。中学生の頃から音楽が好きで、特にパンクやメタルバンドに興味がありました。当時、メンバーが着ている衣装と同じようなものが欲しかったけれど、売っていなかったので古着をリメイクして自作したのが服作りの原点です。それを欲しいと言われたら売ることもあったのですが、僕が自作した服を着た友達がスナップに取り上げられることもあって嬉しかったですね。なのでいずれはファッションの世界に飛び込むだろうなと感じていました。

音楽をやっていなかったら服を作っていなかった可能性もあったと。異色のキャリアのように思いましたがつながりがあったんですね。

三浦:いろんなジャンルを彷徨っているように思われるかもしれませんが僕の中では全てつながっています。

バンドをやられていた当時は音楽に打ち込んでいたと思いますが、音楽よりもデザイナーを強く意識するようになったのはいつ頃からですか。

三浦:中学時代です。『ファッション通信』という番組で<Alexander McQueen (アレキサンダー・マックイーン)>のショーを見て、流れていたのが「SEX PISTOLS (セックス・ピストルズ)」の楽曲でした。ピストルズも好きなバンドだったので、自分の表現にあらゆるカルチャーを落とし込めることができるファッションデザイナーというものに惹かれました。

服作りに関しては独学だったそうですね。

三浦:完全に一人で始めたので手探り状態でした。パターンのことなど何にもわかっていなかったです。

テーラードの技術を学んだ時期もあったようですが、何か理由があってのことでしょうか。独学という自己流とセオリーを重視するようなテーラードでは服作りのアプローチが真逆の印象があります。

三浦:イタリアのサルトリアで修業経験のある仕立て職人と知り合って、その方から「この服にクラシカルな要素を加えたら、もっとおもしろくなるはず」と言われたんです。アヴァンギャルドな感覚を重視していましたが、品のある服が好きなことを見抜かれているなと感じました。その眼力に敬服して服作りの基礎としてテーラードを学ぼうと思ったんです。

パンクの反骨心からすると服作りの王道ともいえるテーラードに抗いそうですが、職人のアドバイスに素直に従ったんですね。

三浦:大胆に壊して、なおかつ再生させるには基礎を理解しないと。そもそも壊そうなんて思っていないですけどね(笑)。

破壊と創造は表裏一体ということですね。三浦さんが服作りのモチーフとしている死(Death)やゴス(Goth)、入れ墨(Tattoo)という退廃的な要素も「新たな創出」を目指すクリエーションとはベクトルが異なる気がします。

三浦:ベクトルとして逆方向と言われるとそうかもしれませんが、僕は退廃的なところにも希望はあると思っていますよ。

売れすぎることで抱くようになった疑問と危機感

<AVALONE>のコレクションは時代によって表情が様変わりしていて、初期はダークですが近年はクリーンな印象です。これは三浦さんの心境の変化が現れているのでしょうか。

三浦:品のある服という自分の好みがどんどん押し出された結果だと思います。10年ぐらい前にスポーティーなデザインや機能的な素材に寄せた時期があって「テックウェアのブランドですか」とよく言われました。作った服がヒップホップの人気アーティストに通じるデザインだったりして「ヒップホップカルチャーも好きなんですね」と言われたり。ヒッポホップカルチャーにはどっぷりは浸かってきてはいないのですが。ダークであるとか、クリーンであるとか何かを狙っているわけではなく、本当に感覚だけで服を作っています。

10年前というとちょうど「TOKYO FASHION AWARD」を受賞した頃ですね。

三浦:その時期に作っていたテックウェア風の服が海外のメディアで取り上げられることが多くて、それも受賞のきっかけのひとつかなと思っています。

2019年には「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」に入賞されていますが、過去のインタビューで「ブランドのイメージを切り替えていたタイミングだった」と話していました。ブランドにとってどういう時期だったのでしょうか。

三浦:ファッションインフルエンサーと呼ばれるような方が<AVALONE>の服をSNSにアップすることが増えていた時期でした。最初は「ありがとう」ぐらいの気持ちだったのですが、SNSの影響で売れすぎるようになって、買ってくれている人たちは本当に<AVALONE>の服が着たいのかと疑問を持つようになりました。

売れすぎることによって本来のファンの元に<AVALONE>の服が届かなくなることもありますよね。

三浦:「インフルエンサーと同じ服を着たいだけ」というのが選ばれている理由だとしたら、このままでは消費され風化するだけだと危機感を抱いたんです。それで2019年から最先端の素材を使用しながらクラシックなテーラード技術を駆使する服作りへと舵を切りました。それから2020年以降はショップへの卸も国内での展示会も一切やめました。

卸をされていないということは<AVALONE>の服を買いたいと思ったら、今日お邪魔しているショップでしか購入ができないということでしょうか。

三浦:基本はそうです。ただ、お世話になったバイヤーさんとの関係もあって、最近では<AVALONE>のファクトリー機能を活かした新しい取り組みも始めています。この新しい取り組みは始めたばかりなのですが、わかりやすく言うとフランチャイズ的な要素で、バイヤーさんからの要望も汲みながら、こちらでセレクトした商品を提案し、短いサイクルでお届けしています。これは自社ファクトリーならではのスピード感で、他にはない強みだと思っています。

自ら販路を狭めるいうのは相当な覚悟が必要だと思います。

三浦:最初は苦しかったです。それでもその決断のおかげで新しいお客さんも増えましたし、これから長い付き合いになるだろうと思える昔からのファンの方も戻っています。

<AVALONE>の客層ってどんな感じなのでしょうか。

三浦:僕自身は若い世代を狙っているわけではないのですが20代も多いですね。僕の服作りの感覚が20代後半から全く変わっていないからかもしれませんが(笑)。若い世代からはパンツの人気が高くて、必ず言われるのが「シルエットがきれい」ということです。僕もサイズ感やシルエットには強いこだわりがあって、そのために素材も吟味するぐらいなのでうれしいですね。

新作の服やお客さんのことを毎日考え続けている

ランウェイ形式でのコレクションの発表も現在はやめていますよね。<AVALONE>としてはシーズンコレクションという考えはないのでしょうか。

三浦:2025年に作った服は全て「25LTD(リミテッド)」と表記しています。ショーも2022年が最後ですね。展示会もショーも開催しないので国内での新作のお披露目は世田谷代田の旗艦店が全てです。2024年からは再び年2回1月と6月にパリで行われるショールームに参加し、「25LTD」シリーズとは別に、コンセプチュアルなテーマを設けたコレクションも発表しています。これは、ヨーロッパや韓国にできた新しいセレクトショップでもお取り扱いいただいています。

その年のリミテッドということであれば、過去のアイテムの再販を希望された場合はどうしていますか。

三浦:実際にそういうリクエストは多いです。アイテムそのものは希望に応えて再度作りますが、同じ素材を採用することはまずないですね。「あの時はナイロンだったけど、今のファッションのムードであればギャバジンがベスト」と僕の気分も変わっているので。

卸も展示会もショーもやらないスタイルは誰にでも真似はできないことですし、三浦さん自身が表に出さない苦労がたくさんあると思います。それでもその姿勢を貫く最大の理由はなんでしょうか。

三浦:自由を手に入れたかった、それに尽きますね。明日がどうなるのかわからないような状況ですが、しがらみや制約からは解放された実感があります。明日のために、来月のために、必死になって新作のこと、お客さんのことを考えていますが、そんな毎日も楽しいと思えています。

自由になったとしても「ずっと変わらない<AVALONE>らしさ」というものはありますか。

三浦:<AVALONE>の服はカタチもシルエットも同じアイテムなのに、素材を載せ替えることで別物に見えるとよく言われます。別物に見えるけど、やっぱり<AVALONE>らしい匂いがあるみたいでお客さんはそれを感じ取っているようです。匂いといっても僕は無意識なんですけど。

1日1日を大切に過ごしているとしたら、ブランドの将来や今後の展望などを思い浮かべたりすることはないですか。

三浦:先のことを考えることはほとんどないですね。それでもブランドとしてやり続けたいことはあって、<AVALONE>が雇用している職人さんは高齢の方が多いんです。腕は確かなのに高齢ゆえに仕事に恵まれないこともあって、そんな方たちに活躍の場を与えてあげたい。<AVALONE>のショップ販売員もデザイナー志望も若い世代が増えていて、そんなスタッフに「モノというのは人と人との結びつきから生まれる」ということを伝えていきたいです。

三浦さんの個人的な目標のようなものはありますか。

三浦:まだアジアのデザイナーを起用していないブランドから声をかけられたいとは思いますけど、それは目標というよりはあくまでも夢ですね。それよりもショップ、ファクトリー、スタッフまで、自分が築き上げたチームを守っていきたいです。それがいちばんリアルな目標です。

 


 

AVALONE

<AVALONE(アヴァロン)>は、デザイナー三浦進が2013年に設立した日本のファッションブランド。その名称は、ギリシャ神話に登場する「アヴァロン島」と、実家のアワビ仲卸業(アワビは英語で「アバロニ」)に由来し、自身のルーツとカルチャーへの敬意が込められている。2020年以降、国内での卸売や展示会を行わず、世田谷代田に構える直営店での販売に注力している。

Instagramはこちらから!
@avalonetokyo

  • Photograph : Junto Tamai
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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