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ART/DESIGN

芸術の領域を広げて「間」を意識する|現代アーティスト 山口歴

Apr 26, 2024
多くのギャラリーが集まり、パブリックアートが点在する東京の天王洲エリア。天王洲運河沿いにあるビルの壁面をキャンバスに、高さ約40m×横幅約22mという大型の壁画が制作された。運河と空の青色との景観にマッチしながらも、力強い筆致が印象的な壁画を描いたのは、世界的に活躍する現代アーティスト山口歴(やまぐち めぐる)さん。

今年で5回目となるアートプロジェクト「TENNOZ ART FESTIVAL」の作品として、2024年1月から公開制作された本作品について、作品完成直後の山口歴さんにお話をうかがった。

芸術の領域を広げて「間」を意識する|現代アーティスト 山口歴

Apr 26, 2024 - ART/DESIGN
多くのギャラリーが集まり、パブリックアートが点在する東京の天王洲エリア。天王洲運河沿いにあるビルの壁面をキャンバスに、高さ約40m×横幅約22mという大型の壁画が制作された。運河と空の青色との景観にマッチしながらも、力強い筆致が印象的な壁画を描いたのは、世界的に活躍する現代アーティスト山口歴(やまぐち めぐる)さん。

今年で5回目となるアートプロジェクト「TENNOZ ART FESTIVAL」の作品として、2024年1月から公開制作された本作品について、作品完成直後の山口歴さんにお話をうかがった。

想い続けていれば、夢は叶う。

QUI編集部(以下 QUI):壁画を拝見して、最初に大きさに圧倒されました。まずは、今回20m×40mという作品に挑戦された感想をお伺いできればと思います。

山口歴さん(以下 山口):この規模の作品って、昔からずっとやりたかったんですよ。だから、決まった時にはすごく嬉しかったですね。

QUI:渋谷などでも山口さんの壁画を拝見することができますが、今回の作品は今までで最大級になるんでしょうか?

山口:最大級ですね。そもそも、このサイズの壁画なんてなかなかないじゃないですか。僕は17年ぐらいずっとニューヨークにいるんですけれど、街なかにグラフィティや壁画が多くあるんですよね。そんな壁画を見ていて、いつか僕もビルぐらいのサイズの壁画がやりたいなと思っていたんですけど。「想い続けていれば、夢は叶うんだ!」って思いましたね。

Meguru Yamaguchi 「OUT OF BOUNDS」 Photo by Yusuke Suzuki(USkfoto)

QUI:確かにビルまるごと1棟なんていう規模の壁画、なかなかないですね!

今回の制作は、ビルの側面に組んだ足場にのぼって手作業で描いていくという大がかりな作業だったそうですね。

山口:屋外での作業なので、普段の作品制作とは全然違いましたね。足場を組んで、ハーネスをつけて描くのなんて初めてですよ。雪が降ったり雨風が強かったりして描けなかった日もありますけれど、約1ヶ月間、後ろの運河に屋形船が通ったりするのを見ながらペンキを塗っていって。本当にファンタスティックな経験というか、なかなか誰もが経験できることじゃないですよね。

中西伶の紹介で出会った風人という友人に、ここ一年位日本で制作する時に手伝ってもらってるんですが、彼にインスタのストーリーズでボランティアを募ってもらったんです。そしたら昔の自分みたいな若い人たちが集まって手伝ってくれて、彼等と出会えたのも自分の中で大きかったです。一人では絶対に完成できなかったので。壁の縦幅が約40mだったので、足場が上がるにつれて高さも笑えなくなっていきましたし、川沿いの夜風の寒さも想像以上でした。大変だったけど、インスタを見た友達やフォロワーさん達が差し入れを持って見に来てくれたり、様々な人たちに応援してもらいました。本当に楽しかったし良い思い出になりました。

 

解釈は人それぞれでいい

QUI:今回の作品はどのようなテーマで制作されたのでしょうか?

山口:今回の話が決まってから、一度ニューヨークに帰って、何を描こうかとすごく考えて。まずはこの天王洲エリアをGoogleストリートビューで歩いて回ってみました。それで、公園や団地があるなぁとか、ここから見たらどういう感じに見えるかといったことを考えながら、周辺の環境を見ていって。水辺が近いし、自分のシグネチャーワーク(特徴的な作品のスタイル)も青色なので、青いストロークでいこうと考えました。

ここ数年自分の作品を龍と例えられることが多くなり、2024は辰年ということもあったし、北斎の龍図の構図を意識しながら、自分のブラシストロークを組み合わせて、ビルの形状や窓の位置などを踏まえた上で、作品の構図を200通りぐらい考えました。構図を決めるのに1ヶ月くらいかかりましたね。

QUI:200通りも!

山口:最終的には、ブラシストロークがビルに貼り付いているような…巨人が出てきて、バン!って描いたようなイメージで。観た人が違和感を感じるというか、パッと見たときに圧倒されるような、特に言葉も要らないようなものを目指しました。

QUI:確かに、天王洲の風景に溶けこむ色合いながらも、目の前に現れたときにとてもインパクトがありました。

山口:描いている時にも、「あれは龍を描いているんじゃないか?」とか「いやベルセルクのベヘリットだよ!」とか見ている人が色々なことを言っていて。

僕は、解釈は人それぞれでいいと思っているんです。そもそも自分がやっていることって、言語化できるようなことではないと思っているので。それぞれの人が受け取って解釈してくれたら、それでいいなって思っています。

 

共通する根源的な美意識

QUI:今回の作品も青色がとても印象的です。先ほど山口さん自身も「自分のシグネチャーワーク」とおっしゃっていた通り、山口さんの作品を象徴する色ですが、青い色にはどのような意味が込められているのでしょうか?

山口:自分が好きな色だったり、リスペクトしているストリートアーティストの方の色合いに影響を受けた部分があったりと複合的なレイヤーが入っています。

そうですね、空とか海って全部青じゃないですか。自分がやりたい表現も、そういった自然的な…目に見えない何かというか、大きな力とか、地球とか…そういうものを目指しています。

僕はずっと青を使っているんで、色についてよく聞かれるんですけど、自分が好きな色というだけで、深い意味があるっていうよりは… なんていうか、やっぱり人に共通する根源的な美意識というかそういうものが、地球に生まれ育っているから、人の中にはあるんじゃないかなって思うんですよ。

QUI:なるほど… 山口さんはグローバルに活躍されていますが、「人に共通する根源的なその美意識」のようなものが、人種なども超えて伝わっていくのかもしれませんね。

山口:そもそもニューヨークに行ったのも、アメリカの人に自分の作品見せたらどんな反応が来るんだろう?みたいな単純な動機もあったりするんですが。扉が閉まっていても扉が閉まったまま、言語の壁を超えて訴えかけられるというのが芸術だったりすると思うので、そういった部分もあるかもしれないですね。

 

自分が楽しんでいないと、見る人も感動しない

QUI:今回の作品に限らず、作品を制作される中で大切にされていることはありますか?

山口:そうですね。わくわく感とか、フレッシュな気持ちとか… そういうのは常にないと、自分自身にも良くないんですけれど、観る人にも一発でバレてしまうというか。自分が楽しんでいなかったりとか、これ新しいなって思っていないと、観る人も感動しないんですよね。

だから、今回の作品のように最初に200通りの構図を考えたりしますし。自分の中で一番大事なのは、構図をつくるところですね。

それはデザイン的な考え方でもあると思うんですけれど、自分の場合は、デザインとアートを半々で取り入れているような部分もあって。大事にしているのは「間」の意識というか… デザイン的な要素も取り入れつつ、芸術の領域を広げていくような作品をつくっていくっていう意識ですかね。

純粋な絵画作品というよりは、色々なものを組み合わせて、新しいものをつくっていく感じですね。

QUI:デザイン的な要素や組み合わせといえば、山口さんはファッションの分野でも様々なコラボレーションをされていますね。最近でいえば、卓球のユニフォームデザインなども手掛けられたそうですね。

山口:はい、(卓球用品メーカーの) VICTASさんにお声がけいただき2024年度 公益財団法人日本卓球協会派遣の卓球男子日本代表のウェアなどに作品図版を提供しコラボレーションさせていただきました。

QUI:他にも、今後の活動で予定されているものがあれば教えていただけますか?

山口:来年、アジアの美術館で展示を行うことを考えています。1年後くらいなので、これからニューヨークに帰って1年間はそのために制作をしていく感じですね。

今年の9月には、千葉県で行われるアクションスポーツの国際競技会の会場内で、ライブペインティングの公開制作を行います。

QUI:アジアの美術館での展示!おめでとうございます。拠点にされているアメリカと日本だけでなく、益々グローバルに活動されるんですね。

山口:お声がけいただくお取組みも場所が様々になってきています。3月には香港でスタジオで作ったTシャツやグッズ類と両親に頼んで作ったアパレルアイテムを展示するポップアップを、4月からはバンコクで作品展示を行います。タイでの展示は初めてです。他にも色々な場所での取組を進めていて、皆さんにお知らせできるのを楽しみにしています。

QUI:ありがとうございます。今後のさらなる活動の広がりがさらに楽しみです。


山口歴(やまぐち めぐる)
1984年生まれ。東京都渋谷区出身。2007年に渡米し、現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動している現代アーティスト。絵画表現における基本的要素「筆跡(ふであと)/ブラシストローク」の持つ可能性を追究した様々な作品群を展開。代表的作品群”OUT OF BOUNDS”では「固定概念・ルール・国境・境界線の越境、絵画の拡張」というコンセプトのもと、筆跡範囲を制限してしまうキャンバスの使用を止め、筆跡の形状自体をそのまま実体化する独自の手法によって、ダイナミックで立体的な作品を制作し続けている。90年代から2000年代初頭の東京ストリートカルチャーの変遷を経験して育ち、渡米後は、ALIFE、BILLIONAIRE BOYS CLUB、FTC、NIKE等アメリカのストリートカルチャーを代表するブランドの他、ISSEI MIYAKE MEN、LEVI’S、OAKLEY、UNIQLOといった企業とのコラボレーションも行なっている他、2024年度 公益財団法人日本卓球協会派遣の卓球男子日本代表ウェアへの作品図版提供などを手掛ける。
発表作品はFENDI財団などに所蔵されている。近著に”OUT OF BOUNDS”(美術出版社)。
Instagram:@meguruyamaguchi

「TENNOZ ART FESTIVAL 2024」
会場:天王洲アイル各所
※継続展示作品を含む各アート作品の設置場所はアートフェス公式サイトをご確認ください
公式サイト:https://tennoz-art-festival.com/
Instagram:@ tennozartfes

  • Text : ぷらいまり。
  • Photograph : Kei Matsuura(STUDIO UNI)
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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