木竜麻生 – 愛を持って接する
自分の中にも変化があり、湧き出てくるものがあった
― ひとつひとつのシーンがとても印象に残る作品でした。初めて脚本を読んだとき、どんな作品だと感じましたか?
純粋に読み物として、小説のような面白さがあると感じました。印象に残るセリフや素敵な言葉選びが多く、話し言葉とはまた別の雰囲気を持っていたからだと思います。
― 木竜さんが演じた足立よしこは、登場シーンから「一体どんな人なんだろう」と心掴まれました。足立をどういう人だと捉えて演じていきましたか?
現場に入る前に、何度か本読みの時間をいただいたんです。その時に、脚本家のイ・ナウォンさんが役についてのサブテキストを作ってきてくださって。自分と足立をすり合わせていく時にすごく頼りになりました。
サブテキストを読んで、足立が(橋本愛さん演じる)沙苗と(仲野太賀さん演じる)健太に会うまでに経験してきたこと、彼女の悲しみややるせなさ、ままならない感情が見えてきたので、その感覚を持って現場に入ることができました。
― 足立の心の奥にあるものが見えてきたんですね。
自分が演じる役のことは毎回好きになるんですけど、決して器用ではない部分も含めて、足立のことは考えれば考えるほど愛おしく感じてきました。彼女にしかわからない悲劇の始まりみたいなものがあって、その気持ちを抱えながらもちゃんと自分の足で歩いて生きてきた人だと思ったので。
― 役と向き合っていく中で、足立が聴いていた音楽について監督に質問されたそうですね。
健太が足立の家に入ってくる時に、「ワルツが流れている」と脚本に書いてあって。そこが無性に気になったんです。
― それはなぜでしょう?
私も音楽が好きで、よく音楽から力をもらうことがあるからだと思います。なので、彼女が聞いている音楽を知ったら彼女に近づけるかも?と。監督に楽曲を教えてもらったあとは、その曲を聴きながら生活していました。
― 足立の意思を表現するかのような音楽と音量でした。
そのシーンで映る部屋の中も、「なるほど、これが足立の部屋なんだ」と感じられる部屋になっていて。足立は自分のことを話すシーンが多くないので、彼女の色がしっかりと出るように監督とスタッフのみなさんが作り上げてくださったんだと思うと、すごく嬉しかったです。
― 橋本愛さんと仲野太賀さんとご一緒してみていかがでしたか?
撮影期間の2週間、長野でずっと一緒にいたんですけど、すごく仲良くなりました。キャスト同士はもちろん、スタッフさんたちも含め、チーム全体ですごく距離が近くなって。会話やコミュニケーションをしっかりとることができた素敵なチームでした。
― 共演シーンやお芝居などについてもお話しを?
愛ちゃんとは現場で距離も縮まって、よく話をしていました。作品の中で沙苗と足立が手を合わせるシーンがあるんですけど、2人の間に格子があったので、手を合わせるのはなしになる予定だったんです。
― 印象に残るシーンです。
でも撮影のセッティングを控室で待っている間、愛ちゃんと「あのシーンはこれまでよりも距離が縮まるところだから、1回深く交わる瞬間があった方がいい」というような会話になって。それを監督に伝えて、現在のシーンになりました。
撮影全体を通して、みんなでコミュニケーションを取り合いながら、いい緊張感を保って、同じ方向を向いて、ひとつひとつのシーンを丁寧に作っていけた印象があります。
― 今のお話もですけど、本作は沙苗と健太と足立の会話やタイミングがとても重要に感じました。足立を演じるうえで、沙苗と健太が抱えているものも理解して挑んだのでしょうか?
全てを理解していたわけではないですが、足立を演じる中で、「わかりたくないけどわかってしまうこと」とか「わかりたくないけど繋がってしまう瞬間」みたいなものがあったような気がしていました。
― と言いますと?
理解はしたくないけれど、沙苗の言っていることや健太の持っている感覚が心のどこかでわかってしまうことがあったんです。その感覚は、足立を演じていくなかでだんだん生まれていったように思います。そして、自分の中にも変化があり、いろいろと湧き出てくるものがありました。
自分の思いを純度の高いまま伝えたい
― 映画『熱のあとに』は“それぞれの愛の形と向き合う物語”だと感じたのですが、木竜さんは愛について考えることってありますか?
愛を主題にしたり、 真ん中に愛を置いて考えることはないですけど、自分を愛してあげることだったり、身近な人を大事にすることだったり、“愛を持って接する”という意味では考えているのかもしれません。
― 本作を観て「愛って何なんだろう?」と改めて考えるきっかけになりました。
そうですよね。山本(英)監督とナウォンさんのピュアさが表れていて、人が愛を真ん中に置いて考えていくということを真っ直ぐに描いている作品なんだと思います。
― なるほど。
答えの無い問いに正面から向き合って作品を作られている。そこが山本監督とナウォンさんのすごくかっこいいところだと思いました。私の場合、答えの見つからない問いと向き合っていると、どんどん内省的になってしまうので……。
― そんな時、どうやって気持ちを切り替えていますか?
考え事をしたい時とか、とことん考えていいと感じる時は、思う存分考えるようにしています。でも、考えることにどんどんパワーを取られて、何もしたくなくなってしまう時もあるので、このまま考えてもあまりいい方に向かわないなと感じる時は散歩に出かけます。
― 散歩って、頭の中が整理されていいリフレッシュになりますよね。
はい。あとはシンプルですけど、陽にあたったり、風通しを良くしたり。家で1人で「もうやだ!」「やめた!」とか声に出してみたり(笑)。好きなコーヒーを飲んだり、好きなものを好きなだけ食べたり、自分のわがままを許すようなことをして気持ちを切り替えています。
― 新たな作品や役と出会う度、いろいろと考えることが生まれそうな気がします。
役についてはいくらでも考えて、とことん向き合いたいと思っています。でも、自分にこの役が務まるかどうかという不安な気持ちになって落ち込むことはなくしていきたいです。そういう気持ちになっている暇があったらまずやろう!と、よく自分に言い聞かせているので。いつも頭を抱えながらも自分でお尻を叩いて、作品や役と向き合っているような気がしています。
― 本作は、「ロマンチックだけど非現実的ね」とか「自分の闇の深さって他人が解決できると思う?」など、哲学的なセリフが魅力的でした。木竜さんも過去のインタビューなどを読むと自分の言葉を持っているように感じたのですが、何か意識されていることはありますか?
何かを形にするわけではないんですけど、自分が好きだったセリフや詩、小説の中の言葉などの表現をノートにメモすることはずっと続けています。
― 何かきっかけがあったんですか?
20代前半の頃からずっと、自分の言いたいことや伝えたいことを相手にうまく伝えられずに落ち込んでしまうことがあって……。そのフラストレーションを抱えていることに気付いてから、自分が思っていることをなるべく純度の高いまま相手に伝えられたらと思って始めました。
― 自分の想いを伝えられるようになりましたか?
まだ言葉をたくさん並べないとうまく伝えられないんですけど、以前よりは純度高く相手に届けられるようになってきたかもしれません。こういうインタビューの場でも、相手の言葉をしっかり受け取って、少し時間がかかっても適当に答えてないように心掛けています。
― 2014年に『まほろ駅前狂騒曲』で映画デビューされてから、10年間さまざまな役を演じられてきました。仕事への向き合い方に変化はありますか?
自分が何年目だということはあまり意識せず、毎回「作品をつくるのが楽しい」という想いで役者を続けてきていました。それはすごく幸せで有り難いことだと思っているんですけど、最近は前よりも「作品を見たよ」と言ってくださる方が増えてきた気がしていて。そういう言葉をいただく度に、これまでの作品があるからこそ、また新しく作品を作っていくことができるんだなと、時々思い返しています。
― ここからまた5年、10年と役者を続けていくために心掛けていることはありますか?
これまで経験してきたことを取りこぼさずに噛み締めながら、慌てず、常にエンジンをかけて仕事を続けていきたいと思っています。
以前ご一緒した方と別の現場で会えた時に、辞めずに続けてきてよかったと実感するので、これからも作品での再会が増えたら嬉しいですね。そして再会した時に「前よりもよくなった」とか「こういう役もやるんだ」と、もっとみなさんに面白がってもらえるようになれたらなと。そしてもちろん、自分自身も面白がりながら続けていきたいと思っています。
Profile _ 木竜麻生(きりゅう・まい)
1994年生まれ、新潟県出身。2014年に大森立嗣監督『まほろ駅前狂騒曲』(14)で映画デビュー。瀬々敬久監督の『菊とギロチン』(18)で300人の中から花菊役に選ばれ映画初主演を飾る。また、同年の『鈴木家の嘘』でヒロイン役を務め、この2つの作品の演技が評価され、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞やキネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など数々の映画賞を受賞する。2022年には主演映画『わたし達はおとな』で北京国際映画祭フォーワードフューチャー部門最優秀女優賞を受賞。近年の主な出演作は『ぜんぶ、ボクのせい』『ヘルドッグス』(22)、『Winny』『福田村事件』(23)など。
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Information
映画『熱のあとに』
2月2日(金)、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国ロードショー!
出演:橋本 愛、仲野太賀、木竜麻生、坂井真紀、木野 花、鳴海 唯/水上恒司
監督:山本 英
脚本:イ・ナウォン
プロデューサー:山本晃久
©2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha
- Photography : Hikaru Yoshida
- Styling : Takafumi Kawasaki
- Hair&Make-up : Miki Nushiro
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)