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『Sleepless』二宮健×仲万美 – 映画とはなにか?

Feb 10, 2023
映画との新たな出会い方を提案する、短編映画の2本立て上映企画“シネマ・スプリット”の第1弾『Sleepless/米国音楽』が劇場公開を迎える。
『Sleepless』の監督・二宮健と、俳優・仲万美が向き合う映画の可能性、そして世代観について話を聞いた。

『Sleepless』二宮健×仲万美 – 映画とはなにか?

Feb 10, 2023 - FILM
映画との新たな出会い方を提案する、短編映画の2本立て上映企画“シネマ・スプリット”の第1弾『Sleepless/米国音楽』が劇場公開を迎える。
『Sleepless』の監督・二宮健と、俳優・仲万美が向き合う映画の可能性、そして世代観について話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画とは他者の時間を感じるもの(二宮)

― 唐突な質問ですが、お二人は「映画とは?」と聞かれたらどう答えますか?『Sleepless/米国音楽』を観ていると、そんな疑問が浮かんできました。

仲万美(以下、仲):もともと映画は自分にとって日常的なものだったんですけど、お芝居の仕事を始めてからは勉強するものだったり、インスピレーションをもらえるものだったり。最近は映画を観るうえで、いろんな感情があります。

― 舞台やドラマとの違いはなんでしょう?

仲:映画のほうが、キャストやスタッフの人間らしい部分がより見えてくるような気がします。

― なるほど。二宮監督はいかがですか?

二宮健(以下、二宮):僕がもともと惹かれたのは、映画とは他者の時間を感じるものだということで。

― 他者の時間?

二宮:映画は時間芸術だともいわれていて。自分でない人のモノの捉え方、世界の捉え方、時間の捉え方を、ただ座って一方的に受け続ける。しかも2時間、リアクションもできずに。

― そう捉えると暴力的にさえ感じますね。『時計仕掛けのオレンジ』の洗脳実験みたいな。

二宮:若干暴力的なんですけど、その経験なくして自分以外の知見を広げることって難しいんですよね。もちろん本を読んでも他者性と触れ合うことはできるんですけど、映画というのは人が捉えているものを時間感覚とともにより感じられるものだと思います。

『時計仕掛けのオレンジ』も初めて観たとき、自分にない感覚をキューブリックがぶつけてきたじゃないですか。この感覚ってなんなんだろうということに喜びを感じられるんです。

左:仲万美 右:二宮健

― 二宮監督は自身の作品制作だけでなく、日本映画界の“新しい波”を掲げた映画上映企画“SHINPA”も手がけられていますよね。

二宮:SHINPAを始めたのが上京した22歳の年で、自分はこの時代に生まれて映画を作っていくんだ、周りには仲間がいるんだということを能動的にアピールしたいと思ってつけた名前でした。

最近はいろんな監督がいらっしゃるので、お前ら全然新しくないじゃんみたいなことになっていますが、それもまあ良いかなと(笑)。一方で、自分がもっとステップアップできたら、次の世代の監督や作家をフックアップできる基盤をちゃんと作れたら良いなとは思っています。

― ご自身の世代的な特徴を、どういうところに感じますか?

二宮:世代でいうと、僕も万美もほぼ歳一緒だよね。半年違い。

仲:年齢だと二宮さんがひとつ上で。

二宮:僕らは、家にはホームビデオがあってパソコンで編集できる、中学生でも自分で全部やろうと思えばできちゃうということが原体験にある最初期の世代になると思うんです。自分ひとりでもできるという勢いと、一方でつまづきが僕らの世代にはあって。当時はYouTubeも黎明期で、まだ映像=映画という認識でした。

― 世代がずれていたらYouTuberになっている可能性も?

二宮:ゼロとはいえないですね。大学のときにつくっていた映画を、当時のYouTubeに上げていて。自分が表現したい作品をつくる一方で、なるべく多く観てもらいたいからYouTubeでうけるような映画もつくっていたら、結構すぐ観てもらえるようになったんです。1時間ぐらいの映画をまるごと上げて、10万回再生とかいっていたんですよ。半分YouTuberのような感覚でしたね。

― 万美さんはご自身の世代をどう認識していますか?

仲:自分は5歳のときからダンスをやっていたんですけど、当時のダンスの先生は、今の若い世代の子が教えてもらっている先生に比べると決して上手だとはいえないんですね。でも、今よりも深みがあったように思うんです。しっかりと経験を積んだ深みのある方たちに教えてもらえたからこそダンスの良さを知れました。

そして子どものころはまだスマホもなく、すべてがデジタル化していない世界だったことが、すごく良かったなと思っています。恵まれているようで恵まれすぎていない、自分の世代が大好きです。

©20221 映画「Sleepless」

― そう思えるのは最高ですね。お二人が今回、『Sleepless』で一緒にやろうとなったきっかけはなんでしょう?

二宮:万美とは2019年公開の映画『チワワちゃん』が最初で。演技は初めてだったよね。

仲:初でした。

二宮:『チワワちゃん』の現場では万美の陽気さが全体のグルーヴを作ってくれて、一緒にやれたことが楽しい思い出だったんです。すごくフランクに自分のことを教えてくれるんですけど、西洋に対する憧れだけで20代を突っ走っていた当時の僕には、そのあっけらかんとした話が刺激的でおもしろすぎて。

今回『Sleepless』で3人のパーソナルな話を撮ることになったときに、万美のことをふと思い出して。今、万美は自分の過去についてどう話すのか知りたかったし、万美の身体性が絶対に作品の中に必要だという思いがあって声をかけさせてもらいました。

― 劇中では万美さんをはじめ、桜井ユキさん、松本穂香さんもあけすけに、包み隠さず話されているように感じたんですけど、セリフはインタビューですか?それとも台本が?

二宮:インタビューです。睡眠の話だとも伝えてなくて、万美には踊るのをやめたときの話を教えてくれと訊いただけで。

仲:作品の内容もなにも知らず。普段でも、仕事でも、秘密や嘘が好きじゃないので、自分の経験したことや心情を、自分の言葉で正直にお話ししました。

二宮:その強さって普通の人は持てない。

仲:取り繕って、嘘をついたところでバレるじゃないですか。

二宮:バレない人もいるんだよ(笑)。万美のこういうところに惹かれますよね、強いなあって。

 

二宮さんと一緒だと、すごく居心地が良くて、偽れない(仲)

― 本作は話し手のリアリティのある言葉に、詩的な映像と音楽が相まって、不思議な映画体験だなと感じました。

二宮:人の話した言葉のミュージックビデオを作りたいと思ったことが出発点だったんです。言葉を音楽だと捉えて映像を重ねることで、相手の姿と言葉の余白をデザインできたら良いなって。3人の映像と言葉のギャップがすごいよね。

仲:声は普段の自分なんだけど、映像はスイッチの入った自分だったり、会話の内容と関係なく、馬が出てきたり。

― 受け取る側の解釈次第で、新しい意味が立ち上がってくるおもしろさがありました。そもそも睡眠をテーマにしようと考えたのはなぜでしょう?

二宮:僕の商業映画のデビュー作『LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』が桜井(ユキ)さんの初主演作で、その作品のモチーフに関連していることがひとつのきっかけです。そして自分が10代や20代のころ、映画と睡眠時に見る夢を紐づけて考えていて、今でもその手触りのようなものを体現したいと思うときがあるんです。自分にも時折ある、眠れない夜の孤独のようなものを映画で共有して、それが同じように感じている人たちの薬になればいいなと。

ただ、みんながずっと睡眠の話をしているわけじゃないですし、撮っていくうちに自然とできた余白が、作品を観た人の中で変容していくのかなと思います。

睡眠をテーマにしているのは誰にも言っていないと思います。万美と大違いだよ、俺は。全部隠してて、大嘘つきだよね、本当(笑)。

仲:本当だ(笑)。

― 万美さんは作品をご覧になった感想は?

仲:「これは映画なのか?」と驚いたんですけど、3人の女性が容姿も中身も全く違うところも本当におもしろくて、いい意味でみんな変だなあ……そして自分も変だなって。

二宮:変だよ(笑)。とくに(松本)穂香ちゃんと万美は真逆で。

仲:真逆だからこそすごく仲良くなりたいけど、会う現場がなさすぎて。

二宮:そうだね。穂香ちゃんは劇中でも友だちができないと言ってたから、なってあげないと。

仲:それがわかんないんです。なんで友達ができないのか。

二宮:みんなが仲万美にはなれないんだよ(笑)。

©20221 映画「Sleepless」

― 万美さんは、二宮監督との仕事はいかがですか?

仲:最初の『チワワちゃん』の撮影では右も左もわからなくて、やっぱり怖くて二宮さんに相談したら、「仲万美は仲万美でいいんだよ」って。それはたぶん二宮さんなりのやさしさで、じゃあ自分が思うままにやろうって思えたんです。

役者さんって現場では役の名前で呼ばれたり、パーソナルな部分にはあまり触れなかったりするんですね。役に集中できるのでそれも全然良いんですけど、二宮さんと一緒だと仲万美になっちゃうんです。今回の『Sleepless』でも、二宮さんが仲万美をどんどん引き出してくれるので、すごく居心地が良くて、偽れない。仲万美という人間を第一に考えてくれているんだなと思っています。

― 理想的な関係性ですね。他の誰かでなく、仲万美として演じることを尊重しているような。二宮監督にとって万美さんはどういう存在ですか?

二宮:まず、仲万美がやってきたことが演技という土台の上でどうアダプテーションされるのかが見たかったということがあります。演技の外でやってきた人が演技の中に入ったときに、他の俳優さんのようにやりなさいといった体育会系のノリだと、その身体性や魅力が剥奪されることもザラにあるんです。

僕はお客さんのときから、たとえばミュージシャンが映画に出ているのに、悪い意味で馴染んでしまっているのがあまり好きじゃなくて。もちろんこれからいろんなお芝居をやっていくうえで、ずっと仲万美でいる必要もないですけど、やっぱりチャームがある人を作品の中でどう生かすかに、僕自身はすごく意識的ではいます。

それとは全く別の軸で、万美と話していると楽しいんですよね。万美がいるとみんな和やかになる。カメラの外での太陽みたいな万美は、変わらずいてほしいです。

©20221 映画「Sleepless」

では最後にそれぞれ、10年後にどうなっていたいか、ビジョンがあれば教えていただきたいです。

二宮:今の僕らには絶対想像できていないことが、10年後には間違いなく起きているはずです。もし自分が映画をつくっていたとしても、市場的に広くなっているとは思えないですし、なにかしらの変更を強いられるでしょうね。でもその変化の波に華麗に乗り続けたいなと思っています。

仲:10年後、世の中にどんな波が来てるんですかね。想像もつかない。

二宮:人間にできない動きができるダンサーのロボットが出てるんじゃない?

仲:そしたらもう勝ち目ないっす。肩身狭いっす(笑)。でも10年後、パッと思いついたのはなにも変わらないということ。このままでいたいっていうのは別にないんですけど、どう転んだってこのままなので、たぶん。

二宮:人生の正解だよ、それは絶対。

仲:好きなことやって、好きな人たちと笑って。10年後も、いくつになっても変わらず仲万美でいたいです。

二宮:いてほしいですね。

 

 

Profile _ 二宮健(にのみや・けん)
1991年生まれ。大学の卒業制作として発表した『SLUM-POLIS』が国内外の映画祭で話題を呼び、2015年に全国で劇場公開。その後、2017年『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』で商業映画デビュー。『チワワちゃん』、『とんかつDJアゲ太郎』、『真夜中乙女戦争』など、次々と話題作を発表して注目を集める。新たな日本映画を発掘する映画上映企画「SHINPA」主宰。
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Profile _ 仲万美(なか・ばんび)
5歳からダンスをはじめ、20年以上のキャリアを誇る。加藤ミリヤやBoAなどのアーティストをはじめ、2015年にはマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーに同行。2016年リオデジャネイロ パラリンピックの閉会式における、日本のプレゼンテーション「SEE YOU IN TOKYO」にも参加。雑誌・広告・CM・PV・イベント などに数多く起用されるなど、世界的にも活躍している。近年の主な出演作に、【映画】『チワワちゃん』 (2019)、【舞台】『DustBunnySHOW』(2021)、ROCK OPERA『R&J』(2019)などがある。
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『米国音楽』小林達夫×山口まゆ – 映画とはなにか?
Feb 10, 2023

 


 

Information

映画『Sleepless/米国音楽』

2023年2月10日(金)より渋谷シネクイントにて1週間限定公開
各日20:50上映開始

【トークイベント詳細】
2月10日(金)田中宗一郎・二宮健監督・小林達夫監督
2月11日(土)篠原悠伸・山口まゆ・二宮健監督・小林達夫監督
2月12日(日)⻫藤陽一郎・伊島空・二宮健監督・小林達夫監督
2月13日(月)桜井ユキ・二宮健監督・小林達夫監督
2月14日(火)柳沢正史・二宮健監督・小林達夫監督
2月15日(水)大柴裕介・二宮健監督・小林達夫監督
2月16日(木)仲万美・二宮健監督・小林達夫監督

『Sleepless』
2021年/日本/40分/カラー/シネマスコープ
監督:二宮健
出演:桜井ユキ 松本穂香 仲万美 柳沢正史

『米国音楽』
2022年/日本/28分/カラー・B&W/ビスタ
監督・脚本:小林達夫
出演:篠原悠伸 山口まゆ 伊島空 嶺豪一 大社カリン 蒼葉える おかやまはじめ 斉藤陽一郎/大柴裕介

映画『Sleepless/米国音楽』公式Twitter

  • Photography : Kenta Karima
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)

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