青木柚 – 信じられる俳優
最新の出演映画『Love Will Tear Us Apart』で得たもの、そして俳優として成長していくことについて話をきいた。
自分がいかに愛を知らないのか思い知らされた
― 映画『Love Will Tear Us Apart』、完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
いろんなジャンルの要素が入った見どころ満載の映画で、エンタメとしても楽しんで観ることができました。
― ですよね。なんなら事前情報がない状態で観るのが一番おもしろいんじゃないかな。僕はそれで、すごくのめり込めたので。今インタビューしてて言うのもなんですけど(笑)。
じゃあ今日はなにもしゃべらず……嘘です(笑)。
― 青木さん演じるキャラクターは、物語の鍵となる存在ですよね。演じるにあたって、彼をどのように捉えましたか?
自分が共感できる部分とそうでない部分が混在していて。自分の想像力や理解度が大切になる役だなというのはすごく感じました。
― 宇賀那健一監督からはどんな演出が?
撮影で印象的だったのは森の中での大事なシーンのとき、監督と太い木の裏で、僕ら2人だけがわかっていれば良いよね、という話をして。それは自分と役を結びつける上ですごく重要な瞬間でもあったし、この作品に自分の身を委ねていくんだという気持ちが確信に変わった瞬間でした。
― 劇中には猟奇的なシーンが多く描かれます。『Love Will Tear Us Apart(意味:愛が私達を引き裂く)』というタイトル通り、愛が絡むと凄惨になりがちですよね、現実でも。
自分がいかに愛を知らないのか思い知らされましたね。本人同士の中でしか流れない愛というのはすごく美しく尊いものであり、その反対に、外側から見ると狂気を感じることもあるんだなと、この作品を観て改めて思いました。
― 愛に対する不器用さがそのまま表に出ちゃうと、とんでもない事態を引き起こしてしまうという面はあるんでしょうね。
そうですね。悪意から始まっていないところがすごく切実で、そこには感情移入しました。
― 主演の久保田紗友さんとは初共演でしたか?
初めてでした。
― どんな印象を?
表情もそうですけど、立っている姿も凛々しいというか、たくましいというか。内側から滲むカッコ良さも相まって、ついていきたくなる先輩という印象でした。あとは意外とお茶目な部分もあって、まだまだ見えていない魅力がたくさんある方だなと思いました。
― 他にも同世代の俳優が多く、バーベキューを楽しむシーンもありましたね。
初対面の方がほとんどだったので、新学期の合宿みたいな雰囲気もあって、楽しく撮影できましたね。休憩中、自分の好きなコンテンツの事を皆に熱弁しすぎて、軽くあしらわれた事もありましたが(笑)。同世代の皆さんとの空気感がハードな撮影を乗り越える支えになりました。
― 特に記憶に残っている共演者はいますか?
莉子さんのシーンは面白かったですね(笑)。
― ガラスのシーンは観ていて思わず吹き出しました。
シリアスな中で、あんな行動をされたら笑ってしまいますよね。撮影している時は大真面目だったのも相まって印象深いです(笑)。
人は全員違うから、常にゼロから考える
ー 本作を経験して、得たものはありますか?
自分の中にあまりない感情を多く含んだ役だったんですけど、それでも自分がやるべきことは、その役の一番近くにいることだなと。今回に限らずどの作品においても大事にすべきことなんですけど、今回は特に強く感じました。
― 撮影は2021年の夏だったそうですが、それから2年間で青木さん自身が成長したなと感じる部分はありますか?
成長という形で表に現れているかはわからないですけど、内面としては演じた役の人生の数だけ、視野が広がったのかもしれません。
― 青木さんは現在22歳ですが、10代から活動されてますよね。
あまり年数は関係ないというか。重ねた時間に比例して成長するわけではないというのは続けるほどに痛感します。昔の自分には勝てないなという感覚もどこかにはあるので。
― 勝てないというのは?
今の自分には出せないものがあるなと。自分に限らず、そのときにしかないものが映っていることに魅力を感じるんです。なので正確にいうと勝ち負けとかではなくて。とにかく全ての自分を否定する事なく、今を大切に、純粋に作品に向き合うしかないなと思います。
― 演技をやっていて楽しいのも、そういうことが感じられた瞬間だったりしますか?
数年前までは「演技って苦しむものだろ」とか思っていて。ですが最近は、苦しみと共に楽しさを感じている自分がいるんです。その楽しさというのは、作品に関わる全員が同じ方向に向かってものづくりをしていると感じられる瞬間で。演じる事はやはり楽しいだけではないのですが、そういう環境の中で演じられるということが一番幸せだなと思います。
― 現場で生まれた良い空気感は、作品にも現れてくるものでしょうか?
そうだと思います。きっとそういうものが作品にも表れると信じています。
― 演技は苦しいものと思っていた時期もあるということですが、シンプルにプレッシャーを感じたりすることも?
ありますね。今でも緊張はなくならなくて、永遠に緊張しているなと。オーディションも緊張しますし。でも周りからはそうは見えないと言われるので、それはラッキーかもしれません(笑)。
― そういうプレッシャーってどうやって乗り越えるんでしょう?
乗り越える方法は見つけられてないんですけど。プレッシャーを感じる状況にいるということは、自分にすべきことがあって、責任を感じられる特別な状況だと、ポジティブなマインドに持っていくようにしています。これは、人から教えていただいた話なんですけど。
― すごく素敵な考え方ですね。僕も参考にさせてください。では、俳優としてもっとも必要な能力ってなんだと思いますか?
人の気持ちをわかろうとする姿勢は大事かなと思います。
― 想像できること。
それは人の気持ちがわからない役をやるときでも大切で。この人はなんでこういうことを言ったんだろう、なんでこんなことを言われているんだろうと想像する感覚がないと、きっと役の芯を捉える事は出来ないだろうな。個人的に難しいのが、それを考えすぎるのも良くないというか。
― そうなんですか。
演じるうえで、人の気持ちをわかろうとすることは大事ですけど、理論っぽく凝り固まってしまったら意味がないとも思うんです。
― 自分のメソッドに当てはめるようになってくるとまた話が違う。
そうですね。人は全員違うから、常にゼロから考えるというか。もちろん自分の人生の経験は影響してくるはずですけど、前例ではなく、その役はその役として考えるということが大事かなと思っています。
― 今後、青木さんはどういう俳優になっていきたいですか?
人としては、自分が自分であるという芯は持ちつつ、他者との関わりも疎かにしない柔軟な人でありたいですね。仕事の面では、まずは自分が俳優として信じてもらえる存在になって、人の心の隙間を埋められる作品に関わっていきたいです。
― 信じてもらえる存在というのは?
説明が難しいですが、演じる際に心を使っていないと観ている側には色々とバレてしまうと思うので、そういった感覚的な事をストイックに意識し続けられる自分でありたいというか。ありがたいことに、自分が演じた役が誰かの支えになる事もあるので、安心 て役柄を信じてもらえるように、日々取り組んでいきたいです。
Profile _ 青木柚(あおき・ゆず)
2001年2月4日生まれ、神奈川県出身。16年に『14の夜』(足立紳監督)で映画デビューし、18年に『アイスと雨音』(松居大悟監督)に出演。W主演を務めた『うみべの女の子』(21/ウエダアツシ監督)で、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞にノミネート。米映画『MINAMATA』(21/アンドルー・レヴィタス監督)では、ジョニー・デップと共演。22年にかけて放送された、NHK連続テレビ小説「カムカムエブリバディ」でヒロインの弟・大月桃太郎役を好演し、「モアザンワーズ/More Than Words」(Amazon Original)ではメインキャストの妹尾槙雄役で出演しその繊細な演技が話題に。以降も『はだかのゆめ』(22/甫木元空監督)、「往生際の意味を知れ!」 (23/MBS)、『なぎさ』(23/古川原壮志監督)、『神回』(23/中村貴一朗監督)、『まなみ100%』(23/川北ゆめき監督)、「EVOL」(23/DMM)と主演作が続く。
Instagram
shirt ¥53,900・pants ¥29,700 / SHINYAKOZUKA (THE WALL SHOWROOM 03-5774-4001), shoes / stylist’s own
Information
映画『Love Will Tear Us Apart』
2023年8月19日(土)より、ユーロスペースほか全国ロードショー
出演:久保田紗友、青木柚、莉子、吹越満、麿赤兒、前田敦子、高橋ひとみ、ゆうたろう、田中俊介
監督:宇賀那健一
脚本:宇賀那健一、渡辺紘文
映画『Love Will Tear Us Apart』公式サイト
©『Love Will Tear Us Apart』製作委員会
- Photography : Yudai Emmei
- Styling : Yoshie Ogasawara(CEKAI)
- Hair&Make-up : Ayane Kutsumi
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)