岡山天音 × ツチヤタカユキ – 表現のカイブツ
彼らが人生をかけて対峙し続ける、“表現”とはなにか。2人が表現に向き合う姿勢、そして作品にかける思いに迫る。
笑いは、太刀打ちできない強大なもの(岡山)
― まず、お互いの印象をお聞かせください。会う前後で印象は変わりましたか?
岡山天音(以下、岡山):僕はNHKのツチヤさんの密着映像を観ていたので、大きなギャップはなかったです。
ツチヤタカユキ(以下、ツチヤ):僕は岡山さんに会って、言葉がすごい素敵だなと思いました。文章書いたらええのにと言ったら、もう書いてますって。
岡山:恐縮です。
ツチヤ:ワードの選び方が素敵なんです。
― その場で瞬発的に素敵な言葉を発することって大喜利的というか、特別な才能が必要な気がします。
岡山:それはツチヤさんにも感じますね。一緒に取材を受けていると楽しくなっちゃうというか、聞き手の気持ちになっちゃう。ツチヤさんはこれまで吸収してきた量が段違いなので、それが血肉になって出てきているのかなと思いますけど。
― 岡山さんも、他の人とは違うものを吸収してきたからこそ出てくる言葉があるんでしょうね。本作のお話を受けたときの率直な感想を、それぞれお聞かせいただけますか?
ツチヤ:僕が映画化の話を聞いたのは5年前なんですけど、編集者の方から実際に実現することはあんまりないから期待するなと言われていて。じゃあ期待はしないでおこうと思ったんですけど、(滝本憲吾)監督がデビュー作で選んでくださったということは、表現者として最大の賛辞だと受け止めて喜んでいました。
― 映画化を本当に信じられたのは、どのタイミングでしたか?
ツチヤ:そっから1年に1回ぐらい脚本の足立(紳)さんとかがいる会議室に呼ばれて、取材されることが3年ぐらい続いたんです。いよいよ撮影スタートになるのかなと思ったらコロナで中断して、やっぱならんのかなと。それでも、もう1回スタートしたときに「あ、ほんまに映画になるんちゃうかな」と信じられました。
― 本作の主人公は“ツチヤタカユキ”ですが、映画の中で自分を演じられるのって、ご本人としてはどういう気持ちなんですか?
ツチヤ:逆に岡山さんがよく引き受けてくださったなというのがまずひとつあって。本人では似てるかどうかはわかんないですけど、僕のまわりで映画を観た人はみんな「そのもの」だと言っていたんで、そのぐらい完璧でした。
岡山:いやいやいや(笑)。
― 実際に今生きている人を演じるという難しさはありましたか?
岡山:実在の人を演じているということを念頭に置くことはなくて、あくまでツチヤタカユキという役と向き合っている感覚が強かったです。演じている最中は、普段とそこまで明確な違いはありませんでした。普段の仕事との違いがあるとしたら、今日のように実際にお会いしたときに緊張するっていうことでしょうか。ドキドキですよね(笑)。
― 作品自体は「笑い」をテーマにしているのに、スクリーンの中のツチヤタカユキは全然笑わないですよね。そこまで人を追い詰める「笑い」って、結局どういうことなのかなと考えさせられました。
岡山:「笑い」って、すごく原初的なものですよね。今では文化になっているし、流行しているけど、人間が本来持っていて太刀打ちできない強大なものというイメージがあります。だから自分も落ち込んで元気ないときに芝居を観るのは難しくても、お笑いだったらテレビを観て笑っちゃったりするので。
― たしかに本能に近いものですよね。チンパンジーなど、笑う哺乳類も多いらしいですから。ツチヤさんはいかがでしょう?
ツチヤ:僕にとっては、一番身近というか、手前にあるもの。音楽をやるなら楽器を買わなあかん。画家になるなら絵の具もいる。でも「笑い」はタダでやれる。僕は金が全然なかったから、笑いとか小説とか、タダでやれるものしかやれなかった。なにもないやつでもやれるけど、だからこそ競争もすごいし、大変なことですよね。
岡山:他にもタダのものが横並びであったら、お笑い以外を同じぐらいのエネルギーで?
ツチヤ:やってましたね。
― ツチヤさんは基本的にエンタメが好きなんですよね。音楽もすごくお好きですし。
ツチヤ:そうなんです。中でもタダのものが(笑)。
― あとはやっぱり大阪というのも大きい気がします。東京の人が想像する以上に、生活と笑いが近いですよね、関西って。
ツチヤ: 東京ではたぶんもっとおしゃれな番組とかやってると思うんですけど、大阪はお笑いばっかり。(映画で描かれている)当時は深夜のお笑いまで全部観てました。
一番おもろい選択肢を選びたい(ツチヤ)
― 岡山さんもツチヤさんも、表現者という部分では同じだと思いますが、人の心を動かせるのはどういうものだと思いますか?
岡山:僕の心が動くのは、人が心を動かしながら作ったものです。極端にいうとAIのようにデータがあれば作ることもできるけど、でも僕は作った人の血が、体温が、人間そのものがにじみ出てくるようなものが好きなので。
― 心の動きが共鳴するということはありそうですよね。ツチヤさんは?
ツチヤ:僕はどれだけベットして(賭けて)いるかですね。たとえばリスクを背負って、心臓をベットしたものって絶対ドキドキする。逆差別って言われるかもしれないんですけど、大学を出て芸人をやっている人って、見ていてあんまりワクワクしない。保険かけてるやんって思っちゃうんですよね。
― 映画の中でも妥協するやつが許せない、中途半端な気持ちでやってんじゃねえよという思いが描かれていましたが、その感覚は今も変わらず持ち続けているんですか?
ツチヤ:今もあります。結婚して普通に幸せになろうとしてるやん、まじかこいつ、とか。
― 人は人だからとは思えない?
ツチヤ:それは思いますけど、表現者としては「降りたなこの人」と捉えてしまう。僕は不幸でもいいから、死んでもいいから、一番おもろい選択肢を選びたい。
― 岡山さんは表現するうえで、すべてを犠牲にして突き詰めていくことの大切さを感じることはありますか?
岡山:いや、やりたいやり方でやればいいと思っています。主語を大きくして言えないというか、人それぞれ形が合うパズルがあると思うので。ただ、自分の形に合うことを思いっきりまっとうするというのは、生きている実感をもらえるものなんじゃないかなとは思いますけど。
― 岡山さん自身はモラトリアム的な、鬱屈としていた時期はなかったですか?
岡山:ありました。
― そのころの自分から見て、今は思っていたような大人になれていますか?
岡山:どんな大人を理想としていたのか、覚えてないですね。
― では今の自分には満足している?
岡山:満足しています。というか、しょうがないので。ネガティブな意味じゃなく、足るを知るじゃないと一生満足ってないと思うんです。
― ツチヤさんは?
ツチヤ:27で死ぬと思っていたので、まず「生きてるんかい」と言われそうですよね。でも、生きるのを選んだ中では一番おもろい選択をしているのは認めてくれるとは思います。
― ですよね。映画にまでなっていますから。最後に、未来に向けてなにか描いているものがあれば教えてもらえますか?
岡山:ないんです。先ほどの話に通ずるんですけど、今を犠牲にして未来にゴールを立てても、もしかしたら明日死んじゃうかもしれない。そうなるともったいないじゃないですか。今日をマックスでやっていきたいですね、僕は。
ツチヤ:じゃあ、僕も同じで(笑)。
Profile _ 岡山天音(おかやま・あまね)
1994年6月17日生まれ、東京都出身。2009年、NHK「中学生日記」にて俳優デビュー。2017年公開『ポエトリーエンジェル』(飯塚俊光監督)で第32回高崎映画祭最優秀新進男優賞、2018年公開『愛の病』(吉田浩太監督)でASIAN FILM FESTIVAL最優秀男優賞を受賞。主な出演作に、『新聞記者』(19/藤井道人監督)、『王様になれ』(19/オクイシュージ監督)、『青くて痛くて脆い』(20/狩山俊輔監督)、『FUNNY BUNNY』(21/飯塚健監督)、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22/佐藤信介監督)、『さかなのこ』(22/沖田修一監督)、『沈黙のパレード』(22/西谷弘監督)、『あの娘は知らない』(22/井樫彩監督)、『BLUE GIANT』(23/立川譲監督)、『キングダム 運命の炎』(23/佐藤信介監督)など。待機作として、『ある閉ざされた雪の山荘で』(24/飯塚健監督)がある。
Profile _ ツチヤタカユキ
1988年3月20日生まれ、大阪府出身。高校時代からテレビやラジオ番組にネタを投稿。21歳の時に、携帯電話から大喜利のお題に答えられる視聴者参加型番組「着信御礼!ケータイ大喜利」(06〜16/NHK総合)で、最高位「レジェンド」の称号を獲得。その後、「オールナイトニッポン」(ニッポン放送)、「伊集院光 深夜の馬鹿力」(TBSラジオ)など数々のラジオ番組や雑誌への投稿が圧倒的な採用回数を誇り、“伝説のハガキ職人”と呼ばれるようになる。数々のアルバイトを経て芸人による招聘で上京。ラジオの構成作家を志すも、“人間関係不得意”のため挫折。大阪に帰郷後、2017年に自身の赤裸々な日々を綴った「笑いのカイブツ」を出版する。近年は、小説の執筆や、新作落語の創作、新作公演の作・演出を手掛けるなど吉本新喜劇の作家としても活動。2019年に新作落語「最悪結婚式」で、落語協会新作落語台本佳作を受賞。「目撃! にっぽん『もう一度笑かしたい~“伝説のハガキ職人”再起の日々~』」(20/NHK総合)では、落語の創作に挑む様子が特集で放送された。
Information
映画『笑いのカイブツ』
1月5日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:岡山天音、片岡礼子、松本穂香、前原滉、板橋駿谷、淡梨、前田旺志郎、管勇毅、松角洋平、菅田将暉、仲野太賀
監督:滝本憲吾
原作:ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』(文春文庫)
脚本:滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
企画・制作・プロデュース:アニモプロデュース
配給:ショウゲート、アニモプロデュース
宣伝協力:SUNDAE
©2023「笑いのカイブツ」製作委員会
- Photography : Kenta Karima
- Styling : Haruki Okamura
- Hair&Make-up : Amano
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)