本は、人生の伴走者「aru(アル)」|本屋を遊ぶ vol.5
ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」。第5回は、岡山・王子が岳に本店を構える「aru(アル)」の2号店、2025年にオープンした瀬戸内海を一望する鷲羽山店へ。
海の見える穏やかな場所にある店には、人文から詩歌、小説、エッセイ、写真集、アートブックまで、じっくり味わいたくなる本が並んでいる。「明確な目的や意味を持った場所にはしたくなかった」と話す、店主のあかしゆかさん。aruが生まれた背景と、本との出会い、本屋という場所について話を聞いた。
岡山県倉敷市・鷲羽山にあるインディペンデント書店。岡山・王子が岳に本店を構えるaruの2号店として、2025年4月にオープン。瀬戸内海を一望するロケーションで、新刊を中心とした選書を行い、本の販売のほか、トークイベントや企画展なども開催。本をきっかけに、人や地域をつなぐ場を育んでいる。
aruという場所
―aruを始めようと思ったきっかけを教えてください。
2021年、会社を辞めたタイミングと当時のパートナーとお別れしたタイミング、そしてコロナ禍が重なり、計らずもいろんなものを手放すことになりました。これからどうやって生きていこうかと考えていた時に、瀬戸内海沿いで宿泊施設を営む友人が「岡山に遊びに来てみたら」と声をかけてくれて、2週間滞在することに。その2週間で岡山の人やまちに魅力を感じ、気づけば物件を紹介されて、本屋を始めることを決めていました。

―「aru」という店名には、どのような思いや願いが込められているのでしょうか。
お店を始める時に「どんなコンセプトのお店にしようか」とすごく考えたのですが、明確な目的や意味を持った場所にはしたくないという結論に至りました。この店が存在する意義は、訪れてくださるお客さまそれぞれの心の中にあればそれでいい。瀬戸内海のように「ただそこにある」ことを目指したいと思い、「aru」という店名をつけました。
―aruをつくるうえで、「これだけは大切にしたい」と決めていたことはありましたか。
わざわざ遠方から訪れてくれる方も、ちいさなお子さまを連れられている親御さんも、地元のおじさんおばさんなども、どんな人でも入りやすい空気にすること。入った瞬間に「ここは自分の居場所ではない」と感じないような、開かれた空間づくりです
―選書はあかしさんご自身が行われていると伺いました。どのような基準や視点で本を選ばれているのでしょうか。
海の見える穏やかな本屋で、訪れてくださる方も日常から離れてゆっくりと過ごしにいらっしゃる方が多いので、わかりやすい答えが書いてある「速い本」ではなく、じっくりとその本の内容を自分の中で咀嚼して味わいたくなるような本を選んでいます。
ジャンルは人文から詩歌、小説、エッセイ、写真集やアートブックなどさまざま。鷲羽山店は本店と比べて観光地でふらっと訪れる方も多いので、絵本や文庫本など手に取りやすい本の種類も多めに揃えています。
―aruを訪れた方が、お店を出るときに「こんな気持ちになっていてほしい」と願うことがあれば教えてください。
人の気持ちはその人自身のものなのでなんとも言えないですが、願わくばどんな種類のどんな方向であれプラスの気持ちになってくださればいいなと思っています。
あかしさんと本
―あかしさんが本を好きになったきっかけや、今振り返って印象に残っている出来事があれば教えてください。
幼い頃はそこまで本読みというわけでもなかったのですが、大学時代にかつて京都の四条河原町にあった「FUTABA+京都マルイ店」でアルバイトをしたことがきっかけで本が好きになりました。
その本屋の棚を見ていると、読みたい本が次から次へと溢れて止まらなかった。本だけではなく、「本屋」という空間のすごさを感じ、その魅力に夢中になりました。
―あかしさんにとって、「本を読む」という行為は、どんな時間なのでしょうか。
本は人生の伴走者だと思っています。未知の世界を教えてくれることもあれば、自分が今まさに悩んでいることのヒントをもらえることもあれば、ただただそっと寄り添ってくれることもある。
自分のリアルの人生をめいっぱい生きれば生きるほど、本を読むという行為が切実に必要になっているなと感じます。
―「この本が好きだ」と感じるとき、どんなところに心を動かされていることが多いでしょうか。
本によって心を動かされるポイントは違いますが、装丁、内容、タイトル、そのすべてがすっと違和感なく馴染んでいて、「その本たりえる由縁」がひしひしと伝わってくる本は魅力的だなあと感じます。

「気になった」から始まる読書
―本を読んでみたいと思っていても、「何を読めばいいかわからない」と感じている人は少なくありません。そんな人が最初の一冊を選ぶ時、どうしたらいいでしょうか。
装丁がきれいなもの、なんとなくタイトルが気になるもの、あらすじに魅力を感じるものなど、少しでも自分のアンテナに引っ掛かったものをまずは一冊買ってみることをおすすめします。
買ったあとすぐに読まなくても、「気になった」ということは自分の何かしらの感性や思いが反映されているということであり、いつかその本に導かれるタイミングがくるんじゃないかなと思うからです。買うところから読書はすでに始まっているのだと思います。

―本を好きになるきっかけは、必ずしも本そのものではないようにも感じます。あかしさんが考える、「本のある暮らし」の入口とはどのようなものだと思いますか。
私が大学時代に本屋でアルバイトを始めたのは、「その本屋のエプロンが可愛かったから」という邪道な理由でした(笑)。
でもその邪道な理由が、今の自分の人生を決定づけたように思います。
なので、入口はそこらじゅうに転がっていて、なんだっていいんじゃないでしょうか。カフェで本を読むのがなんかおしゃれそうだからでも、好きな人が読んでいた本を読んでみたいからでも。
本の周りにある、心の通った記憶
―AIによって情報やおすすめが手軽に得られる時代だからこそ、本屋という場所にできることは何だと思いますか。
本や人との偶然の出会い、本を手にした時の手触りのある記憶。「本」そのものだけではなく、その本の周辺にある心の通った思い出は、AIでは作り出せないものだと思います。
―本を「読めない」「続かない」と感じている人へ、あかしさんならどんな言葉をかけますか。
本は無理をして読むべきものではないと思うので、その時に自分が必要としていないのであれば、無理に読まなくてもいいと思います。
長田弘さんの好きな詩に「世界は一冊の本」というものがあり、そこには「本でないものはない。世界というのは開かれた本で、その本は見えない言葉で書かれている」という一節があります。
言葉じゃなくても、何かを感じ、それが自分自身の血肉となるものはすべて広義の意味で本なのだと私も思っています。……とはいえ本という文化が残ってほしいし私は愛しているので、本はいいぞと伝えていきたいですが。
本を読むことを、特別なことにしなくてもいい。ページを開くことさえしなくても、日々のなかで何かを感じ、心を動かされた経験が、いつか自分のなかに残っていく。
そんなふうに考えると、本屋という場所もまた、本を「読む」ためだけの場所ではないのかもしれない。ふと立ち寄り、気になる一冊を手に取り、あるいは何も買わずに店を出る。その時間そのものが、いつか自分の人生のどこかにつながっていく。
本を読むことを無理強いするのではなく、それでも本という文化を愛し、その存在がこれからも残ってほしいと願う。あかしさんの言葉には、そんな本へのまっすぐな思いが滲んでいる。
あかしゆか
編集者・本屋店主。1992年京都生まれ、岡山在住。東京での会社員生活を経て独立。2021年に本屋「aru」を岡山県倉敷市児島で開業し、現在2店舗を経営している。Web、出版、イベント、場づくりなど、媒体を問わず「ことば」に関する編集に携わる。
Instagram:@akyskaa
aru 鷲羽山店
岡山県倉敷市下津井田之浦1−1 鷲羽山レストハウス2F
営業時間:9:00-17:30
定休日:火・水(祝日を除く)
ウェブサイト:https://bookstorearu.stores.jp/
Instagram:@aru_washuzan
- Edit / Text / Photograph : Seiko Inomata(QUI)





